狂い、咲き乱れるは秘境の桜



<オープニング>


●来訪者
 暖かくなった春先のとある日。コノヱとツバキ姫が居を構えたサギミヤ城下の屋敷に奇妙な出で立ちをした一人の人物が訪れた。陽射しを遮る様に深々と外套を被ったその人物は、彼女達の姿を認めると深く礼をする。
「お久しぶりです、コノヱ殿」
 以前に聞き覚えのある声が向けられた。次いで来訪者は外套を取ると、見覚えのある緑色の髪を持つ童女の顔が露となる。彼女の腰に下げられた二振りの、素朴ながらも頑丈な作りの刀にはコノヱとツバキ姫には見覚えがあった。
「シュリ様でしたか、これはお久し振りです」
 僅かに顔を綻ばせてコノヱが深く礼をすると、倣うようにツバキ姫も頭を下げる。
「半年ほど、でしょうか。お二人とも変わらず何よりです」
 生真面目さの感じられる真摯な表情のままでシュリはコノヱの言葉に答えた。彼女は以前、護楓の盾カムライがこの地の鬼と相対していた折に、処々あって出会う事となった楓華のドリアッドである。分水嶺のある一角に居を構え、隠遁していたネネ・フウガの身の回りを世話をする、たった一人の存在だ。
「何かあられたのでしょうか? シュリ様がわざわざこちらまで伺われると言うのは、余程の事があったのだと思うのですけれど」
 尋ねるツバキ姫の言葉は、コノヱの考えと等しい物だ。彼女の主であるネネはこれまで長きに渡ってセトゥーナの地で隠遁を続けていた。それが今になって何故、と言う疑問と共に、どれ程の難事が起こったのだろうかと考えを巡らせても致し方の無い話だ。
「それがですね……非常に申し上げにくい事なのですが」
「……はい」
 沈痛な面持ちで言葉を紡ぐシュリの様子から、只事ではないのだろうと二人は身を硬くする。幾ら隠遁した身とは言え、楓華の国に縁する彼女からの話とあらば、余程の内容であると考えたからだ。
「実はお二人、いや、遠き国の皆様方のお顔を見てみたいと仰ったのです。ここ久しくはそうしたわがま……こほん。そうした希望を口にする事は無かったのですけれど、先日の戦で森を出た折に拝見した護楓の盾の方々や、このセトゥーナの地に根ざす民草達と接した頃からまた、色々と好奇心が刺激された様でして……」
 シュリは途中から段々と小さく肩を窄め、ほんのりと頬を朱に染めた挙句、最後には蚊の泣くようなか細い物へと声音が変化した。
『妾は先日会うたコノヱらの顔が見とうなった。たまに客を招くのも、お主にとって良い気晴らしになるであろ?』
 などと最後には言う始末なのだと、恥入った様子でシュリが締め括る。対するコノヱらと言えば、僅かな脱力感と共に肩が少し落ちてしまう。
 穏やかな春の陽射しの中、微風が庭に咲いた花々の香りを運ぶ。縮こまるシュリの様子に僅かな間である物の、2人の思考は真っ白となり停止する。

「え、ええと……それは私共とお会いになられたいと言う事で宜しいのでしょうか」
「良くぞ的を射てくださいました、ツバキ姫。その通りなのです。何時の間にやら、我の目の届かぬ所で手ずから拵えた唐茶を振舞うのだと妙に快活な有様で。丁度、屋敷の離れにある桜を肴に出来るだろうとも言っておりました、あの方は」
 動揺の色を隠せないながらも、何とか思考の再起動に成功したツバキ姫に、溜息をつくと共にシュリが答える。若しかしたら、彼女がこの地に渡る前からそんな苦労をずっと苦労を重ねてきているのかも知れない。シュリの態度からは気晴らしどころか仕事を増やすだけでないかと困った様子が窺える。
「桜ですか。丁度見頃の時期ですから、楽しめるかも知れませんね」
 取繕うようにコノヱが続けると、シュリは「ええ」と一つ頷く。
「そうですね。屋敷の裏に私達と永い刻を共にした、狂い咲く大きな桜の木がありますから、存分に楽しめるでしょう」
「では私達だけでなくて、沢山の方が来られた方が喜ばれるかも知れませんね」
「はい。賑やかな方が喜ばれると思います。ただ一つ気をつけて頂きたいのですが、ネネ様は政に関わる事を極力避けておりますので、そうした問い掛けは避けて下さい。宴の席では聊か無粋でもありますし、いざとなれば我が――」
 斬ります、とでも言う積もりだったのだろうか。ともあれ、心躍ると言った様子で期待に満ちた笑みを浮かべるツバキ姫の言葉に、即座にシュリは草臥れた表情を引き締めると、気をつけるべき点を述べた。以前に彼女と暫くの間、行動を共にした折に、何処となく享楽的な素振りを窺わせていた様子からシュリの言葉も最もだと二人は静かに頷いた。
「では、皆さんと一緒に難しい話は無しにして、普段どおりにお花見の席に伺えばよろしいのですね!」
「それで問題は無いと思われます。真に申し訳御座いませんが、宜しくお願い致します……」
 ぽんっと手を胸の前で叩き合わせたツバキ姫が笑顔を浮かべて言うと、シュリは座したまま、折り目正しく頭を下げるのだった。

