【少女華道師範セイ】光雫草(こうだそう)は病を医すも、の巻



<オープニング>


 葵桂の霊査士・アイ(a90289)の表情は明るくない。
「諸君らもきいていると思うが……セイ殿の病状はおもわしくないようだな」
 華道の師範セイは先日、喀血し昏睡しているところを発見された。病名は不明、その後の容態もけっしてよくない。意識こそあれどときおり激しく咳きこみ喀血をくりかえし、高熱もつづいている。星華流の弟子たちがつききりで看病しているが、日に日に衰えているという。
 若い身でありながら、父の死後師範代という重責をつとめ華道流派を独力でやりくりしてきたこと、責任感が強すぎるあまり、あらゆることを自分のせいにしてしまう性格、さらには近日たてつづけにおこったいくつかの事件などがセイの身を蝕(むしば)んでいたことは想像にかたくない。それが病というかたちで一気に表面化したと思われた。
「それで、今回の話というのはだな……」
 というアイを押しのけるように、若い男が割って入った。
「お願いだぁ! ボクのセイちゃんを救ってくれえ!」
 その顔をみて驚くもの、反射的に剣に手をやるもの、「ボクの」とはなんだと憤るもの……冒険者の反応はさまざまであったが、その大半は「かれ」の顔を知っていた。
「ボ、ボブ!」
 そう、かれの名はボブ、くわしくは本シリーズの第一回などをご覧いただきたいが、セイに一方的に熱をあげ悪だくみをこらしてきた(そして冒険者に敗れ去った)男であった。それが依頼にくるなどと、どういう心境の変化か?
 ボブは非常に情けない顔をしていた。もともとの顔はイヤミっぽいものの美形ではあるのだが、いまはすっかり取り乱し半泣き、いや、すでに涙声であった。鼻水までたれている。
「こ、こんなところにノコノコ顔をだせる立場ではないのはわかってる。花のことまではつきとめた……でも、残念ながらボクの力ではもう……冒険者にすがるほかないんだっ!」
「わかっておる、わかっておるから貴殿、はなれるがよい」
 抱きついてきたボブをひっぺがしながらアイはいった。
「今回の依頼者はつまり、この男だ。色々いいたいこともあろうが、かれがいまいっていることに嘘はないゆえ、ここは堪忍してもらえまいか。話は私が要約して説明しよう……」
 と、アイは以下の内容を語りはじめたのである。

 光雫草(こうだそう)と呼ばれる非常にめずらい花がある。
 外観はクローバーに酷似しており、同様の白い花をつける。そもそもクローバーの群生のなかに一輪あるというから、もとは同じものだったのかもしれない。
 この花の特徴、それは、昼から夜へうつりかわる短い時間、すなわち宵闇(よいやみ)にあってやわらかな光をはなつところにある。それはちょうど、昼の残滓である光の雫(しずく)が、花弁に落ちてはねた姿を思わせるという。この花を煎じて薬にすれば、万病、とりわけ肺の病に効果があるらしい。セイにも効果があるのではないか。
 調査に調査をかさねてボブは、その花が実在することをつきとめた。しかしそれは、ただならぬところに咲いていた。
「三方を海にかこまれた絶壁、しかも急斜面の上らしい。その場所に群生するクローバーのなかにあるとわかった。だが、なかなか近づくことはできないだろう、その花を守るように、一匹の蜥蜴(トカゲ)が生息しているからだ」
 蜥蜴といっても平凡な大きさではない、人間一人や二人たやすく丸呑みできるほどの巨大さだ。全身は真っ白、硬い鱗をもち、視力はほとんどないようだが聴覚や嗅覚は発達している。恐るべき敵であり、噛む力はもちろん、尾による攻撃もすさまじい。
 この蜥蜴は光雫草がお気に入りであるらしく、そのそばを離れることをせず、なにもなければ花のそばで眠っている。挑発したところで、ある程度距離があれば無視しているようだ。だが花を奪うものがあれば猛り狂い暴れまわる。花を抜いて逃げようものなら、どこまでも追ってくるだろう
「気をつけたいのは、この大蜥蜴が暴れだせば花を巻き添えにしてしまうおそれがあることだ。花が踏まれぐしゃぐしゃになれば……失敗だ。
 蜥蜴に気づかれる前に花をうばうことができればいいのだが、どれが光雫草かわかるのは宵闇の短い時間だけなのでタイミングが難しい。崖はきりたっておりまた崩れやすいので、海側からよじ登って近づこうとも気づかれる可能性が高いだろう。どうしたものか……」
 難題である。アイは頭を悩ませた。
 その横でボブは、床に膝をつき哀願している。
「た、頼む。どうか光雫草を……! 悔しいがこれは、お前らしかできないだろう!?」
 あとは涙声になってよく聞こえない。頼むにしては口調が尊大だが、必死なのだけはつたわった。

