≪岩腕の王ブラキオン≫洞窟の先にあるもの



<オープニング>


 眷属たちとの戦闘の結果、ホモザルの撃破には成功したものの他の二体の眷属を取り逃がしてしまった。
 このまま放っておくのは余りにもよろしくない事だろう。
 洞窟の様子とブラキオンの様子も見ておきたいし……如何するか? などと話し合っている護衛士達の後ろからひょっこりと現れたアムネリアは目を冷たく細め、
「では、情報収集をしに行って貰おう」
 そう宣言し、振り返った護衛士達を見回す。そして暫し黙ると、自分に注目が集まり彼等が黙るのを待ってからアムネリアは再び口を開く。
「……オバザルが居た洞窟が温泉で満たされていたのは覚えているな? あの奥は渓谷の下に繋がっているようだ」
 メルフィ達が持ち帰ったホモザルの欠片を片手に、自分の言葉を確認するように続ける。
「オバザルの洞窟を抜けて渓谷の下が今どうなっているのかを確認して来てくれ……渓谷の下を崖に沿って移動すると良いだろう。それと、オバザルはもうあの洞窟には居ないから戦う事は無いだろう……ただ」
 そこで一つ大きく息をつくと、
「その先にブラキオンが居るのは確かだ。不用意に近づけばどうなるか解らない……だけど、全く近づかなければ情報は得られない。それらを踏まえた上で、どんな危険が待ち構えていたとしてもそれを乗り越えるだけの力と、それを想像して動ける機転が利くものでなければこの任務は成功させられないだろう」
 現状を正しく分析し、そこから派生するであろう可能性を考え、最善の行動を選択できる自信が無ければ難しいだろうと彼女は言う。
「この任務に大人数で挑んでもブラキオンに見つかりやすくなるだけだから、このくらいの人数が限界だろう……」
 何かを訴えるようにじっと護衛士達の目を覗き込んでから、それじゃ頑張ってと一言だけ言うとアムネリアはその場を後にした。

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参加者
ちょ〜トロい術士・アユム(a14870)
空気は読まない・レジィ(a18041)
激流の少年・ヴィアローネ(a38562)
満腹を凌駕するみかん・ミスティア(a46283)
空白の大空・マイシャ(a46800)
星槎の航路・ウサギ(a47579)
ノソ・リン(a50852)
無楽な忍び・イズル(a58788)


<リプレイ>

 膝まで浸かるほどに張った温水の中を冒険者達は進む。
 ここは以前にオバザルと冒険者達が戦った洞窟の中、白乳色の温水の下を注意深く探せば激しい戦闘の痕を見つけられるだろうが……今、彼等が目指している場所は此処よりももっと先だ。

「ブラキオンに入ってから、調査ばっかりしてる気がするわー」
 なるべく水の音を立てないように進みながら、ほっぺたつままれた・レジィ(a18041)は今までやって来た事を振り返ってうーんと唸っている。
 大抵の物事はそれを知ることから始まる、調査が無ければその後が成立しない、それ故に重要な役割だ。
「それ自体は事を成さず、次からの対処を容易に、好転させる為に失敗するとその分きつくなる。余裕がなくなる。楽しめなくなる」
 これはこれでやりがいがあるのかなぁと小首を傾げるレジィに、無楽な忍び・イズル(a58788)が自分の言葉を噛み締めるように瞼を閉じながら頷く。
「……楽しくいきたいんだ。不謹慎かな」
 そして閉じていた瞼を開くと、温水で軽く上気した良い笑顔で仲間を振り返るが、
「うちは空気や〜、空気やから見つからへんのやなぁ〜ん……」
 そこには微妙にキビキビとした動きで自分は空気と言い聞かせている、ちょ〜トロい術士・アユム(a14870)が居るばかりであった。
 自分は空気であると思い込む事によって隠密度のアップを計っているのだ、アユムは何も悪くは無い……ただ、折角プチシリアスで決めたイズルには残念な事であったが世の中そんなものである。
「今後のためにもここで頑張っておかねば……気合い入れて頑張ります!」
 遠くを見つめるイズルとか、その背中をポムポムと叩くレジィとか、空気やなぁ〜んなアユムを見なかった事にした、青い星屑のアーネ・マイシャ(a46800)が握り拳を作り、
「最終目標は打倒ブラキオーン! ってことでバッチリ弱点とか性癖とかまで調べ上げてやるのですよ!」
 オー! と拳を突き上げて、満腹を凌駕するみかん・ミスティア(a46283)がやる気を示した。

