<リプレイ>
●もぐら 風はまだ少し肌寒い。 けれど、降り注ぐ暖かな陽光は、それを補って余りある。 矛眼姫・オルーガ(a42017)は大好きな季節の気配に目を細め。 「春ですわね……♪」 明るい日差しと、久々に会う少女を思い……すぐにはっとして、先に成すべきことへと意識を切り替える。 目の前、と言うには少し遠いが、見渡す視界に映るのは、そこかしこに穴のあいたトネットさんの畑。周囲に凹凸がないか確認する、空仰鵬程・ヴィカル(a27792)の側では、荒れ狂うブリザード・グレゴリー(a35741)が地面に耳を当て、不審な物音がしないか注意深く様子を覗う。 「どうです?」 「まだ特には」 亜麻色の髪の天使・アクラシエル(a53494)の問いに、小声で応えるグレゴリー。嗅ぎつけられないよう、皆揃って土や草で臭いを消している為、それが元で迂回されることはないはず。 一方、菜の花畑前には、別の四人。 「ええと、縄を用意して巨大モグラを縛り上げて食べる……」 「オゥゥゥライ……食べるのっ!?」 不意に零す、魔導監査官・クリセナ(a48485)に、今日は控えめにシャウトしようとしていた、異風の叫奏者・ガマレイ(a46694)が振り返る。 「うん。冗談。依頼内容が珍味採取だった時の名残だから余り気にしない様に」 そんな目の前に点々と見えるのは、もぐらの誘導罠。 紅の刃・ミカ(a60792)が等間隔に穴を掘れば、墨染めの桜花・リタ(a35760)がそこにミミズを大量に放り込む。 「このくらいでいいかな」 「そうですわね」 そこからまた少し先、菜の花畑と、トネットさんの畑との中間地点。 盾やワンドで掘った穴へ、放り込まれるミミズ達。 準備を終えて、風任せの術士・ローシュン(a58607)は、衝撃の弾幕少女・ユーロ(a39593)と共に罠から少し離れ、気配を消して待つ。 防具には布を噛ませて音を消し、武具の金属や自分自身は草木の汁で徹底消臭。もぐらが嗅ぎつけるのは、罠のミミズの臭いだけ。 のどかに過ぎる一時。 路傍の石か草木かといった様相で、もぐらが動き出すのを待つ十名。 ……俄に。 「何か聴こえます」 地面の下、響く物音に、グレゴリーがすかさずウェポン・オーバーロード。置いてきた斧を手元へ喚び戻す。 ヴィカルは弓を握って、地面に動く凸凹がないか…… 「居たなぁ〜ん」 「あれですね」 騎乗で上昇する視界、不審な陥没を発見したアクラシエルが、囲い込むように位置取りを変える。 同じく、挟み込んで退路を断つように動くオルーガ。咄嗟に掲げた長剣の切っ先から、虹色の光が迸った。 地面で弾け、鳴り響くファンファーレ。立ち上がったグレゴリーがその側に付け、わざと大きな足音を立てれば、もぐらは慌てて動き出す。 向かいに駆けつけたヴィカルを加え、丁度、二対二になる布陣で退路に立ち、地中を移動するもぐらを追うように、じりじりと進む。 「来たようだ」 その姿を認め、ワンドを手にいっそう息を潜めるローシュン。ユーロは準備したミミズ穴をじっと見据える。 不意に止まる、もぐらの動き。 身構える二人。 次の瞬間、蠢いていたミミズ達が、新たに空けられた穴と、吸い込まれるように消えていった。 今だ! すかさずユーロの手から飛ぶ、粘々の糸。 だが、土の下でミミズを引っ張るもぐらは、まだ視野外。糸は確かにもぐらのいる地面に覆い被さったが、その動きを止めるには至らなかった。 ならばと、ローシュンが生み出すのは、光り輝く白い槍。 打ち出され、陥没した穴へと突き刺さる慈悲の聖槍。直接確認できなかったが、穴が一層陥没したのを見るに命中はしたようだ。 慌て、もぐらが再び移動を開始する。 合流し、六人になって追う一団。 