<リプレイ>
●キモワカメの根っ子 「……育毛剤か。アレはアレで良かったと思うけどなぁん。今は寝癖が付くほど髪あるけど……、俺も爺さんになったら毛むくじゃらになりたくなるのかなぁん?」 耳の生え際の毛と眉毛のみ豊かになっていた故郷の長老を思い出し、白雲の軌を辿る・タム(a53576)が不思議そうに首を傾げる。 キモワカメの根っ子を回収に来たチキンレッグ達の話では、『それだけ需要があるからやるんだ』と言う答えであった。 「育毛剤として使うより、別の事に使った方が儲かるかも知れませんねぇ。でも、モンスターがぁ、いるのにぃ、大丈夫ですかねぇ?」 遠眼鏡を使って海を眺めながら、吟遊詩人・アカネ(a43373)が口を開く。 キモワカメの周辺にはイカリフグが泳いでいるため、誰かが囮になって引きつけておく必要がある。 「やっぱり、ここはラルフ先生の出番ですね」 特定医療食・ラルフ(a90213)の肩をぽふりと叩き、バナナの皮大王・エル(a59510)がニコリと笑う。 既にラルフの身体は縄で縛られており、いつでも海に放り込む事が出来るようになっている。 「……って、相変わらずオレの意志は無視かよっ! しかも、みんなで大空を見つめて涙を流しているし!」 大粒の涙を浮かべながら、ラルフが仲間達に対してツッコミを入れた。 しかし、エル達が大空を見つめて敬礼をし始めたため、ラルフのツッコミには誰一人として気づいていない。 「まぁ……、誰かが犠牲にならなきゃ駄目だから、ラルフに頑張ってもらうしかないなぁ〜ん」 満面の笑みを浮かべながら、タムがラルフを海に突き落とす。 それと同時にイカリフグが身体を大きく膨らませ、次々とラルフに攻撃を仕掛けていく。 そのため、ラルフが悲鳴をあげて助けを求め、必死になってマストに繋いだロープを掴む。 「ラルフさん、駄目ですよぉ。ここで船に上がってしまったら、キモワカメを回収しているチキンレッグさんが怪我をしてしまいますぅ」 スキュラフレイムを使ってイカリフグを攻撃しながら、アカネが警告まじりに呟いた。 ここで彼女に逆らえば命綱を切られてしまう可能性があるため、ラルフも仕方なくイカリフグのいる海に潜っていく。 「キモワカメを採取し終えるまで、もう少しだけ我慢しているなぁ〜ん。うわっと……、掴みづらい上に、気持ちが悪いなぁ〜ん」 チキンレッグ達が採取してきたキモワカメを掴み、タムが青ざめた表情を浮かべて悲鳴を上げた。 キモワカメはネットリとしており、まるで濡れた髪の毛のように纏わりついてくる。 「このヌルヌルって別の用途に使えるんじゃないですかねー?」 ハッとした表情を浮かべ、エルがキモワカメを掴む。 以前、キモワカメはヌルヌルを利用したローションを売り出す計画があったのだが、モニター参加者から『オッサンに撫で回されているような感覚』という感想が多く寄せられたので中止になった。 「それよりもイカリフグって食べる事が出来ないのかなぁ〜ん? ハリセンボンの仲間なら、無毒だし美味しいと思うなぁ〜ん」 じゅるりと涎を垂らしながら、タムがイカリフグの群がる海を覗き込む。 イカリフグの身は大変な美味だが、一匹から少ししか取れないため、滅多に食べる事が出来ない代物だ。 「お、おい、お前ら! 誰か忘れていねーか! オレは怪我人なんだぞ! 早く助けやがれ! いや……、助けてくださいお願いしますっ!」 仲間達が無情にも命綱を切ろうとしたため、ラルフが慌てた様子で命乞いをし始める。 こうしてラルフ達はキモワカメの根っ子を手に入れ、チキンレッグ達とバーレル港に帰還した。
●アニキ岩の欠片 「……育毛剤か。聞いた事があるぞ。確か何かに命を吹き込む薬品で、『最後の切り札』と呼ばれている逸品だとか……。その材料、このセイフィールが必ずや手に入れて参ろうぞ!」 ノミとトンカチを握り締め、根無し姫・セイフィール(a60475)がアニキ岩の欠片を採集にむかう。 アニキ岩のまわりは底なし沼になっており、多くのチキンレッグが犠牲になっている。 それだけチキンレッグ達にとっては価値にあるものだが、一般人にとっては単なる岩の欠片でしかない。 「あまりチキンレッグには必要ないと思うけどね。