<リプレイ>
●雪国の夕食 「金平も酢味噌和えも初挑戦なジルなのですが、そうまで言われて引き下がる訳には参りません」 久し振りに会ったヴィンが「ジルちゃんの料理が食べたい」と強請ると、何と解釈したのかフラジィルは瞳に闘志を灯すのだった。兎にも角にも了承してくれたらしい彼女を見て、彼も嬉しそうに独活の皮を剥く。 雪に閉ざされたこの地の人々は、さぞ心細い思いをしていただろう。緑も鮮やかな春の若菜を型崩れしないよう気遣って煮込みながら、フラレは七草粥を作っていた。暖かい食事が村人たちに春を感じさせてくれるよう願う。ラトレイアは食べ物を前にはしゃぐ小さな白狐を抑えながら、自分も少しだけ摘み食いをした。見つけられると不器用な誤魔化し笑いを浮かべながら、でも美味しかった、と感想を語る。 アキュティリスはさらさらと食すことが出来るよう、お茶漬けを用意することにした。醤油漬けの鰹、塩茹でし味噌で味を付けた蕗の薹、青じそ生姜に胡麻、更に細かく刻んだ蕗と肉を生姜醤油で炒め合わせたものを全て御飯へ丁寧に塗す。最後に昆布、椎茸、鰹節から取った琥珀色の出し汁を掛けて頂くのだ。甘い玉子焼きや味噌汁、自家製の沢庵、そしてほんのりと焼いた海苔を添えることで、彼女の料理は完成する。村人たちも間違い無く大喜びしてくれることだろう。 菜の花と鰆をつかった炊き込み寿司などを作りながら、ロードはこっそりと桜を遣ったゼリーを用意した。彼が喜んでくれれば良いと内心で小さく期待しながら、雪の中に冷やして置く。食事の時間までは未だ間もあるとカムイは微笑んで温泉に誘った。可愛らしい彼女を凝視しないよう注意しなければ、と心の綻ぶ思いで居る。 皆の調理を手伝い終えたヴェルシオがまさかと思い警戒していたところ、真紅のアイマスクを付けた怪しげなマイバーンが遠眼鏡を片手に温泉へ向かう場面へ遭遇した。取り合えず、足を引っ張ってみることにする。何事も起こらない平和な女湯では、眼鏡が曇って視界を阻まれたアスカがつるりと湯の中で転倒した。タオルで身体を押さえる彼女を助け起こしつつ、ウィンスィーは二人で大きくない家族風呂に浸かれる幸せを噛み締める。偶の時間はゆっくり、大切に過ごしたいものだ。 甚平型の湯浴み着に袖を通し、男性用大浴場に足を踏み入れたノヴァーリスは感嘆の息を吐いた。何やら皆、混浴が好きらしく男湯は彼が独り占め出来そうだ。金髪の見えないことを残念に思いながら、湯の花を掌で掬い、物珍しそうに鉱泉へ浸かる。
●雪原の湯治 「いや、つい、じゃれたい気分になったんだ」 ヴィトーは目を逸らして言い訳に勤しんだ。頬を突かれたサタナエルは逃亡を許さず、無言で彼の頭を此れでもかと撫でる。彼女の水着が良く似合っているだとか、皆に視線を向けて打算の無い褒め言葉を向けながら、ベルーは仲間と過ごすひとときを喜んだ。大き目の家族風呂を友人ばかりで占拠出来ると言うのも稀有な体験なのだろう。 「……とても、良いものですねぇ」 微笑ましい彼らの遣り取りを含め、まったりと寛ぐ時間が何よりの至福だとゼランは思わず頬を緩める。リリクスの隣に腰を下ろして、良い御湯なのです、と満たされた様子で身体を伸ばした。何とも言えず和みの溢れた空間で、ヒイラギはそっと恋人の肩に頭を預ける。折角の休息ならば思い切り甘えても良いだろう。水色の湯浴み着を纏ったフィオは、彼女が可愛くて仕方の無い様子で、何度も彼女の頭を撫でた。 一方で赤褌一丁のジンは、混浴に浸かることを了承してくれた彼女の愛に背を押され、今夜は積極的に出ることにした。愛を叫びながら飛び掛るように抱きつこうとするが、 「って、イキナリ何すんじゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」 白い肌に指が触れる寸前、夕食に想いを馳せていたチトセの拳で迎撃され、已む無く澄んだ湯に沈む。