 洞窟の中を進む、湯煙が視界を遮り思うように先が見渡せないが、段々と吹いてくる風が変わってくる事を肌で感じられる。そして洞窟の天井が一際大きく開いたように感じて――
「洞窟を抜けたらそこは……大きな猿のお庭でしたなのです」
 用意していた言葉を吐いてみた、星槎の航路・ウサギ(a47579)だが、果たして眼前に広がる光景は彼女が思っていた世界と同じものだっただろうか?
 地には人の頭ほどの大きさから怪獣よりも大きそうな大小様々大きさの岩が転がり、剥き出しの地面には異臭を放つ白乳色の温水が溢れ帰り所々に池のような大きさの溜まりを作っている。
 温水から立ち上る湯気と其処彼処から立ち上る白い煙が空を覆い、地に差し込む光は弱々しい……木の一本も生えていない産まれたばかりの大地の様な世界。
「むむ……うぁ!?」
 風に乱された髪を押さえ、銀花小花・リン(a50852)が唸ると、それを何倍にも大きくした唸り声の様な音がそこらじゅうから聞こえてくる。
「風が……音を出している?」
 その音に吃驚して犬の尻尾を膨らませているリンから視線を崖に移すと、レジィは崖を観察する……彼方此方に穴が開いていてその穴に風が流れた煙が吸い込まれ、それが何処からか吐き出される度に大きな唸り声の様な音が響いるようだ。
「それじゃ、行こうか」
 暫くの間、渓谷の様子を見ていたウサギ達に、海馬に乗った少年・ヴィアローネ(a38562)が声をかけると一行は崖に沿って歩き始めるのだった。

 オバザルの巣の入り口は下の部分が丁度温水の池と重なっていたため洞窟の中まで温水で満たされていたのだろう、オバザルの巣から少し進むと温水からは抜け出せた。
「あわ、とっても熱そうやなぁ〜ん」
 アユムはプシュー! と空気の抜けるような音を立てて岩の間から噴出した蒸気を避け、
「これ、利用できないかな?」
 それをしげしげと見つめてリンはそんな事を言う。
「……解らないのです」
 何となくウサギの方を向いたリンに、暫し小首を傾げて考えていたウサギが答える。リンは、渓谷の底に何か利用できるものが無いかと考えいるようだ……だが、冒険者達のアビリティを耐え切った眷属の上の存在である七大怪獣に、この程度の熱気がどれだけの効果があるのか……それは誰にも解らない事だろう。
 解らないのならば調べてもらうしかないと、リンは蒸気を噴出す岩の欠片を削り取った。

「こう五月蝿いと相手が何処に居るか解らないわ」
 目を閉じて耳を澄ましていたレジィは溜息交じりにぼやく。常に周囲から聞こえてくる唸り声の様な音が他の音を掻き消してしまうのだ。此方の存在も気付かれ難い利点もあるが……相手を探さなければならない状態だと結構厄介かもしれない。
 もっとも、眷属程度ならまだしもブラキオンが動いていればどんな音を持ってしても隠しきれるものでは無いだろう。
「視界も悪いし」
 レジィと同じように音に注意を払っていたヴィアローネが同意を示し、煙で遮られる視界に目を細める。歩く分には問題が無いが、遠くに居る何かを見つける事は難しそうだ。
「う〜ん、猫の子一匹居ないのです」
 それでも風が吹けば僅かの間だけ遠くまで見渡せる瞬間がある。ミスティアは双眼鏡を片手にブラキオンや眷属が近くに居ないかを確認し、ついでに何か情報を持っている可能性がある動物を探しているのだが、ブラキオンや眷属どころか周囲一帯生物の影すらないのだ。
「あう、先行している人たちは大丈夫なのですか?」
 こう視界が悪くては偵察も侭なら無いだろう……ウサギは前方に目を凝らすと、先行している仲間達に想いを馳せるのだった。

(「洞窟……?」)
 ぽっかりと大きな口を開けるように其処にあった空洞を前に、マイシャとイズルは首を傾げる。空洞の中は光笥の明かりで満たされ、猿怪獣達の巣に似ていた。二人はもう一度首を傾げると、一先ず目的であるブラキオンのことを調べる為に、洞窟は置いておいて先に進む事にした。