 冒険者たちよ、セイの命を救うべく、光雫草を手に入れてほしい。

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参加者
蒼天の幻想・トゥバン(a01283)
星刻の牙狩人・セイナ(a01373)
剣舞姫・カチェア(a02558)
紅炎の想術士・シェル(a16437)
奏でるは悠久の旋律・ククル(a22464)
ストライダーの狂戦士・カルラ(a26277)
聖キラリ暗黒騎士・フェイト(a26711)
駆け昇る流星・フレア(a26738)
せせらぐ琴線・リナリー(a59785)



<リプレイ>

●一
 塗る。周辺の土や草を塗る。体や鎧に、念入りに。
 土はざらざらと乾いた音をたて、草の汁はつんとした匂いをただよわせる。花を守るという蜥蜴(トカゲ)がどれほどの感知力をもっているかはわからないが、これが気配を消す一助にはなると思われた。
「ボブも、いいオトコの第一歩を踏みだしたようだし」
 駆け昇る流星・フレア(a26738)は作業をつづけながらいう。
「セイのためだけじゃなく、ボブのためにもこの願い、引き受けてやらないとね」
 剣舞姫・カチェア(a02558)も同様に準備中だ。
「改心したバカモノ、か。私はそういうヤツを二人知っている。ひとりはいうまでもなくボブだが」
 といって、かためた握りこぶしでポン、と、蒼天の幻想・トゥバン(a01283)の胸を叩いた。
「お帰りとまだいってなかったな、もうひとりのバカモノ」
「あたたかい歓迎、感謝するよ」
 トゥバンは頭をかいた。わけあって数ヶ月、かれはカチェアたちから離れ消息を絶っていたのだ。セイの急病がなければ、いまも姿を隠したままだったかもしれない。
「なにをしていたかなどと野暮は問わん。だが、もう私達を置いてどこにもいくな……今度無断で消えるようなことがあれば、血を見ることになる」
 カチェアはうすく笑ったが、嘘でも冗談でもなさそうということはよくわかった。
「覚えとく……んがっ!」
 トゥバンは面食らう。
「トゥさんお帰りなさいなのですよ〜」
 といって、星刻の牙狩人・セイナ(a01373)が背中からとびついてきたのだ。はなせー、といってトゥバンがくるくる回ると、脚をぶらぶらさせてセイナは喜び、コラやめんかといいつつカチェアもつられて回る。
「シェルはあそこに加わらないの?」
 フレアが肘で、紅炎の想術士・シェル(a16437)をつついたが、
「わ、わたしはべつに……アイツが帰ってこようがどうでもよかったし」
 とだけこたえると、シェルは沈みはじめる太陽を見ながら、そろそろ行かないと、と独言する。
(「意地はってるのかな?」)
 とフレアは考えた。だが本当のところは少しちがう。シェルは知っていたのだ。
(「アイツがああやって無意味にはしゃいでいるのは、悩んでいる証拠なのよね」)
 かつて守れなかった大事な人とセイとを、トゥバンは重ねあわせて気に病んでいるにちがいない。だから、セイのためにもボブのためにもトゥバンのためにも、今回ばかりは失敗できないとシェルは思うのだった。

