イージーレイ



<オープニング>


 月夜の晩に現れる。
 ひょこひょこ歩く、紫華鬘(むらさきけまん)。
 茎を支柱に天地を仰ぐ縦横無尽の花弁から、光の帯を解き放つ。
 高い所へ登っては、月光に浮かんで見える下界の者へ、自慢の光を投げかける。
 昨日は木の上、今日は丘陵。
 明日は何処へ昇ろうか。
 ひょこひょこ歩く、紫華鬘。
 果たしてお気に召したのは、断崖絶壁、反り立つ岩肌。
 五十か百か。見上げるばかり垂直に延々続くど真ん中、ちょいと張り出た岩窪み。健気に生える先客の、その傍らを間借りして、眼下の街へと光を降らす。
 ここに居らば届くまい。月と同じに届くまい。
 岩の隙間を器用に伝い、紫華鬘は気ままに歩く。街を見下ろし気侭に歩く。
 弓矢も臆す高みから、四方八方構いなし。
 月が出たら始めよう。
 ひょこひょこ歩いて始めよう。
 今宵も光が降ってくる。月影と共に降ってくる。

マスターからのコメントを見る

参加者
玄鱗屠竜道士・バジヤベル(a08014)
轟音・ザスバ(a19785)
墨色導士・コシロ(a31185)
瑰麗な十日夜の金鏡・ラジシャン(a31988)
深森の迷い子・セーラ(a33627)
暁の音律・オルガ(a41868)
弓使い・ユリア(a41874)
吟遊詩人・アカネ(a43373)
千秋楽・アデュラリア(a43551)
揺蕩うモノ・シュン(a53541)


<リプレイ>

●崖の一輪
 聳え立つ壁の如き崖を見上げ、吟遊詩人・アカネ(a43373)が遠眼鏡を覗く。
 なだらかな一枚に見えて、その実、凹凸の耐えぬ眼前の岩肌。
 横合いから差す光に浮かぶ無数の影を、一つ一つ丁寧に辿る。
 角張って見えるにせよ、それは日陰の加減。
 登る折りに手足を掛けるには使えそうだが、腰をおろすや何や、休むに使えそうな岩棚はなく。
 さて何処に身を隠したものかと、揺蕩うモノ・シュン(a53541)もまた遠眼鏡を覗きながら考える。
 しかし、窪み張り出しが控えめであるなら、大きな落石になる心配もないということ……万一の避難指示も終え、〜輪廻〜・アデュラリア(a43551)は一人頷く。
 一面褐色の、今にも倒れてきそうな巨大な壁。
 時折ちらちらと映る緑の影の傍、紫華鬘が居候をしてはいまいか。
 刻々と過ぎる時の中、複数の遠眼鏡だけが、崖をじっと見つめていた。

