【小噺見聞録】もぐらとなのはな



<オープニング>


 蕾も膨らみ、春間近。
「おはな、まーだ?」
「桜はまだ少し早いなぁ」
 窓の外にちらつく枝を見上げ、首を傾げた明るい髪を、年季の入った料理人の手が撫でる。
「ああ、ハッタの畑の菜の花なら、丁度一杯になってるかも知れん。見頃を過ぎたら種を取って……今年の菜種油はどうだろな」
「おはな! おはな!」
 ぱぁっと顔を輝かせ、ぴょこぴょこ跳ねる小さな身体。
「んん、そうだな、行ってみるか……」
「きゃあ♪」
 顎に手を当て呟く男に、少女は諸手を上げて大喜び。
 ……しかしそこへ、別の男が深刻な顔をして飛び込んできた。ぽかんとして見上げる少女の髪をまた撫でて、男は険しい顔でもう一人を出迎える。
「出たのか」
「ああ、今度はトネットの。息子が落ちたと」
「これで四件目か」
 暫し、考えを巡らせ……男は、不思議そうに見上げてくる少女の顔を見て、ぽんと手を打った。
「そうだ、冒険者に頼んでみよう」

 そうして酒場に持ち込まれたのは、『もぐら退治』の依頼だった。
 もぐらといっても、普通のもぐらではなく、どうやら、変異を来したものらしい。
 通常のものよりも、二回り、三回り大きく、移動速度も並ならない。畑の下に巣を作っては、作物の根を千切って枯らす。それだけではない。身体に合わせて掘られた大きな穴は、時に人の重さで陥没、落とし穴のような効果をもたらし、子供がはまって出られなくなった、大人が足を折ったなど、既に何人かがその被害に遭っている。
 そこで更に困るのが……どうやら、そのもぐら、図体の割にやたらと臆病で、一度誰かが穴に嵌ると、別の場所へ移動してしまうというのだ。
 そうして、点々としているうちに、畑の被害は既に四件目。しかし、その四件目でも、この依頼が出された時には陥没事件が起きているため、もぐらはもう別の場所に移動しているだろうとのこと。
 そこで霊査士が、依頼人の持ってきたもぐらの掘り返した土を霊査すると……
 『菜の花畑』が視えた、という。
 依頼人曰く、今の所はまだ、心当たりのある菜の花畑に、それらしき気配はないらしい。上手くすれば、もぐらが畑に辿り着く前に、先回りして退治できるかもしれない。
 つまり、先に被害があった畑から、菜の花畑までの間の道端で、片をつけてしまおうという策だ。
 前の畑と、菜の花畑までは、歩いて数分の距離がある。邪魔になるもの特になく、戦闘にも差し支えはないだろうと、霊査士は言う。あとは、どのように地中のもぐらを見つけるか。待伏せる、追い立てる……そこは、依頼を受けた者らの、腕次第といった所であろう。

 ……そして、もう一つ。
 退治とは別件になってしまうのだが。
 依頼人が預かって面倒を見ている、リャカという名のエンジェルの少女が、菜の花見物を希望しているらしい。
 もし、差支えがなければ、仕事の後にでも一緒に花見をしてやってはくれないものか……とのこと。

 人々の大切な資源を守り、小さなお嬢さんの願いを叶える為に。
 どうか、引き受けてくれないだろうか。

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参加者
空仰鵬程・ヴィカル(a27792)
人生はシュガーレス・グレゴリー(a35741)
白と舞う翠櫻・リタ(a35760)
衝撃の弾幕少女・ユーロ(a39593)
焔命擁頌・オルーガ(a42017)
異風の叫奏者・ガマレイ(a46694)
保険医・クリセナ(a48485)
亜麻色の髪の天使・アクラシエル(a53494)
風任せの術士・ローシュン(a58607)
屠龍の刃・ミカ(a60792)


