リュシスの誕生日〜早花咲月の鳥籠市〜



<オープニング>


●霊査士の憂鬱
 酒場に入るなり、紫煙の霊査士・フォルテ(a90172)は己の行動を後悔した。押し寄せる後悔の波はどーっと一発力強く、頬を打つ。俺が何をした。なんだ、さっきここに来るまでの間昆虫でも踏んだか。思わずそんなことを愚痴りそうになった彼の前定位置となりかけていたテーブルには、関係ありません。と踵を返して帰ることはできない二人がいる。一人は、口許に微笑を浮かべたままするり、と袖口から出した指先で相手の頬に触れるエンジェル。もう一人は、椅子にゆったりと腰掛けたまま挑むように笑みを浮かべるエルフ。なんだこれは、嫌がらせか。ここは酒場で、今は昼間で。いたいけなお嬢さんとかが酒場に夜用の飲み物とかお届けに来ちゃう時間帯で。
「誰も無理に話せと言っているわけではないのよ」
 蒼月遥夜・リュシス(a90209)はほう、と息をつく。白い指先は庭園の守護者・ハシュエル(a90154)の顎をとらえた。
「ただ、後ろめたくないのならばお話なさいってだけよ」
 ふわりと柔らかな笑みはそのまま、妖艶さを増す。微笑みを受けた方は、常日頃の反応とは違い多少の余裕と強さを以て打って出る。
「へぇ、僕が何を?」
 勝ち気にも見える笑みを浮かべ、意味が分からないと瞳で言う。顎をつい、と上げられ顔も近づけられればさらりと肩口を滑ったリュシスの髪がハシュエルの肩に触れた。現状を鑑みる限り、勝負は五分五分か。どっちが折れようがフォルテには関係の無いことだがーー負けた方の文句は回ってくる気がするがーーこのままにしておくには、あまりに店主からの視線が痛い。
「……はぁ、ったく」
 羊皮紙の束を丸め、フォルテは言い合い続く二人に近づく。おまえら笑ってるだけで充分なもんだ。と口から出そうになった言葉を飲み込んで、ぽむ。と羊皮紙の束で二人の頭を叩いた。
「人畜有害だから話しがあるならさっさとしろ、お前ら」
「有害って何さ、有害って」
「あら、フォルテも混ざりたかった?」
 ぐらり、と軽い眩暈がしたのはきっと気のせいじゃないはずだ。うん。

●早花咲月の鳥籠市
 結局おまえら何を話していたんだ、と言われれば思いつくものもない。何だったかしら、とリュシスが言えばハシュエルが渋々口を開く。お前何も知らないで聞いていたのかというフォルテは今日は何が何でもミルクティーしかいれないと宣言していた。
「誕生日。もうすぐでしょ、リュシス。何か驚かせようと思って」
「あら、なんだそうだったの」
「やっぱり……。なんかそうくると思ったんだよね。反応悪い」
「つか、お前それなら普通に言え。どう考えたって麗らかな昼間の雰囲気ぶちこわしだろうが」
 片眼鏡をつい、と上げたフォルテの溜息は横に流してハシュエルはリュシスを見た。食事と祝い事はしっかりと叩き込まれた身とすれば、どうせなら何か祝いたいのだ。 
「そうね……なら今年は鳥籠市に。ホワイトガーデンでやるから連れて行ってくださる?」
「あぁ、つまり。僕が前衛でぶっとばすって話?」
 ハシュエルは腰の剣に手をあてた。眉を寄せたフォルテは、そのままリュシスへと視線を移した。
「鳥籠市ってことは……ようは、あれか。籠の市か?」
「ホワイトガーデンで行われる鳥籠のみを扱う市ね。本物の鳥籠もそうだけれど、中に花をいれたものや、アクセサリー用の小さなものも売っているわ」
 小さな村よ。とリュシスは続けた。温かな空気に誘われて、村の中央にある大きな木が花を咲かせている。大木を中心に作られた村は、運良くピルグリムとギアにより全てを破壊されることはなく残った。復興もようやく一つの形となり、傷ついた人々は新たな想いをもって歩きだそうとしている。
「桃色の花が咲く季節になれば、良いことがおきる。新しい季節を迎えることを言う言葉ではあるけれど、それに便乗してみるのも良いかと思って。誕生日でお祝いというのならば、村で行う鳥籠市に行って買い物をしてくれないかしら」
「……仕事半分?」
「まさか、楽しみにゆくのよ。村の職人達は皆腕が良いし、良いものに出会えるかもしれないわ」
 眉を寄せたハシュエルにリュシスは笑う。どうせなら他のやつも誘ったらどうだ。というフォルテに頷いて立ち上がる。酒場の窓から春の花が見えた。

