【夢の泉に満ちて】春乙女の守人



<オープニング>


●泉のほとりサニーベリー
 遠く彼方まで続く空は明るく澄み渡る勿忘草の色。
 柔らかな光を孕んだ春色の空を背に、鮮やかな若葉が瑞々しい生命の発露するままに重なり合っていく。きらきらと輝く木漏れ日を落とす透かし織りの如き若葉の幕を抜ければ、爽やかな緑と甘やかな土の香りが清しい水の香りを抱いた風に連れられ吹き抜けて。
 開けた斜面から眼下を望めば、一面に広がる春草の絨毯の中を流れ行く透きとおった水の流れが目に映る。孤を描く清流の内側には明るい杏色の屋根が並ぶ可愛らしい村の姿。まるで絵本の国のような村の奥には村を見守っているかの如き春楡の大樹が聳え、その根元に抱かれる泉が陽射しを受けて水面を煌かせていた。霞を思わせるほど細かな気泡を立ち上らせる、清らな泉。
 泉のほとりサニーベリー。それが――かの地にある村の名前であった。

 それは遥か昔のこと。
 春乙女と呼ばれる少女が恋仲となった青年に護られて、人々を祝福の地へ導いた。
 穏やかな空と肥沃な大地に人々は歓喜の声を上げて。
 春乙女は歓びのままに春楡の根元に抱かれた泉の水を辺りへ振りまいた。
 泉の水は春の陽射しを浴び、細かな水晶の如く煌きながら春楡の根元へ降りそそぐ。
 そして――春の息吹に満ちた淡い桜色の花を一面に咲かせたのだという。

●サニーベリーへようこそ!
「なるほど……。春乙女に導かれてこの地へ辿りついた人々こそ、サニーベリーの村人達のご先祖であるというわけですね?」
 ユーカリ蜜を落とした香草茶に一旦口をつけた後にそう紡げば、尖った耳の後ろで癖のない青藤色の髪がさらりと揺れた。鉱山の街に居を構える資産家の息子であるというこの青年は、坑夫達の仕事を見回っている内に鉱塵で気管を痛め、その療養のためこの村に滞在しているという。
「昔話がウソだろーがホントだろーがどうでもいいけどさ、その花を咲かせるのが春祭りだってのはほんとかよ。……水まいたらほんとに咲くのか、花?」
 今朝切ってきたばかりの淡桃色の花咲く梅の枝を軽く振れば、白い犬尻尾も合わせるように揺れた。海辺の街で手広い商いをしている豪商の家の生まれだというこの青年は、冬の潮風が体に障るという祖母がこの地へ療養に来る際、話し相手として無理矢理連れて来られたのだという。
「それがもう、ばっちり咲くんですよ。まぁ実は不思議でも何でもなくて、単に水が蕾にかかる刺激で開花する花だってだけなんですけどね」
 だから蕾が付く頃には雨よけの覆いを作ったり何だりで結構大変なんですよー、と言いつつくるりと回ってみせれば、ラベンダー色の髪と白の薄布を重ねたドレスの裾がふわりと翻った。この土地、サニーベリーで生まれ育ったのだという少女の名はチェルダ。春祭りの『春乙女』として、サニーベリーの泉の周りに花を咲かせる使命を負った娘である。
「けど、蕾の形の関係で、咲いてみるまで花が何色かはわかんないんですよね。『春乙女』と『春乙女の守人』の心が確りとした絆で結ばれた年にだけ、淡い桜色の花が咲くんですよー」
 春乙女チェルダの軽い口調に、二人の守人が顔を見合わせた。
 淡い桜色の花が咲くこと、それが春祭りの『完全成功』だということはわかったけれど――?

「と言う訳で、サニーベリーから依頼と……『春乙女の守人』にならないかって誘いが来てるんよ〜」
 酒場の一角で冒険者達に声をかけたのは、湖畔のマダム・アデイラ(a90274)だった。その手には藍深き霊査士・テフィン(a90155)の署名入りの書状がある。書状には当然、依頼内容と霊査の結果が記されていた。
「サニーベリーの『春乙女』チェルダちゃんが春祭りに着る衣装やねんけど、衣装作る布を染めるために、今の時期森の奥に咲いてる花が必要らしいんよ。けれど、眠りの効果がある鱗粉をまく蝶が現れてもうて、森の奥の花園に近寄られへんのやって」
 霊査士によると、蝶は掌ほどの大きさで、眠りの鱗粉の他は然したる力を持たぬという。花園に集うその数は百以上だというが、冒険者であれば恐らく短時間で駆除は済んでしまうだろう。
「蝶さえ退治してまえば依頼は終わりやねんけど、良かったら『春乙女の守人』として春祭りに参加しないか、って話も来てるんよ〜。別にずっと村におらなあかんとか特別なことをしなあかんとかいう訳やないみたいやけど……どうする?」

