最高潮の跳躍!



<オープニング>


「今回の依頼は『やる気』を出させること、です」
 大人しそうな顔で精一杯難しそうな表情を作り、ヒトの霊査士リントは告げた。
「やる気って? 」
 聞いていた冒険者の一人が興味を惹かれたらしく尋ねる。
「はい。実はある村に、雪山から滑って下り、その勢いで台を使って飛び、どこまで遠くまで行けるかを競う……という行事があるんですが」
「それ、無茶苦茶危なくねぇか?」
「ええ、毎年怪我人とか出るみたいですけど。……まあ、お祭りですしね。で、そのお祭りで毎年いい成績を出してる選手、ターラスさんがなんだかスランプなんだそうで。ちなみに依頼者は彼を応援してるファンの一人でモカさんです。余談ですがモカさんは今度ターラスさんが優勝したら、勇気を出して告白しようと思っているらしいですよ」
「……で、勇気と希望を俺たちがお届け、っと? 」
「はい、お願いします」
 ぺこりと礼をしたリントがはっとして顔をあげる。
「そういえば! 」
「…………? 」
「近くにグドンが出るからそれの討伐をしてくれって村の人から言われてるので、それもお願いしますね? 」
 それってついでに言うようなことなんだろうか。不毛な気がしたので、尋ねるのはやめにした。

マスター:かまぼこ 紹介ページ
どうも、かまぼこです。
ターラスは二十代後半の男性、モカはちょっと年下の女性です。
お酒でも飲んで話を聞いてあげるか気分転換させてあげればいい……かどうかはわかりません(笑)
件の行事は祭りのイベントの一つなので是非盛り上げてあげて下さい。
ちなみに参加しても冒険者の記録は公式記録にはなりませんので注意。

参加者
空色の風・トウキ(a00029)
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
温・ファオ(a05259)
躑躅・サクリフィア(a40612)
悪の妖術師・クーカ(a42976)
爆走する玉砕シンガー・グリューヴルム(a59784)
青雪の狂花・ローザマリア(a60096)
落花流水・ソウジュ(a62831)
NPC:特定保健用医術士・ナチュレ(a90197)



<リプレイ>

●吟遊詩人とクラゲ酒
 のどかな春の日差しが差し込む……まではまだちょっと早い時期。とある村がお祭りムードに包まれていた。そんな中を3人の男女が歩いている。
「熱気と雰囲気がこっちにまで伝染しそうだな」
「そうですね、楽しそうです」
 爽やかな笑顔を自然に浮かべて話かける空色の風・トウキ(a00029)に、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)もまた笑顔で答える。
「気をつけないといけませんね。……まだ浮かれられないですから」
 一緒に歩いていた最後の1人、忘れ難き百合姫・サクリフィア(a40612)が注意を促す。こちらも笑顔だが先の2人と毛色が違う、何か思考が読めない笑顔だ。3人は現在スランプに陥っている『雪山滑り跳び』の選手ターラスを元気付けるためにやってきた冒険者で、その作戦の第一段階としてターラスに接触しようとしているのだった。ちなみに他のメンバーはもう一つの依頼であるグドン退治のための情報収集中だ。ターラスの居場所は村人に聞けば簡単にわかり、さらに
「アイツ最近落ち込んでるんだよな。旅の話でも聞かせてあげてくれよ」
 などと付け加えられたことから、彼が村の人々に愛されていることが伝わってきた。
「えっと、ここですね」
 3人が辿り着いたのは小さな酒場。これからお祭りで繁盛するのだろうが、今はまだ朝であることもあり、人影はほとんどない。その少ない例外のひとりがターレスだった。彼は酒場の隅に席を取り、そこで朝から酒をかっくらって……いるわけではなかった。何やらぼぅっとしているようだ。
「はじめましてターレスさん。わたしたちは珍しい行事が有る事を知って見物に来た吟遊詩人です。それであなたがチャンピオンだと言うことなので、お話を聞きにきたんです。……よろしければお話して頂けませんか?」
「あ、はい。喜んで」
 ターラスは丁寧にわかりやすく説明をしてくれる。チャンピオンということで聞かれることも多かったのだろう、それなりに話慣れているらしい。だがやはり、元気がないことが見てとれた。
「元気、ないみたいですね? 」
 ラジスラヴァが問うとターラスは苦笑しつつ答えた。
「……ええ、ちょっとスランプ気味でして……上手く跳べないんです。すいません、折角来て下さってるのに、こんな話をして」
「いえ。……よろしければ、聞かせて下さいますか? 」
 知っていたとは言え、ターラスの様子に心を痛めたラジスラヴァが言葉を選びながら返す。ターラスは一度トウキとサクリフィアの方に目をやり、2人が頷くと、とつとつと語りだした。急に跳べなくなったこと、そうなるとプレッシャーを感じるようになってきたこと、そして酒でも飲もうかと思ったが、さらに駄目になるような気がして脱力していたこと。話が終わると、暫くの間を置いて、トウキが口を開いた。
「空はいいよな。こう、どこまでも昇って行けそうで」
 多少強引な気もするが、空の男(?)には通じる者があったようだ。
「そうですね。……私もこの前までは」
「いや、あんなに広い空なんだ、細かいことは気にしないさ。ちょっと酒に逃げたくらいでどうにかなるような、そんなちっぽけな物に見えるか? 酒のせいにするのもたまにはいいもんだぜ」
 言いながらトウキが取り出したのは彼の旅団名物のクラゲ酒。漬け込まれたくらげの風味が漂うお酒……らしい。そして、2人は杯を交わし始めた。

