大庭の鍵



<オープニング>


 恋をした。
 私はセイレーンである。
 彼女もまた、セイレーンである。
 なればこれは、数ある気紛れの一つやも知れぬ。
 さりとて、今、彼女を想い焦がれる心に偽りもなく。
 私はこの気紛れに、心身を砕こうと決めた。

 恋多くも、私はそれが得意ではない。
 故に私は、不器用なままに、心を打ち明けた。
 すると、彼女は言ったのだ。
 欲しいものが『三つ』ある。
 見事揃えたならば、想いに応えよう、と。

 それは恐らく、断る口実。
 しかしながら、恋とは厄介なもの。
 彼女の為に何か出来るならば、それもまた一興。今の私は、心からそう考えている。

 手段は問わぬとのこと。
 故に、貴殿に助力を請う。

「……と、事の発端は、この便りだ」
 読み上げた手紙を卓へと広げ、紺碧の子爵・ロラン(a90363)は興味を持った表情で自らに注意を向けた冒険者らへと、視線を投げ返した。
「概要は……もう見当がついているだろうが、『彼女』が望むものを探す、その手伝いをすること」
 差出人は、壮年の男性貴族であるという。
 一方の『彼女』は……うら若き、どころか、年端も行かないといった方がしっくり来るほど、見た目が若いらしい。諸事情あろうし、深くは詮索しないが、『彼女』にしてみれば、おじさまは好みじゃないわ、といった所であろうか。
 閑話休題。
「さて、諸君には……『彼女』が望む三つのうちの一つ、『大庭の鍵』を探す手伝いをして貰いたい」
 彼女の住まう土地の端に、使われなくなって久しい屋敷が一つある。
 いつ頃から人の出入りがなくなったのか、それすらも定かではない、古い屋敷。
 一説――彼女の周囲での噂話――によれば、屋敷の自慢であった『大庭』へ出入りする鍵が失われたため、人足が遠のき、次第に屋敷は衰退していった……らしい。
 口伝によれば、四季折々の花が咲き乱れ、芳しい香りに包まれた中を蝶が舞い踊り、幻想的ですらあったそこは、まるで別世界のように素晴らしい場所であったという。
 流石に、今はもう時と共に荒れ果て、見る影もないだろうが……
「鍵のありかは、皆目見当がつかない……『彼女』はそう言っているそうだが」
 恋を楽しむのも、セイレーンの嗜み。
 今回の駆け引きを楽しむつもりであるなら。或いは、『彼』に応えるつもりがさらさらないとするならば。『彼女』はより困難な状況へ、『彼』を導くはずである。
 本当に知らないからこそ、この難題を突きつけたのか。
 それとも、知っていて、見つからない自信があるが故の要求なのか。
「『彼女』の言葉自体の真偽も、吟味しなければならないだろうね」
 何にせよ、こちら側には、何の手掛かりもない。
 兎も角、『彼女』が有しているのは、先に出た朽ち果てた屋敷と、彼女自身が住む屋敷が一つ、そして、すぐ隣にもう一軒、渡り廊下で繋がった、離れの屋敷。
 母屋一階は、玄関ホール、厨房、食堂、客間、使用人の寝所・寄り合い所、執務室、倉庫。
 母屋二階は、多目的大ホール、来客用寝室、衣装室、そして、離れへの渡り廊下。
 離れの一階は、『彼女』の趣味の部屋……らしい。聞く所によれば、彼女は『靴』と『宝石』、『刀剣』が好きだそうで、もっぱらそれらの収集・保管室になっているそうだ。
 そして、離れ二階には、『彼女』の寝室・私室がある。
 建物に囲まれた庭には、中央に噴水、煉瓦を埋め込んだ通路の周囲には、小奇麗に刈られた緑が規則正しく並んでいる。
 問題の大庭がある古い屋敷に関しては、最早人の出入りがないのでよくわからないが、別段変わった造りではかったと言われている。
「屋敷の中への出入りは自由だ。ただし、『荒らす』ような真似はしないのが賢明だろうね。手段は問わないとは言っているが……先程の私の言葉、覚えているかい?」
 『彼女』の言葉自体の真偽も、吟味しなければならない。
 節度と礼節。
 これらは、心証の面に於いても、常に心にとめておかねばなるまい。