<リプレイ>

●もぐら
 風はまだ少し肌寒い。
 けれど、降り注ぐ暖かな陽光は、それを補って余りある。
 矛眼姫・オルーガ(a42017)は大好きな季節の気配に目を細め。
「春ですわね……♪」
 明るい日差しと、久々に会う少女を思い……すぐにはっとして、先に成すべきことへと意識を切り替える。
 目の前、と言うには少し遠いが、見渡す視界に映るのは、そこかしこに穴のあいたトネットさんの畑。周囲に凹凸がないか確認する、空仰鵬程・ヴィカル(a27792)の側では、荒れ狂うブリザード・グレゴリー(a35741)が地面に耳を当て、不審な物音がしないか注意深く様子を覗う。
「どうです?」
「まだ特には」
 亜麻色の髪の天使・アクラシエル(a53494)の問いに、小声で応えるグレゴリー。嗅ぎつけられないよう、皆揃って土や草で臭いを消している為、それが元で迂回されることはないはず。
 一方、菜の花畑前には、別の四人。
「ええと、縄を用意して巨大モグラを縛り上げて食べる……」
「オゥゥゥライ……食べるのっ!?」
 不意に零す、魔導監査官・クリセナ(a48485)に、今日は控えめにシャウトしようとしていた、異風の叫奏者・ガマレイ(a46694)が振り返る。
「うん。冗談。依頼内容が珍味採取だった時の名残だから余り気にしない様に」
 そんな目の前に点々と見えるのは、もぐらの誘導罠。
 紅の刃・ミカ(a60792)が等間隔に穴を掘れば、墨染めの桜花・リタ(a35760)がそこにミミズを大量に放り込む。
「このくらいでいいかな」
「そうですわね」
 そこからまた少し先、菜の花畑と、トネットさんの畑との中間地点。
 盾やワンドで掘った穴へ、放り込まれるミミズ達。
 準備を終えて、風任せの術士・ローシュン(a58607)は、衝撃の弾幕少女・ユーロ(a39593)と共に罠から少し離れ、気配を消して待つ。
 防具には布を噛ませて音を消し、武具の金属や自分自身は草木の汁で徹底消臭。もぐらが嗅ぎつけるのは、罠のミミズの臭いだけ。
 のどかに過ぎる一時。
 路傍の石か草木かといった様相で、もぐらが動き出すのを待つ十名。
 ……俄に。
「何か聴こえます」
 地面の下、響く物音に、グレゴリーがすかさずウェポン・オーバーロード。置いてきた斧を手元へ喚び戻す。
 ヴィカルは弓を握って、地面に動く凸凹がないか……
「居たなぁ〜ん」
「あれですね」
 騎乗で上昇する視界、不審な陥没を発見したアクラシエルが、囲い込むように位置取りを変える。
 同じく、挟み込んで退路を断つように動くオルーガ。咄嗟に掲げた長剣の切っ先から、虹色の光が迸った。
 地面で弾け、鳴り響くファンファーレ。立ち上がったグレゴリーがその側に付け、わざと大きな足音を立てれば、もぐらは慌てて動き出す。
 向かいに駆けつけたヴィカルを加え、丁度、二対二になる布陣で退路に立ち、地中を移動するもぐらを追うように、じりじりと進む。
「来たようだ」
 その姿を認め、ワンドを手にいっそう息を潜めるローシュン。ユーロは準備したミミズ穴をじっと見据える。
 不意に止まる、もぐらの動き。
 身構える二人。
 次の瞬間、蠢いていたミミズ達が、新たに空けられた穴と、吸い込まれるように消えていった。
 今だ!
 すかさずユーロの手から飛ぶ、粘々の糸。
 だが、土の下でミミズを引っ張るもぐらは、まだ視野外。糸は確かにもぐらのいる地面に覆い被さったが、その動きを止めるには至らなかった。
 ならばと、ローシュンが生み出すのは、光り輝く白い槍。
 打ち出され、陥没した穴へと突き刺さる慈悲の聖槍。直接確認できなかったが、穴が一層陥没したのを見るに命中はしたようだ。
 慌て、もぐらが再び移動を開始する。
 合流し、六人になって追う一団。
 進路を外れないよう、援護に放つオルーガとグレゴリーの華麗なる衝撃に、もぐらは追われるまま次の罠へ。
 向かってくる六人からもぐらの居場所を推測、クリセナはそれらしい位置を目で追う。
「捕まえて食べ……退治をすると……」
 稀に盛り上がる地面が見えてくるにつけ、惜しむらくは武器がピコピコハンマーじゃないことかな、なんて思ってみたりするガマレイ。
 罠の手前で、一旦動きを止める六人。
 音が消えて安心したか、先程よりはゆっくりと罠へ向かうもぐら。凹凸が減る地面と罠に、リタが意識を集中し……
「……掛かりましたわ!」
 刹那、鳴り響く眠りの歌。
「グッナァァァイトッ♪」
 務めてしっとりと奏でられるガマレイの歌声。召喚獣の黒いガスがその効果を高め、鼻先をミミズ穴に突っ込んだもぐらの動きを止める。
 続け様、召喚獣に跨るミカが、騎上から赤い刃の鎌で空を切った。
「君に罪はないけど……ごめんねッ!」
 込められた力は風を生み、風は竜巻となって、ミミズも土も纏めて嵐に巻き込んで削り取り、居眠りするもぐらを襲う。
 露になった穴ともぐら。衝撃に目を覚まし慌て潜ろうとするのを、アクラシエルの腕が掴み上げた。
「悪いな。逃がさないぞ……っと!」
 騎乗状態だということもあって、より一層高い位置からの剛鬼投げにひっくり返り、しかし、それでじたばた穴を探す鼻先へ。
「逃がさないなぁ〜ん!」
 弧を描き達する、ヴィカルのホーミングアロー。
 怯むそこへ次に襲い掛かるのは、電光石火の一撃。
 グレゴリーの握る斧に溜め込まれた闘気が、稲妻となって光を放つ。
 振り落とされる、電刃居合い斬り。
 その恐るべき威力もさること、刃を伝って纏わりつく稲妻が、もぐらの動きを封じる。
 その頭上、真っ逆さまに降る別の稲妻。
 ユーロの射たライトニングアローが落雷さながらに打ち据れば、もぐらはもう満身創痍。
 そんなもぐらに飛来する、白い光。
 クリセナとローシュン、それぞれが生み出した慈悲の聖槍が、交差するように突き刺さる。
 ぴたり、と。
 動きを止めるもぐら。
 歩み寄り……屈むリタの手に、細く鋭い矢。
 危急の一矢はただそっと静かに、もぐらを醒めない眠りへと誘っていった。