●花を摘みに
 月が出た。
 黄昏間近の赤い空、まだ色のない白から、深森の迷い子・セーラ(a33627)が崖の頂上へと視線を移す。
 そろそろ、上に向かった皆が到着するはず。
「高いところへ上っていく……煙と何とかは高いところが好きなのと一緒ですの?」
 ああ、やっぱり、同じ事を考えるものなんだな……しかしそれにしても一体何がしたいのやらと、墨色導士・コシロ(a31185)はさっき見つけたばかりの紫華鬘を見上げ、首を傾げる。
 空に輝く夜の月に、星に、憧れたのか。所詮は怪異、その心を知る由もないがと、瑰麗な十日夜の金鏡・ラジシャン(a31988)は徐々に色付く月を見上げる。
 暗くなってから動き出すのか、紫華鬘は未だ崖のど真ん中の小さな窪みで休憩中。
 弓使い・ユリア(a41874)もまた、弓矢は臆さないのです! と、倒すべき敵を見据える。
「負けないぞ、トネルケバブ!!」
 ……あれ、なんか違う。
 あ、そうだ! ムラサキケバブ!
 ……それもちょっと違う。紫は合ってると思うんだけど……
 そんな微妙は間違いはさて置いて。
 何処かひんやりとした空気を裂くように、岩肌に響き渡る笛の音。
「合図だ。行くぜ」
 鎧聖降臨と同時に、轟音・ザスバ(a19785)が身を寄せていた木陰からまろび出る。
 色を取り戻した月の光をも掻き消すように、地上に灯るホーリーライト。
 それよりは随分と控えめな光……カンテラを腰に携えて、玄鱗屠竜道士・バジヤベル(a08014)がいよいよ、我が身に結えた縄を握って断崖絶壁へと身を乗り出す。
「では、行くとしようかのぅ」
 崖は真っ直ぐ垂直に切り立っているのに、覗き込むとまるで内側に抉れているかのような錯覚に陥る。
 いつしか宵も過ぎ、月は山吹の光を放つ。
 腰で揺れる明りを頼りに、僅かな凹凸を足で捉え、咲き誇れ暁の音律・オルガ(a41868)が、いよいよ動き出した紫華鬘を目指す。
 害を為さないものなら、人の目を愉しませるだけで済んだのにね。
 心中で呟き、眼下、遂に落ちていった光条へ目をやる。
 きしりきしりと音を立てる命綱。
 合図に使った横笛を仕舞い、唯一、崖の天辺に残ったアデュラリアが、三人分の縄を捌きながら、頭上に明るい光を灯す。しかし、上からの光も、下からの光も、中腹に居座る紫華鬘までは未だ遠く……
 鎧聖降臨の効果時間内に、そこまで行けるだろうか?
 いや、行かねば。
 縄の扱いはアデュラリアに任せてある。そのアデュラリアがホーリーライトを灯してくれたお陰で、足元は先程よりずっと明るい。
 足場となりうる起伏を伝い、シュンは身軽さを生かし大胆に崖を下る。その姿が回復の範囲から出ぬよう、バジヤベルも黒炎と拘束具で繋がった召喚獣を我が身に纏わりつかせて、絶壁を進む。
 崖の下では、明るい光を浮かべたザスバが右往左往。
「頼むぜぇ、ノソリンもどきィッ!」
 騎乗し、忙しなく動き回ることで、紫華鬘の光をかわしながら注意を惹く。その後ろからはユリアが。
「還って来ると解ってても、天に唾吐いてやるもんねー!!」
 と、挑発なのか、負け惜しみなのか、とにかく魂を込めた叫びと共に、矢を射掛けていた。アカネもまた届かなくとも少しでも気をそらせればと、黒炎覚醒で無尽蔵となったブラックフレイムを、紫華鬘に向かって投げ上げる。
 かく言う紫華鬘も、少し届かなかったのか。
 月光にほの暗く浮かぶ花の影が、崖下へ向かい、ひょこひょこと歩き出す。
 青白い光が、崖を伝う。
 花開かせた無数の花弁、その一つ一つから迸る無数の光条が末広がりの束となって、崖下の六人目掛けて流星のように降り注ぐ。
 何処か冷たい色合いとは裏腹に、撃たれた部位には熱く焼けるような痛みが走る。もっともそれらは、コシロが事前に施しておいた鎧聖降臨のお陰で、最小限に軽減されるのだが。
 幾度目かの光が落ちたとき、しゃん、と涼しげな音が鳴る。
 握る銀の錫杖を揺らせば、ラジシャンの身に纏う黒炎はやがて暖かな光となって、崖下の皆を包み込む。
 蓄積した痛みが、広がるヒーリングウェーブに癒されていく。