 硬く厚く閉ざされた、大庭の門。それを開くことが出来れば――彼女の心への扉も、やがて開かれるのかも知れない。

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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
紅き片翼・エフォニード(a20102)
残骸・トウヤ(a21971)
銀蟾・カルア(a28603)
気まぐれを紡ぐ蒼・カノン(a39006)
怪獣王使い・ラウル(a47393)
アベノ・メディックス(a49188)
透深の詩人・フィーネ(a51029)
踊る子馬亭の看板娘・ニケ(a55406)
邪封の巫女・マコト(a60977)


<リプレイ>

●扉
 春の花咲き、香る石畳。
 紳士ははたと足を止め、窓越しに見下ろす愛しの君へ、名残惜しげに振り返る。
 その耳に甦るは、紅き片翼・エフォニード(a20102)の言葉。
「……貴方の態度が、一番想いを伝えるのでは、と。……勿論、我々も全力でお手伝いします」
 背高帽の鍔摘み、目深に被って踵を返す。
 共に向かう者らの後を追い、『彼』は石畳の庭を後にした。

●彼女の言葉
 大庭へ向かう姿が見えなくなってから、『彼女』は室内――残った者らへ、視線を巡らす。
 瑞々しく波打つ青の髪を揺らし妖艶に微笑むのは、年端も行かぬ……思わずロリ以下略なんて単語が過ぎるのはさて置き。
 仕草は大人びても、容姿のせいか拭えぬ違和感。これぞまさに『おませさん』といった所。
 何にせよ、事件の鍵を握るのは目の前の娘。
 どんな答えが返ってくるものか。邪封の巫女・マコト(a60977)は先ず始めに、こう問うた。
「鍵が無くなった頃のことを覚えていますか?」
「さあ」
 曖昧な返事。月下残影・トウヤ(a21971)は指先で髪を弄ぶ彼女の様子に、じっと注意を払う。
「無くしたのはお母様なの。いつの間にか大庭に行かなくなって。私はお花に興味ないから、ほっといちゃった」
 その母も、今はもう故人だとか。
 左様かと頷く、アベノ・メディックス(a49188)。そして、すばり問う。同種族・同性なれば、多少であろうとも信頼して貰えるやも知れぬ、ささやかな期待と共に。
「鍵はどのような形容であったか?」
「形は普通。大きさは掌くらい? いつも開けるの見てただけだし」
 髪を弄びながら紡ぐ言葉。書き留めていた、鈍色銀糸・カルア(a28603)はふいと顔を上げた。
「お母様が最後に大庭に入った時期は?」
「判んない」
「母君から、在り処を尋ねられたりも?」
 確認するように、トウヤが口を開く。
 すると彼女はそういえばと小さく漏らして、髪を指先に絡み付けた。
「一回だけ。知らないって言ったら、そう、って。もう何十年も前だよ」
 何十年。
 やはり長寿の種族。過ごしてきた年月を外見から量るのは難しい。
 ただ……思い出すようなその素振りに違和感が拭えないのも事実。
 と、そんな目の前に、駆け抜ける疾風・ラウル(a47393)から差し出される羊皮紙。
「こんな鍵でしょうか?」
 そこには、今までの話を統合し描かれた、『鍵』の姿があった。
「うん。上手ね」
 髪を指に絡めたまま、薄く眼を細めて、口元にだけ淡い笑みを浮かべる。
 ……やはり、この歳ですると、妙な仕草。
 だがこれで、彼女の言う『鍵の形』は確認が取れた。
「では私は母屋の各部屋を回るとしよう」
 何かあれば『大庭の門前』に。復唱し、メディックスは皆の顔を視線で一巡した。
「では、散会!」

●大庭の門
 風に乗る香りは淡白に。
 花の面影もなく、漂うは濃緑と土の匂い。
 使われなくなって久しき屋敷を、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)が迷いなく進む。
 彼女は一体、どのような想いで三つの品を所望したのか。
 思い巡らせながら、施錠もなく容易に開く扉を幾つも潜り、目に付いた箪笥の下、絵画の裏など、片端から覗いて回る。
 見える場所は綺麗なのに、引出しを開けると、隙間から入り込んだ埃が砂のように積もり、溜息を零しただけで一斉に舞い上がる。
 その部屋の中にも、貴重品は殆どなく。中に隠れているのは、文房具や生活用品など、当り障りのないものばかり。
 ふと手を止め窓の外に眼をやると、ラジスラヴァの瞳に、大庭を塞ぐ大門前に集う、『彼』を含めた数名の姿が映った。