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参加者
NPC:蒼月遥夜・リュシス(a90209)



<リプレイ>

●桃の花舞って
 吹く風がさわさわと葉を揺らす。薄い桃色の花びらは風にのり、小さな村を彩っていた。市には様々な鳥籠が並べられていた。銀細工を使ったものや、硝子で作り上げられたもの。サクヤが選んだのは周りよりも少し大きめな鳥籠だった。アーチ型のそれを受け取り、上機嫌な彼女はそのまま隣のシアを見上げた。
「これ、持って帰ってね♪」
 微笑というよりはフルスマイルと表した方が良いかもしれない。受け取るまで手を放すことの無かったサクヤにシアはその唇に美しい笑みを浮かべて返す。
「自分で買った物ぐらい自分で持ち帰れ」
 ぴしゃり。言い放った彼をじぃと見るサクヤの微笑は変わらなかった。華麗なツッコミも最終的にはシアが折れる形となる。賑やかなやりとりを耳に、ファオは小さな意匠の作品を見ていた。姿で言えば自分よりも幼いエンジェルの少女は、にこりと笑って白銀の花籠を見せた。新緑の黄緑で蔦をあしらった籠の中には一輪の花。花弁は大きく、甘い香りのする花にファオは思わず笑みを零した。
「良い出会いはあった?」
 背にかかった声にファオは頷いた。
「リュシスさん、お誕生日おめでとうございます。お心も翼も良き風を受けて……優雅に舞楽しめる一年が訪れる事を祈念させて頂きますね」
 お祝いにとファオはリュシスの瞳と同じ色の糸で小さなフワリンを刺繍したハンカチを渡した。受け取って頂けると、と言ったファオにリュシスはありがとう、と微笑んだ。手の中の花籠が風を受ける。この花の鳥もこれから訪れる春の陽射しを受けて綺麗に咲き輝くように。と願う彼女の後ろを抜け、ハークは装飾用の籠を持ち直した。チェリートに声をかけ柔らかな髪を撫で久しぶりと挨拶をした彼は、リュシスに相変わらずの表情を見せる。
「あぁ、そうだ……手を、良い?」
 頷くリュシスの手を軽く取り、口付ける。
「誕生日おめでとう、シス。これからの一年も幸多からんことを」
 視線だけをあわせれば笑う顔が見えた。手の甲から唇が離れると同時に現れた花に瞠目する彼女に、ハークは悪戯っぽい笑顔を向ける。プレゼントと言えば、瞠目したリュシスは笑い出した。
「貴方は、いつも私を驚かす……」
 祝われるのも三度目だと思いながら、リュシスは受け取った花を手で包んだ。大切にするわ。囁いて少しの悩みの後に無茶と無理にだけは気をつけて。と言わせて欲しいといった。