 時折、焼けるような痛みが残る事もあったが、それはセーラの歌う高らかな凱歌によって、瞬く間に拭い去られていった。
 そんな、眼下での攻防が、徐々に近付く。
 ……この辺りからなら。
 オルガは縄と足だけで我が身を支えると、暗く沈んだ中でちかちかと輝く光条の源へと、携えた弓をしなやかに引き絞った。
 手元に生まれるのは、夜のように薄暗い一矢。
 微かに風のなる音だけがして、貫き通す矢は中腹の暗がり、光を放つ紫華鬘の元へと、落ちるように消えて行った。
「当たった、かな」
 怪異と言えども相手は植物。悲鳴も何も上げはしないが、先程まで機嫌よく等間隔に降り注いでいた光条が一瞬途切れたのを、オルガは手応えだと判断した。
 しかし、その一矢に、遂に紫華鬘は頭上から脅威が迫っている事に気付き、光の帯の一端を上へ向けても放ち始めたのだ。
「ここからが正念場じゃ」
 太刀にも似た杖の柄を握り、バジヤベルが黒い炎をその先端へと集める。
 暖かく広がる、ヒーリングウェーブの光。
 上からのホーリーライトが届かなくなり、あとはただ、ぽつぽつと揺れるカンテラの明りが、仲間の位置を示す……シュンの姿に至っては、紫華鬘の放つ光と、月光に照らされた折に浮かび上がるのだけが頼り。
 思ったより暗い……自身も降りた方がいいかも知れない。
 意を決し、アデュラリアも切り立つ崖へ、縄と共に踊り出る。
 こっちに来るなといわんばかり、紫華鬘は上へ下へ、思う様に光を撒き散らす。
 命綱を切られたらおしまいだ。そうなる前になんとしても、あれを叩き落さなければ。
 今はまだ唯一届くオルガの矢だけが頭上を越えていく中、跳ねるようにして距離を詰めるシュン……と、その時。
「横移動を始めましたよ!」
 最初、ムラサキケマンという音だけ聞いたとき、紫色の毛玉がひょこひょこ歩く様を想像し、不覚にも可愛いと思ったものだが……今、目の前の現物は、なんというか、抜き足差し足の泥棒のようでもある。
 そして動きながらも、真っ向、眩い光条を放ち、迫り来る四人を撃ち落そうとしてくる。
 軋む命綱。せめて奴が落ちるまでは持ち堪えてくれと祈りつつ、追いついたアデュラリアが、頭上の光で紫華鬘の姿を照らし出しながら、握る杖でヒーリングウェーブの光を解き放つ。
「回復は妾が。そちは退路を」
「心得ておる」
 応じるように、バジヤベルが杖の先へ黒い炎を集める。そして、背に負った召喚獣の髪が虹色へ輝くと同時に、炎は無数の針の姿を取って、崖を渡る紫華鬘へと雨の如く降り注いだ。
 虹色に明滅し、紫華鬘とその進路に次々と着弾するニードルスピア。
 次々振ってくる針に、身をくねらせて足を止め、報復の花弁で睨みつける紫華鬘。
 だが、動きを止めたその花弁のど真ん中へ。
 きぃん、と。金属にもにた風の音が、ほの暗い矢と共に真っ逆さまに落ちる。
 オルガの射た貫き通す矢に、文字通り貫き通されて、仰け反るような姿勢でもがく紫華鬘。
 それでも、報復の光条は確かに真上へ届き、オルガの胴に熱い痛みが残る。
 それは皆とて同じこと。杖と縄とを両手で握って胸の前に合わせ、アデュラリアはそこかしこに残る熱いものを掻き消すべく、清らかな祈りを捧げる。
 溶けるように消えた痛み。
 それにしても、さっきからずっと嫌な音がする……
 握る命綱の感触に不安を感じながら、しかし、シュンは遂に訪れたこの時を逃すまいと、一足飛びで紫華鬘へ迫った。
 捉えた。
 力一杯に捕まえた茎。
 必死に岩肌にへばりつく根を力尽くで引き剥がし、これでもかこれでもかと、見ている仲間が冷や冷やするくらいの勢いで振り回す。
「落ちろ!」
 渾身のデンジャラススイング。
 投げ捨てるというよりは、背負って放り投げるような仕草で遂に中空へと投げ出され、必死に岩肌に根茎を伸ばす紫華鬘。
 だが、追い討ちを掛けるように、真上から吹き付ける、緑の突風。
 虹色に明滅する木の葉と共に襲い掛かった吹き降ろしの風に、折角捉えた凹凸から再び引き剥がされる紫華鬘の身体。
「残念だけど、ここが散り際。ごめんね」
 身を貫く、薄い闇色の矢と共に、紫華鬘はやけくそ気味な光条を撒き散らしながら、遂に地上へと落ちていった。

