<リプレイ>
●春の会 行き交う人の影。 整備された四区画。意を凝らし準備された会場に、来賓のお客様も目移りするばかり。 「たとえ、女給と言えども依頼は依頼。受けた以上完璧なもてなしをして見せますわ」 増え始めた人の波の中にあっても、ストライダーの翔剣士・ドロレス(a63137)のストライダーの反応力は、しっかりと新しく到着したお客様を捉える。 「ようこそおいで下さいました」 メイド服に着けた、水色のリボンと腕章を揺らして歩み寄り、一礼をして中へと導く。 見えてくる、若草色のテーブルクロス。 「本日は立食形式でご用意致しました」 会場の中心にお菓子を並べた長方形の卓。周囲には、歓談用の円卓が規則正しく並べられ、それぞれに背もたれのある椅子が三、四脚ずつ。 菓子卓の端には、黄色のマーガレットと桃色のスイトピー、カスミソウが、ブーケ風にこじんまりと飾られ、明るい緑に統一された会場に彩りを添えていた。 そして、会場が花ならば、そこを行き交う給仕は蝶。 桜色を基調としたワンピース。大きなダブルガーゼの襟ぐりは軽やかに、ふわりと優しく膨らんだパフスリーブの肩口が、より柔らかい印象を与える。 フリルのついたエプロンと足元は清潔感溢れる白でまとめ、機能的な桜色の革靴が緑を踏むたび、襟ぐりと肩口が揺れ、まさに軽やかに舞う蝶といった具合だ。 まぁ、素敵。 小さく聴こえた声に好感触を得、聖水の湖女中・シャワー(a01071)は……しっかりとお客様の様子を見て、案内するべき席を決める。 桜の枝が飾られた円卓。話題が合うように、或いは、見知った顔に気付いた素振りのお客様同士を引き合わせるように。 俄に。その背に掛かる声。 「フィリングは何かしら?」 「はい、こちらはレアチーズ風味となっております」 詰まることなく、すらすらとシャワーの口をついて出る言葉。 何しろ、事前にレシピを見せてもらい、試食までしたのだから。お勧めをするその言動に揺らぎはなく、お客様もまた、そんなシャワーの様子と言葉にしっかりと納得をして、お菓子に手を伸ばす。 「君、衣装室は何処かな」 「こちらになります。どうぞ」 そうして、ドロレスもまた、導くように歩を進めた。
●蝶と女王 次々に溜まっていくお土産。 大粒の宝石、透き通るドレス、花のような帽子。 土産の気遣いで自身の品格を現そうとでもいうのか、持ち寄られる品はどれも意匠を凝らした――俗な言葉でいうならば、気合の入った――ものばかりだった。 明け空の瞳の・サリヤ(a56330)はそれらの配置を逐一確認、入れ替わり立ち代りにやってくるお客様に、滞りなく対応していく。 そして、一際大きな姿見の前に、すっくと立つ影があった。 「素晴らしいわ!」 やはり、見立てに間違いはなかった。 実に満足げな表情で、本日サリヤ達が仕えることとなった令嬢その人が立ち上がる。 その場でくるりと回って見せれば、薔薇のように幾重にも布を重ねたローズピンクのドレスの裾がふわりと舞う。 薔薇紋様の髪留めも青く瑞々しい髪に映え、日の光を浴びるそれはさながら、水面に揺れる花のよう。 給仕が蝶なら、その主たる令嬢は、花の精の女王。 楽風の・ニューラ(a00126)の提案した統一感のあるコーディネイトを、令嬢は痛く気に入ったようだった。 「光栄です」 笑みを含んで一礼すれば、お客様からも次々上がる褒め言葉。 と、そこに。 「日除けにお帽子を被りたいのだけれど」 「かしこまりました」 応じ、改めてサリヤがお客様の出で立ちを確認すれば、少々派手目。 くっきりした色の、大振りなものが好みなのかと察し、持ち寄られたばかりの品の中に手頃な物があったことを思い出し、早速それをお客様に見せてみる。 「いいわね。どう?」 