はじめての血戦



<オープニング>


●森から来た少年
「美しい方、このあたりに冒険者の酒場はありませんか?」
「…………」
 その唐突な問いかけに、霊査士のユリシアは首をかしげた。
 装備から判断して、少年は冒険者だ。
 しかし冒険者であるなら、同盟を代表する霊査士の顔を知らないということが、あり得るのだろうか?
「ナンパですか?」
 並の男なら尻尾を巻いて逃げ出す、冷たい視線を向けるユリシア。
 なお、むしろこの視線がイイという男もいたりする。
「いえ、美しい方にお会いしたら必ず讃えるよう、師匠にしつけられていまして」
 ユリシアの気分を害してしまったと判断した少年は、礼儀正しく謝罪した。
「師は、選びなさい。付いてきてください。案内した後で、依頼も紹介してさしあげます」
「! あなたは……」
 これが、新人冒険者、深緑の・ケイ(a90112)と霊査士との、ファーストコンタクトであった。

●初心者……向け?
「みなさま、時間的余裕が少ない依頼があるのですが、興味のある方はおられますか?」
 ユリシアは興味を示した冒険者達を集めて、説明を開始した。
「依頼の内容は単純です。住処を追われ、飢えたグドンの群れが、リザードマン国東部国境付近の村が襲われています。リザードマンの元兵士と、元奉仕種族が力をあわせて一度は撃退しましたが、既に戦力は激減し、防御拠点となる柵やバリケードも残っていません。強行軍で現地に向かえば、グドンの二回目の襲撃にはぎりぎり間に合うと思います。既に村人達には避難する余力すら残されていません。危険な乱戦になる可能性が非常に高くはありますが、なんとしても村のみなさんを救い出してくださいませ」
 頷く冒険者達の中には、ケイも含まれていたのであった。

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参加者
聖闘士・シシル(a00478)
赫キ瑩ニ想イヲ懷キテ・マロン(a00825)
天聖の拳・ユーディ(a03846)
闇夜を駆ける蒼き刃・リスティア(a05300)
血漱・セルス(a05524)
緑薔薇さま・エレナ(a06559)
永遠の時を生きる黒き魔女・サイア(a07154)
蜥蜴示現流・ギローム(a07674)
NPC:薄闇の百合・ケイ(a90112)



<リプレイ>

●共闘
「小僧、まだ動けるか?」
 古ぼけた革鎧を着込んだ老リザードマンが、数十名の村人が立てこもる丸木小屋の外壁背を預け、問うた。
「後一戦はできるさ。……しかし俺は、今年で30なんだがね?」
 鉈についた血と脂をぬぐいながら、ストライダーの男が肩をすくめる。
「ふん。奉仕種族の歳はよく分からん」
「じいさん、あんたまだ奉仕種族扱いしてくるのかよ」
 白湯を飲んでいた狩人の少年が、半眼になってリザードマンを見る。
 とはいえ、口調は言葉ほど刺々しくはない。
 生き延びるために肩を並べて戦っている中で、連帯感がうまれているのだ。
「染みついたものはそうそう抜けん。……さて、そろそろグドン共が来る頃か。伝令が無事に駐屯地にたどり着いけたとしても、助けが来るのは明日。命を惜しんではならんのは当然だが、命の無駄遣いもするな。そんなことをすれば、ガキ共は守れん」
 老兵の言葉に、ヒト、ストライダー、エルフ、そしてリザードマンからなる男女は、覚悟を決した表情で、頷くのだった。

●肉
「ぜはー……」
 聖闘士・シシル(a00478)は、目標の村その外れについたところで巨大な背負い袋を地面に下ろし、大きく息を吐いた。
「凄い量だね……」
 紅月と星の妖精・マロン(a00825)は、背負い袋から飛び出した、肉汁が染みこんだ油紙をみつめた。
 背負い袋の中に入っているのは、肉20キロ、炭20キロ、鉄製の網、そして大量の香辛料に、大きな団扇。
 シシルいわく『焼き肉セット』だ。
 これだけの重量を一昼夜運んで来たシシルは、かなり消耗している。もちろん、シシルほどの体力の持ち主だからこそ、ここまで倒れずに来れたのではあるが。
「群れをひとつ引き寄せるとなれば、1キロやそこらの量では難しいですからね」
 青薔薇の旋風・リスティア(a05300)が、異様に手慣れた手つきで石を集めて簡易かまどをつくり、火をおこす。
「30分ほど前に登った丘から、移動する人影の群れが見えました。移動速度からして、私達とほとんど同時に村に着くはず」
 道中で集めた枯れ木を投入してさらに火力をあげ、肉に味を付けつつ焼いていく。
「……なんか、慣れてるね」
 マロンが呟くと、リスティアは微妙に目をそらした。
「必要に迫られておぼえたんですよ、ええ…………」
 家事能力皆無の姉のことを思いつつ、そっと目元ににじむ心の汗をぬぐう、リスティア18歳の春であった。

