<リプレイ>
●雪化粧 「大雪で困ってるのか、お年寄りは大事にって言うし、んじゃあ俺たちで頑張るか〜」 何とか無事な民家の中で、動物愛好魔術師・ミサリヤ(a00253)はうんうんと頷いていた。大雪に見舞われたこの村は大変な時なのだと話す老人たちも「おぉ〜」と感嘆の声を上げている。 「家が潰れるほどなら、急いで雪下ろしです」 早速外へと向かおうとする紋章打の使い手・エリス(a00091)だが、一人の老人がそれを引き止めた。まぁお茶でもと湯飲みが出され、そうだ婆さん煎餅があっただろう。はいただいま〜と絶妙なコンビネーションでお茶菓子やらミカンやらが冒険者たちの前に並べ立てられてゆく。食料の残りも乏しいという話だが、「自分たちはいいから食べてくだされ」と笑顔を向けてくる。 「ではお言葉に甘えて、暖まらせてもらいます」 お年寄りたち相手ではあまり強気に出るわけにもいかない。眠らぬ車輪・ラードルフ(a10362)はとりあえずお茶を頂きながら仲間達に小さく目配せした。心遣いはありがたいが、いつまでもこうしていては状況は変わらない。 「それじゃ、何か欲しいものがある方、じゃんじゃん言ってくださーいっ!」 リターンゼロ・ラィム(a08520)が買い出しに行くと声を上げ、老人たちの注意を引いた。おぉそれなら漬物を、昆布茶を、煎餅を……と、希望を言いに老人達は集まってくる。 「ぜ、全部は買って来れないと思うけど……」 並ぶ老人たちを誘導しつつ、紅鎖に抗う碧き風・イサヤ(a02691)は小さく呟いていた。その間にこっそりと雪かきへと向かう仲間達を見送って、老人達には「しばらくまったりしていましょうか」と呼びかけて外に出ないように伝えている。 「そうだ、怪我をしている者や体の調子が優れない者はいないか、手当てを行おう」 更に愛おしい君の唇を奪いにきたよ・ニオス(a04450)が怪我人の手当てを順に始めるのだが、何故かこちらにも長蛇の列が発生していた。 (「……いつ終わるか……」) 胸中だけで呟きながら、ニオスは診察を進めるのだった。
そんな仲間達の動きによって老人達の手から逃れ、外に出た冒険者たちは雪かきを開始していた。ざくざくと雪を掘り、脇に避けてゆく剣振夢現・レイク(a00873)。 黙々と作業を進めつつ、困っている人の為に働ける、手伝えることを嬉しく思うレイク。 (「……飽きるまでは、な」) 例えその作業が単調な繰り返しであったとしても、時折屋根に登ってみたり、疲れを温泉で癒せることを想像したりして手を動かすレイクであった。 「塵も積もれば山となる、雪も積もれば山となる……」 蒼穹に閃く刃・ジギィ(a34507)は大雪の景色を眺めながら苦笑を浮かべ、土塊の下僕を召喚していた。雪の重みで今にも崩れそうな家の雪下ろしをさせようというのである。土塊の下僕だけでは一気に雪を下ろしてゆくようなことは出来ないが、人が乗って家を潰してしまうよりはいいだろう。そういったギリギリな建物に対してジギィは土塊の下僕を配置していった。 どこでもフワリンを使って雪を運び出してゆくのはミサリヤで、主に温泉への道を切り開くべくスコップを振るっていた。 「温泉への道が除雪できたら、村の方に入っていただけますし」 ラードルフも一緒になって雪をフワリンに積み込んでいた。そう、買い出しの注文も診察も終えた老人達は暇をもてあまし、「ちょっと様子を見に」出てきてしまうかもしれない。まだまだ雪が多く除雪作業の真っ只中であるので、完了するまでは温泉にでも居て貰おうというのである。 (「流石にすさまじいな」) 診ても診ても終わらない老人たちの診察に、ニオスは額に汗していた。 確かに豪雪の影響で怪我をしている人も居たが、「入れ歯が合わなくて」、「耳が遠くなって」、「娘が家出して……」などなど、手当てでは無く人生相談にまで発展を始めている。ニオスの心が折れそうになる寸前に温泉への道が開通したとの報が入り、診察が終わった人はそちらに向かう様にと勧め始めるのだった。
「お茶とお煎餅のお礼はするですよ」 一方ではエリスやレイクが買い出しに向かう為の道を切り開くべく、除雪作業に取り組んでいた。土塊の下僕も召喚して、自分と同じ動きをさせている。 「先にやることがある? おかしいな」 グランスティードを駆って買い出しに向かおうとするライムだが、隣の村へと向かう道も雪で埋まってしまって多少の除雪が必要とのことだった。とりあえず進めそうな道に出るまで、イサヤと共に雪かきをしてゆく。 「そろそろ大丈夫なかな?」 何とか道と呼べそうな所まで出て、ラィムの後ろでグランスティードに乗ったイサヤが呟く。「れっつごー!」とラィムの掛け声と共にグランスティードは走り始めた。村の命運を担うその早駆けを冒険者たちも見送ってゆく。
