【ゆ】天涯桜雲



<オープニング>


 ランドアース大陸は広い。
 未だ知られぬ人々が村が――そして秘湯の数々が、今日も世界の何処かで冒険者達の訪れを待っている。

 山間の村・ケラススには、小さな温泉宿がある。名を『桜雲郷』と言い、湯温は人肌よりやや高い程の優しさで湯質はしっとりと滑らかで仄かに白く、春先の長湯に適した露天風呂だと謳われている。

「『桜雲郷』と言うだけあって宿の周囲は桜樹に囲まれ、この時期は湯船からも空を覆う様に咲いた満天の桜花を眺められるそうです」
 丸い湯呑を置き、祈らない霊査士・エリソン(190312)は語る。曰く『桜雲郷』の茶房には専属の菓子職人が十数人おり、宿泊客は平時、ケラススの銘菓・桜蜜菓子が味わえるのだと。メニューの一角を挙げれば、葛切りの桜蜜掛けや桜餡を用いた和菓子の数々。桜花で風味を付けた生クリームを用いた洋菓子も数多く取り揃えているらしい。
「ですが先頃、若職人の一人が工房で盗みを働いて湯宿から逃亡し、行方不明になってしまいました」
 問題の若職人は名をフロスと言い三十路前の気弱な男で、盗まれた品は銀の小刀。それは毎年春に、腕を認められた若職人が一人前の証として職人頭から授けられる物だ。
「小刀の数は二本。つまり今年は二人の職人が認められたと言う事ですね」
 同期に後輩――自らより若い職人達が次々と己を超え巣立ち行く季節を見送る事三度。そして今年もその『春』が自らに訪れぬ事を知り、彼は犯行に及んだ。それ以上何の悪さを働く算段もなく、盗んだ品をどうするかの考えもない。唯魔が差したのだろう、と霊査士は言う。

 霊査によれば青年が潜んでいる場所は、湯宿の更に山奥。人知れず打ち捨てられた廃小屋となる。道の険しさは一般人の足でもどうにか耐え得るが、道中には薄気味悪い黄黒斑の毒蛇が出るとも言われ、地元の人間もそうは寄り付かず、彼の居場所は未だ宿に知れていない。
「……彼は気弱な青年ですが、それ故余り厳しく追い詰められると、何かしか自棄な行動に出る可能性もあります。お気を付けを」
 言葉と共に霊査士の手から差し出された地図に目を落とし、ヨハナ・ユディト(a90346)は溜息を一つ吐く。
「痛まない軽やかな心さえ持てれば生きるのも楽でしょうに……とも、思うんだけどね」
 そうもいかない人間だって、いるわよね。と、眉尻を下げて彼女は地図を受け取った。
「それでは逃亡した若職人の保護と盗品の奪還を、宜しくお願いします」
 そう言って霊査士は頭を下げた。

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参加者
自然と昼寝愛好家・ファンバス(a01913)
猪突妄進・スズ(a02822)
予感・エルンスト(a18618)
いつも笑っていたい・ツェリ(a41885)
エルフの武道家・チアキ(a49279)
ノソ・リン(a50852)
煌めく眼鏡は知性の証・キャニ(a53410)
武娘・リュナス(a55182)
NPC:ヨハナ・ユディト(a90346)



<リプレイ>

●山路の春
 山間の湯宿を往く朝の風は清明、春を謳歌する草花の一群を甘やかに吹き抜ける。

 花弁に彩られた踏石を踏み、エルフの武道家・チアキ(a49279)は桜雲郷を行く。今度の温泉はどんな所かな、と期待に満ち黒い瞳は巡らせるが、石畳を漫ろ掃く職員や慌しく駆ける職人達の口から『フロスが』と青年の名を度々聞けば、流石にそれ所ではないと気も改まった。
「彼に、戻って来て欲しいんだよね?」
 二人工房を訪ね、チアキは職人頭に問う。腕は良いがここ一番でヘマをやらかす阿呆者だがな、と頭が唇を尖らせると、聞き耳を立てる職人達も似たり寄ったりの見解を示す。青年の得意な菓子は何かと、煌めく眼鏡は知性の証・キャニ(a53410)が問えば、基本的に腕は確かな奴だから、シンプルな菓子――葛きりでも作らせれば判り易いと、職人頭の鋭い目が柔和に細められた。
「フロスという男、大したヘタレなぁ〜んが」
 キャニは伊達眼鏡の蔓を上げ渋面になるが。『村長に届ける菓子を任されながら当日胃痛倒れた』だの『老婆の道案内に明け暮れ創作菓子コンテストに参加し損ねた』だの、痒い背に手が届かぬ如き青年の人生を聞き知っては、勝気な薄藍の双眸にも同情が浮かび、何とか更生して欲しいものだと思い直す。

