【読書の時間?】ふたつの暗号詩



<オープニング>


「読めますか?」
 イストファーネが石盤を手渡す。残飯シチューを水で飲み込んでから、カロリナは表面の文字を精査した。
「詩がふたつですね。霊査士さんにも分かるように訳すなら……

『濁りなき瞳』
澄みゐたる 我の目をゑぐり
転がせや 骨食む冬よ
愛燃えて 兎溶けぬ
妻倣ひ そちに教へん

『ころころ小唄』
「酔えぬ子」をころころ引いて
ばらばらばらと切り刻め
「凍て鶴」をいよいよ押して
ざくざくざくと切り刻め
それを間抜けに飲み込ませ
肥った腹でどろどろに
混ぜ合わせたら魔法の鍵
とうとう扉を開きます

 ……これがどうかしましたか?」
 石盤の内容に首を捻りながら、イストファーネは事情を話した。

 四季宮と呼ばれる廃城がある。
 城内が春夏秋冬の四区画に分けられているのが名の由来らしい。往時には各区画の庭に季節の草木が咲き乱れ、部屋や廊下には季節にちなんだ絵画や像が飾られていたというが、今はグドンの棲み処となって見る影もなかった。

 その四季宮には隠し書庫がある。住人が城を捨てる時に中の書物を持ち出す暇がなかったため、今も多くの書物が眠っている。これが書庫の入り口を示す石盤である……。
 ある好事家がそんな話を信じて行商人から石盤を買い、イストファーネの元に持ち込んだ。
 霊視によって商人の話は事実と判明する。好事家は四季宮のグドン退治と書庫発見を依頼してきた。

「では、この詩が書庫の入り口を示す暗号ですね」
「多分そうでしょう」
 いそいそと出発の準備を始めるカロリナに、イストファーネは続ける。
「グドンは弱いのが二十ばかり棲んでいるので適当に散らして下さい。
 書庫ですが、発見できれば一冊ずつ好きな本を持ち帰って良いとのことです。残りの本は運び出して、近場の町で待機している好事家のノソリン車に積んで下さい。
 ……良いですか、一冊ですよ。それ以上ちょろまかしたら両手にお縄が掛かりますからね」
「……ちぇっ」

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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
闇夜の鴉・タカテル(a03876)
緩やかな爽風・パルミス(a16452)
心の震える歌を・ブリジット(a17981)
雷獣・テルル(a24625)
東雲を護る宵藍の星・アルタイル(a37072)
気まぐれを紡ぐ蒼・カノン(a39006)
爽風の重騎士・ティラ(a42868)
彩雲の・ギルヴァ(a46937)
風薫月橘・メレリラ(a50837)
紫眼の魔導士・セロ(a62030)
煌白の閃光・キュリア(a62285)
NPC:次のページへ・カロリナ(a90108)



<リプレイ>

「なぞなぞですかぁ、……う〜ん、う〜ん」
 心の震える歌を・ブリジット(a17981)の頭を抱える様子が微笑ましい。
「やっぱり分からないですぅ」
 諦めたブリジットは灰色の髪を押さえながら、その辺りの絵画や彫刻の残骸、壁の窪みなどを探り始めた。
「いつにもまして今回は難しいなぁ……けど、四季宮か」
 雷獣・テルル(a24625)は改めて現在いる廃墟、四季宮の様子を眺める。
「エギュレ神殿図書館ほどじゃないだろうけど、何かまだ知られてないようなことの本とかあるかもな。
 ちょっと楽しみ……ってあれ? なんか俺カロリナさんに影響されてきてる?」
「知識の探求は人類普遍の欲求ですから、テルルさんの知的好奇心が育ち始めただけでしょう」
 若干口元を緩めるカロリナ。
「隠し書庫かぁ。よほど貴重な本か、よほど見られたくない本があるのかな……」
 風薫月橘・メレリラ(a50837)は想像して汗を一筋流した。
「まぁ、頑張ってみつけて、私もお宝をもらわないと♪」
「どんな本が埋もれてるんだろう」
 宵藍の夜空の星華・アルタイル(a37072)もやはり薄く笑っている。書庫のことを考えただけで、にやけそうになっているのだ。
「暗号解いて是非見つけたいね」

●濁りなき瞳
「『骨食む冬』っていいますから、鍵か書庫が冬の区画のどこかにあるんじゃないでしょうか?」
 シンプルな意見を出すのは闇夜の鴉・タカテル(a03876)。
「『兎』も〜、雪兎とか〜、冬を示してそうです〜」
 緩やかな爽風・パルミス(a16452)が同調する。
「濁りなき……で『水』と『水晶』が真っ先に浮かんだけど」
「池とかはないみたいだな」
 アルタイルとテルルは中庭を確認したが、水気はない。