 酔ったターラスはその勢いで誰宛てでもない愚痴を漏らす。適度に相槌を打ってやるトウキとラジスラヴァ。
(「毒抜きはこれくらいでいいかな」)
 2人がそう思った頃、酒が飲めないのでと水を飲み、黙って話を聞いていたサクリフィアが、長い話をしてもいいですか、と前置きしてから話し出した。
「昔、私は自分の存在自体に自信を失ったことがあります。そのとき亡き母が、『自分で自分を裁こうとしてはいけない、神になろうとしてはいけない。人間を裁けるのは、美しくても、醜くても、そこに存在する事実なんだから。』と言ってくれたのです。私が言いたいのは、貴方の周りに存在する人の中に、たくさんの貴方のファンがいるという事実が今ここに存在すると言うことなんです。あなたは唯、その人達の為に何ができるかを考えればいいのではないのですか? 例え失敗したとしても、貴方が危険な競技に参加するということ、それに意味があるのではないですかね、その人たちにとって。変に考えたりせずに、貴方は唯、その人たちの為に、自分が活躍する姿を見せることだけを考えれば…… 」
「……ただ、参加するということ……」
 呟くターラス。
「あと、ひとりで悩んでいるよりも信頼できる人と問題について考えに立ち向かった方がきっとうまくいきますよ」
 最後にラジスラヴァがそんな言葉をかけ、3人は酒場を後にした。

●笑顔と力説
 温・ファオ(a05259)、永久の華の歌姫・ソウジュ(a62831)が村で得た情報と爆走する玉砕シンガー・グリューヴルム(a59784)獣達の歌で得た情報でグドンたちの住処にあたりをつけた冒険者たち。彼らは悪の妖術師・クーカ(a42976)が村で準備した対雪装備を身に付け、山へと入っていく。雪に足跡がしっかり残っていたこともあり、群れの場所への移動は楽と言っても過言ではなかった。やがて先頭で足跡を追跡していたトウキが振り返り、群れの居場所まで接近出来たことを告げる。
「悪いが、ここで舞台から降りてもらうぜっ」
 グリューヴルムのよく通る声を合図とし、冒険者たちはグドンの群れに奇襲をかけた。