●砦
「こっちです!」
 頑丈さだけが取り柄の丸木小屋の屋根に立ち、深緑の・ケイ(a90112)が大声を張り上げる。
 ケイに気付いたグドン達が近づいてくるが、それよりも、シシル達から僅かに遅れてやって来た冒険者達の方が、早かった。
「ケイさん?」
 ユリンの守護闘士・ユーディ(a03846)が、小屋にたどり着く。
 小屋のあちこちに粗末な矢が突き立ち、あちこちが血で汚れている。
 破れた窓の後には弓を構えたリザードマンが立ち、扉があったであろう壁に開いた穴には、鉈や鎌を構えたストライダー達が守りを固めている。
 当たりを見ると、前回の襲撃で崩壊したらしい掘っ立て小屋の影に、比較的装備のよいリザードマンが控えている。
 全員どこかしら怪我をしており、特にリザードマン達は、何故まだ立っていられるのか不思議なほどの状態であった。
「一箇所に集中して守っているそ」
 ケイは、最後まで言えなかった。
 村を一直線に突っ切ってきたグドン達が、弓を射始めたのだ。
 見えているだけで、十数匹。
 ヒトの忍び・サイア(a07154)がばらまいたまきびしにより足止めされていたグドンの群れも、十数匹の後からまきびしを踏破して近づいてきている。
「っ!」
 ユーディがストリームフィールドを発動させる。
 ユーディ、ケイ、そしてやや遅れてこの場にたどり着いたドリアッドの舞踏家・エレナ(a06559)に向かって放たれた矢は、アビリティの効果によってグドンに向かって跳ね返される。
 しかし、村人に向かって放たれた矢は、かなりの命中率で村人達を傷つけていく。
「小屋の中に入ってくださいな。ここなら、私とユーディさんだけで接近を防げます」
 ニードルスピア奥義を放ちながら、エレナは村人達に声をかける。
 距離をとって矢を放つグドンには、サイアが背後から忍び寄り、1匹1匹確実に仕留めていっている。
 得物を振りかざしてしゃにむに突撃してくるグドンに対しては、ユーディのナパームアローやエレナの範囲攻撃アビリティが大きな効果を発揮している。
「あ……」
 エレナが、つらそうな息をもらす。
 グドン達の体格が、かなり小さいことに気付いたのだ。
 栄養状態が悪い上に、そもそも戦に出るのは歳が足らないグドン達。
「これじゃ、逃がせられませんわ」
 グドンの子供は逃がす気であったエレナだが、現状では手加減は出来ない。今手を緩めればグドンが小屋にとりつくことになり、中から聞こえる泣き声(その複数は赤ん坊の声だ)の主が殺されることになってしまう。
「ここは任せた! 儂等は仲間を助けに行く!」
 元々小屋の近くにいた元奉仕種族達は小屋の中に入ったが、リザードマン達はその場から駆け出した。
「え……。ここに全員いるんじゃ……」
 エレナが呆然と口にすると、一団のリーダーの老リザードマンは、振り返らずに答える。
「80人近く詰め込められるわけがなかろう! 老いぼれや怪我人はあっちの地下の貯蔵庫に隠れている!」
「な……」
 ナパームアローを打ち尽くしたユーディの横で戦っていたケイが、青い顔になる。
「惚けてないで行きなさい!」
 呆然としていたケイを、ユーディが叱咤する。
 ケイは数秒の間逡巡していたが、すぐに頷いた。
「行って参ります! みなさん、拙者の方が足が速い! ですから拙者のかわりにこの場の守りをお願いします!」
「ドリ……。む、分かった! ……ばぁさんを、頼む」
「はい!」
 ケイはリザードマンと仲間達に後を任せ、駆け出した。

●囮
 禍々しくも美しい儀礼用短剣が振るわれ、そこからうまれた衝撃波がグドンを1体、文字通り粉砕する。
「ったく、いったい何匹いるんだよ!」
 シシルは短剣で力ある紋章を描き、エンブレムシャワー奥義を発動させる。
 紋章から放たれた光線は、彼女の視界内にいたグドンをことごとく屠る。
 その数、およそ15匹。
「群れという話でしたから、一応3桁いてもおかしくはないですが……」
 エンブレムシュート奥義を飛ばすマロンを背後に庇いつつ、リスティアが答える。
 シシルが計画し、リスティアが実行した『焼き肉』の香りで、実に40匹を超えるグドンがおびき寄せられた。
「少々、多いですね」
 囮の役割を果たすために開けた場所を選び、また、シシルが高い威力の範囲攻撃アビリティが使えたためなんとかなったが、そのどちらかが欠けていたとしたら、かなり酷い展開になっていただろう。
「?」
 ふと、マロンの動きが止まる。
 ユーディ達が向かった場所とは違う方向から、悲鳴が聞こえてきたのだ。
「逃げ遅れ?」
「今は動けませんよ。さすがに1人抜けたら、対処しきれなくなる」
 流水撃改で目の前のグドンを数匹まとめて斬り倒しつつ、リスティアが答える。
「それに、悲鳴の場所に向かった人がいるようです。私達はここで敵をひきつけることに専念しましょう」
「……うん」
 マロンは、リスティアの言葉に頷くのであった。