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参加者
NPC:秘色の霊査士・コノヱ(a90236)



<リプレイ>

●桜花
 冬の冷気が徐々に遠のき、新たな緑が息吹き始める。既に早咲きの花は綻び、セトゥーナに住まう者からは迷いの森と呼ばれている森の中では、穏やかな花の香が満ち始めていた。ネネの誘いを受け、宴が開かれる彼女の居へと向う冒険者達は桜の香りを訪れた春の麗らかさに僅かに気を緩ませる。守人のシュリの案内の下、一行は森の奥の更に奥で黒色の門へと辿り着いた。
 辺りは既に桜の花弁が緑の上に姿を見せ、門を潜り程々に手入れの施された木々萌ゆる景観を持つ庭を抜け、邸の裏手へと向う。徐々に足元を覆う花弁の数は多くなり、視界に入る全てが桜色に染められていく。そうして桜の木の元へと到着した一行の目の前には、満開に咲き誇る桜の姿があった。
 桜の下には赤く色鮮やかな敷物が敷かれ、幾つかの野点傘が疎らに立てられている。その内の一つには邸の主と思しき女性の姿。冒険者達の姿を認めた彼女は艶やかな笑みを浮かべ、コノヱを始めとした者達が彼女の元へ歩み寄る。
「遠き国の子らよ、遠路遥々よう来おうた。妾はネネと申す……と、堅苦しい挨拶はこの程度にしておこうかの。仰々しくする積りは毛頭無いのでな」
「ネネ様もご健勝そうで何よりです」
 頭を垂れたコノヱに後に続いたエルサイドやキララ達も其れに倣う。するとネネは穏やかな笑みを浮かべ。
「そなた等もな。さて、早速始める事としよう。のんびりとしていたら陽が暮れてしまうからの」
「出来ましたらこの杯に頂けませんか」
 湯の沸き立った風炉釜を見ていたシュリの元へ、聖杯を片手にシンクが尋ねた。シュリは男性の様な装いの彼女を一通り目を向けた後、傍らに置いていた壷から桜漬けを少し摘むと、彼女の杯に入れて湯を注ぐ。湯の中に沈む事となった桜はゆるゆると解れ、シンクの前で花咲くように開き始める。
「桜湯って、綺麗だよね。ふんわり花開く瞬間が好きっ」
 シンクの傍らからナツキが覗き込みながら、瞳を輝かせる。黒い猫の尻尾がくねくねと興味深い物を見つけた猫の様に動き、落ち着きのない様子だ。

