ロザリーの誕生日〜憂いを払う玉箒〜



   


<オープニング>


●ロザリーの誕生日
 あの荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)が遂に成人してしまう。
 あんな女が二十歳に為って良いものなのか。
 様々な意味合いで言葉に出せない、悶々とした葛藤が胸に蟠る。
「……我が悪いのだろうか」
 毀れる紅涙・ティアレス(a90167)は何処か遠くを見遣りながら、溜息混じりに呟いた。
「ティア君が過保護であることは間違い無いかと思いますよ」
 然して悪いとも思いませんが、と琉璃想・エテルノ(a90356)は気楽に相槌を打つ。貴様が許容しないものこそ稀少だろうが等と減らず口を叩いていたところ、二人の間に腰掛けて羊皮紙と睨めっこしていた霊査士当人は、ふと思い出したように小首を傾げて唇を開いた。
「誕生日には、御酒を頂こうかと思って」
「エー」
 不服そうに声を洩らして、エテルノは左腕で頬杖をつく。
「成人には確かに飲酒が許される年齢、と言う意義もありますが……呑む必要は無いでしょう」
 伸ばされた褐色の左手を、てしてし叩き落としながらティアレスは輝いていた。屋内だと言うのにマントを靡かせており、多少周囲のテーブルに迷惑ですらある。何か良く判らないが、自分の薫陶の甲斐だと信じて疑って居ないらしい。
「余り興味があるのでも、無いのだけれど」
 御勧めされたから、と霊査士は何処からとも無く荷物を取り出した。
「折角贈って頂いた品を、贈られた私が手をつけずにおくなんて駄目、よね?」
 一拍の間。
「……ロザリーが人間味のある発言を!?」
「……ロズ君。大丈夫かな、君は君のままで良いんですよ。どうか御無理を為さらずに」
「…………」

●憂いを払う玉箒
 霊査士の手元にはボトルが四つ置かれている。
 芳醇な果実酒に始まり、若々しい白と赤それぞれのワイン、そして黄金色の貴腐葡萄酒。ひとりの誕生日を祝って貰うには十分過ぎるラインナップと言えるだろう。霊査士は色硝子の向こうに揺らめく液体を覗いて、緩く息を吐き出した。
 酒場に依頼を齎す側として足を運ぶようになって、最早二年と半ばが過ぎようとしている。霊査士として携わった依頼の数は百を優に超えてしまった。関わった冒険者たちの顔は忘れること無く覚えているものの、数度重ねて言葉を交わす機会に恵まれることこそ稀だ。だからこそ再会は小さなものでも嬉しく、心和むものなのだけれど――そう、と口にすることが出来るほど器用でも無い。
「……折角だから、皆にも一緒に、飲んで頂けたらと思うの」
 アルコール初心者がボトルを四つ空けると言うのは無理な話だ。若しも誕生日を祝ってくれると言うならば、向けられた祝福を共に味わって欲しく思う。贈ってくれた人々の添えてくれた気持ちと、篭められた作り手の想いをひとりで受けては勿体無いのだ、とまで語れるほど霊査士は口が巧くない。
 別段自身から何か働き掛けるつもりも無いが、満ち足りたものを汲んでくれる人々に囲まれて過ごす時間は、恐らく心地良く流れる幸福と呼べるものだろう。幸せそうな人を見ていると自分も幸せな気分になれるような気がする、と言うそれだけの話を当人は如何にも難解に捉えてしまい、結局言葉にし損ねる。
「しかし、祝われるべき人間に提供されてばかりと言うのも詰まるまい」
 持ち込みは許すべきでは無いか、とティアレスは主張した。摘めるものも多い方が良いね、とエテルノがにこにこしながら言葉を継ぎ足す。
「未成年者が入り難い空気を作るのは如何かと思いますし、果実水も用意すべきかと」
 主役の御要望に添って周囲が動くのも誕生日ならではなのだろう。
 区切りの歳を祝うべく、ささやかな夕べが待ち望まれた。

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参加者
NPC:荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)