 守人に期待されている最も重要な役割は、春乙女と心の絆を結ぶことである。
 絆は無論恋に限ったことではなく、友情でも親愛でも何でもいい。

 春乙女の守人として――共に春の祝福を愛しもう。

 これは、そのような意味を含めた誘いでもあった。

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参加者
琥珀の狐月・ミルッヒ(a10018)
蒼天を旅する花雲・ニノン(a27120)
桜雪癒羽・アスティナ(a27630)
無音の弓・フロノ(a35376)
梅・ミンツ(a44937)
アフロの医術士・ウィズ(a47838)
蔭ノ滴ル白蕾・アティセネィク(a51177)
花酔い・ラシェット(a53996)
NPC:湖畔のマダム・アデイラ(a90274)



<リプレイ>

●春乙女の守人
 穏やかな風が大地を撫でれば、辺り一面に優しい萌黄色を広げる春草の絨毯から淡く草の香りが立ち上る。春を迎え肥沃な大地に萌えた若草の香りは清しく甘く、春草の大地を流れる小川の澄み渡る水の香りと合わさって、孤を描く清流の内側へと向かう風に心を浮き立たせる春の香りを乗せていた。
 春の香りを抱いた風は川岸に咲く花の香りを纏い、空から降る陽射しが煌かせる水面の光を孕んで空と大地の狭間を流れゆく。風の行く先は春空を映して透きとおる清流の内、祝福の地サニーベリーに住まう人々の村の奥。明るい杏色の屋根を持つ家々の間を抜ければ、柔らかな若葉を茂らせる春楡の大樹に抱かれた泉が、清らな水面できらきらと木漏れ日を踊らせていた。
 泉の周りには村人や療養に訪れた滞在客らが集い、明るい声でさざめきあっている。今から祭りが始まるのかとも思える賑わいだったが、サニーベリーの春祭りはまだ暫く先のこと。これから行われるのはあくまで祭りの準備であった。
 何処か眩しげに瞳を細めた蔭ノ滴ル白蕾・アティセネィク(a51177)が「守人候補も悪くはないね」と淡い吐息のように紡げば、微かに眉尻を下げたラベンダー色の髪の少女が「けどアティセネィクさんはパスなんですよね?」と顔を上げて小首を傾げた。私の役回りではありませんからと小さく笑ったアティセネィクは、子供にするかのように軽く腰を屈め、少女――チェルダに目線を合わせてやる。
「代わりに貴方の幸せを願いますよ、チェルダ」
 だから、いってらっしゃい――と泉を示せば、チェルダは「はいっ」と明るい笑顔で頷いて、春の空を映しとったような色の硝子杯を手に駆け出した。
 これから行われるのは、春祭りの主役たる『春乙女』ことチェルダが『春乙女の守人』を任命する儀式。通常は守人が選出されてすぐ行われる物だが、春乙女のチェルダが村の外に出ていたため延期となっていたのである。そして既に守人に選出されていた青年達が更なる守人を望んだため、儀式は今日まで延び延びとなっていた。
 その更なる守人というのが、冒険者達である。