「はい、よくお似合いです。ですが、少し、ドレスが帽子に負けてしまっているようですね。コサージュをお持ちしますので、少々お待ちくださいませ」 「ええ、宜しくね」 上機嫌で鏡の前に立つお客様に、令嬢も鼻高々な様子。 今はここにはいないが……早く庭に出て、妹達に自慢をしたい気分で一杯だった。 かく言う妹達の給仕も忙しなく動き、それぞれにお客様のコーディネイトを手掛けている。庭と違い、こちらはセットをする部屋自体が一つなので、その距離は近く、各人がどのようにしているのかが特によく見える。 また、衣装室自体が庭を一望できる二階にあるため、お客様達の動きや表情が良く見えた。 「さすがお嬢様の妹君でいらっしゃいますね、どちらのお客様もお茶を楽しまれておいでです」 自分のみならず、そんな妹達のことまで褒められて、令嬢は少し驚いたような顔をしたが……すぐに花のように微笑むと、ニューラが衣装に合せて用意した靴を履き、その手を取って立ち上がる。 「ふふ、それなら私も楽しまなくてはね」 「これは此方も腕の振るい甲斐があります、だってお客様を笑顔に出来るのは幸せなことですし、誇りですもの」 「素晴らしい志だわ。では、お庭に出て来ますわね」 「はい。行ってらっしゃいませ」 柔らかく微笑んで送り出すニューラ。 帽子のお客様も、サリヤのコーディネイトが気に入ったようで、暫くの間姿身の前を行ったり来たりしては、どうかしらどうかしらと、廊下で待つ連れの男性に声を掛けていたが、やがて、満面の笑みで振り返り。 「とっても気に入ったわ」 「有難う御座います。何か御座いましたらまたいつでもおいでください」 背にまで垂れる帽子の大きな羽飾りを揺らし、お客様は軽やかな足取りで部屋を後にしていった。
●支える者達 広い広い厨房。 動き回るのは、男女合せ、総勢で17名。 「美味しくなって下さいね〜」 型に入れたタルト台の生地を、数段構えの大きな石釜オーブンに放り込み、優しき慈愛の少女・スズカ(a62807)がおまじないのように言いながら蓋を閉じる。 入れ違いに出してきたタルト台には、梅東風・ハルヒ(a49748)が既に盛り付けに掛かっていた。 バターを多めに焼き上げたタルト台はさっくり香ばしく、そこに詰め込まれていくフィリングは、ラム酒を利かせたカスタード。甘過ぎない、程よいフィリングをたっぷりと詰め込んだら、次はベリーの飾り付け。 ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー、カラントベリー…… 彩り鮮やかな四種のベリー。表面にゼリーを塗れば、それはまるで宝石のように艶やかに瑞々しい輝きを放つ。 仕上げには、ミントの葉を一枚。 「……これで、よし」 出来上がった幾つものタルトレットは……まずは、冷暗所に。 そして、先に作って冷やしておいたタルトレットを交換で取り出し、取り出してきた方を皿に盛り付ける。 一方のスズカのほうは、チーズのタルトレット作り中。 レアチーズ風のフィリングは、サワークリームとレモン汁を合せた甘さ控えめ。甘い物に飽きたり、少し苦手だという人にはもって来いだ。 勿論、甘い物好きな人のニーズにも合せ、別途後から掛けられるフルーツソースも用意してある。 「はう、うっかり摘んでしまいそうですー」 がまんがまん。 たっぷりフィリングを詰め込んだタルトレットと、出来たてのフルーツソースを、これまた冷暗所へ。 戻ってくる頃には、ハルヒが盛り付けを終えていたので、スズカはそれらを菓子の卓へと運ぶ事にした。 「オーブンに入ってるタルト台、お任せしますー」 「ええ……今度は転ばないように気を付けて下さいね?」 「はう」 釘を刺され、どきっとするスズカ。