 屋敷の門、というと、忍び返しのついた格子状のものを真っ先に想像するが……今目の前にある門はどうだ。
「おっきな『盾』みたいなの」
 体ごとを天に逸らせ、勝利の女神・ニケ(a55406)がびっちり填め込まれた真鍮の門を見上げる。
 表面には複雑な紋様。鈍い黄色に緑の蔦が這い回る様は、遺跡の扉といって通用する趣だ。
「対になってるとしたら……鍵もきっと真鍮製だと思うの」
 屈んだり、背伸びしたり。草葉の隙間に見える門を、一生懸命に覗き込む。
 そんなニケの様子……よりは、腕組みして想い巡らす『彼』の方に投げていた流し目のような視線を、気まぐれを紡ぐ蒼・カノン(a39006)が獣達の歌と共に正面へと引き戻す。
「ねぇ、君達? どっかで鍵穴見なかった?」
 すると小鳥達は連れ立って、門を覆う蔦の一点へ。
 ここにあるよと言われ、歩み寄れば。
「完全に入り込んでるねぇ……」
 この草を退けるのは……面倒臭い。
 ここは皆に頑張って貰っちゃおう。
「鍵穴ここだってさ」
 そんなカノンの思惑は露知らず、発見の報を聞いたエフォニードが、早速草を掻き分ける。
「大きいですね」
 徐々に現れた暗い空洞……それは、薄い菱形。
 直様に紋章筆記で様子を日記へ書き留める……その背面に足音。
 振り返れば、散会した合間に足を運んできたトウヤとラウル、そして、透深の詩人・フィーネ(a51029)がいた。
 かっては一体どんな素敵な庭だったのだろう。
 フィーネが巡らせた瞳に映るのは、天辺に茨の如き鋼の返しがついた、分厚い石壁。壁は門に負けじと反り立ち、ぐるりと庭を取り囲む。
「これが鍵穴ですか?」
 皆して覗き込む菱形へと、トウヤもまた視線を合わせる。ラウルは、羊皮紙を皆の前に広げ。
「……普通って感じの穴じゃないよなぁ」
「この形で、断面が菱形なの?」
「真中が分厚いなら、上下に鍵山を付けないと、回し辛いはず」
 やはり『彼女』の言葉は嘘なのか。
 暫しの観察の後、遅れて来た三人と入れ違うようにして、他の皆は本邸へ。
 門前に残り、フィーネは一先ず、辺りを飛ぶ鳥達へと獣達の歌で問い掛ける。
「中の様子を教えて貰えませんか?」
『草が一杯』
「最近、中に誰か居た事は?」
 居た、という返事に、一瞬心が湧いたものの……それは猫やカラスのことらしかった。
 しかし、住み着いているならば、何か知っているかも。
 フィーネは鳥達の言葉を頼りに、屋敷の裏手へ。
 その間に外壁の一周を終えたトウヤは、勝手口や隠し通路などがないのを確認してから、粘り蜘蛛糸を投射、軽やかに門の頂上へ。
 ラウルも粘り蜘蛛糸を集めて手足にくっ付けると、屋敷の壁へと取り付く。
 上からの景色は確かに、フィーネが聞いた通り草木生え放題の荒れ模様。ただ、僅かな面影を残すように、ちらほらと花の姿が見て取れた。
 身を翻し、大庭の中へと降り立つトウヤ。内側には開いたままの大きな閂。外から鍵をかけてそれっきりなのだろう。
「内側に鍵穴はなし……外からしか開閉できないのですね」
 ラウルもまた屋根の上から大庭を見下ろす。
 何か辛い思い出があって見たくないのか、本当に興味がないだけなのか。
 そんな眼下。無事、猫との邂逅を果たしたフィーネの獣達の歌が、静まり返った屋敷の周囲に、緩やかに流れる。
「……そうですか。有難う御座いました」
「どうだった?」
 歌が終わったのを見計らい、屋根から降りて声をかけるラウル。トウヤも丁度、再び門を乗り越えた所だった。
「特に変わった物が落ちていたりはしないそうです。カラスさんとのお付き合いも長いそうですが、そういった話は聞いていないと言ってました」
 カルアが考えていた可能性の一つ、『閉めてから投げ込まれた』線もなしということになる。
 屋敷内はラジスラヴァが既に探索済み。念の為にトウヤが土塊の下僕を使って再探索させたが、結果は同じだった。
 となればやはり、鍵は本邸にあるということに。
「戻るか」
 詳細に描いた、今の大庭の風景画をくるくると丸め、ラウルは今一度、本邸へと足を向けた。