「やるからには自分も皆も楽しくなるように頑張るよー♪」
 既に泉のほとりに待機し、守人の先輩となる青年達と言葉を交わしていた琥珀の狐月・ミルッヒ(a10018)が、駆けて来たチェルダを笑顔で出迎えた。わぁと声を上げ瞳を輝かせたチェルダが石に躓いたところを笑いながら受け止めて、「大成功の桜色のお花、見たいもの」と囁き優しい光を宿した琥珀の瞳で覗き込む。「ばしーんとよろしくお願いしますね」とチェルダが笑い返せば、無音の弓・フロノ(a35376)の唇から思わずといった風情で笑みが零れた。チェルダを見ていると心がふんわり軽くなっていく気がする。それこそ明るい光溢れる春みたいな子だと思えば何だかこう……ふわふわのウサギを抱きしめたくなるのと似たような気分にもなるが、今は儀式の前。ここは我慢だ。
「折角だもんな、チェルダとだけじゃなくて、クリフやカルストとも仲良くなりたいしっ」
 梅・ミンツ(a44937)が背後に居た青年の顔を見上げる様にして覗き込めば、素敵なことを言って下さいますねとエルフの青年――クリフが瞳を細めて心底嬉しげに微笑み、それまで如何にも儀式が面倒だという顔をしていたストライダーの青年――カルストも、
「だってみんな一緒でみんなが楽しいのがいいじゃない?」
 悪戯っぽく笑って視線を合わせてきたダンディアフロに憧れて・ウィズ(a47838)の言葉に破顔し、なま言いやがってと楽しげにウィズの額を軽く指で弾いて笑った。
 暖かな陽の光に満ちた村の中に、泉の水面に広がる波紋のように明るい声が広がっていく。
 和やかな雰囲気の中で人々に見守られ、春乙女が泉のほとりに立った。
 空の光を宿した硝子杯で泉の水を掬い軽く口を付けてから、春乙女が杯を差し伸べる。
 微かに炭酸を帯びた清水の揺れる杯を最初に受け取ったのは、蒼天を旅する花雲・ニノン(a27120)だった。細かな炭酸の気泡が弾けていく様は、軽やかな笑い声が風に溶けていく様に似ているとニノンは思う。穏やかに吹く風に笑い声が溶け込んでいく――それはきっと、幸せな光景のひとつ。
「誰かを守るっていうのは、相手が恋人でもお友達でも……とっても幸せな役割だと思うのなぁ〜ん」
 春乙女を『守る』のもきっと同じこと。
 幸せな役割を果たして、皆に、この地に、更なる幸せを呼べるなら。
 空色硝子の中には気泡煌く泉の水。
 春乙女から手渡された清水の杯を乾せば、それで正式な『春乙女の守人』の誕生だ。
 新たな守人が誕生するたびに、人々からは大きな拍手と暖かな祝福の言葉が贈られる。優しさに満ちたその場の雰囲気に、仮初の帳・ラシェット(a53996)は「本当に好い村」と歌うように小さく紡いだ。この村だからこそチェルダのような子が育つのだろうか。そう思えば自然と口元が綻んでくる。
 春乙女があの子なら、守人になってみるのも悪くないわね――
 村を吹き抜け春楡の奥の森へ流れていく風に、微かな囁きを乗せた。