 夜のカーテンが下りるよりはやく、交渉を託された四人は斜面を登っていた。
「セイ卿の為に全力を尽くすとしよう」
 暗黒騎士・フェイト(a26711)がいった。
「あのボブ卿も多少は心を入れ替えたようであるし……な!」
 これまでのボブの恋愛遍歴(※ぜんぶ一方的な迷惑行為)を思いかえすと、感慨で胸が熱くなるフェイトであった。
「できれば穏便にことをすませたいですね」
 かくいうのはせせらぐ琴線・リナリー(a59785)だ。今回は人の命を救うことが目的である。そのために殺生をするというのは矛盾ではないか……リナリーはそう考えている。花を守るという蜥蜴と語りあい、それでわかりあうことができれば嬉しい。
 奏でるは悠久の旋律・ククル(a22464)もまた、交渉を主に考えている。
「蜥蜴の好物、いろいろ用意してますし♪」
 事前調査は万全だ。あらかじめ付近住民から蜥蜴が好きそうなものを聞き準備している。いずれかを気に入ってくれると信じたい。
 ストライダーの狂戦士・カルラ(a26277)が前方を示した。
「見てください、あそこに!」
 最初それは、白い点のようだった。だが点は近づくたびに大きくなり、やがてうずくまる動物の姿となる。雪のごとく真っ白な蜥蜴であった。蜥蜴は、カルラの想像よりはるかに巨体だ。もし戦うとなれば、場所のせまさもあいまって苦戦が予想された。
「殺生は避けたいですわね。いざというときのことも考えるべきですが、いまは……」
 カルラはいい、フェイトを見る。すでにふたりのあいだには合意ができている。
「倒して奪う気はない、そのことをわかってもらうにはこちらも誠意を見せねばなるまい」
 フェイトは迷わず腰の剣を外した。カルラも倣(なら)う。そしてともに武器を、草むらに置き歩みをすすめたのだった。