●早花咲月
 薄く色づいた花びらは空から雨のように降り注ぎ、風に巻かれて踊る。ひらひらと中空を舞うひとひらを追いかけるチグユーノの髪がふわりと揺れた。とん、と大きく出た一歩。手のひらに収まった花びらを日にすかす。太陽の光が柔らかい。
「お日様と虹と桃色の雪舞い落ちる幻想的な風景ってホワイトガーデンだけなのですね」
 吐息は甘く、チグユーノは手に入れた籠を横に大樹に寄りかかった。日の光に背が温まり、ぽかぽかする。
「リュシス殿、お誕生日おめでとうじゃよぅ!」
 どきどきしながらぺこりとお辞儀をするコトナの髪が揺れる。クレスは祝いの言葉を送った。微笑と礼を返され、そのまま二人は鳥籠を探しに市へと足を向けた。コトナの愛鳥、文鳥夫婦の卵が孵ったのはつい最近ことだ。
「うんと、うーーんとおっきい鳥籠ってあるかのぅ?」
「探せばあるんじゃねーの? まっ頑張って見つけてやろうぜ」
 嬉しそうなコトナにクレスは笑い、市の職人に声をかけた。
「リュシスさんはお誕生日おめでとうございます」
 楽しげな客の横を抜けイクスはリュシスに祝いを紡ぐ。そういえばリュシスの誕生日をホワイトガーデンで祝うのは初めてだという彼は、意外な感じがすると言った。頷いたリュシスはこうしてまた来ているとは自分でも思わなかったと紡ぐ。市の通りを抜け、ロッカはリュシスを探していた。会うのは久しぶりになる。去年は恥ずかしがって上手く言うことはできなかった言葉。見つけた後ろ姿はロッカが声をかけるよりも先に振り返った。元気にしていたかと問う声に、忘れてなぁい?と聞けばリュシスは唇に笑みを刻んだ。
「忘れてなんかいないわ、ロッカ。よーく覚えているわ」
 悪戯っぽく笑うと、リュシスはロッカの髪にふわりと降りた花びらをすくいあげる。花がよく似合うと笑う彼女を見上げた。
「……お誕生日、おめでとうね。……新しく始まった…リュシスの……一年が、幸多い年になることを……心から祈っているよ」
 花纏う風が翼を揺らす。テイルズは緩やかに笑みを刻んだ。祝いの言葉と共に渡したのは花束。
「ありきたりなものでリュシスさんの綺麗さには適いませんが、きっとリュシスさんに似合うと思います」
「ありがとう。飾らせてもらうわ」
 そっと抱いて微笑んだリュシスに、テイルズは市を見渡した。
「私達は長命種ですけど、やっぱり誕生日を祝われるのはとても嬉しいことだと思います。きっと今日は素敵な思い出になりますね」
 市場へと向かうテイルズを見送ったリュシスに、メィリィは声をかけた。柔らかな髪を揺らし、祝いの言葉を紡ぐ彼女は自分の事のように嬉しそうに微笑む。
「今日は目一杯楽しんで、笑って、素敵な一日を過ごしましょう、ですの……沢山の笑顔が集まれば、何にも負けないくらい素敵で、心の中で色褪せる事のない、とびっきりの想い出ができますわ」
「そうね。良い日に、なりそう」
 吐息が風に溶けにこりと笑ったメィリィはリュシスにどんな鳥籠が好きなのかを問う。白くて、綺麗なもの。と言う彼女にメィリィは色とりどりの花を沢山詰めたらきっと可愛らしいですわね、と笑った。肩を軽く竦めれば、青い髪が揺れた。レイドはリュシスに挨拶を兼ねて祝いの言葉を紡ぎ、市へと向かう。彼がたどり着いたのは、水を想起させるこぶりの鳥籠だった。
「わぁ、凄い! 素敵な鳥籠がいっぱいだわ、!」
 桃色の花びらが舞い降りる市を駆け抜け、フルムーンは顔を綻ばせる。見渡してはまた走り出し目移りする彼女が選んだのは籠目が優美な曲線で作られた白い鳥籠だった。見た目ほど重くはない。置物用の鳥籠を改めて見た彼女は、通りの先にリュシスを見つける。職人に別れを告げ追いかけてゆく彼女の髪が揺れた。

●籠の市
 鳥籠市を楽しませてもらうと祝いの言葉と共に言ったセドナにリュシスは是非そうしてと言った。市には様々な鳥籠がある。さて、何をいれようか。ふさふさの狐の尻尾が揺れ、彼の上機嫌を伝える。賑やかな市を抜け、クリスは花びらに手を伸ばす。風に揺れ、指先にとどまらず、だが触れて、かすって落ちていく花びらを視線で追えば、大樹に背を預けてこちらを見ていたリュシスに気が付いた。
「リュシスさん」
「こんなにあると……捕まえられそうなのに、難しいわね」
 同じように手を伸ばしたリュシスも何度か試したのだろう。青の上着を肩にひっかけただけの彼女にクリスは笑顔で祝いの言葉を紡ぐ。
「私も誕生日が近かったので……なんだかいつも以上に嬉しいです。素敵な一年になりますように、そしてこれからも応援していますね」
「ありがとう。それとおめでとうね、クリス。貴方にとって良い年となるように。今度は、お茶会でもしましょうか」
 良い紅茶が手に入ったのだと、リュシスは笑った。
 