「!」
 湯宿に向かった二人の少女に先んじ、萌黄の山路を往く七人の冒険者達。足元・頭上・周囲へと視線を配り、猪突妄進・スズ(a02822)は、逸早く身構える。いつも笑っていたい・ツェリ(a41885)は、突如引き締まる空気に跳ねた。彼の目線を追い橡の梢を見上げれば、樹皮の錆色を這いずる黄黒斑の異色。自然の姿は努めて維持し、蛇に敵意がなければ不干渉でありたい。装飾の施された長剣は抜かず、自然と昼寝愛好家・ファンバス(a01913)は願う。スズは獣達の歌で樹上へと語りかけるが、首を覗かせた斑の毒蛇は幼子の様、唯『何かくれなきゃ退くものか』と駄々を捏ねるばかり。仕事とは言え余り殺したくはないと、栗色の瞳を翳らせるツェリ。その真横に、閃光が灯った。予感・エルンスト(a18618)が頭上の眩光で注目を集めている。
(「蛇位なら避けられるよな! 大丈夫だよな翔剣士!」)
 大丈夫、翔剣士、と自己暗示を繰り返すエルンスト。鮮やかに光る。眼鏡も光る。以前の旅を思い出し、ヨハナ・ユディト(a90346)は『この人は光るのが得意なのね』と彼を認識した。冒険者には取るに足らない敵でも、村人には脅威となる。そう思えば仕事後の楽しみへ向かい勝ちな気も引き締まる。仲間達の動向をじっと見守る、武娘・リュナス(a55182)の足元に、毒蛇がぽとりと痺れ落ちた。身動きの出来ぬ侭尚空腹を訴える聞かず振りに、銀花小花・リン(a50852)は白けた面持ちになる。その器用な手先は蛇の口に大きな『マンガ肉』を捻じ込み、ぽつぽつと呟く声で人里離れた深山へ退く様に命じると、路の先を急いだ。