女の子の数が少ない混浴の稀少な華やかさを追い求めながら、親しい女性が横に居てくれれば最良であろうにとレナートは独り身を嘆いていた。 「……どうやったら、そんなおっきくなるの?」 繊細な胸元に手を当てつつ、ヤイバは大真面目な瞳でベアトリーチェに問い掛ける。王女は「うふふ」と擽ったそうに笑うばかりで答えてくれない。彼女がのんびりと羽を伸ばしてくれることは有難く、今後も何かの折に役立てることがあればとアニエスは目を細めた。彼女は案外と外出好きなのかも知れない。そう言えばグランスティードに騎乗したのは初めてだと喜んでいた気もする。余り率直に言われると照れてしまいます、などと頬を赤らめて小さく俯いて見せてもいたが贈った浴衣も大層喜んでくれたようだとフレッサーは安堵と喜びを感じていた。 「エテルノさんは如何言った縁で、こんな山奥の村を知っていたのかなぁ〜ん?」 皆が入浴を楽しんでいる頃、トロンボーンは連れ出した馥郁たる翠楼・エテルノ(a90356)に問い掛けている。彼は何やら合点の言った様子で頷いて、「ロズ君……霊査士の弁ですよ。申しませんでしたか」と愛想良く微笑んだ。雪道を軽く散策し、食堂にと提供された座敷へ戻れば、既に宴は始められている。
●雪消の食膳 重量を誇る酒瓶を幾つも並べてイグニースは村人たちに酒を振舞っていた。ひとりひとりに分けてしまえば酔いの回る程度にも足るまいが、身体と心は温められてくれるだろう。鎖す雪が消え行く日を祈り、人々の笑顔に心を安めた。ファオも気を張らずに村人たちと世間の話を交わし、穏やかな夕べを過ごしている。 自身の故郷にも未だ雪の残る季節だろうかと過去へ想いを馳せながら、寒冷地に届く冬の苦労を、そして迎えた春の景色をロスクヴァは村人たちと語り合う。黄色い菜の花が鮮やかなグラタンから春野菜と鰆を掬うエテルノを見、ふと料理の好みを尋ねてみた。彼は僅かに首を傾げてから、人の心が篭められた料理が何より好きです、と柔らかく笑む。 「えっと、エテルノさんも宜しければ食べてくださいなの」 子供たちと戯れていたアユナも彼の帰還に気付き、春キャベツを使いトマトソースを絡めた皿を差し出した。湯気の立つロールキャベツを受け取ったエテルノは、嬉しそうに瞳を細め、有難く頂きますと頷きで答える。春を目一杯に詰め込んだ自作の料理を提示しながら、メローは期待の眼差しを彼に送った。エテルノは楽しむように睫毛を緩く震わせた後、何を拒むことも無い仕草でピッツァの一切れを取り上げた。山菜が独特の苦味を齎し、野菜の柔らかな甘さを引き締めるように、風味豊かな花山葵がぴりりと舌を刺激する。エテルノは確りと飲み込んでからにっこりと笑んで、「大変美味でした」と感謝の言葉を口にした。 「はさみ揚げは、趣の違った二種の食感を楽しむことが出来る料理であると思う」 特に春と言えば筍だ。収穫直後に食べるほど味が濃いと言う山菜は、茹でても焼いても揚げても良い。もぐもぐと春の美食を咀嚼して、アレクサンドラは舌鼓を打つ。 「揚げることでより歯ごたえと風味の増した筍、その間に挟まれた海老のぷりっとした歯ごたえに つくねの深く……何処か爽やかな味。いやいや、実に美味だ」 「生姜を入れてみたの。さっぱりするでしょう?」 更に山芋を加えることでふっくらとした食感が生まれるのだとレインが答える。彼と久し振りに食事を共に出来ることが嬉しく、腕を揮った甲斐を感じた。窓の外に見える雪景色から意識を戻し、フィーネは彼女が用意して来た柔らかいのにさくさくと衣が踊る力作、筍の天麩羅を機嫌良く食しているエテルノを見遣る。 湯掻いた蒲公英の葉と鶏挽き肉と豊潤なトマトソースを幾層にも重ね、蕩けるチーズで表面を覆った料理は何処かラザニアを思わせた。太陽を思わせる金盞花の花弁は、鼻に抜ける香りで味を引き締める。イヴァナは不安そうに彼の顔色を伺うが、エテルノは先ず驚いたように軽く瞬きをした後、とても幸せそうな満面の笑みを浮かべて見せた。 「食事中で無ければ、感謝のキスでも贈りたいところですよ」 手の込んでいる料理はとても好きです、と彼は素直に食膳を喜ぶ。