●花を狩りに
 響く凱歌。
 狙いも何もなく、ただ落ちるのが嫌だといった素振りで無茶苦茶に振ってくる光線の雨。
「癒しの歌ですの」
 矢鱈滅多と身を射ち据えるそれを癒すべく、高らかに歌い上げるセーラ。
 両の手に握った立て札――一応、杖である――を前に歌う姿には何となく妙なものがあるが、見た目と裏腹にその威力は折り紙付きである。
 瞬く間に癒され、痛みの消えた腕。
 ユリアは段々と鮮明になる敵影に向け、新たな外装を得て力を増した弓を、思う様に引き絞った。ぎちぎちと音を立てる弦との間、薄く浮かんだ闇色の矢へと、召喚獣の吐き出す青いガスが、静かに溶け込んでいく。
 あと三秒。
 二、一……
「ふぁいえぇぇぇるッ!!!」
 射程圏内に入った瞬間、掛け声と共に射出される、薄い闇色。
 見事、落下途中を捉えて突き立った影縫いの矢は、召喚獣の力得た恐るべき強度で、紫華鬘を拘束する。
 そのまま硬直、更に落ちてくる紫華鬘へと、今度は三色の氷炎が立ち昇る。
「やっと順番が巡ってきましたなぁ〜ん」
 体の左右から噴き出す、紅蓮と銀。更にそれを取り囲む黒炎を、コシロが突き出した腕の先へと集めていく。
 黒い炎はやがて蛇の形を模し、差し向けられた指先から一直線、紫華鬘へと飛翔した。
 衝突と同時に四散するブラックフレイム。そして、その火の粉から生まれた魔炎魔氷が、見る見るうちに紫華鬘の身体を覆い尽くしていく。
 アカネもまた、指差すように伸ばした腕の先へ、我が身に蟠る黒炎を集めれば、徐々に三つの首が現れる。
「お仕置きのぉ、時間なのですぅ」
 具現化した炎へと、アカネの周囲にとぐろを巻く黄色い蛇が、紫の吐息を吹きかけた。
 刹那飛び出す、スキュラフレイム。
 氷の奥で燃える紫華鬘に食らいつく三つの首。噛み千切り、毒を流し、燃え上がって炸裂した炎の中から、弾けるように落ちてくる紫華鬘。
 ごとん、と。
 氷に閉ざされながら燃え盛る紫華鬘は、遂に地上へと墜落した。
 未だ動けぬその袂へ、怒涛のように掛ける足音が一つ。
 頭上には月より眩く輝く光の輪。それを遮るようにして振り上げられた蛮刀の影が、不自然な陽炎に揺らめく。
 立ち昇り景色を歪めるのは、溜め込まれた闘気。今にも零れ出しそうな程に詰め込まれたそれを、ザスバは蛮刀と共に思う様に叩き落した。
「ゲァハッハッハァッ!!」
 その声さえも掻き消す勢いで、解き放たれるデストロイブレードの爆発。
 炸裂音が静かな崖を登り、降下中の四人の縄をも、びりびりと振るわせる。
 時折、からからと振ってくる小石に、上の四人が足を踏み外したりしていないかと様子を見ながら、ラジシャンもまた涼やかに鳴る錫杖の先へ、黒い炎を集め、解き放つ。
 身動き取れぬままの紫華鬘を射ち据える黒い炎。
「……これがホントの行きは良い良い帰りは怖い、ですね」
 軋む縄に冷やりとしつつ、一人ごちるシュン。
 最早、散々ともいえる猛攻を上から見下ろし、降りる頃には片付いているかも知れないなと、オルガは薄く笑みを浮かべる。
 健気な外観の割にはしぶとく。
 ほうほうのていでやっと拘束から抜け出した紫華鬘は、必死に崖を登ろうとしながら、誰もくるなと言わんばかりに、光の帯を撒き散らす。
 次々に身体を打つ光を物ともせず、ユリアは今一度弦を引き絞る。
「弓矢をバカにするなー!!」
 青白い光が、雷光を描いて飛んだ。
 落雷宜しく襲い掛かったライトニングアローに、やっと目の高さまで来た紫華鬘がまたも地面へと撃ち落される。
 同時に、いよいよ地上間近まで迫ってきたアデュラリアが、上からヒーリングウェーブの光を降らす。
 消えていく痛み。
「もう一息ですぅ」
 アカネの歌い上げる高らかな凱歌と合わせ、回復はもう必要無さそうだと断じたセーラは、立て看板を振り上げて、中空へと紋章を描き出す。同時に、身を繋ぐ召喚獣の髪が銀から虹色へと明滅、そこから噴き出した木の葉の炎をも、虹色へと染め上げた。
「燃える木の葉、とっておきですの」
 渦を巻き飛ぶ緑の業火が、紫華鬘を取り囲み、天をも焦がさんと一気に虹色の火柱を上げる。
「……その光が月光と同様にただ美しいだけであったなら良かったのじゃが……実害を以って無力な人々へと降りかかるというならば消し去らねばならん」
 焼け焦げた紫華鬘は、最初に見たとは打って変わった弱々しさ。バジヤベルもまた、虹色に輝く木の葉を、紋章から呼び起こす。
「その身……光と同様に散って貰う……!」
 吹き付ける突風と木の葉は、恐るべき無数の刃となって、地を這う紫華鬘の花芽を切り落とす。
 最早満身創痍。
 それでもなお、崖を目指す紫華鬘へ、コシロが伸ばした指先の照準を合わせる。
「逃がしませんなぁ〜ん」
 分厚く渦巻く黒い炎。それはじき、悪魔の姿をとって、紫華鬘へと飛翔した。
 掻き開いた大口に飲み込んでしまいそうな様相で、紫華鬘と衝突するデモニックフレイム。
 花火のように飛び散る、黒い火の粉。
 そして、その中央で、再び陽炎が揺れた。
「ゲァハッハッハァーッ!!」
 勝ち誇ったかのようなザスバの声が、月を望む断崖絶壁に木霊する。
 続けて響き渡った爆音。
 やがてそれも消え、崖の袂に静けが戻る時。
 山吹の月光に照らされた紫華鬘は、粉微塵に枯れ果てていたのであった。


マスター:BOSS 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:10人
作成日:2007/04/25
得票数:冒険活劇3  戦闘11 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。