実は無駄に転ぶ回数が多く……笑顔と頑張りでカバーしてはいるが、既に何度か粗相をしていた。幸いにして、お客様に被害が出るようなことはなかったが。 給仕服に身を包んだら、今から私はプロフェッショナル。 そう自分に言い聞かせ、そつなくこなしてきたハルヒとは実に対照的だ。 盆に追加のタルトを載せ、遂に庭へと繰り出すスズカ。 ……の横を、別の給仕が駒の付いた台にお菓子を乗せ、運んでいく。 「はう! 私もあれ使えばよかったです〜!」 後悔先に立たず。しかしながら、無事に辿り着いたスズカは、紅梅色の縁取りがされた小さな白い皿を、丁寧に菓子卓へと並べていった。
さて一方、もう一つ重要な役所であるのが、お茶の給仕。 くんくんと……香りを嗅いで茶葉を選ぶのは、勝利の女神・ニケ(a55406)。 「皆さんが幸せな一時を過ごせますように……♪」 香りが良い高級品よりも、お菓子に合う香り、味のものを。 温めた茶器を並べるながら、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)の助言と併せニケが選んだのは、超特級のキーマンの茶葉。 温め置いた茶器に葉を一杯、二杯、ニケが匙で振り入れれば、この瞬間を待っていたかのように沸かし終えた最適な温度の湯を、ラジスラヴァが滞りなく注ぎ入れる。 開き、跳ね上がる茶葉。 頃合いにまで茶が出るのを待つ間、ラジスラヴァはお客様に出す茶器と共に、砂糖やフレーバーを盆に揃える。 「お願いしますね。あと……あちらのテーブルの男性に珈琲のお勧めも」 「はいです。行ってくるですよ♪」 頷き、一式を揃えた盆を手に、庭へ繰り出すニケ。 あわあわと空いた食器を持ち帰ってきたスズカと入れ違いに、お茶を所望したお客様の元へ。 「お待たせしました」 一つ一つ丁寧に。盆から茶器を卓へと並べ、十二分に飲み頃なお茶を、カップへと注ぎいれる。 カップを満たしていく赤茶色。湯気に乗せて湧く香りを、楽しみながら、更に取りおいたお菓子を頬張るお客様達。その脇へ、邪魔にならぬよう、砂糖壷と……レモンの入った小皿を添え置く。 「お砂糖とレモンです。どうぞお使い下さい」 「もし。お砂糖、二つ入れてくださる?」 「かしこまりました」 事前にニューラが行なったレッスンのお陰で、言葉遣いもばっちり。ニケは日傘を片手に談笑するお客様に言われ、砂糖壷から花模様にカットされた砂糖を二つ、カップの中へ静め、ティースプーンでそっと掻き混ぜる。 「それでは、お楽しみ下さいませ」 一礼すると、次は、隣の卓の男性の元へ。 「珈琲など、如何でしょう」 「ああ。うん、そうだな、頂くよ」 「お砂糖は御利用なさいますか?」 「いや。ミルクを頼む」 「かしこまりました」 帰り掛けに別の食器を回収、ニケが厨房に戻ると……既に、ラジスラヴァが、万全な状態で待っていた。 主な接客は任せ、自分は飲み物を最適な温度で提供できるように準備を徹底する。そして、ニケがお客様に相対している間、会場の状態にも気を配り、お茶やお菓子の減りを見て、お代わりがいるかなど、事細かに気を配る。 そういった見事な分担によって、飲み物は常に最適な状態で提供されていた。 「ミルクが良いそうです」 「ではこちらをお願いしますね」 淹れたての珈琲が入ったポットの脇。飲み物が冷めないよう、程よく暖めておいたミルクを添えて、ラジスラヴァが一式を揃えた盆をニケへと託す。 「いちばん美味しい時期を逃しちゃもったいないもんね♪」 微笑み、再び庭へ繰り出すニケ。少し遅れ、ラジスラヴァは自分も庭へ繰り出すと、空いた食器を回収しながら、会場の様子にしっかりと気を配るのだった。