●雪山の寒夜 「……大丈夫?」 気遣いと共に差し出された手を取り、メロスは白い息を吐く。 「春はもう、なんてこの風景の中では夢物語よね」 所謂現場には辿り着いたものの、再び雪崩は起こるか否か、その兆候が何処に現れるのか判らない。村に戻った後、絶対に再び温泉へ入ろうと心に決めた。しかし悪くないと思える辺り、自身と彼が苦労性であると言う事実を認めざるを得ないようだ。 「雪を踏み締める音だけ聞いて歩くのも悪くないね」 彼女の想いを掬い取るようにハルトは呟く。世界に二人だけになったようだ、と声を抑えた。流石に直接雪崩の被害に合う可能性の高い位置には村を作らなかったらしい。村から出さえしなければ冬の間も安全だろうとユーティスは判断し、身体の冷えと鈍い疲労に首を竦めた。 人里離れた位置に村の存在する意味を悩みながら、レーンは冴える夜空の蒼い月を見遣り風情を覚える。そもそもが雪崩の起きた原因にも不審を抱くが、此処よりも山頂へ調査に赴くならば用意が必要に為りそうだ。出来れば現場の除雪も手伝いたかったが、ラングひとりでは何も変わらないように思える。雪原に雪崩て落ちた雪の山を片付けるなど、雪融けを待つ以外の手では如何な冒険者と言えど果てが無い。 ぐるりと村の外を見て回ったが、全てが白く道に迷ってしまいそうだ。数名の冒険者が霊査材料になりそうな物品を持ち帰るつもりらしい様子に、ガルスタは助けの手を思案する。アカネは村人たちに用意して来た燃料を分け与え、点在する家々を巡っていた。何か手を貸せることは無いかと尋ね廻っていたエルサイドは、散歩に出るらしいエテルノを見つけて、彼が好きだと言う冬の花が咲いていたと声を掛ける。 「いえ、別に。……嗚呼、厭わしくはありませんよ」 身に覚えの無いらしい彼は柔らかく微笑むと、楽しげに駆けるシュナを追って緩い歩調で雪原を進んだ。汚れの無い白雪は耳が痛いほど静謐な冬を作り出す。演奏会でも開けば皆は喜んでくれるだろうかと首を傾げながら、彼女は小さな雪だるまを二つ並べた。エテルノはしゃがむ彼女を覗くように見下ろして、器用ですね、と笑みを深める。 春の兆しを探しに部屋を出たリンは、白く輝く月の下、淡雪のような風に踊る白梅を見て深々と頭を下げた。聖花祭の日を思い起こして紡がれた感謝の言葉に、私が君と過ごしたかったんですよ、とエテルノは鮮やかな笑みで返答する。彼は「御自愛ください」と囁き足して肩から外したマフラーを、彼女が凍えることの無いよう、白い首にぐるりと巻いた。 雪の重みに耐え切れず折れ曲がった枝を見上げ、雪景色に溶け込む長身の男へ声を掛ける。雪月花が趣きの極みならば花見を所望したいところだ、とエフェメラは自身の吐息を目で追った。雪見酒の誘いをエテルノは微笑で承諾し、勧められた杯には緩く首を横に振る。 「今宵、私は君の美しさで酔いましょう。君の横顔は白い夜に良く映える」 穏やかな休息は芯まで冷えた雪深い山の奥で一夜生まれた。 待ち望む彼らの春は、雪間に咲く蕗の薹のように、すぐそこまで顔を覗かせている。

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参加者:45人
作成日:2007/04/27
得票数:ミステリ3
ほのぼの30
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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