 薄い桃色の花が舞いオキの頬に触れる。ただでさえ白いその肌に残る傷が映えて見えた。
「まず……遅れた事を詫びよう。しかしお前は怪我した事を詫びろ」
 露骨に眉を寄せ、次いで出たのは深い溜息だった。ひどく心配するイブキの手が伸び、微笑を浮かべるオキの頬を抓む。干満な動きに響くのは「生きてるな」と問う声で、オキはまだ痛む体で二人を見た。ユウナの瞳が揺れている。今日はゆっくり花見だという彼女は無事で良かったと囁いた。
「この花、何て名前なんだろう……名前なんて、無くても……記憶には留めておけるけれど……」
 空の色、雲の色。見渡す限りに淡い色彩は、不思議な柔らかさを持つ。ふわふわと意識は浮き、花びらを髪に乗せたユウナが想い出なんかにならないでよ、と紡ぐ。心配だよ、と。
「沢山、沢山信じてるーーけど」
 小さく零された言葉は、震えるような手のひらに落ちた。余り心配かけてくれるなよ、と呟くイブキの声も小さかった。
 ふいに強く吹いた風に上着が揺れているのがミアの視界に入る。駆け寄った彼女はリュシスの名前を呼んだ。
「お誕生おめでとうなの……なぁ〜ん♪」
 にこぱ。と笑ったミアは風にのって舞う花びらに両の手を伸ばした。髪を結うリボンが揺れ、大切そうに閉じこめた花びらを広げて見せた。
「桃色のお花、きれいなぁ〜ん。今日はリュシスちゃんの大事な日なの……なぁん。いっぱいいっぱい楽しむなぁ〜ん♪」
「ふふ、精一杯楽しんでねミア」
 せっかくのお出かけなのだから、とリュシスは笑う。ミアと一緒に市を回っているリュシスをリューが見つけたのはそれから暫くしてからの事だった。
「良いものに出会えた?」
 これから見て回るのだと返すと、リューは祝いの言葉を紡ぐ。鳥籠を選びながら、リューは言葉を選んだ。
「あの曲は、少しは完成した……と思うから」
 生まれた間は、自信の無い空気を香らせる。珍しい。素直にそう思ったリュシスが顔を上げた頃には青の瞳は笑みを浮かべ、「後で花の下で」と笑顔を見せる。少し悩んだ後に彼女はリューを見上げ、楽しみにしている、と悪戯っぽく笑った。鳥籠には何を入れるのかと聞いたリューに唇の端に笑みを浮かべる。
「花を。できれば、咲き誇る一輪を」
 市から姿を見せたリュシスにオキが声をかける頃にはユウナとイブキも花見の用意は終えていた。
「リュシスさん、お誕生日おめでとう。これからの一年が、より素敵な想い出に彩られますように」
 白い包帯の見える手の甲を袖の中にしまって、祝いの言葉を紡いだオキは微笑んだ。そのまま花見へと誘う彼の横、ユウナは楽しい事はあったかと聞いた。
「これからの新しい1年、もっともっと素敵な事があるといいね?」
 花見をしようという彼女とくすくすと笑うオキに降参だとばかりにリュシスは花見の誘いを受けた。「お邪魔するわね」とイブキに軽く頭を下げて。

●花見の宴
「鳥籠かー。トランスは束縛されるのを嫌がる子だから……貰うなら僕用の籠が欲しいかな? 世界が違ってみえて楽しいかもね」
 くすくすと笑うシスに、職人は瞠目の後に笑った。さすがにそれほどの大きさは難しい。他の店ならばもしかしたらという彼に別れを告げ、シスは降り注ぐ花びらを見た。優しい色をしている。市のどこを歩いていてもこの木の下から離れることはない。大樹というのに相応しい木に触れ、世界が変わって見える感覚にシスは少しだけ笑った。時間が戻らないように世界は常に変わっているということを、僕らはきっかけがないと認識できない。
「逆さまから見れば、世界は違って見えるかしら」
 花びらの一枚を手にとったリュシスの声に、シスは振り返る。誕生日おめでとうと微笑んだ。
「新しい一年君が笑顔でありますように。……良ければ内緒話させてくれる?」
 かまわないというリュシスに、シスはにこりと微笑んで耳元で告げた。目に入った白い手が握られ、解ける。
「少しだけ、手をつないでもいい?」