●血戦
「よくぞ耐えられた。拙者達が来たからには、もう安心でござる」
 リザードマンの狂戦士・ギローム(a07674)は、地下室に通じる蓋を壊していたグドンにブレイブタックルで突撃し、はじき飛ばす。
 そして、ジャイアントソードを横薙ぎに叩きつけるようにして振るい、グドンにとどめを刺す。
「……ちゃんと、守り抜きますから。だから今は大人しく、守られていて下さい……」
 血塗れた鎮魂歌・セルス(a05524)が優しげな表情で、しかし目には殺気に近いほどの強圧的な意思を込めて、壊れた蓋越しに中を見る。
 悲鳴をあげなければグドンに気付かれることがなかったのだ。
 無用な危機を呼び込んだ相手に対して、セルスは少し冷たい感情を向けていた。
 だが、それも無理はない。
「リザ魂を見せる好機でござるな」
 地下室の入り口があるのは、壁の一面が全て崩れ落ちた家の床だ。
 家は、グドンによって十重二十重に包囲されている。
 他の場所でも激戦が繰り広げられている現在、他から助けが来る可能性は極めて低い。
「狂戦士に翔剣士。どちらも拠点防衛には向いていないですけど、ね……」
 銀色と紅色の2つの短剣を構えてから、セルスはライクアフェザー奥義を発動させた。
 ほぼ同時に襲いかかってきた4匹のグドンを、華麗な動きであしらう。
 銀と赤の一撃を見舞い、確実に1匹ずつグドンを屠る。
 しかしグドンの数は多く、仲間が倒れる毎にセルスの前に新しく進み出てくる。
「っ……」
 セルスは、自身でも意識しないうちに唇を噛んでいた。
 ライクアフェザーを常時使う場合、定期的にライクアフェザーを発動させる必要があるので、どうしても攻撃の手数が減る。
「ギロームさん!?」
「なぁに、心配はいらぬでござるよ。大先輩が頑張っているこの村で、拙者が倒れるわけにはいかんでござるからな」
 冒険者としてはこれが初の実戦となるギロームは、それでも的確な斬撃を繰り出し、2撃で1匹のグドンを屠っていく。
 しかし、セルスと比べるとどうしても打たれ強さと回避能力に劣る。
 このままでは、ギロームは長くはもたない。
 そして、背後を守るギロームが倒れた場合、セルスは全方位をグドンに囲まれたあげく、そのまま押し潰されてしまうだろう。
「くっ……」
 セルスの負担を少しでも減らすため、ギロームが最後の力を使って突撃を敢行しようと決意したとき、グドンの群れに新たな動きがあった。
「サイア殿! いったいどこに行けばいいのですっ!?」
「ケイ君、そんなに慌てないの。……そっちよ!」
 細い体を重装備で固めたドリアッドを盾にして、サイアが、グドンの群れの背後からギローム達に向かって突進してきたのだ。
 サイアはその途中で飛燕刃を使い、群れの長を見事に仕留めていた。
「お待たせしました!」
 返り血で戦装束を真っ赤に染めたケイは、色気を感じさせるほど上気して、ギロームに一撃を加えようとしていた、グドンの喉笛を切り裂いた。
「む」
 助けられたギロームの顔に浮かんだのは、感謝の表情ではなかった。
 ギロームは、ケイに見慣れたモノを見いだしてしまったのだ。
「ケイ殿! 何のために剣を手に取ったのか、今一度言ってくだされ」
「こんなときに何を!?」
 ケイが、血に酔った目をギロームに向ける。
「重要なことでござる。貴殿は、力を振るうことが目的で剣をとったのでござるか?」
 冒険者としての経験は浅くても、戦士としての経験は厚いギロームの言葉は、ケイの頭に冷や水をかけたような効果があった。
「! 僕、は、守るために……」
 ケイが、新兵がよくなる躁状態から冷めたことを確認したギロームは、大きく頷いた。
「殺すことを楽しんではいかんでござる。難しいことでござるが、自分をしっかり持つでござるよ」
「はい!」
 己を取り戻したケイは、セルスとサイアと的確に連携しつつ、グドン達を追いつめていくのであった。

●そして
 軽傷者31名。
 重傷者27名。
 死者0。
 限りなく奇跡に近い、結果であった。
 元奉仕種族とリザードマンとの間で衝突が多いリザードマン国の中で、この村は、ほとんどその手の問題がない村として、知られるようになった……。


マスター:のるん 紹介ページ
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