●面影
 水飛沫涼やかな噴水前。
「きらきらしたものか、さびているものをみつけたら、もってきて、ニケに見せてくれるかな♪」
 喚ばれたばかりの土塊の下僕六体は、言われた通りに植え込みの中へ。
 その間に、ニケは表門まで引き返すと……また新しく六体を召喚、横一列に並ぶ。
「一緒に歩いてくれるかな♪」
 かつかつ、こつこつ。煉瓦敷きの庭を行軍する一人と六体。
 がたつきや新しい煉瓦を見つければ直様停止、鍵が隠れていないかを、その都度に調べて回った。
 そうして庭を動き回る間にも屋敷を見上げ、窓や壁の景色に、異変がないか……

 ……ふいと、窓に映る全身鎧。
 鎧聖降臨を掛け直し、軽やかなドレス調に再構築、メディックスが華やかにしつらえられた部屋を回る。
 使用人らはいつも通りのお勤めを、いつも通りにこなしている。
 そんな使用人らに遭遇するたび、メディックスは僅かなりとも情報を得る為、積極的に話し掛ける。
 これも全ては、依頼完遂の為。
 HGV様の名の下に!
 なお、HGVはヒューマンガードベントの略らしい。
「つかぬ事をお聞き致すが……」
 さてしかし、使用人達は代替わりの際に一新されたらしく、当時に詳しい者は皆無に等しかった。
「そうですか……」
 フィーネの方も、人から得られる情報は似たり寄ったり。
 ただ、一人だけ。
「お館様と、先代様は、仲が宜しくなかったと伺っております」
 今まで何故、門を開けようとしなかったのか。心当たりがないかを問うた言葉に、初老の執事だけがそう返した。
 流石に、彼自身も後から職務に就いた身で、それ以上の情報は得られなかったが。
 暫し思い巡らせ、フィーネはぽつりと零す。
「お母様を思い出すから、開けたくないのでしょうか」

 廊下で、庭で、部屋で。顔を合わせる毎に、皆は新たに得た情報を交換し合う。
「母親か。恋愛関係かと思ってたぜ」
 フィーネの話に、ラウルが納得したように頷く。
「残るは離れのみであろうか」
 先にメディックスが訪れた時は鍵が掛かっていた。使用人に尋ねても、許可がなければ駄目だと言う。
「さて、如何様にして踏み入ったものか」
 思うその目に飛び込んで来たのは……眩い光。
 ホーリーライトを頭上に浮かべ、床壁天井、余す事無く照らし出す。
 鍵が填め込まれていたりしないか。それは、皆が探さない場所を重点的に捜索するニケだった。
「ニケ氏、手応えは如何に」
 応えるように差し出される、錆びた鍵。
「植え込みに落ちてたの」
 しかし、それは菱形でもなく、極普通の物。
「……違いますね」
「でも一応見せてみるか」
「ニケはもうちょっとお屋敷巡ってみるね」
 彼女の元へ向かう三人に鍵を預け、ニケは再び光と共に、廊下の角へ消えて行った。