進路を外れないよう、援護に放つオルーガとグレゴリーの華麗なる衝撃に、もぐらは追われるまま次の罠へ。 向かってくる六人からもぐらの居場所を推測、クリセナはそれらしい位置を目で追う。 「捕まえて食べ……退治をすると……」 稀に盛り上がる地面が見えてくるにつけ、惜しむらくは武器がピコピコハンマーじゃないことかな、なんて思ってみたりするガマレイ。 罠の手前で、一旦動きを止める六人。 音が消えて安心したか、先程よりはゆっくりと罠へ向かうもぐら。凹凸が減る地面と罠に、リタが意識を集中し…… 「……掛かりましたわ!」 刹那、鳴り響く眠りの歌。 「グッナァァァイトッ♪」 務めてしっとりと奏でられるガマレイの歌声。召喚獣の黒いガスがその効果を高め、鼻先をミミズ穴に突っ込んだもぐらの動きを止める。 続け様、召喚獣に跨るミカが、騎上から赤い刃の鎌で空を切った。 「君に罪はないけど……ごめんねッ!」 込められた力は風を生み、風は竜巻となって、ミミズも土も纏めて嵐に巻き込んで削り取り、居眠りするもぐらを襲う。 露になった穴ともぐら。衝撃に目を覚まし慌て潜ろうとするのを、アクラシエルの腕が掴み上げた。 「悪いな。逃がさないぞ……っと!」 騎乗状態だということもあって、より一層高い位置からの剛鬼投げにひっくり返り、しかし、それでじたばた穴を探す鼻先へ。 「逃がさないなぁ〜ん!」 弧を描き達する、ヴィカルのホーミングアロー。 怯むそこへ次に襲い掛かるのは、電光石火の一撃。 グレゴリーの握る斧に溜め込まれた闘気が、稲妻となって光を放つ。 振り落とされる、電刃居合い斬り。 その恐るべき威力もさること、刃を伝って纏わりつく稲妻が、もぐらの動きを封じる。 その頭上、真っ逆さまに降る別の稲妻。 ユーロの射たライトニングアローが落雷さながらに打ち据れば、もぐらはもう満身創痍。 そんなもぐらに飛来する、白い光。 クリセナとローシュン、それぞれが生み出した慈悲の聖槍が、交差するように突き刺さる。 ぴたり、と。 動きを止めるもぐら。 歩み寄り……屈むリタの手に、細く鋭い矢。 危急の一矢はただそっと静かに、もぐらを醒めない眠りへと誘っていった。
●花見、の前に ローシュンが掘り起した穴へ、もぐらの亡骸を埋葬するグレゴリー。 土を被せながら、アクラシエルは。 「ごめんな」 「モグラさんの棲む土は良質だと聞きましたから、この辺りの土も質が良いのでしょうね」 オルーガが振り返れば、一面に咲き誇る黄色。 変異さえしていなければ……とは、人の傲慢さではあるけれど。 「……どうか、安らかに」 菜の花畑の側に出来上がった小さな墓を見つめるリタ。ミカは畑から離れて咲く花を一輪、墓に添える。 「……ごめんね。今度モグラに生まれる時は、こんな事にならないよう……お祈りするよ」 その後、ローシュンは戦闘で荒れた道を元に戻し、落ちて怪我をした村人にはリタがヒーリングウェーブでの治療を施した。 こうして憂いはなくなり、皆は報告と花見の迎えにと、一旦引き返して行った。
●菜の花 お迎えの気配! 「えるー!」 「久し振り。元気だった? ほら、これに乗せてあげよう」 飛び出した所をアクラシエルに抱えられ、グランスティードの後ろに乗せて貰うリャカ。 と、その視界が、急に真っ暗に。 「リャ〜カ〜さん♪ だ〜れだ♪」 「んとー……おるーが!」 ぱっ、と目隠しした両手を離せば、喜んで振り返る小さな身体。すると今度は大きな影が。 「リャカさんお久しぶりです。お元気でしたか?」 「わふぃ♪」 にこにこと、グレゴリーに万歳をして見せるリャカ。 そんな中、ミカは先ずは挨拶だよねと、歩み寄ってぺこり。 「はじめまして……ミカと申します」 「はめめま。リャカ、です!」 真似をして、ぺこり。 