●二
 蜥蜴はむくりと首をもたぐ。それだけで地面が揺れるように思われた。
「……そのセイさんというかたのために、花が必要なのよ♪」
 ククルが歌うように呼びかけていた。いや、これは実際に動物と、ことばかわすための「獣達の歌」、切々と事情を訴えたのだ。
「もちろん代償は用意しました。香草・トパーズ・果実と野菜・お酒――お望みであればそのすべてでも」
 リナリーも歌にのせ、白き巨体に提言をするのだった。
 されど蜥蜴は、くぼんだ眼窩(がんか)の奥でふたりを睨(ね)めつけると、
「人間は詐(いつわり)するものだ。その病の娘、本当にいるのかどうか」
 怪我をせぬうちに帰るがいい、といい捨てて口をとざし、うずくまった。
「たしかに嘘をつく人もいるでしょう、ですが私たちは」
 なおもつづけようとするリナリーだが、
「リナリーさん!」
 カルラがとびついて彼女の身を守る。蜥蜴の前足はカルラを打った。カルラは斜面に転がるが、受身がまにあい無事だ。
 おなじくククルを背にかばいながら、フェイトは無念げに小瓶を手にした。
「残念だ……だがかくなれば仕方がない」
 瓶の中身を自分にふりかけ香草も散らす。ジャスミンの強い芳香がした。フェイトはいう。
「貴殿の嗅覚、利用させてもらった。さあ、俺を追い出さぬと大事な花の匂いが分からぬままだぞ?」
 蜥蜴が立ちあがった。山が動いたような威容、内にたたえし感情はわからないが、このまま済ませるつもりでないことだけは見て取れた。だが蜥蜴はフェイトの挑発に乗らない。動けば、光雫草を取られると勘づいているのだろうか。
「すまぬが花は持ち帰る!」
 だしぬけにカチェアが姿を見せる。這うようにして進んだことにくわえ事前の隠身準備の成果もあり、蜘蛛糸がとどく位置にまで悟られずちかづいていた。しかしカチェアが放った糸は、すんでのところでかわされる。
 ここで終りと考えたのが蜥蜴の不覚、そして冒険者の有利、俊足を活かし一気に間合いを詰めたフレアが、
「傷つけるつもりはないからねっ」
 蜘蛛糸をネットのように広げ、蜥蜴の頭上より降らせるとセイナも到着、
「回収班は急いでくださいなのです!」
 おなじく白い糸を発し蜥蜴を縛る。フレア、セイナ、ふたりがかりの拘束は成った。
 直後グランスティードが出現し、矢よりも速く斜面をかける。崖淵を奔(はし)る駒にはトゥバンとシェル、人馬一体の全力疾走。
「慌てず騒がすといきたかったけど」
 シェルがいい、
「人生そう期待通りにばかりいかんもんさ」
 トゥバンが応ず。宵闇の瞬間まであとわずか。駒は仲間たちを、そして蜥蜴を跳び越した!
 それでもククルはあきらめない。蜥蜴への歌をつづける。
「どうしても必要なのでお花は頂くわね♪ でも信じて、命を奪ってまで欲しいとは思ってないわ♪」
 お人よしと呼ぶものもいるかもしれないがそれはちがう。ククルは蜥蜴にも、セイにも自分たちにも嘘をつきたくないだけ、ククルには守りたい信念があるのだ。それはセイナも同じだ。
「苦しかったらごめんなさい。花が好きなだけの蜥蜴さんを、いじめたくはないのです」
 といってセイナは、極端にはずれた場所にナパームアローを打ち込んだ。音で蜥蜴の聴覚を混乱させようとの考えだ。
 ここで蜥蜴は恐るべき力を見せた。首と尾を力強く振ると蜘蛛糸の束(たば)を引き裂いてしまったのだ。これにたいしフェイトは両手をひろげる。
「その強さに敬意を表そう。さあ、来るがいい!」
 どっ、と蜥蜴が尾の一撃をあびせた。フェイトは体を折り曲げはじけ飛ぶ。崖下へ!
「さすがである……な……」
 それでも騎士は反撃をしなかった。それどころか心は平穏ですらあった。このとき生じた隙が、トゥバンらが花を奪取する助けとなるだろう。
 このときフレアの種族本能が奇跡的な反射を見せる。聞こえるだろうか脊髄を電気信号が駆け抜ける音が。すなわち思考よりはるかに素早く、フレアはフェイトに飛びついたのだ! 危ない、とフレアが思ったときにはすでに、彼女の細腕は騎士の体を抱きとめていた。
「やっ…た……」
 といいかけるもフレアは気づく、このままではふたりとも落下すると!
 パシッ。
 だが間一髪、胴にまかれた命綱、カチェアが放った粘り蜘蛛糸であった。これもぎりぎりの一手だ、フレアの跳躍がなければとてもまにあわなかったろう。
 両手で蜘蛛糸を引きかかとで地を踏みしめカチェアは二人分の体重を支える。この行動が無防備な背を蜥蜴にさらすことになったがカチェアに後悔はない。
「この手、けっしてはなすわけにはいかぬのだ!」
 カチェアの手に添えられる手があった。
「あなたひとりに無理はさせませんわ、カチェアさん」
 カルラだ。カルラの体からは甘い香がする。
「お酒をふりかけてきました。蜥蜴さんが匂いに敏感なら、つぎに攻撃するのはわたしのはずです!」
 カルラはかくいって命綱を引く手に力をこめた。
 一旦ゆきすぎたグランスティードが大きく反転する。
「頼むわよ」
 シェルが駒より身を乗りだす。脚をトゥバンにつかまれたまま地面すれすれ、危険なほどに。視界はまるきり天地逆、目指すは宵闇に光る花。トゥバンは支えつついった。
「シェルには指一本ふれさせんさ、必ず守る。もう二度と……」
(「もう二度と?」)
 シェルは訊きかえそうとしたが、それよりさきに手は花のとどく位置にきている。蜥蜴のすぐ背後だ!
「ていっ!」
 根ごと抜き取る。成功だ! すぐにシェルは馬上に引き上げられトゥバンに抱きとめられた。花はクローバーに酷似しているが、うすぼんやりと発光している。
「確保したわ、壁役を……」
 宣言しようとしたシェルだが、リナリーの声にさえぎられた。
「まってください。蜥蜴さんが」
 見ると蜥蜴は、攻撃をやめ頭(こうべ)をたれているではないか。さらには頭をさげたまま、崖のむこうに首をさしのべた。
「乗れ、って、いうことだよね?」
 フレアは警戒しつつも、フェイトとともに蜥蜴に乗って危地より脱した。
「わかってくれたのですね♪」
 ククルが声をかけたが、蜥蜴はこたえない。しかしすでに戦意は失せたようだ。黙ったまま蜥蜴は斜面を頂点近くまで登り静止した。
 セイナは笑顔で蜥蜴に手を振る。
「蜥蜴さん、ありがとなのです」
 セイナははお礼の品物をそっと場に残す。蜥蜴はうなずいたように見えた。
 そして蜥蜴はうずくまり、冒険者が見えなくなるまで動かなかった。