「慣れた方がいらっしゃったら、ご指導をお願いしたいですね」 除雪作業も大部分が完了し、冒険者たちは壊れた建物や設備の修理に取り掛かっていた。ジギィは進んで老人からの指導を受けている。何でも、その昔に大工を営んでいた人らしい。 「すみません、こういうのは素人なもので……」 元・大工さんの声が飛ぶ。ジギィと一緒に作業をしていたラードルフはどやされて苦笑を浮かべるのだった。 ミサリヤがペンキ塗りをしていると、ようやく診察を終えたニオスが外に出ていた。何でも、潰れてしまった家屋の解体をするべくやってきたのだそうだ。勇んで崩壊家屋の中へとニオスは突っ込んでゆく。 がががががっ! 瓦礫と雪をぶっとばすように、ニオスのレイジングサイクロンが発動される! それは見事に崩れていた家屋を粉砕するが……。 「あ」 思わず漏れたのは誰の声か、レイジングサイクロンの衝撃が、近くに積んであった除雪後の雪を纏めていた山を崩し始めたのである。 逃げて……と思う時既に遅く、というかニオスはレイジングサイクロンの反動で麻痺していたので動けずに雪に埋まってしまっていた。ニオスだるまの完成、らしい。皆で協力して掘り起こし、震えるニオスは温泉へと連行されるのだった。
「村の様子はこんな感じです……何か伝えることがあればー」 一方では買い込みを終えたラィムとイサヤが、隣町の住民に村の状況を伝えたり、手紙を渡したりしていた。そしてそろそろ戻ろうかとグランスティードに乗り込むが……動かない。 「んー、重いのかな、イサヤくんちょっと降りて」 グランスティードが運べるのは二人とその装備品程度である。何も持たない「行き」は十分運べたのだが、大量の品を二人が背負った状態の「帰り」では重量オーバーなのかもしれない。その予想を裏付けるかのように、イサヤが降りるとグランスティードは動けるようになった。 「それじゃ、がんばってー!」 早駆けで去ってゆくラィムとグランスティード。イサヤはというと……仕方が無いので徒歩である。雪道を大量の荷物を背負い、さくさく踏み締めて進んでゆく。 「……さむーぃ」 色々な意味で呟きながらも進むイサヤ。ラィムが荷物を置いたら再び迎えに来ると言っていたのでそれまでの辛抱である。 教訓。グランスティードで物を運ぶなら、召喚者だけの方がいい。二人乗ってるとあんまり運べない。
買い出しの二人が戻ってくるのとニオスが解凍されるまでの間を利用して、冒険者たちは集めた雪でかまくらを作って遊んでいた。 「これだけあれば大きいのが作れますね」 大量の雪を固めて形を作りながら言うラードルフに、レイクも風情があっていいものだと頷く。暫く中で餅を焼いたりしていたが、そろそろ温泉にでも行こうかとかまくらを後にする。
こうしてそれぞれの役目を終えた冒険者たちはその疲れを癒すべく、温泉へと集合するのだった。
●雪見温泉 「……結構暖まりますね。動物達も入って来そうな壮大さです」 見事な露天風呂に頷きながら、ラードルフは火照った体で雪を湯に入れて温度を調節しようとするが、温泉に入っていた老人に止められている。お爺ちゃんは熱い湯が大好きなのである。 「……何だか色々と無茶したなぁ」 今日のことか、それとも冒険者として歩んできた道のことか、湯に体を預けてちびりと酒をやりながら呟くニオス。雪ダルマ状態からはすっかり回復したらしい。 「うー寒かった」 寒いのは苦手だと言ってイサヤもしっかり湯に浸かり体を温めていた。お待ちかねの温泉にマッタリしつつ、老人たちと冒険の話をするミサリヤを眺めていた。 広い露天風呂の温泉は混浴であったが、村のお婆ちゃんたちと一緒にラィムとエリスは安心して湯に浸かっていた。もっともメンバーの中におかしな行動を取る者は居なかったのだが。 「うぅ、暖まるー、サイコーですネ!」 タオルはしっかり体に巻いて、お酒を飲んでいる仲間に酌をするラィム。 「んー、変なことをしそうな人はいないですねぇ、良いことですにゃ」 まぁ何かすれば手加減無しでぶっ飛ばすけれどと言ってエリスも頷いている。その言葉を聞きながらレイクも「平和だ……」と温泉を楽しんでいた。 「色々大変でしたけど、これで疲れも寒さも吹っ飛びますよね」 しみじみと言うジギィの言葉に、一同は心から頷くのだった。
こうして大雪に見舞われた村の危機を救った冒険者たちは温泉を心ゆくまで楽しんで、その村を後にするのだった。
念のために周囲の村の人々に、雪かきをしたので道が通じていること、温泉へ行くついでにでも時々村の様子を見に行って欲しいとお願いしておいてから、冒険者たちは帰路についていた。 「また遊びに来るからね〜」 歩みを進める冒険者たちの頭上には、暖かい日差しが注いでいた。
――雪解けの春も、近い。
(おわり)

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参加者:8人
作成日:2007/03/17
得票数:ほのぼの14
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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