●蝶達の花園
 緩やかに吹き込む風は花と水の香りを纏っていたが、春楡の奥に広がる森は風が流れてもなお草よりも濃い緑の香りに満ちていた。緑の香りは森の命の匂い。簀巻き担当看護天使・アスティナ(a27630)は深く息を吸い込んで、気持ちいいですねぇと至福の息をつきつつ皆を振り返る。
 何せこれから自分達は眠りの鱗粉を振りまく蝶を退治しに行くのだ。爽やかな森の息吹の中で深呼吸できるのも今のうちかもしれない。先に守人の儀式をと村人達に請われてそれに応じたのだが、実のところ冒険者達に齎された『依頼』は、その蝶達を駆除することだった。
「蝶さん達を退治しちゃうのは可哀想ですけどぉ、大切なお花が摘めなくなっちゃうのは困るのですぅ」
「うんうん、花は絶対必要だもの!」
 心が痛むのか哀しげに眉を下げ呟くアスティナに、フロノが神妙な顔つきで頷きを返す。
 二人を初め、今回『春乙女の守人』となった冒険者達の腕には、木漏れ日を受けて輝く銀の腕輪が嵌っていた。サニーベリー独特の文様を刻み七宝で淡い桜色の花をあしらったその腕輪は『春乙女の守人』の証。件の蝶が集う場所は春乙女の衣装を染めるために必要な花の咲く場所であるから、蝶の退治は依頼を請けた冒険者としてだけではなく、春乙女を支える守人としても重要な役目と言えた。無論、冒険者であるからこそ対処できることではあるのだけれども。
 頭上高くで織り成される瑞々しい若葉の天蓋から、透きとおる淡い緑を帯びた木漏れ日が降り、柔らかな下草の上で踊る。穏やかな光に満ちた森を暫く進めば緑の香りの中に花の香りが漂い始め、樹々が途切れて木漏れ日でなく陽射しが降る開けた場所に出た。
 陽の光に包まれて色とりどりの小さな花が咲き乱れる花の園。
 花の上に降る光の中できらきらと輝くのは、群れ集う淡い黄の蝶達から零れる鱗粉だ。
「お花畑に蝶々はつきものだけど、今回はかわいいなって眺めてるわけにいかないなぁ〜ん!」
 ふわりと此方へ近づいてきた蝶が翅を翻そうとした瞬間、鮮やかな軌跡を描いたニノンの脚が鱗粉煌く虫を叩き落す。その気配に気付いたのか、花園に群れる蝶達がまるでひとつの生き物であるかの如くざわりと一斉に蠢いた。だがすかさずその場に眩い光が溢れ出す。花園を左右から挟み込むように動いた湖畔のマダム・アデイラ(a90274)とラシェットが放った光が数多の蝶の動きを縫いとめて、無数の淡い黄の翅が花の上に広がれば、そこへアスティナの光の雨が降りそそいだ。
「蝶さん達……ごめんなさいですよぉ〜」
 虹色に煌く光に砕かれた翅のかけらが宙に舞い、光を受けて淡い金に輝く。
 アスティナの術の射程から逃れていた蝶達が、惹かれるようにラシェットの方へと漂っていく。
 儚い金色の光が降る中、淡い黄の蝶がふわりと漂う様は――美しい、春の夢。
 けれど。
「今のままだとみんな困っちゃうから、ゴメンなっ」
 唇を噛み、ミンツが鋭い針の群れを喚ぶ。重ねるようにしてフロノも針の雨を降らせ、漆黒の煌きの合間を抜けようとした蝶はミルッヒが飛ばした不可視の刃に翅を裂かれた。なおも逃れた蝶がきらきらと輝く鱗粉を振りまけば、淡い光に包まれた視界が霞み意識が睡魔に絡め取られていく。だが微睡みの海に沈んだのも一瞬のこと、辺りを包み込むウィズの清らな祈りが皆を眠りの海から掬い上げた。
「花園での穏やかな夢は……歓迎だけども、ね」
 両の手にある刃でアティセネィクが淡い黄の翅を裂けば、最後の金の煌きが風に舞う。
 ひらりと舞い降りてきた翅のかけらを掌で受け止めて、アスティナが僅かに瞳を伏せた。
「できるだけ……皆さんを埋めてあげたいですねぇ」
「……そうだね」
 囁くような声を落とし、ミルッヒは花の上に落ちた蝶をそっと拾い上げた。
 光が煙るような淡い黄の翅の下から現れたのは、今日の空のように優しい青の花。
 淡い黄の薄布のように広がる蝶達を拾い上げて行けば、甘やかな桃色や鮮やかな紫に、輝くような黄色の花々が次々と顔を出す。様々な色に溢れた花園の端にウィズが村で借りたスコップで穴を掘り、皆はそれぞれ集めた蝶達を柔らかな黒土の上に横たえた。
 ほのかに甘く香る肥えた土を優しくかけてやりながら、ウィズは祈りのような言葉を紡ぐ。
「土にかえって空にのぼって、またこの世界で会えるように」
「もし生まれ変わったりしたら、今度は一緒に春乙女の守人しよーな……?」
 柔らかに降り積もった土を撫で、ミンツが小さく呟いた。
 風が吹き、背にある白の翼がさわりと揺れる。
 大地を彩る花々がさざめいて、陽光の中に花の色の波を生み出した。
 