 ……戦いは一方的な展開となった。まともにぶつかったとしても遅れを取るような相手ではない上に不意まで打てたのだ、負ける要素も苦戦する要素もない。
グドンたちはラジスラヴァとグリューヴルムの眠りの歌で眠らされ、クーカの放つニードルスピアをうけて既に士気は崩壊。逃げ出す者はトウキの影縫いの矢で動きを封じられ、ラジスラヴァとクーカの2人が放つ2種類の炎で焼き尽くされていった。

 パーパラパパパパー♪ パーパラパパパパー♪ パーパラパパパパー♪

 サクリフィアの放つ華麗なる衝撃がファンファーレを鳴り響かせる度にグドンの数は減っていく。彼は思いっきり楽しんでいるような表情を浮かべながら戦っているが、曰く
「私は戦闘には不向き」
 だそうな。……まあ楽しいのと向き不向きは別物ではあるのだが。

 パーパラパパパパー♪ 

 静かになった戦場に最後のファンファーレが鳴り響いた。が、それはサクリフィアのいる方からではなかった。注目が集まる。ソウジュの華麗なる一撃が最後のグドンを葬ったのだ。思いがけず仲間の視線を独り占めしてしまった彼女は、
「さぁ、グドン退治は無事終わりました。これからターラスさんに自信を! ……そしてモカさんが無事に告白して、二人の未来がすばらしいものになるように応援しましょう! 」
 と、少し頬を赤らめながら早口で力説するのだった。

「……出番、なかったですね」
「いいことですよ」

●教習と挑戦
 グドン退治を終えた冒険者たちはもう一つの目標達成のための作戦を開始した。ファオ、グリューヴルム、ソウジュ、ローザマリア、ナチュレの5人が、モカの案内で酒場で休んでいるターラスを訪ねる。
「ターラスさん、お客さんですよ」
 内心の緊張を隠し、いつものことのように振る舞いつつ、モカが冒険者たちを紹介した。
「ターラスさん、私はファオといいます。私たちはお祭りの雪山滑り跳びのことを聞いて是非みたい、参加したいと思って来た者です。私たちにご教授して頂けませんか? 」
「私はグリューヴルム。忙しいところ悪いけど、どうか頼む」
 ソウジュとローザマリア、ナチュレも名乗り、5人は返事を待った。これを断られると彼らの作戦は意味をなさない。ターラスが少し悩んでから答える。
「……わかりました。ちょっと今はいい見本は見せられませんが、それでよければ」
 こうして5人はターラスの教習を受けることになった。

 足に長い2本の板を付けて雪山を歩く。……いかに冒険者といえど、そんな行動を初めてやるとなると苦戦する。
「……っていうか坂道は駄目だっ!? 」
「きゃあああああっ!? 」
「ああ、転びそうになったら無理に耐えると足折りますよー? 」
 笑顔でそんなことを言うターラス。意外といい根性してるのかもしれない。……そんなこんなで数時間。流石は歴戦の冒険者というべきか、5人はそれなりに滑ることが出来るようになっていた。グリューヴルムとローザマリアに至っては素人用のちょっとした丘でのジャンプをしている。
「楽しい。楽しいですね、ターラスさん」
 ファオのそんな心からの言葉にターラスは立ち尽くす。
「……ああ。そう、そんな気持ちは……最近は忘れていたかもしれない」

 声が響いた。
「ターラス! 今度の大会でアンタに挑戦させて貰うわ。アタシが勝ったらアンタはアタシの婿よー? 」
 声の主はローザマリアだった。突然のことに固まるターラス。
「え、いや……何を突然に。というか私と貴女は会ったばかりですし? 」
「じゃあ不戦敗? あーそう。戦わずして未来を捨てちゃうんだ? アンタには失望したわ。少しはアンタを憧憬の眼で見てる人のことも考えてみたらどぉ? ま、翻意するのは自由だから大会当日、待ってるわよう? 」
 言い残して立ち去るローザマリア。
「……さて、最後の一押しにできるかしらねぇ? 」
 そう、呟いて。

