≪黒蝶館≫美しき黒蝶、春の戯れ



<オープニング>


「と言うことで、全員集合ですよー」
 孤独を映す鏡・シルク(a50758)が身振り手振りで団員たちを掻き集める。
 黒蝶館の凄い大広間っぽいところに、わさわさと無数の団員たちが詰め寄せた。
「何と、この黒蝶館付近で珍しい蝶が発見されたそうです! 目撃者のフラジィルさん、どうぞ」
「ええ、ジルは確かに見たのです。つい二、三日前のことでした。黒くて小さな蝶が、くるくる踊るように飛び交っていたのです。揚羽みたいに綺麗な、色硝子みたいにきらきら煌く羽根でした。ジルは見たことも無い素敵な蝶々さんです……!」
 深雪の優艶・フラジィル(a90222)が愁傷に語り終えると、シルクは瞳に闘志を燃やし、拳を握り締めて団員たちを見回した。
「黒蝶館に住むわたしたちとしては聞き捨てならない目撃情報ですっ! しかも聞くところによれば、蝶たちは廃屋に住み着いているそうで……これはますます放っておけません」
 彼らはやはり、花の多い場所を好むに違いない。
 壊れた噴水のある中庭を中心に、雑草の蔓延る花壇が広がる。蝶たちは数少ない花々を取り囲み、戯れるように飛んでいるそうだ。彼らの住む場所として相応しくなるよう、環境整備に赴くことこそ我らの使命では無いのか!
「なので、蝶が過ごしやすくなるよう色取り取りの花を植えつつ、蝶を見たり日光浴をしたり御茶会をしたり、春らしくほんわかのんびり過ごしましょー」
 シルクとフラジィルは親指を立てて爽やかに笑った。
 結論は、兎に角楽しめ、と言うことである。

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参加者
待ち人の木の下で・マッシロ(a30396)
地を駆ける金狐・シャンティ(a48412)
孤独を映す鏡・シルク(a50758)
猫・リーゼ(a51208)
硝華・シャナ(a52080)
踊れ喜べ汝幸いなる魂よ・リジュト(a52761)
白雲の軌を辿る・タム(a53576)
月華銀紋・ギンセツ(a53604)
茫然自失インソムニア・フロウ(a55477)
火焔天・トロン(a57126)
水辺に咲く・リリア(a57696)
カヤになら殺されてもいい・シキ(a57984)
天空に舞う光の翼・キイン(a59447)
お気楽ど田舎者・バルト(a62616)
NPC:深雪の優艶・フラジィル(a90222)



<リプレイ>

●廃墟の庭園
 団長の言葉に賛同した黒蝶館の面々は、噂の廃墟へ足を運んだ。
 報告通り荒れ果てた花壇を前にして、まずは土から変えるべきだと瑞みずしく・リリア(a57696)は提案する。肥料の代わりになる腐葉土は、近場の木々が立ち並ぶ場から発見出来るだろう。重ねられた落ち葉の下には栄養を確りと蓄えた土が、静かに眠っているはずだ。適当な麻袋に土を積め、花壇に運び込めば良い。しかし、茫然自失インソムニア・フロウ(a55477)は溜息を吐いて肩を竦める。
「ほら、僕ってさ。ひょろろ〜っとしてるでしょ」
 繊細な体躯を身振りで示し、重労働なんて僕に相応しくないよ、と顔を背けた。力仕事を女性にさせるわけには、と当初率先して運搬していた涙の卒業・シキ(a57984)も、予想よりも面倒な仕事に飽きてか、何時の間にか優雅な休憩時間へ突入している。
「ほら、サボるんじゃない! 埋めるわよ!」
 男二人をリリアは一喝した。ちなみに彼女は、自分が重たいものを運ぶつもりなど当然無い。
「って、ちょ、埋めながら言わないで……!」
 フロウの抗議虚しく、男二人は腐葉土の海へ沈んで行く。負けるものかと魂で肉体を凌駕してみるも、水を掛けて貰えると言う良く判らないサービスの前にフロウの心が折れそうになる。
「僕、ドリアッドだよ!? 水掛けられても花は咲かないよ!?」
 程好く現実逃避を開始し始めた頃、二人は何とか救出された。脱力したフロウと深く反省したシキは、今度こそ黙々と土運びを再開する。現状で咲いている花は、根を切らないよう周りの土ごと避難させ、花壇の土を均し終えれば土台の準備は整った。
「よーし、この花壇を綺麗な蝶でいっぱいにしちゃおう!」
 紅蓮天衝・トロン(a57126)は気合十分な様子だ。土弄りの経験の無い彼女は、土の中から顔を出したミミズに驚いて悲鳴を上げたり、危なっかしい手付きで花壇周りの雑草を刈り取っていく。
「赤♪ 白♪ 黄色♪」
 明るく歌いながら、踊れ喜べ汝幸いなる魂よ・リジュト(a52761)は花を植え始めた。鮮やかな色の花が咲き誇る少し遠い未来と、蝶と遊び沢山食べる近い未来を同じくらい楽しみにする。様々な種類の花の種、花の苗を定めた区画ごとに植えて行きながら、蝶たちもきっと喜んでくれるに違いない、と孤独を映す鏡・シルク(a50758)は顔を綻ばせた。
「夏になったら、ハイビスカスの花が辺り一面咲くように、なのです」
 赤い赤いハイビスカスが咲く様を思いながら、シルクはおまじないを掛けるような口振りで呟く。シキは感謝の気持ちを胸に、コスモスの種に土を被せた。黒蝶館には随分と世話に為っているように思う。小さな恩返しのひとつとして丁寧に想いを篭めた。黒い土の花壇に美しい花々が咲く様子を想像し、硝華・シャナ(a52080)も優しげに微笑んだ。次は水を注ごうと如雨露を片手に水場へ向かう。