 先頭を歩いていたタカテルの靴音が急に止まった。皆を振り返り、静かにと身振りで示して曲がり角をそっと覗き込む。
 途端に跳びかかって来た豚グドンを、機敏に身を引いたタカテルの黒月槍が串刺しにしていた。
 奇襲に失敗したグドン達は曲がり角から次々に姿を現す。
「油断をせずに確実に任務を」
 タカテルが言い終わる前に、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)が眠りの歌で敵を眠らせる。
「人が真剣に悩んでる時に邪魔するんじゃねぇよ」
 更に、気まぐれを紡ぐ蒼・カノン(a39006)が良い笑顔でファナティックソングをぶちかまし、グドン二十体は色々垂れ流しながら全滅した。

「『我』と言うのがよく判りませんけど〜、何かの像か絵画の目を外すか押し込むかして転がすと何かありそうです〜」
 冬の区画を探索したパルミスは、目に水晶の嵌まった彫像を発見する。押したり引いたりしてみると右目の水晶が外れた。
「それを床に置いたら転がるのかも」
 アルタイルの言葉に従って水晶を置くと、ころころ転がっていく。
「転がりましたぁ」
「床にわずかな傾斜があって転がって行った先に目的のものが……って仕掛けを何かで読んだ事があったから」
 ブリジットに説明するアルタイル。
 だが水晶玉はしばらく転がった後、何の変哲もない壁にぶつかって止まった。アルタイルは女性的な優しい顔を少し曇らせて考え込む。

「兎の像か絵画が動いて入口になるんでしょうか〜?」
 再び探索したパルミスは二匹の兎の像を発見する。つがいの兎らしかった。皆して兎の周囲を調べてみるが、怪しい所はない。
「雌雄の視線の交差する場所に何かが〜……」
 何もなかった。石の床を叩いて音を聞いても、他と違いはない。

「この詩にはランドアースの滅亡が預言されているんだよ!」
 爽風の重騎士・ティラ(a42868)が唐突に叫んだ。
「な、なんですってー!」
 驚愕するカロリナ。
「凍て鶴や骨食む冬という下りは、荒廃する大地を示しているのよ」
「では他の下りは?」
「……ごめんなさい。あまりに解けなくてヤケになっていたわ」
「そうですか……」

「『濁りなき瞳』は全部平仮名に直すといろは歌になってました」
 煌白の閃光・キュリア(a62285)が言う。
「ただ、濁りなき瞳の詩ところころ小唄、上手く組み合わせれば具体的な答えが出てきそうなのですが、私の固い頭では上手く出てきません……」
「いろは歌?」
「濁点を無視すると『あ』から『ん』までの平仮名四十八文字が、重複なく一文字づつ使われているのよ」
 彩雲の・ギルヴァ(a46937)がブリジットに説明した。
「『すみゐたるわれのめをゑくりころかせやほねはむふゆよあいもえてうさきとけぬつまならひそちにおしへん』
 と直すわけですね」
 紫眼の魔導士・セロ(a62030)は日記帳に走り書きしてみる。
「それで、本物の『いろは歌』と並べて変換表を作ったの」
「本物のいろは歌?」
 ギルヴァに問うブリジット。
「『いろはにほへと』で始まる有名な歌よ。
 『い』を『す』、『ろ』を『み』という感じで対応する文字に変換してみたわ。無論『いろは』→『瞳』に限らず『瞳』→『いろは』も可よ。
 それで『ころころ小唄』から、『よえぬこ』『いてづる』を変換表で変換。『いろは』→『瞳』とするか逆とするかはそれぞれ独立に試みて、四パターンできるわ。
 これらの文字をばらして再構築してみたけれど、どうしてもしっくりくるの出来なかったわ。『いろは』の他に『とりな歌』とかも試したのだけれど……。
 もしかしたら、石盤が足りないかもしれない。それなら、私の頭が足りないことではなくなるから嬉しいのだけれど」
 ギルヴァは憂い顔で締め括る。冒険者達は諦めずに探索を続けた。

●ころころ小唄
「えーと、この『ころころ引いて』という言葉から『酔えぬ子』の子を引くと……よえぬ? ………さっぱりわからん」
 シルクハットのつばを引いて目元を隠すタカテル。
「『酔えぬ子』と『凍て鶴』は何か物を示しているのでは?」
 ラジスラヴァの意見に、何人かが同意する。
「『酔えぬ子』は酒を飲めぬ種族、でエンジェルの像では?」
「他の不老種族のことかもな」
 キュリアとテルルが述べるが、探した限り、この城にはヒト・エルフ・ストライダー以外の種族を題材にした絵画も像も存在しなかった。
「となると普通に子供の像。いや、酔えないって事は酒が飲めないって事じゃないかも……」
 首を捻るカノン。
「あ、『子』っててっきり子供のことかと思っていたけれども、子牛寅……の鼠という可能性もあるわね」
 メレリラが新たな可能性に気づく。
「子=鼠なら〜、時間や方位も関係してそうです〜」