●花見、の前に
 ローシュンが掘り起した穴へ、もぐらの亡骸を埋葬するグレゴリー。
 土を被せながら、アクラシエルは。
「ごめんな」
「モグラさんの棲む土は良質だと聞きましたから、この辺りの土も質が良いのでしょうね」
 オルーガが振り返れば、一面に咲き誇る黄色。
 変異さえしていなければ……とは、人の傲慢さではあるけれど。
「……どうか、安らかに」
 菜の花畑の側に出来上がった小さな墓を見つめるリタ。ミカは畑から離れて咲く花を一輪、墓に添える。
「……ごめんね。今度モグラに生まれる時は、こんな事にならないよう……お祈りするよ」
 その後、ローシュンは戦闘で荒れた道を元に戻し、落ちて怪我をした村人にはリタがヒーリングウェーブでの治療を施した。
 こうして憂いはなくなり、皆は報告と花見の迎えにと、一旦引き返して行った。

●菜の花
 お迎えの気配!
「えるー!」
「久し振り。元気だった? ほら、これに乗せてあげよう」
 飛び出した所をアクラシエルに抱えられ、グランスティードの後ろに乗せて貰うリャカ。
 と、その視界が、急に真っ暗に。
「リャ〜カ〜さん♪ だ〜れだ♪」
「んとー……おるーが!」
 ぱっ、と目隠しした両手を離せば、喜んで振り返る小さな身体。すると今度は大きな影が。
「リャカさんお久しぶりです。お元気でしたか?」
「わふぃ♪」
 にこにこと、グレゴリーに万歳をして見せるリャカ。
 そんな中、ミカは先ずは挨拶だよねと、歩み寄ってぺこり。
「はじめまして……ミカと申します」
「はめめま。リャカ、です!」
 真似をして、ぺこり。
 そこにびびぃーん、と響くギターの音色。
「オゥゥゥライトッ!!! リャカさん初めまして♪」
 やっと気兼ねなくシャウト。そんなガマレイに、リャカは一瞬びっくりしたものの。
「おーらいとー!」
 気に入ったらしい。
 そして、よろしくよろしくと手を差し出し、ミカ、ガマレイと握手、嬉しそうに振り回す。
 そんなリャカの頭に、リタは今日の為に用意してきたものをふわりと被せる。
「わぁ! ぼーし!」
「これから日差しが強くなりますもの」
 それは、たんぽぽと菜の花のコサージュをあしらった、白いメトロ。
 一旦脱いで、まじまじと見つめ、また被る。また脱いで……を、何回か繰り返すリャカ。
「ありがとー♪」
 最後にぎゅむっと深く被ると、にこにこ微笑んで万歳をして見せる。
「じゃ、お花見行こっか」
「おーらいと!」
 ユーロに元気よく返事を返し、一行は菜の花畑へ歩き出した。