●春乙女の花
 若草色の薄布の上に色とりどりの珠を敷き詰めたような、花の園。
 様々な色に咲く小さな花々は菫の一種であるらしく、清しさの中に甘やかさを落としたような、何処か品のある香りが辺りに満ちる陽の光の中に溶け込んでいる。
「……蝶が集まるのも、わかるなぁ……」
 花の香りは甘く、その花を咲かせる土の香りすらもほのかに甘い。
 光に包まれた花園を見渡しぼんやり呟いたフロノは、ぼーっとする前にお手伝い、と両手でぺちぺち己の頬を叩いた。
「蝶は、花畑に眠ったのですよ。もう大丈夫です」
 差し伸べられたアティセネィクの手を取り花園へと足を踏み入れたチェルダは、咲き乱れる花々に感嘆の声を上げて「ありがとう、お疲れ様でした」と皆を振り返る。照れたようにへへっと笑ったミンツが花園の脇に腰を下ろし「どうせなら花を集めるついでにピクニックにしよーぜ」と敷布の上に山のようなお菓子を広げれば、チェルダは手を打って喜び、「貴方は楽しいことを考えるのが上手いのですね」とクリフが微笑んだ。ふと何かに気付いたように、アティセネィクが顔を上げる。
「君達は平気なのかい? 療養と付き添いで来ていると聞いたのだよ。……特に白わんこは祖母君の話し相手なのに」
「白わんこって俺かよ!」
 真白の犬尻尾を反射的に立てて叫ぶカルスト。その様は何だかきゃんきゃんと吠え立てる子犬のようで、ラシェットはくすくすと可笑しげに笑いつつチェルダと一緒に彼を宥めてやった。ちなみにクリフはこの地に来てから大分調子が良いと言うし、カルストの祖母はサニーベリーに滞在している婦人達のサロンに毎日顔を出している為、話し相手としての彼は用無しなのだとか。こっそり囁かれた「きっと退屈でどうしようもないんですよ」というチェルダの言葉に吹き出し、そうね、とラシェットは笑みを返す。
 少しずつ互いを知っていきながら、心の感じるまま、自然に絆が結ばれて行けば良いと思った。
 儀式の時に飲んだ泉の水が美味しかったとウィズが言えば、じゃあ次はこれを試してみて下さい、とチェルダが透明な硝子杯を差し出してくる。受け取った杯には早生り苺のジャムがひと匙落とされ、そこに水袋から泉の水が注がれた。まだ炭酸の残った清水に苺が溶けて、淡い桃色に透きとおっていく。ひとくち飲んでみればほのかに甘く、微かな炭酸が爽やかな刺激を残して喉を滑り落ちていった。
 美味しいと声を上げたウィズの杯に満ちる淡い色を見遣り、アティセネィクが「確か皆、春乙女の衣装に淡い春色を推していたね」と思案気に呟きつつ「君達はどんな色が似合うと思うかい?」と唐突に青年二人を振り返る。いきなり話を振られて考え込んだりあたふたしたりする二人の様子に、突然言われても困りますよねぇと笑いながら、アスティナはチェルダの隣に腰を下ろした。下を淡い緑にし、上は黄色か桜色と案を出しつつ、チェルダの顔を覗き込んでみる。
「でもティナは、チェルダさんが『春』って聞いて一番最初に思い浮かべる色にするのもいいかなぁって思うのですぅ」
「うん、チェルダちゃんの好きな色がいいとあたしも思うのなぁ〜ん」
 チェルダちゃんの髪には白に近い淡いピンクが似合うと思うなぁ〜んと見立てを述べつつニノンも訊いた。「三人寄れば何とやら、もっと寄れば更に!」と拳を握ったフロノが意見を求めれば、春の色のグラデーションってだめかな、とミルッヒが軽く首を傾げた。私もグラデーションがいいかしら、とラシェットが瞳を瞬かせる。意見が重なったこともあり、チェルダは嬉しげに『裾に緑』を入れ『グラデーション』にしてみます、と微笑んだ。後はどんな色にしましょうかと続ける彼女にミルッヒが「どんなお花が一番好き?」と問う。けれど、聞かずともチェルダの答えは皆何となく解っていた。
 春祭りに春楡の根元に咲く花。それも――淡い桜色の花。
「遥か昔、サニーベリーに辿りついた私達の先祖は、ある国の奉仕種族だったんです。虐げられるばかりの暮らしから逃れ漸くこの地に辿りついた先祖達は、淡い桜色の花が咲く様を見て、初めて生きる歓びを感じたと聞いています」
 だから、と言葉を途切れさせたチェルダの髪に、ウィズが一輪の花をそっと挿した。
 勿論春祭りの花ではないけれど、淡い桜色を宿した菫の花。
 白に近い淡いピンクは、ニノンの言うとおりチェルダの髪の色と優しく調和した。
 サニーベリーを目指した春乙女達の道のりって本当に大変だったんだろうねと穏やかに紡ぎ、ミルッヒはチェルダへ瞳を向ける。
「でも皆で乗り越えた。乗り越えられる絆を作った。……その絆に、あやかってみる?」
「……はい!」
 晴れやかな笑顔で頷くチェルダを見れば、ラシェットの顔も自然と綻んだ。
 祭りの成功のために仲良くする、という流れは正直性に合わなかったが、少なくとも自分は、素直なチェルダのことが好きだ。
 互いのことを知り、気が合って、自然と仲良くなっていって。その祝福に淡い桜色の花が咲く。

 ――そんな展開の方が、素敵じゃない?


マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2007/03/17
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