●トリート・オア・トリート
「じゃあフロスさんはなるべく刺激せず、自発的な反省を促」
「もう駄目じゃー」
 桜雲郷の二人も合流し、小屋に到着するや否や。リュナスの確認事項も終わらぬ内、凄まじい速さで赤と銀の魔犬に待機を命じたリンが声を上げる。
「飢え死ぬー」
「山の中を歩き回って疲れたから甘い物が食べたいなぁ〜ん」
 キャニも続いて空腹を訴えた。武具を外し闇の外套を影に沈めたファンバスの目が点になるよりも早く、二人の空腹少女は遠慮も容赦もなく扉をぶち開け小屋の中に文字通り転がり込む。
「ひっ?!」
 唐突な出来事に、小屋内で体育座りをしていた青年が肩を竦める。更に間を置かず青の外套を潜めたスズが、さりげなく背負った――と言うにはいやに目立つ大鍋をがっしゃがしゃ鳴らしながら滑り込む。見事な受身と同時に大鍋から調理器具一式を取り出し床に並べた。次いで茶の瞳を申し訳なさそうに伏せて入り来たファンバスとユディト。リンは製菓材料をずらりと並べる。
「お菓子作って!」
「私は葛きりが好きですじゃ」
 猫尾をぴこと立て、溌剌と主張するスズ。無表情ながらリンの瞳に宿る蒼炎はあくまで熱く製菓を望み、犬尾は知らず揺れている。
「あの」
「俺の世界一可愛い彼女がにっこり笑いながらお菓子を食べてる所を思い浮かべながら作ってくれ」
 いつの間にか小屋に入っていたエルンストは、フロスの眼前ににじり寄り赤茶の瞳も真剣そのもの、大人びた声で息継ぎもせず無理を言い切った。
「貴方達は」
「皆でお菓子作り? ボク、苦手なんだよ〜」
 喋る間もなく快活な足音を響かせて現れたチアキが、参ったなぁと後頭を掻く。そして騒動に驚いて転びでもしたか、青年の肘にある擦傷を目敏く見付けると、彼女はすかさず癒しの聖女を喚ぶ。負けじとスズも癒しの水滴を注ぎ、実にちょっとした青年の傷は、突如眼前に現れた謎の美女とナントカ水によって瞬く間に癒された。
「えぇと」
「着いたなぁ〜ん?」
 兎角傷が治った事は認め礼を述べんとした瞬間、扉の影からツェリが顔を覗かせる。まだ何かあるのか。青年の表情がそう訴えた。
「うな? ふろろん、お菓子作ってくれるなぁん?」
 床に並んだ品々にぱっと花やぐ笑顔を見せ、彼女はフロスの腕に巻き付いて飛び跳ねる。
「あ、その」
 それはそれで嬉しい。だが『道を誤った花見の一行』と呼ぶにはどうも不自然な人々の処遇にはやはり困じ、青年は黙り込む。弱気な眼が彷徨い、開け放たれた侭の戸口へと向かった。併し扉の外はリュナスが立ち塞ぎ、周囲を警戒しては背中で『不可侵』を語っている。
「とりあえず何か作って食べさせて欲しいなぁ〜ん? 難しい話はそれからなぁ〜ん」
 呻き声を上げて後退る青年の手に、キャニは工房で分け貰った葛粉と蜜、道中で拾った桜の花弁を渡す。これは、と手中の品々に眼を落とし、そこに見慣れた工房の焼印を認め漸く朧気に事の一端を察し、青年は安堵の息を吐いた。

●フロスト・シュガー
 囲炉裏に火を焼べ大鍋に清水を沸かし、溶き漉した葛を流し入れた浅鍋を湯煎する。フロスは慣れた様で鍋の縁を揺らし成型し、手伝いを申し出たファンバスとユディトには、清流での水汲みを控え目な口調で願う。
「君達はその。やっぱお頭さんの頼みで来たのかい」
 口篭る問いを肯定し、スズとチアキは自らを偽らず、湯宿の依頼を受けた冒険者だと明かす。職人頭や職人達は皆青年の身を案じていた事、そして毒蛇の危険を聞くと、青年は項垂れて首を捻り『また迷惑掛けちゃったなぁ』と自らを苛む。
「私もよく迷うから、自分の弱さに苦しむから」
 自分が解らなくなってしまう気持ちは解ると、リンは告げる。本当に何やってんだろうね、と零すフロス。熱に乾いた葛を熱湯に潜らせる手元を見、でもなぁとスズが息を吐く。
「ここで折れちまったら、今までやってきた事、全部ダメになっちまうぞ?」
 悔しいならば見返してやれば良い、今こそ踏ん張り時だと言う激励に、湯気の向こうの青年は気の弱い笑みと共、曖昧な頷きを見せる。
「磨けばまだまだ光る所がある……って考えてみたらどうかな」
 戻り来たファンバスは、ユディトと共に盥一杯の水を床に置いて語りかけた。フロスも湯宿の職人達も皆頑張っているのだから、少しずつでも顔を上げ再び自らの道と向き合ってみてはどうか。柔和な声が諭す。皆、という言葉に青年は呻きを漏らした。盥の冷水に平鍋を浸す手は危なげないが、声音は苦渋に満ちる。言葉にも出来ぬ衝動の侭盗んでしまった『証』。それを得る為、自分だけでなく仲間達も皆研鑽しているのだと、青年は改めて事実を噛み締めた。
「ふな……何やっとるなぁん?」
 葛を切る鏝を握ったまま立ち尽くすフロスに、ツェリは首を傾げる。俄かに動きを止めた肩を、ファンバスが軽く叩く。諦めず続けて来た事を、後ろめたさで終わりにしてしまわぬ様に。唯彼を見守っていたチアキは困った様な笑顔を見せ、ボクも少しだけ挑戦してみようかな? と青年の傍に立つ。悔いに固まる拳を和らげる優しさで、少女の掌が添えられた。
「こういうのって楽しいよね♪」
 これで切るのかなと、少年の様な声と屈託のない笑顔が手元を促す。だけど僕は――と苦しげに躊躇う声は、リンが静かに首を振り否定する。
「上ばかりを見るのではなく、自分の作品をもっと愛して上げて欲しい」
 今フロスの手の中にある物は間違いなく彼が作る『世界』になるだと、その小さなかたちを、どうかもっと愛しんで欲しい。彼女は乞うた。
「好きで始めた事なら、きっとモノになると思うなぁ〜ん」
「……悔いはないって言える迄、もう少し踏ん張ってみないかい?」
 怜悧そうな少女の、存外に情の籠った声。少しも芽がない人間なら店に置いてすら貰えないのだからと、今一度肩を軽く叩く掌の温かさ。フロスは深く俯いたまま、そう信じたいと呟いた。