でも、羽毛フワフワなチキンレッグが売る育毛剤って事で売れるかな? 材料だけは気合が入っているようだし……」 苦笑いを浮かべながら、蒼き疾風の弓士・リャン(a40065)が汗を流す。 いまいちチキンレッグ達の考えを理解する事が出来ないため、育毛剤に関しても胡散臭いと思っている。 「どうやら薬としても、かなりの効果があるようだな。まぁ、色々と胡散臭い話も聞くが……。俺のするべき事は岩を採って帰るだけだ」 クールな表情を浮かべながら、業火を抱く黒き剣士・エリアス(a61838)が地図を広げて確認する。 アニキ岩はチキンレッグ達によって幾度となく欠片の採取が行われたため、そこまでの道程が事細かに描かれていた。 「……モサモサですか。実際にどれだけ効果があるのか、ラルフさんの鶏冠で試してみたいですね」 アニキ岩のある沼に到着し、ストライダーの武人・ヴェルシオ(a64030)が岩までの距離を確認する。 最初の予定ではウレタン製の小船で岩まで行くつもりでいたのだが、まわりが底なし沼になっているせいでなかなか先には進めない。 「ううっ……、どうしようか? これじゃ、アニキ岩に行くまで日が暮れちゃうね〜」 ションボリとした表情を浮かべ、リャンが小船から降りた。 頑張ればアニキ岩まで行く事が出来そうだが、その為には気合と根性が必要である。 「まぁ……、漕いで進む事は出来ないが、足場として利用する事は出来そうだな。もちろん、ずっとその場に留まっている事は出来ないが……」 スカートの裾を掴んで優雅にジャンプし、セイフィールが小船の上に着地した しかし、アニキ岩まで少し距離があるため、どこでもフワリンを召喚して進む。 「どこでもフワリンという手があったか。よくよく考えてみれば、単純だったな。あとはモンスターが現れない事を祈るだけか」 3mの棒をオール代わりにして小船を進めようとしていたため、エリアスがハッとした表情を浮かべて溜息を漏らす。 色々と考えた上で沼に落ちない方法を考えていたのだが、あまりにも単純な方法で沼を渡る事が出来たので身体から力が抜けている。 「チキンレッグの一般人が、どこでもフワリンを召喚する事が出来ませんものね」 納得した様子で彼女を見つめ、ヴェルシオがクスリと笑う。 仲間達を踏み台にしてアニキ岩まで行く必要がなくなったため、少しホッとした表情を浮かべている。 「意外と簡単に採れたぞ。これだけあれば充分だろ?」 アニキ岩のカケラが入った袋を渡し、セイフィールが額に浮かんだ汗を拭う。 途中でモンスターとの戦闘がないかとヒヤヒヤしていたため、精神的にはかなりのプレッシャーであったが、アニキ岩の欠片を採集する作業はそれほど手間が掛からない。 「欠片って言っていたから大丈夫だよ。それに簡単に採れる方法が分かったんだから問題ないよ」 満面の笑みを浮かべながら、リャンがセイフィールから袋を貰う。 少し多めに採っておいたので、チキンレッグ達に文句を言われる事もなさそうだ。 「それにしても、どうして材料に岩の欠片が入っているんでしょうね? 多分、粉末にして使うんだと思いますが、いまいちイメージする事が出来ないので……」 袋の中に入ったアニキ岩の欠片を見つめ、ヴェルシオが不思議そうに首を傾げる。 育毛剤の製法については『極秘』とされているため、ここであれこれ想像するしかなさそうだ。 「少し力を入れれば指で砕く事も出来そうだから、粉末にして使うんじゃないか? そうじゃなきゃ欠片といわず、塊を持ってこいと言うだろ?」 アニキ岩の欠片を指で砕き、エリアスがボソリと呟いた。 どちらにしても、これで育毛剤の材料が手に入った事は間違いない。