<リプレイ>

●憂いを払う玉箒
「うん、だって僕もお酒贈っちゃったしね。男として責任は取らなくっちゃイカンと思うわけですよ。お酒を召したロザリーさんを介抱して家までお送りするのは、グリモアの神々が僕に約束した原初の摂理であると言うか、何でロザリーさんの家で呑むんですかぁぁぁ……」
 肩を落としたエンの慟哭を聞き、荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)は可笑しげに目を細めた。淡い蒼で染められたアシンメトリードレスを纏った彼女の白い指先を包むように取って、彼は小さく大真面目な祝辞も紡ぐ。繊細な硝子の杯に可愛らしいグラスチャームを括りながら、リアンシェは尋ねた。
「大切に生きて来たなら……暖かいもの、寂しくても強いもの、沢山ありましたも?」
 霊査士は緩く頷きながら、穏やかな声音で「きっとそうね」とまるで他人事のように答える。昨年の秋に仕込んだ葡萄酒なのだと微笑みながら、アリエノールは薔薇色の甘口ロゼワインを翳して見せた。女性向けだとは思うが口に合うか如何かと案じる彼女に、霊査士はぷちぷちと泡の浮き上がる液体を眺めながら、いきなり辛口のものよりは飲み易いと思う、と柔らかく答える。
「『酒は憂いを払う玉箒』というが、果たしてどんな御様子になられるのか」
 深みのある青い衣装の上から白くふんわりとしたショールを羽織ったベルナデットは、手帳を片手に霊査士へ視線を注いでいた。将来の参考とすべく、彼女の様子を克明に記録する予定だ。様々なチーズや野菜のスティックを揃えた食器を並べ終えたアクアローズは、改めて霊査士に向き直る。
「此処に居る皆が思っていることとは思いますけれど……御誕生日おめでとうございます」
「ロザリーさんに、良き道が続きますように」
 食卓の用意を整えたクローディアも一旦手を止めて、代わりに大粒の種を取り出した。何の花が咲くかはお楽しみです、と微笑み掛けた。彼女の未来に喜びが多くあるようアオイは願いの言葉を紡ぎながら、未だ十分な熱を宿した鍋から良く煮込まれた蕪を掬い、霊査士の器に盛ってやる。乾杯の音頭も無く、ただ霊査士の「来てくれて有難う」と言う小さな声を皮切りに、ささやかなホームパーティは朗らかに始められた。
「同い年で一日違いのお誕生日……なんだか、素敵な偶然で嬉しいです」
 アボカドと生ハムのサラダが気に入ったらしい霊査士に微笑み掛けながら、シアも薔薇の香りが広がる貴腐ワインに口付けた。酒独特の後味に「まだ少し大人の味」と彼女はコメントし、霊査士も不思議な味と感じたらしく慣れが必要なのだと悟る。
「誰かと一緒に過ごすことも、とても尊いものよね」
 レインが用意した黄金色の葡萄酒は呑み易く、口に含めば柔らかに花と果実の気配がした。
「また、一緒に過ごす機会があると嬉しいわ」
 少し気が早いかも知れない次回への期待を語れば、霊査士は小さく頷いて、
「……私も、嬉しい」
 今と言う時を悪くないと感じているらしいことを穏やかに明かした。