 色々言いつつも冒険者達は探し回って、離れた場所にある子供の像と鶴の像を見つけた。
「子供の像をころころ、つまり5656で二十二歩分手前に引き、その場所で一部を砕くのでは?」
 白い鱗に覆われた手で、キュリアは像を移動させる。
「書庫だからね、まさか一回こっきりの使い捨てって訳じゃないだろう。少なくとも何か壊すって訳じゃないんじゃないか?」
 カノンの提案で、像が分解できないか調べてみる。左手首が取れた。
「今度は鶴の像をいよいよ、つまり1414で十歩分奥に押し込み、同じく分解する……」
 鶴の頭部が取り外せた。
「肥った腹でどろどろに混ぜ合わせるとは、分解した物を組み合わせるのでは……」
 ラジスラヴァが子供の手首と鶴の首を手に試行錯誤した結果、鶴の嘴に手首がぴったり挟まる。次は間抜けの解釈だった。
「等間隔に像が置かれた中で、像が置かれてない場所?」
 キュリアはそういう場所を重点的に調べるが、特別な物は見つからない。
「壁にかけてある絵画の裏側か何か?」
 ラジスラヴァは絵画や壁布の裏を徹底的に調べるが、特別な物は見つからない。
「『間抜け』が部屋を繋ぐ空間と考えると〜」
「ふたつの像のある部屋の間の抜け道とかじゃダメデスカ」
 と、パルミスとカノン。
「抜け道?」
 アルタイルは自作した見取り図を確認する。
「それらしい部分はないわね」
 麻縄を使って測量し、見取り図作成に協力したメレリラが断定した。

「『濁りなき瞳』を暗号本体として、『ころころ小唄』はその読み方。暗号本体の文字をずらして『酔えぬ子』や『凍て鶴』を作れないかな?」
 メレリラは文字を操作していくが、思うような結果が得られない。
「ん〜……、さっぱりね」

●発見
「ころころは5656、いよいよは1414か。そして文字をずらす……」
 足りない石盤はなかったが、足りない発想を仲間から補われて、ギルヴァはもう一度考える。
「『瞳』が四十八文字の順番を決定する表なのだから、その表の中で『よえぬこ』を5・6・5・6と引く……。
 『よ』を五文字前にずらすと『ね』ね。『え』を六文字前にずらして『ふ』。『ぬ』を五文字前にずらして『う』。『こ』を六文字前にずらして『の』。
 『いてつる』を1・4・1・4と押すと、『い』を一文字後ろにずらして『も』。『て』を四文字後ろにずらして『と』。『つ』は『ま』。『る』は『め』」
「そうすると、ばらばらばら……868686? ざくざくざく……393939?」
 テルルが言うが、ギルヴァは首を振る。
「それはきっと歌のリズムを取るために入れただけで、関係ないのよ。『ねふうのもとまめ』の中に『ふ』と『ま』が入っているから、文字をずらす操作はこれで終わり」
「?」
「『まぬけ』の『ふとった』腹で混ぜるわけだから、『ふ』と『ま』を捨てて『ねうのもとめ』。
 これをばらして再構築すると『うめのねもと』、梅の根元ね」

 シャベル二本所持のテルルを筆頭に、中庭の梅の木の根元を掘る。ある区域だけ丁寧に石のブロックで囲まれ、根の侵入を阻んであった。
 長年の間に根はブロックの隙間から侵入しかけていたが、避けながら掘り進む。やがて石の蓋に突き当たり、開いて中に入るとそこが地下書庫だった。
「じっくり見物させて貰いましょう」
 ティラは喜びに顔をほころばせる。

「報酬はこの本にしましょう」
 セロが本棚から落ちていた魔道書をひらい、言った。各自が好きな本を選び、自分のものにする。
「選べません〜」
「迷うぜ」
 そんな中、パルミスとテルルは悩んでいる。あらかじめ欲しい本を決めていなかったため、一冊を選べないのだ。
「選ばなくて良いんですよ」
 カロリナは悟りきった表情でふたりに言った。
「書物を愛していたら、こんなに沢山の中の一冊を選ぶなんてできるはずがありません。だから選ばないのが正解なんです。さあ、書物達を見送りましょう……」
 悩まし過ぎて捻じれた結論に達してしまったらしい。

 結局、書物を積んだ好事家のノソリン車が夕日の中に消えるのを、三人は手ぶらで見送った。


マスター:魚通河 紹介ページ
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作成日:2007/04/12
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雷獣・テルル(a24625)  2009年09月12日 15時  通報
『書物を愛していたら一冊の本なんて選べない』って、深い言葉だよな。捩れてるけど。