 一面に咲く花。
 絨毯のように彩られた黄色い世界。
 時折風に揺れて波打てば、隙間に覗く明るい緑。
「すっごく鮮やかで綺麗なぁ〜ん!!」
 改めて見る菜の花畑。日差しを浴びて輝くような景色に、ヴィカルは大きな青い瞳をまけじと輝かせる。
 傍らでは、リャカが一緒になってきゃあきゃあ。
 クリセナも晴れた空との対照的なコントラストを暫し眺め。
「菜の花の種は油にもなるし、菜の花自体は食べる事も出来る」
 花だけど……綺麗だけど……
 食べる事が……食べる事が……出来る。
「おはな、たべるの?」
「いや、素では食べれない。素では食べれないけれど」
 首を傾げて見上げるリャカ。
 ……何か、色々、複雑な眼差しを向けられている気がする。
 いやこれは、あの人のせいにしておこうっ!
「それは、それとして……摘んでおみやげとして持っていってはどうだろう? そしてこの話はそれでお終いにしておいて遊んで来ると良いよ! そうしよう!」
「きゃー♪」
 とりあえず勢いで乗り切るクリセナ。もっとも、リャカは気にした風もなく、言われるまま花畑の中へ。
「す、すみません!」
 一瞬びっくりして、思わず謝ってしまうグレゴリー。しかし、悠々とした足取りで後を追っていったローシュンやオルーガを見て。
「あ……大丈夫なんでしたっけ」
「ええ、挨拶に行ったら、少しなら構わないと」
「お料理用にも分けて貰えたにゅ」
 即席で調理の準備をしながら、ユーロが摘みたての菜の花を手にする。
 それを見たクリセナは、さっきの会話のせいか、何故か微妙な気分になったとかなんとか。
 ローシュンは、畑の中でオルーガと花摘みをして楽しむリャカの髪をなでながら、
「ホワイトガーデンも花々に満ちあふれた大変美しい場所だと聞くが……地上の花畑は、どうかな?」
「きれーい! すき♪」
 屈託の無い笑顔。一つ頷きを返し、もう一度くしゃくしゃと髪を撫でる。
「そうか、気に入ったか。ここの畑を育てたおじさんも喜ぶぞ」
 はしゃぐ姿に、ローシュンの胸を過ぎる思い。
 ……と。遮るように後ろから掛かる声。
「お昼にしようー」
 手招きをするミカの元へ、ローシュンとオルーガの手を引いて走り出すリャカ。
「楽しみなぁ〜ん♪」
 並べられていくお弁当を前に、ヴィカルはお腹を鳴らして涎をじゅるり。
 全員が揃った所で、先ずはアクラシエルが。
「じゃーん」
「わぁ!」
 包んでいた布が紐解かれ現れたのは、硝子の箱に入ったサンドイッチとおにぎり。
「皆さんもどうぞ」
 嬉しそうに手を伸ばすリャカ。その側で今度は別のお弁当の蓋が開く。
 グレゴリーが開いたお弁当箱の中、真っ先にリャカの目に飛び込んできたのは、タコさんウィンナー。
「おはな?」
「タコだね。海の生き物だよ」
「うみ!」
「……このまま泳いでいる訳じゃないけど」
 そういえば見た事ないんだなと、はしゃぐリャカを見つめるクリセナ。
 他にも、お弁当には欠かせない卵焼き、リンゴのウサギ、そして……
 何だろうと首を傾げるリャカの前で、グレゴリーがそれを切り分けると……
「ほらこの巻き寿司なんですが、どこから切ってもノソリンの顔が出てくるんですよ。面白いでしょう?」
「すごーい!」
 受け取って、上や下やに透かし見るリャカ。