●交わす言葉
「ザルか下戸か、両極端な気がするのぅ」
「ザルに一票」
 ケイパーを添えたスモークサーモンが鮮やかなカナッペを齧りつつ、マオーガーは相槌と共に舌鼓を打つ。彼女が漸く成人と言う事実に少々驚きながらも、ルーシェンは己のグラスを空にした。おまえも飲んでんじゃん、と彼は慌てて対抗する。夫婦の仲睦まじい様子に霊査士は目を細め、僅かにグラスを傾けた。
「果実酒は口当たり良くて呑み易い、うっかり飲み過ぎないよう気を付けなね?」
 アルコール初心者を心配するオウリは、深い琥珀色の蒸留酒を抱えている。あたしにとってはアンタよりこの子が魅力的、と上機嫌に語る彼女へエテルノは「君は未だ味見も終えては居ないでしょう」と笑顔のままで答えた。
「ロザリーさん、今日は飲み潰れるつもりなぁ〜んか?」
 止めないけど、と言い添えつつトロンボーンが尋ねると霊査士はふるふると首を振り、周りが見えなくなる前にやめるつもりと目を伏せる。彼女から渡された贈り物には目を瞬くも、好ましく思う品だったらしく小さく笑んで礼を紡いだ。
 細かく砕いた岩塩とピンクペッパーを振り掛け、檸檬汁を練り込んだクリームチーズを載せたクラッカーを両手の指を使って慎重に持ち上げる霊査士に、ニューラは暖かな紅茶とカシスジャムで割ったワインを勧めてやる。憂さを洩らす彼女の言葉に霊査士は目を細め、遠慮がちながら手を伸ばし彼女の頭をよしよしと撫でた。
 綺麗な包装を解くと青いフリージア模様の可愛らしいティーカップが鎮座している。
「花言葉は『親愛』と言うんですよ」
「気軽に使って貰えたら幸せだ」
 二人で考えて選んだんだ、と夫妻はにっこり笑んだ。彼が作ったキッシュはとても美味しいからと勧めるサナに、アモウは照れを滲ませながら彼女が一緒に作ってくれたからだと言い添える。何とも微笑ましく見えて、霊査士も思わず頬を緩めた。
「……覚えてくれてるかしら」
 おずおずと歩み出たキョウを見て、霊査士は当然と言った素振りでこくりと頷く。彼女が差し出したのは、蜂蜜に林檎や野苺たちを漬けたジャムたちだった。果実酒に入れても紅茶に入れても優しい風味となるが、さくさくの焼き菓子につけて食べるのが好きなのだと語る。
「ありがとう。……明日の朝にでも、頂きます」
 三つの瓶を纏めて抱えて、霊査士は「嬉しい」と呟いた。

●誕生日のお菓子
 マユリは粉を丁寧に二度振るいに掛け、砂糖の代わりに蜂蜜を用意する。何を作るかは、皆で今日誕生日だと言う霊査士の好みを考えながら、フラジィルらケーキ作り担当者たちと相談したところだ。オーブンを暖めながら、シュナはお菓子作りが得意らしい女の子たちを見回して感嘆に似た息を吐く。仄かに憧れを抱いてしまう綺麗なお姉さんのために、気合を入れて誕生日ケーキを焼き上げる予定だ。
 自分が美味しいと思えないものを誰かに贈ることは出来ない、とガルスタも腕によりを掛けて霊査士が喜ぶよう皆と協力しながらひとつの菓子を作り上げて行く。フラジィル曰く彼女は林檎を使った焼き菓子が好きらしい。家庭的で飾り気の無いアーモンドと蜂蜜を塗したアプフェルクーヘン辺りならば食べてくれるだろう、と言う弱々しい予想に基づいて調理は進められた。
「お酒も一緒に頂くのですから、甘さは控え目の方が良いでしょうね」
 真っ白な皿の上に焼き立てのトルテを飾り終え、シロップの味見をしたロスクヴァは出来に満足した様子で笑みを浮かべる。完成したケーキは其の侭食卓に運び込まれ、ケーキを作った七人による「お誕生日おめでとう」の祝辞と共にパーティを彩った。
 久し振りにロザリーさんと御会い出来て凄く嬉しいです、と破顔するプラムを見て霊査士もやはり嬉しそうだった。酒場から殆ど動けない霊査士にとっては、ひとつの依頼で生まれる人との縁はとても貴重なものなのだろう。喜んでくださって良かったですね、とフラジィルに向けて微笑みながらリューシャも珍しくお酒を飲もうとグラスに向けて手を伸ばす。きっと彼女はこれからますます魅力的な女性になるのだろうと貴い時に沈み、心から誕生日を祝した。
「おめでとう」
 折り目正しく一礼し、ビャクヤは華やかな花束を彼女へ差し出す。
「素敵な節目を迎えたレディに敬意を払うのは当然だと思って、ね」
 少し畏まり過ぎかも知れないけれど、と悪戯っぽく笑う彼に霊査士は「ありがとう」と答えて、彼が育てたと言う花々を大切そうに受け取った。
「ロザリー殿は綺麗なものを好むようだから……」
 自信無さげにユズリアが差し出したのは、贈られた素敵な品々を閉じ込めるのに相応しく思える細工の美麗な宝石箱だ。
「今より強く頼れる冒険者になって、また来年も御祝いしたいと思う」
 未来を保証は出来ないが、と言葉に詰まる彼女へ「未来を紡ぐお手伝い、させて欲しいわ」と精微な箱に目を落としながら霊査士は柔らかな声音で喜びを紡ぐ。
「今日は一番信頼してる霊査士の誕生日だから、顔だけ出させて貰ったよ」
 他所では深酒しないことにしてるんだ、と過去を懐かしむ語らいを止めジョジョは宴の酣に席を立った。可愛くて面白い大切な想い人は怒らせると非常に恐ろしいのだと肩を竦めて戸口に向かう彼を見送り、またひとつ満たされた気がして霊査士は小さな微笑を浮かべる。