●ソルティ・スウィート
 小皿に切り揃えた葛きりは艶やかに透き通り、添えた餡は甘さも控え目、桜花を煮詰めて香を移した糖蜜の風味が冴える。塩漬けの花に湯を注いだ桜茶で舌を改めれば、知らず次の小皿も進む。
「美味いなぁ〜んvv」
 葛の柔らかな弾力をまぐまぐと味わい、ツェリは満面の笑みを見せる。『クールなお菓子大作戦』も華麗に終盤也と胸に称えて白尾を一振るい、キャニは口の端を指先で拭う。
「フロスの作ったお菓子で元気が出たなぁ〜ん」
「これだけのモノが作れるあんたなら、きっと合格出来る筈だぜ」
 スズは八重歯を見せ、皆で応援してるよとファンバスも添えた。
「刀盗んだんは……確かに悪いけどなぁん」
 盗み、の一言に再び沈みかける青年。誠意を持って謝ればきっと許して貰えるからと、ツェリは懸命にばたついて彼を浮上させる。
 ざ――
 と、不意に扉の外で草を薙ぐ鋭い音が一閃した。俄かな静寂を割り、二対の長剣を鞘に収めたリュナスが入り来る。或は獣達の歌から覚めた蛇が戻り来たか――真実は穏やかな赤の瞳に秘め、つい魔が差す事は誰にでもあると彼女は説く。
「そういう時はまず謝らないと。許されるとか認められるとか、細かい事は抜きにして」
 頻り頷くツェリから小皿を受け取り葛を一匙、リュナスは甘味に頬を綻ばせる。例えば昔作りたいと思っていた菓子を、今のこの腕前で作ってみてはどうかと彼女が案ずれば、フロスは興を灯して冒険者達が持ち来た材料を今一度見渡す。菫花糖と桜餡、二花仕立ての葛餅も良いかという職人の閃きに、更なる美味の予感を察したツェリは黒尾を振りつつ頷いた。他の人間は他の人間、気にする事はないのだと。

 一頻浮沈の後落ち着きを見せた青年に、チアキが小さな包みと封筒を渡す。手紙を開けば職人頭の無骨な筆により、罵倒と懸念、蔑みと心配が認められていた。参ったなぁと一言、フロスはもう一方の包みを解き――中に桜葉と生クリームを練り込んだ桜餡のパイを見とめ、息を飲む。それは、今年小刀を授けられる後輩達の一人、フロスに良く懐いている若職人の創作菓子だった。
 僕は、君が受け取る筈の証を盗んだって言うのに。
 振り絞る様にそれだけを言い、青年は自分の為に作られた菓子を口にした。幾許か混じる涙の味も、そのままに。