そこにびびぃーん、と響くギターの音色。 「オゥゥゥライトッ!!! リャカさん初めまして♪」 やっと気兼ねなくシャウト。そんなガマレイに、リャカは一瞬びっくりしたものの。 「おーらいとー!」 気に入ったらしい。 そして、よろしくよろしくと手を差し出し、ミカ、ガマレイと握手、嬉しそうに振り回す。 そんなリャカの頭に、リタは今日の為に用意してきたものをふわりと被せる。 「わぁ! ぼーし!」 「これから日差しが強くなりますもの」 それは、たんぽぽと菜の花のコサージュをあしらった、白いメトロ。 一旦脱いで、まじまじと見つめ、また被る。また脱いで……を、何回か繰り返すリャカ。 「ありがとー♪」 最後にぎゅむっと深く被ると、にこにこ微笑んで万歳をして見せる。 「じゃ、お花見行こっか」 「おーらいと!」 ユーロに元気よく返事を返し、一行は菜の花畑へ歩き出した。
一面に咲く花。 絨毯のように彩られた黄色い世界。 時折風に揺れて波打てば、隙間に覗く明るい緑。 「すっごく鮮やかで綺麗なぁ〜ん!!」 改めて見る菜の花畑。日差しを浴びて輝くような景色に、ヴィカルは大きな青い瞳をまけじと輝かせる。 傍らでは、リャカが一緒になってきゃあきゃあ。 クリセナも晴れた空との対照的なコントラストを暫し眺め。 「菜の花の種は油にもなるし、菜の花自体は食べる事も出来る」 花だけど……綺麗だけど…… 食べる事が……食べる事が……出来る。 「おはな、たべるの?」 「いや、素では食べれない。素では食べれないけれど」 首を傾げて見上げるリャカ。 ……何か、色々、複雑な眼差しを向けられている気がする。 いやこれは、あの人のせいにしておこうっ! 「それは、それとして……摘んでおみやげとして持っていってはどうだろう? そしてこの話はそれでお終いにしておいて遊んで来ると良いよ! そうしよう!」 「きゃー♪」 とりあえず勢いで乗り切るクリセナ。もっとも、リャカは気にした風もなく、言われるまま花畑の中へ。 「す、すみません!」 一瞬びっくりして、思わず謝ってしまうグレゴリー。しかし、悠々とした足取りで後を追っていったローシュンやオルーガを見て。 「あ……大丈夫なんでしたっけ」 「ええ、挨拶に行ったら、少しなら構わないと」 「お料理用にも分けて貰えたにゅ」 即席で調理の準備をしながら、ユーロが摘みたての菜の花を手にする。 それを見たクリセナは、さっきの会話のせいか、何故か微妙な気分になったとかなんとか。 ローシュンは、畑の中でオルーガと花摘みをして楽しむリャカの髪をなでながら、 「ホワイトガーデンも花々に満ちあふれた大変美しい場所だと聞くが……地上の花畑は、どうかな?」 「きれーい! すき♪」 屈託の無い笑顔。一つ頷きを返し、もう一度くしゃくしゃと髪を撫でる。 「そうか、気に入ったか。ここの畑を育てたおじさんも喜ぶぞ」 はしゃぐ姿に、ローシュンの胸を過ぎる思い。 ……と。遮るように後ろから掛かる声。 「お昼にしようー」 手招きをするミカの元へ、ローシュンとオルーガの手を引いて走り出すリャカ。 「楽しみなぁ〜ん♪」 並べられていくお弁当を前に、ヴィカルはお腹を鳴らして涎をじゅるり。 全員が揃った所で、先ずはアクラシエルが。 「じゃーん」 「わぁ!」 包んでいた布が紐解かれ現れたのは、硝子の箱に入ったサンドイッチとおにぎり。 「皆さんもどうぞ」 嬉しそうに手を伸ばすリャカ。その側で今度は別のお弁当の蓋が開く。 グレゴリーが開いたお弁当箱の中、真っ先にリャカの目に飛び込んできたのは、タコさんウィンナー。 「おはな?」 「タコだね。海の生き物だよ」 「うみ!」 「……このまま泳いでいる訳じゃないけど」 そういえば見た事ないんだなと、はしゃぐリャカを見つめるクリセナ。 