●エクストラサービス それは、若葉色の一角。 僅かに出来た人だかりに気付いたお客様が、ドロレスを呼び止める。 「何をしているんだい?」 「はい、あちらは、私共の用意したエクストラサービス、『掌マッサージ』で御座います」 「掌?」 時同じく、呼び止められたシャワーもまた、興味津々で尋ねるお客様に、軽く概要を説明する。 「マッサージと共に、手相占いもしております。興味がおありでしたら、鈴蘭の白のリボンを付けた給仕をお尋ね下さいませ」 自分の付けた蒲公英のリボンチョーカーを掌でそっと指す。 シャワーのいう鈴蘭の白を付け、お客様に相対するのは、大福ゴー・レム(a35189)と、夢紡・ルーエ(a57153)であった。
庭にたおやかに流れる歌声。 あれは確か、二番目の令嬢の区画…… けれど、その歌声も、今お相手するお客様には、丁度良いBGMになっているに違いない。 向かい合わせの椅子。差し出された白い肌。艶やかなお客様の掌に視線を落とし、レムが微笑む。 「ここは肌に良いツボなのです。……既にとてもお綺麗ですから、必要ないかもしれませんけれども」 「まあ」 痛くないようにと気遣いながらツボを刺激するレムに、お客様もまた嬉しそうに微笑む。 「他には?」 「何かご所望はありますか?」 「そうね……最近、手足が冷たくて困るのだけれど」 「それなら、冷えに効くこちらを」 位置を変え、冷え性のツボを優しくマッサージするレム。効く効かないはこの場では半信半疑であるが、掌を刺激されるという体験自体が中々珍しいのと、実際それが結構心地よいらしく、他のお客様方が足を止めて興味深げに様子を見守っていた。 「難しいものではありませんから、ご自宅でも試してみては如何でしょう?」 「そうね、帰ったらうちの給仕にやらせてみましょう」 一方ルーエは、男性のお客様を相手にしていた。 「どうぞ、遠慮なさらずに」 「んむ、宜しく頼むよ」 何処か年季の入った掌。 微笑んで手を取ると、ルーエは早速、主に健康面に効くツボをマッサージする。 ここは肩凝りに、ここは目に……効能の説明に取っ掛かりを得て、世間話に花咲かす。 そうしてルーエが得たのは、どうやら、仕事に心配事が有るらしいということ。マッサージの手は休めずに、ルーエは暫し掌を眺め。 「今の苦境を乗り越えた先に、良い兆しが見えます。容易なことではないかも知れませんが、どうぞ諦めずに」 「そうか! そうか。そうかぁ……」 男性は驚いたように身を乗り出し、ルーエの笑顔にはっと我に返ると、再び椅子の背に身を預け、噛み締めるように呟きを漏らしていた。
時が経つに連れ、噂は広まり。 一時、末の令嬢の区画での催しに、人をごっそり奪われることもあったが……マッサージを所望するお客様が絶えることはなく。 何しろ、美容や健康に効くという話には、年頃のお嬢様から年配のご婦人まで、訳隔てなく敏感である。加え、レムもルーエも、占いの内容は良い事、為になる事、悩みを癒すこと等、プラスになることばかり。 ――かといって、騙しているわけではない。良い内容のみを読みとっている、ただそれだけなのだから。 人の流れは、ニューラやサリヤの居る衣裳部屋からもよく見えた。 賑わえど、和やかな庭。 午後の陽気とお菓子の甘い香りに、どのお客様も、確かに淡い微笑みを湛えていた。

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参加者:10人
作成日:2007/03/25
得票数:ほのぼの30
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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