●天涯桜雲
「欲求が生まれてそれしか見えなくなる気持ち、解るんだ」
 エルンストは花の石畳を歩み語る。段々人の喜びとか自分の情熱だけじゃ満足出来なくなるんだよなぁと追想混じりに天を仰げば、花は春雨の如く静か細やかに降る。
「後輩の邪魔をしたかった訳じゃない。唯」
 唯、と青年は詰り唸る。
「自らの幸せは人の幸せから起こるって言うだろ」
 人の喜びを自らの糧に、高みへ。こんな図体でも俺も作り手側の人間だからと、エルンストは照れ臭そうに言葉を繰る。
(「……忘れた時も、あったけどね」)
 過ぎた苦悩は胸の裡、誠実にと菫花の花言葉を添え、湯宿眼前で立ち止まる青年の背をそっと押す。行く先を見れば、腕を組み片眉を吊上げた職人頭が怒りとも笑みとも見える面構えで待ち構えていた。
「や、やっぱり一人前になるのって大変だよね」
 間もなく青年の頭上に落とされるべき、雷の予兆。チアキは冷汗を混じえ、マイペースで良いから続けてみようよ、と前を向く。搾られて来い、と悪戯な笑みを浮かべたスズが、フロスの背をばしんと叩く。
「一人前になったら必ずまた食べに来るぜ。絶対! だから……修行、頑張れよっ!」

 さわさわと衣擦れに似た花梢、色付き揺れる陰影。チアキは桜雲の湯船に爪先を浸す。
「幸せだな〜♪」
「素敵な依頼を受けられて良かったよ」
 知らず唇から零れたチアキの言に、花弁混じりの浴び湯をしていたリュナスもまったりと綻んだ。
「よし温泉!」
 湯桶に手拭い石鹸、家鴨の玩具も揃え準備万端。揺れる狐尾に喜びも隠し切れず、いざ男湯の暖簾を潜らんとし、エルンストは立ち止まる。
「「……あー」」
 同じく立ち止まるスズと共に間延びした声を合わせる。二人見遣る先には、職員と共に浴衣の山を運ぶユディトと、ヒトノソ少女達の姿。なぁ〜んにまみれ心なしか緩んだ面持ちで、女重騎士は荷を運ぶ。
「……前回もやって貰っちまったしな」
「俺も手伝うよ〜!」
 やはり、人が働く様を尻目に羽を伸ばすのは性に合わない。見解を一致させ、二人はスリッパで駆けた。

「……桜吹雪は綺麗だけど」
 リュナスは上気した頬で空を見上げた。春の陽射しは天辺を過ぎたばかり、麗かな熱を含んで花の天幕に陰影を揺らす。
 私も武人なら、せめて――
 永く咲き誇れないからこその美しさを仰ぎ茫洋。花の命に倣おうか。刹那過る酔は、けれど俄か強く吹き渡る晴嵐に覚まされた。

 広々していて景色も良いし、良い気持ちなぁ〜ん。
 うな……ユディって呼んでもええかなぁん?
 敷居の向こうから聞こえ来る声。うとうとと湯船を漂っていたファンバスが振り返る。
 そんな可愛い名前……でも、うん。有難うツェリ。嬉しいわ。
(「ユディトちゃんも満喫出来てるかな……」)
 湯音に消え入る応えを聞き、ファンバスは再び目を閉じた。
「もう……戦闘だけのお仕事には行けなーい」
 流れ来る湧湯に肩を打たせ、一仕事終えたエルンストがぐねぐねと弛緩している。
「何て……言うか……眠……」
 その脇を、仰向けで寝息を立てるスズが流れて行った。寝言から察するに、眠っている夢を見ているらしい。

 空の果ても見えぬ程の桜雲に、射し渡る陽。薄紅を彩る光は強くも、朧な色に揺れて湯に煙る。色と香の眩暈に数度瞬き、リンは視線を落とした。花弁に満たされた湯船に身を沈め水着越しの暖かさに嘆息し、仲間達の談笑に耳を傾ける。
 上を見続けるのに疲れたら、そっと周りを、そして自分が進んで来た道を見返してみれば良い。確かな足跡と自らが築いて来た世界は、いつも掌の中にあると忘れない様に――
 天涯桜雲。
 いつか満ち足りた瞳は眩む事なく、その色を高みを穏やかに見据える。


マスター:神坂晶 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2007/04/27
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