●三
「そうですか……蜥蜴さまは、納得してくださったようなのですね」
 セイは弱弱しくほほえんだ。ボブからの話をきいて内心、自分のために蜥蜴が傷ついたり死んだりせぬか心配していたのだ。もし冒険者が蜥蜴を倒していたならば、病身の彼女はまた深く心を痛めたことだろう。
 ここは星華流華道場の一室である。畳じき、床の間には花と掛け軸が飾られている。しかれた布団の周囲に、冒険者たちが顔をそろえていた。さりげなくボブも一緒だ。
 白い着物で床より身を起こし、セイは冒険者たちに頭をさげる。魂の火は消えかかっているというのに、それがかえって、セイにもの狂おしいまでの美しさを与えていた。
 そんな少女をはげますように、セイナは力強くいう。
「うな、セイさんはお友だち、気にすることはないのですよ!」
 その通りですわ、と障子をあけカルラがあらわれた。白湯と一盛りの粉薬を乗せた盆を運んでくる。
「調法にしたがって光雫草を煎じてまいりました。どうぞお試しになってくださいまし」
 盆を受け取り、リナリーはこれをセイのそばに置く。
「さあ、どうぞ。病を癒すなら、早いにこした事はありませんわ」
 薬からは太陽の匂いがした。
「そういうこった」
 トゥバンはいった。
「湯のみ、持てるか? なんなら俺が口移しで飲ませてあげても――あら?」
 ずるずる……トゥバンは、シェルとカチェアによって問答無用で部屋の外にひきずられてゆく。しばくらして、ごっ、と鈍い音が障子のむこうから聞こえた。 
「油断もすきもあったものではない、また逃げられても困るゆえ、貴様は私が拘束する」
 というカチェアの声が聞こえてきた。
「放さないわよ」
 こちらはシェルだ。ぎゅっ、という音は腕を組んだ音か。いや、つづいて「うげ」といううめき声がしたから、本当はチョークスリーパーで絞めた音かもしれない。
「し、師匠、ご無事ですか!? ……失礼」
 カルラも思わず席を立つ。セイナも
「うにー、トゥさん……またどっか行っちゃやですよう」
 とつづいたのだった。これでボブとセイの間の人垣はなくなる。すると、
「ぼ、ボクも」
 おもわずボブまでカルラたちを追って消えてしまった。
(「あちゃー」)
 やれやれとフレアは思うのである
(「ボブ、あれじゃまだまだダメね……ま、恋愛の応援をするつもりはないし、いいか」)
 同じくフェイトも、
(「ボブ卿……照れ屋さん、なのか?」)
 と内心苦笑していた。 
 セイは目を細め、ただ楽しそうにうなずくと、湯飲みを盆のうえに戻した。こころなしか頬に紅みがさしたように見える。
「体調がすぐにでも良くなると良いんだけど……♪」
 ククルはセイを寝かせ布団をかけてあげた。
「おやすみ、はやく良くなってね♪」
「ああ、回復すればまた、華道を教えてもらいたいものだ」
 フェイトはほほえむ。フェイトも星華流の名誉初段なのである。
「みなさま……ありがとうございました……本当に……」
 セイの目には涙があった。
「これで終わろうとも、わたくしは幸せでありました……」
 そのことばに、立ち去ろうとしていたフレアは足を止めた。布団のところに戻り、セイの手を握る。
「だめだよ、そんな弱気なこといっちゃ! いい? 今度そんなこといったら承知しないからねっ。約束だよ」
「……はい」

 その翌日、セイは高熱をだし、目覚めることはなかった。
 
 うつらうつらしかけていたリナリーは、はっとなって目をあけた。そして気づく、すでに朝日がさしているということに。そしてまた、床よりセイが起き上がっているということに!
「ああ、セイさん、よくご無事で……」
 リナリーの心は躍った。そのさきのことばは、胸がつまってしまっていえない。
 セイは、そんなリナリーの手を取る。
「夢を見ました。死んだ父や……みなさんの夢を……」
 手からセイの体温が伝わってくる。病の暗い影は去っていた。
「でもこれは、夢じゃないのですね……」

(次回につづく)


マスター:桂木京介 紹介ページ
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作成日:2007/04/26
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