○最高潮の跳躍
 『雪山滑り跳び』がはじまった。純粋に飛距離を競う部門とパフォーマンス部門があるらしい。当然、ターラスは飛距離を競う部門だ。競技を控えたターラスのもとにトウキとクーカ、そしてソウジュがやってきている。
「ターラスさん、質問なのです。調子が悪くて苦しんでたそうですけど、何故この行事に拘るのですか? 僕は痛い事が嫌いなので、この行事に挑戦する理由が分からないのです。好きだからこそ、良い記録を残したいのですかね? 」
 急な質問だったが、ターラスはすぐに返事をした。
「うん。好きだから、良い記録を残したい。それもあります。でもそれ以前に、飛ぶのが好きだから、楽しいからやるんですよ。この数日の間に色んな人が教えてくれました。思い出させてくれました」
 自分の気持ちを確かめるように、一言一言しっかりと言う。その眼にはもう迷いは感じられない。
「天才や達人といわれる方達も大なり小なり、挫折やスランプなどに打ち勝って、さらに努力して後世に名を残してるのです、貴方にもその力はきちんとあったみたいですね。……それでは期待してますわ」
 と、ソウジュ。トウキはスパーン! と肩を叩き
「飾らず、気取らず、ありのままのあんたを見せてやれ。じゃあな」
 そうして3人は依頼の成功を確信しつつ、観客席へと戻って行くのだった。

 その頃、観客席に妙に緊張している女性がいた。モカである。側にはファオの姿もある。
「……大切な方が辛そうな時、力になりたいと思うお気持ち……私にも分かる気がします。きっと大丈夫…………勇気を持って頑張って下さい」
「……ありがとう、ファオさん」
 少し、緊張が和らいだようだ。
「……モカさん。モカさんにも質問があるのですよ」
 何処からともなく現われたクーカが声をかける。
「もし優勝できなかったら告白しないのですか? ターラスさんが意欲を取り戻しても、優勝できるとは限らないのです。その時モカさんは、どうするのですか? 」
「あ、それは……」
 言い難そうにするモカ。暫くすると恥ずかしそうに小声で言った。
「……優勝して、テンションが上がってるときの方が、告白を受け入れてくれそうじゃないですか」
 そんな計算があるとは。

「秘技! 3回転5回捻り!」
 突如真上に跳び見事な3回転5回捻りを見せるローザマリア。沸く会場。
「……ローザマリアさんも私を焚き付けてくれてたんですね」
 注意をうけて退場するローザマリアだったが、少なくともターラスは彼女の真意に気づいたようだ。
「練習の成果、見ててくれよ。……華麗に決めるぜっ! 」
 グリュ−ヴルムも負けず劣らず見事なパフォーマンスを見せる。……彼はちゃんとパフォーマンス部門に出場しているので怒られたりはしない。クラゲの着ぐるみを着たトウキがソリで飛ぶ。……雪に埋もれたクラゲ。
「トウキさんっ!? 足が、足が変な方向に曲がってますよっ! 」
「大丈夫、それは中身の入ってない足だ! 」
「無事な足が4本しかないですよっ!? 」
「手足が4本無事なら普通は無事だからっ! 」
 賑やかである。ガーーーー、ドサッ! クーカも埋まる。
「クーカさんまでっ 」

 ついにターラスの番がやってくる。迷い、悩み、そしてそれを乗り越えた彼のジャンプは前年の大会記録を塗り替えた。

 競技の興奮冷めやらぬ会場。1位の表彰をうけたターラスにモカが駆け寄る。モカが何かを伝え、驚いた顔をするターラス。そっとターラスがモカの肩を抱き……。そこまで見届け、冒険者たちは帰路につく。
「最後まで見なくていいんですか? 」
「そりゃあ野暮ってもんだろ」
「……良い歌が出来そうです」
 雪の中だったが、全く寒さは感じなかった。


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作成日:2007/04/02
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