 早速、振舞われ始めた桜餅と唐茶を手にしたシャオリィと共に、他の者達からやや離れた所に座したヒヅキは頭上に広がる桜を見上げていた。狂い咲く大樹ははらはらと花弁を落とし、散り逝く様に儚げな印象を彼女は抱く。そして思い起こすは今は亡き友人。
 黙したままのヒヅキを見、シャオリィは彼女の持つ陰をが少しでも軽くなればと願う。遠くから漏れ聞こえる数々の声と抜ける風音の中、黙したまま唐茶の注がれた器に口をつけた。
 静けさを求めるのはラズリも同様だった。彼が腰を据えた辺りは、露出した大きな根が大地に張っていた。その先にある太く歪に育った樹の形は正に大樹に相応しい様相で。一体どれだけの長き刻を過ごしたのかとラズリは思いを馳せるも、桜が其れに答える筈は無く。ただ満開の花の隙間から零れ落ちる陽光が煌くだけ。
「あたたかくなってきたね……」
 陽光の温もりにより、徐々にまどろみの中へとラズリは誘われていく。
 唐茶を求める者、桜湯を求める者と賑わう中、ツバキ姫は別の野点傘の下で並ぶ漆器の膳を目で捉えると静かに歩み寄った。
「これはどなたが拵えたのでしょうか?」
「……はい」
 妙に恥入った様子でシュリが答える。膳の上には幾つもの桜餅が整然と並んでいる。
「桜色で可愛らしいですね」
「お久し振りです、ツバキ姫様」
 微笑ましげに感想を漏らすツバキ姫の傍に訪れたのはダフネ。丁度人の波が収まった頃合を見て挨拶に来たらしい。彼女の傍らには両手に器を持つジュウゾウの姿もあった。
「ダフネさんですね。昨年の海以来ですけれど、今日は楽しんでくださいね」
「えぇ、分かりました」
「桜湯をお持ちしましたよ、ダフネ様」
 楓華の行事に詳しくないなりに、せめても粗相の無い様にとジュウゾウは些か緊張めいた様子。挨拶を終えるとダフネと共に景観の良さそうな場所を探して腰を降ろす。
「ダフネ様は会った時からすると、格段に大人っぽくなりました」
「き、急になんですかオジサマ」
「いえ、たまにはそうした事を口にするのも良いかと思いましてね」
 戸惑う様子を見せたダフネにジュウゾウは茶碗を彼女に渡した。中には湯気を立てる透明の液体が湛えられ、花開いた桜の花が浮かんでいる。
「誕生日には一緒にお酒を呑みましょう」
 精悍な彼の穏やかな声に、ダフネは「はい」と頷いた。

 楓華と言う土地に興味を抱いていたナディアは、此方の衣装に似た着物を纏い、辺りを物珍しそうに見回していた。桜の傍に訪れた鳥などから楓華の風習など尋ねてみるも、彼が期待した答えは得られなかった。
「あちらで桜湯でもいただいて来ましょうか?」
「分った。ヨキ、あっちで食べようぜなぁ〜ん♪」
 流麗な顔に穏やかな笑みを浮かべたヨキが彼にそう言うと、ナディアは一つ頷いて桜餅を手にして答えるように笑う。その一方では妙に意気込みの入ったジンと、お花見に夢中のチトセが並んで寛いでいた。
「ジン君、食べる?」
 桜湯の入った茶碗を片手にチトセが取り出したのは、
 それは餅というにはあまりにも大きすぎた。大きく、丸く、そして――
「大雑把過ぎだろ!! っていうか、無理!! 何をどう考えても食いきれん!?」
「うにゃ、美味しいのに」
 それは正に串団子だった。子供の頭程度の団子を三つ連ねた、ボール三兄弟と名付けられた串団子をチトセはむしゃりと食べ始める。
「いやもうなんか……」
 溜息一つ落として唐茶を啜るジン。何気なく顔を上げれば、リュカが花弁が一際降る辺りで花弁を唇で捕まえようと躍起になっている姿が目に止まる。
「うぅっ。なかなか花びら咥えられないなぁっ」
 狂い咲きの桜、花びらを口で捕まえたらお願いごとも叶うというまじないを信じた彼女は彼方此方向き直っては、努力を試みる。けれどもリュカが動く度に周りの空気も釣られてしまい、命を得たかの様な挙動で回避してしまう。
「うーっ!」