 それから暫く進むと、崖に沿うように広がる大きな温水の池が二人の行く手を阻む。崖に沿って進んできた彼等だったが、これでは崖から離れるしかないだろう……如何するか? と思案していると風が吹きぬけ――切れた煙の隙間から黒に近い茶色、そして周りの岩とは明らかに違う質感の岩を持つ巨大な何かが見えた。
 見上げた角度からその尺は人の百倍に至るだろうか……眷属より遥かに大きなそれは七大怪獣ブラキオンそれに間違いなかった。
 マイシャは思わず息を呑み、もう一度ブラキオンが居た方向に視線を凝らす……が、煙に阻まれ薄らとした影にしか見えない。
 仕方が無いと諦めて一旦仲間達の元に戻ろうとするマイシャに対して、イズルは温水の中に潜るとゆっくりブラキオンに近づく……白乳色の温水はイズルの視界を遮り、常温よりも熱い水はイズルの体力を奪ったが何とかブラキオンの足に接近する事に成功する。
 そしてブラキオンの毛先を切って帰ろうとしたイズルだが、ブラキオンの毛先は人の腕ほどの太さがある……とてもハサミで切れるようなものではなかった。
(「ササウラで切り取る術もあるが……如何するか?」)
 考えるイズルは何かの視線を感じて見上げると――そこにはブラキオンの足からイズルを覗き込むオバザルの姿が在った!
『キャー! ウキャー!』
 イズルを見つけたオバザルが騒ぎ立てると、ブラキオンがゆっくりと動き出し……ブラキオンの動きに呼応するように揺れる温水が荒れ狂う海の波の如くイズルの体を流そうとする。
 このまま流される訳には行かないとブラキオンの毛先をササウラで斬ろうとするが、ブラキオンの毛はイズルの太刀をあっさり弾いた。

『オオオオォオォォォ!!!』
 渓谷に鳴り続ける唸り声の様な音を掻き消すかのような大声が響き渡る。近くで聞けば生命の危機感を呼び起こすであろうその声。
「見つかった!?」
 先行している仲間達の身に何かあったのだろうか? ヴィアローネは隣に居た仲間達に先に行くと伝えるとグランスティードを呼び出して駆け出した。

 ブラキオンは胸を叩きながら大きく吠えると、キョロキョロと辺りを見回している。
 マイシャとイズルは心臓を鷲掴みにされたような焦燥感に駆り立てられ、全速力でその場を離れようとするが――
『ウキャー!!』
 煙に阻まれ中々探し出せない侵入者を探すのが面倒になったのか、ブラキオンは一鳴きすると大きく右腕を振り上げて適当にそこら辺の地面に叩き落す!
 グラリと足元が揺れる……続いてブラキオンの居た方向から爆発的な衝撃と落雷のような轟音がマイシャ達の体を吹き飛ばし、
「つぅ!」
 成す術もなく吹き飛ばされたマイシャとイズルの体が崖に当たって止まるが……二人とも既に立ち上がる力は無かった。
 暗転する意識の中で二人が見たものは、何故か右手を押さえて地団駄を踏んで痛がっているブラキオンと、その肩と頭で振り落とされないように体に掴まっている眷属達の姿だった。

 地面が揺れたと思った次の瞬間、耳が痛くなるような音と風が吹きぬけ前方の視界が行き成り開ける。
「ブラキオンちゃんやなぁ〜ん」
 ヴィアローネに追随して走っていたアユムが風に眼を細めると正面を見据えて言う。
 大地にその異様な拳を突き立てている姿は間違いなくブラキオンのものだ。彼が振り下ろした右腕はその中心に居るブラキオンの体が膝の辺りまで見えない程に地面を大きく陥没させ、その一撃が巻き起こした衝撃が周囲の煙を吹き飛ばし一瞬だけ視界が開けたようだ。
「やっぱり合流してたのね」
 ブラキオンの肩に人形のように乗っているオバザルと、頭の上に乗っているオジザルの姿を見てレジィが呟く。
 レジィの言葉に眷属へ視線を移したミスティアは、そこから更に地面までブラキオンの体を見て、
「頭までは登れそうなのです」
 ブラキオンの体の毛を伝って行けば簡単に頭まで登れそうだとミスティアは思ったようだ。
「あの尻尾……」
「あう、怪我してるみたいなのです」
 砕かれた地面から吹き上げ始めた蒸気と、再び周囲に満ちてくる煙に隠れ始めたブラキオンの尻尾をマジマジと眺めていたリンとウサギは、その尻尾の彼方此方の毛が剥がれ赤い皮膚が見えている事に気がついた。
 だが、巨体を観察できたのもそこまで……ブラキオンの巨体は煙の中に隠されその影さえも段々と見えなくなってゆくのだった。

「大丈夫やなぁ〜ん」
 ヴィアローネが運んできたイズルとマイシャの様子を診ていたアユムがそう言うと一同は胸を撫で下ろす。
「情報も集まりましたし、ここが潮時だと思うのです」
 ブラキオンが居た方向に視線を凝らしながらミスティアが提案する。
 怪我を負っている事、眷属が合流している事、ブラキオンの頭へ登れそうだという事……これらの情報だけでも十分な成果だと言える。
「そうね」
 それに、ブラキオンが追ってくる様子は無いが、今また近づいても余計な犠牲を出すだけだろう。レジィがミスティアに頷くとリンとウサギもそれに同意したのだった。

【END】


マスター:八幡 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2007/03/03
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冒険結果:成功!
重傷者:空白の大空・マイシャ(a46800)  無楽な忍び・イズル(a58788) 
死亡者:なし
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