●彼女
 読み通り、というべきか。
 エフォニードがわざと堂々と持ち込んできた真紅のチャクラムに、彼女はずっと興味津々。
 そのお陰もあってか、会話も弾み……ただ、情報を聞き出す為といえカノンが親しげに会話をしている姿と、
「あの人結構俺の好みなんだよね〜」
「あは。要る?」
 冗談めかした遣り取りに、彼が複雑そうな顔をしていたが。
「でも、どうして鍵が欲しいの?」
 庭には興味がないのに。カノンは首を傾げる。さっきラウルが見せた庭の風景にも、余り興味を示す様子はなかった。
「丁度良かったし」
 単なる試練か意地悪か。悪びれるでもない彼女。
 そんな彼女は中々離れに人を入れようとしない。
 彼女立会いの元で調査を……ラジスラヴァも思いはすれど。
「私の部屋なんだから、ないのは私が一番知ってると思わない?」
 尋ねても、つん、とした様子で、髪先を指に絡めるばかり。
 その時に、トウヤは気付いた。
 あれは、嘘をつくときの癖なのだと。
 鍵は離れにある。マコトの中にも確信めいた感情が育つ。
「貴女の心の鍵を探しているのだ」
 フォローするようにエフォニードが言った言葉に、上手いこと言ってと笑う彼女。
 傍に着いて会話を交わしてきたのは、決して無駄ではなかった。
 この一瞬を見計らい、カルアはすかさずに切り出す。
「実は今日、北方の女王から賜ったサファイアを持ってきたんだ」
 途端に彼女の目の色が変わるのが、その場にいた全員に判った。
 それは興味を惹く為にとカルアが道すがら話していたもの。さっきは途中で会話が途切れてしまったのだが。
「見せて見せて」
 興奮して、歳相応にはしゃぐ彼女。
 そこですかさずトウヤも仕掛ける。
「おや、珍しいのですか?」
「まぁね。でも、もっと凄いのあるし」
「それは是非、拝見したいです」
 見栄を張るような言動に、マコトも間髪入れず入り込む。
「いえ、私もそういった品に興味があるものですから」
「凄いよね、俺こんなのしか持ってないよ」
 更にカノンが持参の青い宝石を手元で弄べば、彼女は俄に、くるりと身を翻した。
「ちょっとだけ見せてあげる。絶対びっくりするんだから!」
 自身満々な様子で、彼女は遂に、離れへと歩みだした。

●鍵
 離れは、光っていた。
 『刀剣集め』と聞いて最初は訝しんだものだが、こうして現物を見ると。
「きらきらした物が好きなのですね……」
 ぴかぴかに磨かれた刀身。
 周囲には宝石や靴がディスプレイされ、博物館か何かと見紛う程。
「凄いでしょ」
 得意げに、品の由来や曰くを語る彼女。
 ……もっとも、許可もなく一歩でも進み出ようものなら、物凄い形相で阻止されたが。
 この中のどれかが。
 聞き手はカノンとラジスラヴァに任せ、他の皆は睨めるようにして一つ一つを確認し、手掛かりを探す。
 断面が菱形で真鍮の鍵。
 ……菱形?
「『刀剣』ですね」
「真鍮製の、か」
「こんな模様の」
 エフォニードが門の紋様を書き写しておいた紙を広げた。頷いて、トウヤは彼を促す。
「探しましょう。『鍵』はもうすぐそこです」

 その瞬間、メディックスは思う様に拳を振り上げた。
「討ち取ったり!」
 ……何か違う気はしつつ。
 突如あがった勝ち名乗りに、彼女が驚いたように振り返る。
 そこには『彼』が居て、その手の中には一振りの短剣。
 途端に、彼女の瞳が見開かれる。
「あの方はとても貴女を想っている……だから、ああして奔走している」
 エフォニードがそっと囁く。
「……そんな風に想って下さる方と、素敵な恋が出来たらとても幸せだ、と……思いませんか?」
 わたしにも大切な方が居る、ですから……
 微笑と共に彼女の背を押す。
「麗しの君。所望の品を此れに」
 ゆっくり引き抜かれる短剣。
 そして現れたのは、真鍮製のソードブレイカー……そっくりの、『大庭の鍵』であった。
「あーあ、ばれちゃった」
 ぺろっと舌を出し、彼女は困った表情で鍵を受け取った。

 後日。
 他の二つの品の獲得にも見事成功、『彼女』は約束通り『彼』とお付き合いをする事となった。
「飽きたらばいばいだからね」
 とは、彼女の弁であるが、現在は存外に宜しくやっているそうである。
 ……ちなみに、その真の原因というのが、エフォニードのこっそりハートクエイクアローと、カノンの放蕩の宴合わせ技一本討ち取ったり、のせいなのだが、本人達がそれを知る日が来るかは、神のみぞ知る。


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