●荒れた花壇と壊れた噴水
「やっぱ、人が増えたなぁ……」
 ぐるりと辺りを見回して猫・リーゼ(a51208)は感嘆の息を吐いた。初期から黒蝶館で過ごしている彼にとって、大丈夫だろうかといつも心配してしまうような懐かしい日々の思い出は、少しばかりくすぐったいものだ。
「蝶々はんは、判らへんやな」
 目の高さで飛ぶ小さな黒い蝶を見遣って、リーゼは柔らかく笑みを零す。黒蝶館の面々で出掛けるのは今日が初めてだ。またひとつ楽しい思い出が増えるのかと思うと、自然に頬が緩んでしまう。
「お〜、流石は春。確かに雑草が伸び放題なぁんな」
 抜く必要の無い草木を痛めることの無いよう気遣いながら、白雲の軌を辿る・タム(a53576)は植物が密集し過ぎた地点から草を間引いた。雑草の蔓延る庭を見ていると手入れにも限が無いように思えて来るが、諦めることは出来ない。宵闇に浮かび上がるは銀糸の雪・ギンセツ(a53604)は額の汗を拭い、余計な枝を間引くなど咲いている花の手入れをし始める。
「……変なものは植えてませんからね?」
 誰にとも無く言い訳をした。紫に赤の斑点が浮いた刺々しい花だとか、毒草を思わせるようなものは決して植えていない、ような気がする。毒花は大好きだが、そんなことは、多分、決して――
「……」
 心の中で言い訳を続ける彼女の肩を、ぽん、と何者かが軽く叩いた。

「べ、別に虹色キノコを植えようなんて考えてないのですよ! 本当なのですよ! なぁ〜ん」
 プレイングは・マッシロ(a30396)も人目に付かない廃墟の影で誰にとも無く言い訳をした。手元では艶やかな怪しいキノコをぐりぐり地面に捻じ込んでいる。
「シルクさん辺りに見付かると、何されるか判らないので、す……なぁ〜ん……?」
 不平を洩らす言葉の途中に、ぽんぽん、と何者かが彼の肩を叩いた。

 直後、マッシロの悲鳴が春の空の下に響き渡ったとか何とか。

 シャナは赤い塗料を掻き混ぜながら微笑んだ。シルク様の瞳の御色です、と言葉を添えながら廃屋の壁を塗り替えて行く。鮮やかな色合いは蝶たちにも喜んで貰えるだろうかと期待しながら、塗り終えれば次は噴水の様子を見に行かなければと呟いた。噴水ぼろぼろやもんなぁ、とリーゼは頷いて同意し、修理を終えることが出来れば夏に来るのが楽しみになるだろうとも相槌を打つ。
「……む、巧く行かへんもんやな」
 団長を喜ばそうと蝶の絵を書き足そうと努力はするが中々に難しく、リーゼは眉間に皺を寄せた。