●集い
「ごきげんよう……えいっ」
「ひゃあっ!?」
 紅く広がる厚手の敷物に座したコノヱに、ゼソラは折り目正しく頭を下げた次の瞬間、勢いよく抱きついた。不意に抱き付かれたコノヱは珍しく素っ頓狂な声を上げてしまう。彼女の豊かな胸に顔を埋めたゼソラは満足げな表情を浮かべると、彼女から離れ、また改めて頭を下げる。
「お茶請けのお菓子を用意しましたので、どうぞ」
「楓華にはないお菓子だと思うので、宜しければどぞなのです」
 纏めた髪を簪で止め、身支度を整えたエファが持ち寄った淡い青や藤色に彩られた砂糖菓子や最中、カヅキの拵えたエクレアなどが並べられる。その傍らではアカネのカレーやが湯気を立て、エルサイド率いる白鷹旅団の面々であるトリスタンやリスヴィスらと共にやってきたオドレイとニューラが手ずから拵えた弁当を広げ始める。姿を見せたのは数々のおにぎりと卵焼き、鴨の治部煮にお新香と充分な品揃え。
「皆で食べるなら、やっぱりおにぎりですよね」
「海苔が香ばしくておいしそうですね」
 いくらのお握りを手にしたシャスタが興味深げに感想を漏らすと、ニューラは胡麻油を塗り、塩を振って炙ってあるのだと嬉しそうに答えた。
「わたしもぉ、お酒とぉ、料理をぉ、持参したのでぇ、味わってくださぁい」
 茶色い鱗に包まれた顔に笑顔を浮かべたアカネが、ネネの杯に貴腐ワインを満たしていく。芳しい芳香を立てる液体を、ネネはゆっくりと転がす様に味わう。
「果実酒か。隠居してからあまり口にする事も無くなったが、やはり深みのある味だの」「それにしても、良い風が吹きますわね」
 そよぐ春風を感じたトリスタンが唐茶を呑んだ事も手伝ってか、朱の刺した穏やかな笑みを零す。風に紛れて舞う桜の花弁に、何と風情のある事かと。
「花見というのは本来、己の顔が花と同じ朱色になる程酔いしれることだとか。ここは一つ皆さんに堪能していただかなくては」
 生真面目そうな印象を持つリスヴィスは真顔でそんな事を口にすると、持ち寄った果実酒などで拵えたカクテルなどを並べ始める。
「卵焼きをいただいてもいいかしら」
「僕、桜餅っ!」
「では、俺は鴨を頂こうかな」
 ナツキがシンクの運んできた桜餅に手を伸ばし、シンクは鴨の治部煮に箸を伸ばす。馴染みのある顔触れと共にする一時は貴重な物だと漠然と思う。

「微笑ましいもんだねぇ、ありゃ」
 苦笑混じりに言うレグルスの視線の先にはダフネとジュウゾウの姿。程好い距離とでも言うのだろうか、纏う雰囲気は悪くない。
「にしても、ネネは相変わらずナイスバデェ……いや、元気そうで何よりだ。ま、呑め呑め」
「ふふ、久し振りだの。相変わらずで何よりじゃ」
 酌をしようと徳利をレグルスが手にすると、ネネは朱色の杯を差し出す。斜向かいに座したニューラやトリスタンもまた、朱塗りの酒盃に落ちた桜を眺め、やや辛口の唐茶を飲み干してみたりと程々に楽しんでいるようだ。

 ゼソラの飴細工を目にしたネネは「極端に変わっている訳でもないのだな」と感想を漏らしつつ唐茶を啜り、時折彼女らの拵えた品を口に運ぶ。
「コノヱ、すまないが注いでもらえないか」
「ええ、どうぞ」
 風に揺れる桜の枝を眺めていたギュスターヴの手の中にあった空の杯に、コノヱが唐茶の入った徳利を傾ける。
「たまにはこのように普通に花鳥風月を愛でる一日を送るのも悪くはありませんね」
 茶碗に注がれた桜湯で喉を潤すナナミが穏やかな春の陽射しの下、呟きを漏らす。長い年月によって巨木となった桜の枝が微風を受けて、はらはらと花弁を落とす。湯を楽しみつつも佩刀する彼女の心には常在戦場の思いがあるようで。
「おぬしは相変わらずなのだな、ナナミ」
「いつも、花を散らし鳥を落とし風を切り月を貫く、そのような事ばかりを考えています」
 いつか刀と弓を無用の長物に出来る日が来ると良いのですが、と続けるナナミにネネは僅かに笑い声を漏らし。
「年若いのに堅物よな。まあ、それがおぬしの良さかも知れぬの」
 幼子を見るように穏やかな情の色を含んだ瞳を向けるネネにレグルスが相槌を打つ。
「しかし、これまた見事な桜だ。こんな立派なのはそうお目にかかれねえ」
「ええ、本当に大きい」
 賑わいの中、エファが揺ら揺らと枝を揺らす桜を見上げる。桜は幾人の大人が集まれば足りるだろうかと思える程に大きく育ち、それだけの活力が何処から湧き上がるのかと考えさせられる。
「すごく立派で命が溢れてるっていうんでしょうか。なんだか見てるだけ元気になりますね」
 そう言って静かに黒い幹を撫ぜる。そんなエファと打って変わって、緊張に身を包んでいるのはオドレイ。自分とは明らかに違う類の女性であるネネを目にし、ただ呆と見つめてしまっていた。
「……綺麗だ」
 つい零してしまった彼女にネネは微笑を返すと、オドレイは更に慌てた様子を見せてしまう。漸く落ち着くと、お姫様が綺麗だったからと答えるオドレイだったが、ネネは微妙にむず痒そうにする。
「姫とか呼ばれるとどうもこそばゆい。のう、シュリ」
「ネネ様は姫という言葉に縁遠くなりましたからね」
 桜湯を飲みながら、しれっと口にするシュリ。しかしネネはさらりと受け流すとオドレイへとまた向き直り。
「別に悪く思うた訳ではなくて、只懐かしいと思うてな。それと姫と呼ばれるに相応しいのはおぬし等の様な娘子の方であろ。そなたの初々しさを妾は羨ましく思うぞ」
「そ、そうだろうか……」
 不意に褒められて照れる彼女の後ろでは、リスヴィスに酒を勧められて酔ったエルサイドがトリスタンの肩を抱こうとしてやんわりと躱されているのはご愛嬌という物か。