●ロザリーの誕生日
「昨年の願いは叶えられぬ侭に為りましたが、今年の貴女の願いは、御有りでしょうか?」
 触れることの無い普段通りの距離から、瞳を合わせて問い掛けた。霊査士は少し悩むように小首を傾げた後、覚えているかしら、と小さく呟きイドゥナの前まで歩を進める。
「眼鏡を外して、笑って見せて?」
 霊査士の後ろに回り込んだモニカは、彼女の首に紫水晶のペンダントを掛けた。似合う、と顔を綻ばせて出逢えたことを心から喜ぶ。案外と歳の離れていたことを今更ながら不思議に思った。反対にクーヤは霊査士は年上だと感じていたから、同い年と聞いて内心驚きも感じている。楓華列島の酒を注いだお猪口を勧めながら、綺麗ですよ、と微笑み掛ける。仄かに染まった頬を見れば、仮初めとしても何だか心が弾むようだ。
「遂に抜かれてしまいましたね」
 一抹の寂しさを浮かせる彼に霊査士は少しだけ眉尻を下げる。ジェネシスは「失礼」と声を掛けながら、想い出を贈るため彼女の頬に軽く口付けた。霊査士は小さく息を吐き、言葉を返す。
「……自分の唇に価値があると自然に思える貴方のこと、面白いとは思っているのよ」
 余り表面上の変化は無いが、若しかすると酔い始めているのでは無かろうか。ロザリーは確かに大人びた雰囲気を纏う女性だが、改めて考えるに「大人になった」とナミキはしみじみ感じ入ってしまう。霊査士と仲良くして行く上での理想はティアレスの立場だ、と語れば彼女は目を瞬いた。
「……虐げられたい、と言うこと?」
 妙に無垢に小首を傾げる霊査士に海老と豆腐をトマトカレーで煮込んだ一品料理を差し出しつつ、ルーツァは夢を語るような口振りで、「宜しければ、またお料理を教えてやってくださいね」と彼女に強請っていた。乙女な雑談も交えて御話出来れば素敵なひとときになるだろうと思うのだと語れば、霊査士も瞳を細めて「貴女と一緒なら楽しくなりそう」と小さな声で囁き返す。少なめにアイスワインを注いだグラスを触れ合う手前まで近付けて、シャラザードと霊査士はささやかに乾杯した。
「甘くて、少し苦くて……喉が熱くなる感じ」
 味を問われれば悩むように首を傾げて感想を紡ぐ。休んだ方が良いのでは無いかと気遣う彼女に、霊査士は「楽しいから」を理由に大丈夫だと頷いて見せた。時の流れは早いものだと小さく息を吐き、グレイは彼女が生まれた年から現在まで眠り続けた赤のワインを指し示す。定番ですがと笑みを湛えつつ、慣れた仕草でコルクを抜いた。澄んだ硝子に淑やかな色を流し、「このワインの優れたところは」と語り出す。
「二十年の歳月を経て尚、更なる熟成による昇華を予感させるところです。薔薇に喩えるならば、気品ある香りを纏いながら花開き行く五分咲きの花――貴女に、相応しいワインを選んだつもりですよ」
 耳に心地良いグラスを満たす音を紡いで、重ねられた言葉に霊査士は睫毛を伏せて微笑んだ。
「……有難う、御座います。嬉しい」
 明けることも楽しみだと望めるような穏やかな夜に、小さな幸せを見つけた気がする。
 彼女としては精一杯の礼を紡いで、まどろむ時間を愛しんだ。


マスター:愛染りんご 紹介ページ
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作成日:2007/03/10
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