 市の鳥籠にも視線を巡らし、賑やかな村でチェリートが背伸びをした。見つけたリュシスは職人と何やら話をしていた。世間話だという事は、近づいた二人にはよく分かる。チェリートとシュリの後ろ、走るソアと優雅にあるくセラの髪が揺れていた。
「リュシスさん、あっちが素敵な予感ですよー♪」
 右腕をシュリが、左腕をチェリートがとれば何がおきるの? とリュシスが笑う。互いに視線を合わせ、頷いたシュリとチェリートは村の中心へと向かう。
「リュシスさんは蒼いイメージだけどあの桃色の花の下もきっと似合います」
 風が吹いた。気まぐれな風は大樹を揺らし、さわさわという音と共に花びらを舞わせた。ぴん、上に伸びた枝に咲く花には背伸びしてもどうやら届きそうもない。狙いを定めて手の中に一枚の花びらを納める。日の光を精一杯浴びた花びらは、ぽかぽかとしていた。
「リュシスさんかがんでー♪」
 ついつい、と腕を引っ張れば笑み一つにリュシスがかがむ。チェリートは、彼女に今朝庭の花で作ってきた髪飾りをつけた。指先で確かめるようにそっと触れるリュシスに新しい季節を迎えるお祝いだとチェリートは笑った。
「来年お花がさく頃までずっと、たくさんいいことありますように」
 立ち上がり礼を言うリュシスにチェリートは首を振り、セラを見た。セラさんもお誕生日おめでとーっと言ったチェリートは口の端に浮かべた笑みで返す彼女を身ながらふっと思う。同い年。17の自分を思って、チェリートは少しだけ唸った。ちょっとわたし子供っぽすぎ? 
「可愛い小鳥も良いんだが、プライドが高くてなかなか懐かない鳥。そういうのが好みだな」
 リュシスに鳥籠についてアドバイスを貰っていたセラは、何を飼うつもりなのかという彼女にそう言った。そこまでいくと残りは鷹か。
「蒼鳥ね……気高いかの鳥は、まず鳥籠に入ってくれるかね」
「手元に置くなら九官鳥が良いかもな」
 それならば、少し大きめの籠でも良いだろう。細工の綺麗なものでよければ、と市の方を指さしたリュシスにセラは頷く。リュシスさん、とシュリは声をかけた。歌とプレゼントを渡すという彼女はにこりと微笑んだ。
「リュシスさんの優しい笑顔が大好きですからっ」
 唇に乗るのは柔らかな旋律。優しい声。すぅと息を吸いリュシスは笑った。やさしい声。嬉しいと紡ぐリュシスに、リューはヴァイオリンを持って構える。
「今日は桃色の花の下、暖かい陽だまりのようなこの曲をプレゼントに送ろう」
 歌うような旋律に、リュシスは目を閉じた。人の声と楽器の音色。ゆっくりと目を開ければ、薄桃の花びらを手にとったソアがその手をゆっくりと広げ、リュシスの手のひらに渡す。捕まえた春を手の中に届けあたたかい。と笑う彼女にソアは祝いの言葉を紡いだ。この春の色のように心暖かな日が過ごせますように。にこりと笑った彼はそのまま市へと向かい、どうせだからと姿を見せたニューラは花見を提案した。手早くござを引き、籠から彼女が取り出したのは蜂蜜の優しい甘みをたっぷり詰めたアーモンドタルト。鼻先を香る紅茶はストレート。手際よく、それでいて美味しそうな菓子を用意する彼女からネックレスを受け取ったリュシスは感謝の言葉を紡ぎ、料理の腕を褒めた。鳥の形をしたポプリ人形をリュシスに渡したサクヤは、立ち上がり横笛を構えたシアを見上げる。ならば、とそれぞれ立ち上がり次第に膨らむ音色にリュシスは嬉しそうに笑った。花と音楽と、それから楽しい日。それが冒険者になってからのリュシス・マラークの3回目の誕生日になった。


マスター:秋月諒 紹介ページ
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参加者:26人
作成日:2007/04/06
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