「なんて美しい桜……惹き込まれてしまいそう」
 自然の育んだ優美さに溜息するティユール。このまま瞳を逸らさずに居れば、己の身が薄紅の霧に溶け込んでしまうのでは無いかと想い、頭を振る。
「どうしたの、ティユール」
「いえ、桜には魔性があると言う人もありますけれど、本当にその通りですね〜って思ったものですから」
 笑みを見せる彼女の杯に、不安げに尋ねたリュカが唐茶を注ぐ。透明の液体が注がれると、酒独特の香りが鼻腔に届く。
「それじゃあ、私も貰おうかな!」
 空いた自分の杯にリュカは並々と注ぎだした。

「そう言えば、以前にお会いする機会はあったのですよね」
 エルサイドはチキンレッグと言う種族をネネが目にした事がなければ、チキンレッグであるシャスタを紹介しようと考えていた。が、そうではない事を知って頭を掻く。けれどもネネは不快に思った素振りも見せず、寧ろ彼らの話を興味深げに耳を傾けている。
「シャスタと申したか。他にはどの様な話があるのか聞かせては貰えぬかの」
「では渦巻き城の話などは如何でしょうか。あの時は……」
 トロウルとの戦いでの一幕を思い起こしながらシャスタが伝えると、「同盟とは中々面白い者達がおるのじゃな」と彼女は愉快気に笑った。どうやら彼らの話は、ネネを楽しませるのに何時しか奏でられていたニューラとアカネの奏でる旋律共々に充分足りたらしい。

 宴も酣となった頃。用意された唐茶の甕の多くは底を見せ始め、比例して酔いの進んだ者達も増えてきた。ある一つの決意をした男もまた、その中に含まれていた。酒の持つ高揚感に身を任せた彼は、意を決して力強く叫ぶべく立ち上がる。
「……チトセー!! 愛してるぞー!!」
 よし、言った。
 酒の勢いを借りたジンの一世一代の告白である。一方、告白された側のチトセはと言えば――
「うにゃ? 何か言った?」
「って、聞いてないっ!?」
 花より団子とばかりに食べる事に夢中だったチトセの反応にちょうショック。
「ジン君、食べないなら貰うよっ」
「あ、どぞ……全部お食べください……」
 黒髪を揺らして機嫌良く手を伸ばす彼女。ジンはそう答えるのがやっとだった。

「桜餅……桜のはっぱも食べるですか?」
 黄色い羽の蝶が落ちる花弁の中を飛ぶ様子を、岩場に腰掛けたカヅキとストラはのんびりと眺めていた。ストラは桜餅を食べるカヅキの姿を見つめ、カヅキは彼の空いた盃に液体をこんな感じかと、おずおずと満たす。
 程々に充足した頃、ストラはカヅキをそっと引き寄せて自らの膝の上へと乗せた。
「カヅキ、心から愛してるよ。俺が、君の支えになるから……」
 どうか傍にとストラが告げると、カヅキは沈黙を保ったまま、彼の手に自らの手を重ね合わせる。彼女が見上げれば恵みの光を与える太陽が在る。口を閉じた彼女は其れを認めると、自然に表情が緩んだ。
 二人の眼前で無数の桜色が春の風に巻かれ、宙を舞う。其れは雪の様に。空へと舞い、雄大な青の中に広がる花弁が、まるで陽光を受けて煌く紺碧の海を見ているかの様な錯覚を抱かせる。穏やかな陽射しの下、緑萌える山中での花見は其々に様々な記憶を与えたのだった。


マスター:石動幸 紹介ページ
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