 もう一つ、ユーロの持参したお弁当には、山菜ご飯のおむすび、野菜炒め、ソーセージ、そしてやっぱり卵焼き。更に。
「これも、みんなでどうぞ」
 ユーロが出してきたのは、摘んだばかりの菜の花で作ったおひたしと、天麩羅。
「熱いから気を付けてね」
「わふぃ!」
 さくさくぱりぱり。
 小鳥のさえずり響く中での、和やかな昼食。
「皆さん、お茶はいかが?」
 行き渡った所で、リタが花見に出る直前に淹れて来たお茶を勧めて回る。オルーガも持参のバスケットからティーセットを取り出し。
「珈琲も有りますわ。リャカさんはジャム入りの方がいいかしら?」
「オゥゥゥライトッ!!! 飲み物といえば」
 満を持してガマレイが取り出したのは、自家製のソイ・ラテ。
「リャカさんは豆乳初体験かな?」
「とーにゅー?」
「じゃあこれは?」
 続けて取り出されたのは、なんと豆腐。四角くつるっと、そのまんま豆腐。
「この白いのに、大地の恵みがたっぷり詰まってるのよ」
 ランドアースに来てから知ったのよ♪ と、起源から何から、豆腐の素晴らしさを語るガマレイ。
 その時。
 ミカは閃いた。
 豆腐の上に、さっき作ったおひたしを……合体!
「菜の花冷奴?」
「豆腐の素晴らしさが伝わるなら万事オゥゥゥケィッ♪」
「んと……あたしも一応、皆の分のデザートを作ってきたなぁ〜ん」
 食べるだけじゃないなぁ〜んと、ヴィカルが取り出したのはゼリー。
 蜂蜜付けのレモンとグレープフルーツの上に浮かぶのは、刻んだキウイ。それは菜の花を模して作ったものだった。
「たべるー!」
 やっぱり甘いものは別腹。お腹が膨れ掛けていたリャカも、大喜びでがっつく。なお、食後の飲み物はミカの持ち込んだ泡の出る麦茶。リャカ的にクリーンヒットだったらしい。
 食後はまた、のんびりとお花見。
「土の色は?」
「ちゃいろ!」
「菜の花の色は?」
「きいろ!」
「俺の髪の色は?」
「んー……ほしくさ!」
「じゃあ、リャカさんの髪の色は?」
「びぃかるのぜりーのいろ!」
「瞳の色は?」
「ちゃいろ!」
 アクラシエルの質問に、手鏡を見ながら答えるリャカ。その後ろ、摘み取った花を飾りにオルーガが髪を整え中なのも相まって、リャカは終始にこにこ。
「リャカちゃんは、大きくなったら何になる?」
「んとー、んとー……」
 この子の目には、花も人も未来も、汚れのない美しいものとして映っているのかも知れぬ。
 けれど、自分はそうではない。
 少女よ、私のようにはなるな。
 心の内で呟いて、ローシュンはまたその明るい髪を、そっと撫でた。
 たわむ菜の花。リタは花とリャカを瞳に映し。
「まるで……金色の海ですわね」
 菜の花の花言葉は『快活』だとか。
 似ていると思う。花言葉も、そして、この眩しさも。
 満腹と満足。
 青と黄。
 この光景を守れてよかった。
 心地よく沸き上がる眠気に、ヴィカルの意識もまた景色の中に溶けていくようだった。


マスター:BOSS 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2007/03/16
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