他にも、お弁当には欠かせない卵焼き、リンゴのウサギ、そして…… 何だろうと首を傾げるリャカの前で、グレゴリーがそれを切り分けると…… 「ほらこの巻き寿司なんですが、どこから切ってもノソリンの顔が出てくるんですよ。面白いでしょう?」 「すごーい!」 受け取って、上や下やに透かし見るリャカ。 もう一つ、ユーロの持参したお弁当には、山菜ご飯のおむすび、野菜炒め、ソーセージ、そしてやっぱり卵焼き。更に。 「これも、みんなでどうぞ」 ユーロが出してきたのは、摘んだばかりの菜の花で作ったおひたしと、天麩羅。 「熱いから気を付けてね」 「わふぃ!」 さくさくぱりぱり。 小鳥のさえずり響く中での、和やかな昼食。 「皆さん、お茶はいかが?」 行き渡った所で、リタが花見に出る直前に淹れて来たお茶を勧めて回る。オルーガも持参のバスケットからティーセットを取り出し。 「珈琲も有りますわ。リャカさんはジャム入りの方がいいかしら?」 「オゥゥゥライトッ!!! 飲み物といえば」 満を持してガマレイが取り出したのは、自家製のソイ・ラテ。 「リャカさんは豆乳初体験かな?」 「とーにゅー?」 「じゃあこれは?」 続けて取り出されたのは、なんと豆腐。四角くつるっと、そのまんま豆腐。 「この白いのに、大地の恵みがたっぷり詰まってるのよ」 ランドアースに来てから知ったのよ♪ と、起源から何から、豆腐の素晴らしさを語るガマレイ。 その時。 ミカは閃いた。 豆腐の上に、さっき作ったおひたしを……合体! 「菜の花冷奴?」 「豆腐の素晴らしさが伝わるなら万事オゥゥゥケィッ♪」 「んと……あたしも一応、皆の分のデザートを作ってきたなぁ〜ん」 食べるだけじゃないなぁ〜んと、ヴィカルが取り出したのはゼリー。 蜂蜜付けのレモンとグレープフルーツの上に浮かぶのは、刻んだキウイ。それは菜の花を模して作ったものだった。 「たべるー!」 やっぱり甘いものは別腹。お腹が膨れ掛けていたリャカも、大喜びでがっつく。なお、食後の飲み物はミカの持ち込んだ泡の出る麦茶。リャカ的にクリーンヒットだったらしい。 食後はまた、のんびりとお花見。 「土の色は?」 「ちゃいろ!」 「菜の花の色は?」 「きいろ!」 「俺の髪の色は?」 「んー……ほしくさ!」 「じゃあ、リャカさんの髪の色は?」 「びぃかるのぜりーのいろ!」 「瞳の色は?」 「ちゃいろ!」 アクラシエルの質問に、手鏡を見ながら答えるリャカ。その後ろ、摘み取った花を飾りにオルーガが髪を整え中なのも相まって、リャカは終始にこにこ。 「リャカちゃんは、大きくなったら何になる?」 「んとー、んとー……」 この子の目には、花も人も未来も、汚れのない美しいものとして映っているのかも知れぬ。 けれど、自分はそうではない。 少女よ、私のようにはなるな。 心の内で呟いて、ローシュンはまたその明るい髪を、そっと撫でた。 たわむ菜の花。リタは花とリャカを瞳に映し。 「まるで……金色の海ですわね」 菜の花の花言葉は『快活』だとか。 似ていると思う。花言葉も、そして、この眩しさも。 満腹と満足。 青と黄。 この光景を守れてよかった。 心地よく沸き上がる眠気に、ヴィカルの意識もまた景色の中に溶けていくようだった。

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参加者:10人
作成日:2007/03/16
得票数:ほのぼの23
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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