●のんびり休憩
 プーカの吟遊詩人・バルト(a62616)は全身から力を抜き、両腕両脚を伸ばしてのんびりと春の日向を楽しんでいた。一仕事終えた後の休息は格別に幸せなものだ。タムは黒パンのサンドイッチを片手に、もう片手では厚い本を開いている。蝶の絵が鮮やかに描かれた図鑑を見つつ、チーズやらレタスやらオニオンやら鳥の照り焼きやらを挟んだ美味しい昼食を頂き始めた。
「あ、ジルも食べるなぁ〜ん?」
 丁度近くに居た深雪の優艶・フラジィル(a90222)に勧めてみると、彼女は驚きと喜び混じりに「うひゃあ」と声を上げながら嬉しげにサンドイッチを受け取る。空腹も満たされ、ぽかぽかの陽気の中で過ごし、訪れる睡魔を振り払おうと頭を振っていたタムの鼻先を突然、黒い艶やかな影が通り過ぎた。黒蝶がひらひらと飛び交う様を見、タムはうっとりと顔を緩める。
「……綺麗なものなぁんね……」
 珍しく美しい黒蝶を前に、待っていました、とばかりにキュアキュアブルー・キイン(a59447)が駆け出した。両手を蝶に伸ばして、蝶と戯れる。
「ちょうちょ〜ちょうちょ〜」
 誘われたフラジィルもキインと一緒になって歌いながら追いかけっこに没頭した。春らしい可愛らしい色合いをした服の裾がふわふわと揺れるのを見て、得をした気分になったタムは本に集中する振りをしながら満足げに笑む。マッシロも楽しげに遊んでいる様子をのんびりと眺め、幸せそうに肩の力を抜いていた。蝶を掴まえるつもりが無いらしい皆を見て、ギンセツは小さく安堵する。舞うからこそ蝶は美しいものだと、一時を惜しむように目を細めた。
「何だか、優しい気持ちになるなぁ……」
 心が和む環境の御蔭か、目蓋が段々重たくなる。トロンは蝶を眺めながら、太陽の光を吸った草原に寝転がった。蝶を驚かせることの無いよう輪から少し離れながら、シキは小さな小さな声で、「ありがとう」と今日と言う日への感謝を紡ぐ。
 リーゼとリリアは二人で庭を散歩していた。綺麗な蝶だと語りながら歩き回るも、リーゼの悩みは自分の方が背の低い点だ。そろそろ茶会に向かおうと彼女は誘い、私がお茶を淹れてあげる、と約束する。嬉しげに頷きながら、リーゼはシルクに伝える言葉を考えた。照れ臭い気もするが、過ごして来た時間は自分たちを大きく成長させていたのだとも思う。今日までの御疲れ様と、此れからの宜しくを届けようと白いテーブルと椅子が並ぶ庭園の片隅へ向かった。

●仲良く御茶会
「妾、こんなの初めてなのじゃ!」
 キインは青い瞳を輝かせて、黒い蝶が飛び交うティーパーティーを見遣る。用意されたカップを人数分揃え、並べた茶菓子を運び、ちょこちょこと手伝いに勤しんだ。気合を入れて頑張っていることを指摘されると、キインは顔を真っ赤にしながら、別にすっごく喜んでいるなんてことは決して無いのだと鼻を鳴らして否定した。しかし正直なところ、微笑む団員たちと舞い飛ぶ蝶たちに囲まれて、春の日向でお茶を飲むなんてまるで夢のようだと思う。
 ギンセツも優しげな春の陽射しに笑みを零しつつ、何故か深い沼を思わせる青緑色の液体をカップに注いでいた。気付いた者も自ら危険に近付くことはせず、敢えて不思議な現象に触れることは無い。
「御砂糖は幾つでしょう。ミルクは要りますでしょうか」
 甲斐甲斐しく働くシャナに対して、リジュトは両手を元気良く挙げ、自分の希望を伝える。
「ボクは20個なのだー! ミルクもたっぷりなのだよー」
「ぼ、僕も砂糖を20個入れて貰えると嬉しいな!」
 後先を考えず良く判らない対抗心を燃やしてフロウも続いた。シャナは驚いたように瞬きをしながら、申し訳程度の紅茶を注いだカップの中から20個の角砂糖が食み出している良く判らない飽和したものを二人に提供する。
「あれ、砂糖多い? そんなことないよねぇー」
 美味しいから良いよね、とリジュトは「砂糖を入れたミルクティー」と言うより「砂糖にミルクと紅茶を掛けた代物」と表現すべきだろう飲料を美味しそうに飲んでいた。黒蝶館で過ごした時間の長さを思い返し、テーブルを囲む皆を見回して、「これからも宜しくね」とにっこりする。シャナは柔らかく微笑むとシルクに紅茶を勧め、今日の企画を含めた此れまでを労い、今後に対して頭を下げた。
「手の掛かりそうなお花も植えましたし、偶に見に来たほうが良いかもですね」
 咲いた花弁を乾燥させ、紅茶の上に浮かべるのも楽しいのでは無いか。そんな未来を夢想して、シルクは満面の笑みを浮かべた。団員たちと共に遊び、珍しく美しい蝶を見、穏やかな休息を得る。
「わたしは団長として、とっても嬉しいです♪」
 シルクは話を持ち込んだフラジィルと、付いて来てくれた団員たちに心からの礼を言った。皆が大好きです、と声を弾ませる彼を見遣って地を駆ける金狐・シャンティ(a48412)も嬉しそうに微笑んでいる。理由は勿論、シャンティもシルクが大好きだからだ。
「館に帰ったら、また、いっぱい遊んで、いっぱい御話しましょうね」
 団長の誘いに、団員たちは当然のように頷いた。
 黒蝶館の春の戯れは賑やかに幕を引く。


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参加者:14人
作成日:2007/04/19
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