●オトコギ草 「育毛剤があれば毟られた毛もあっという間に生え揃うのかな? それならチキンレッグさんに使ったら、きっとフカフカの羽毛布団が……」 純真な瞳をキラキラとさせながら、蛍月の雫・ロレッタ(a35762)がウットリとする。 オトコギ草は山の中腹に生えているのだが、足場の悪い場所が多いので多数の死傷者が出ているようだ。 「でも、どうやって鳥さんにやられないようにするの? ツッツキ鳥さんって、とても縄張り意識が強いんでしょ?」 心配した表情を浮かべ、ぷち牙狩人・セレア(a61192)が山を登っていく。 オトコギ草が生えている崖の近くにはツッツキ鳥の巣があるため、どんな手段を使ったとしても関わる事になる。 「ははっ、その点なら心配ないさ。エルナさんが身を張って鳥を誘き寄せてくれるからね。僕達は彼女が怪我をしないように、上から鳥を打ち落とすだけさ」 爽やかな笑みを浮かべながら、蒼奏・キリ(a00339)が答えを返す。 そのため、赤燐火・エルナ(a61855)が『き、聞いてないわよっ!?』と怒ったが、キリはまったく動揺する事なく『世の中には事後承諾っていう良い言葉があるんだよ?』と答えを返した。 「ううっ……、何だか頭が痛くなってきたわ。どうして私はこんな依頼を受けてしまったのかしら? 夢なら早く醒めてほしい」 魂の抜けた表情を浮かべ、エルナが頭を抱えて溜息をつく。 一瞬、『鳥葬』と言う言葉と割れたタマゴが脳裏を過ぎったが、禁断のコラボレーションまっしぐらな映像だったので綺麗サッパリ忘れておく事にした。 「ご安心ください! 例え貴女がここで命を落としたとしても、その志は必ずチキンレッグ達に受け継がれていくでしょう。それに髪は男にとって命です! 同盟全土の男性の為、冒険者として務めを果たさねばなりません! 何故なら、そこにオトコギ草があるからです!」 キリリッとした表情を浮かべ、憂いの聖職・エルサイド(a41993)がキッパリと断言する。 そのせいでエルナも反論する事が出来ず、悔しそうな表情を浮かべて命綱を腰に巻く。 「協力してくれて、ありがとう。ここの鳥は縄張り意識強いらしいから、誰かが先に行ったら集中狙いされて他は安全と思うんだよね」 エルサイドに耳打ちしながら、キリがホッとした様子でクスリと笑う。 次の瞬間、エルナがただならぬ気配に気づいて睨んできたが、キリが素敵な笑顔を浮かべて『みんな期待しているからね』と手を振った。 「そんな事をしちゃっていいの?」 何だか酷い事をしていると思ったため、セレアが小首を傾げてキリの袖をクイッと引く。 「大丈夫だよ、何も心配しなくても……。エルナさんだって乗り気だったようだからね。……あっ! 手が滑った!」 いつの間にかエルナが崖を降りていたため、キリがハッとした表情を浮かべて命綱を掴む。 それと同時に崖の方から『むぎゅっ』と悲鳴が聞こえたが、キリは『大丈夫。エルナさんは強い子ですから』と太鼓判を押した。 「こ、こ、殺す気か!? 一瞬、殺意を感じたぞ! そっちがその気なら、こっちだって……」 悔しそうな表情を浮かべ、エルナがキリの足をガシィッと掴む。 そのせいで、ふたりはバランスを崩し、悲鳴を上げて崖の下に落っこちた。 「だ、大丈夫ですか!?」 慌てた様子で崖に駆け寄り、ロレッタが恐る恐る顔を出す。 ふたりとも命綱を巻いていたので崖の途中で止まっているが、騒ぎを聞きつけてツッツキ鳥が集まってきた。 「ふっ……、私達の邪魔をすると言うなら容赦はしない……」 愛用のメリケンサックを装備し、エルサイドがツッツキ鳥をジロリと睨む。 そのため、ツッツキ鳥が大きく羽をバタつかせ、エルサイド達に攻撃を仕掛けてきた。 「突然のご無礼で、ごめんなさいです。実は岩肌に生えている草の花を取りに来たですが……、巣には決して触りませんから、傍を通っても良いですか?」 申し訳なさそうな表情を浮かべ、ロレッタが獣達の歌を歌い出す。 しかし、ツッツキ鳥達は気が立っているため、鋭いクチバシでツンツンと突いてくる。 「み、皆様! 鳥達はただ侵入者に怯えているだけなのです! 手加減をして……ヒイィ!! あーっ!?」 ツッツキ鳥が容赦なく攻撃を仕掛けてきたため、エルサイドが足を滑らせて崖から落ちた。 「クッ……、少しでもツッツキ鳥を可愛いな、と思った私が馬鹿でした。しかし、そう簡単には死ねませんよ。出でよ、ユリシア!」 険しい表情を浮かべながら、エルサイドがフワリンを召喚する。 ……が、戦闘中だった事を思い出し、『しまった』とばかりに悲鳴を上げた。 その瞬間……。 「何とか間に合ったようだな。……無事か?」 エルサイドの腕をガッチリと掴み、エルナがホッとした様子で溜息をつく。 しかし、そのぶん重くなってしまったため、命綱がブチブチと千切れていった。 「こ、このままでは、みんな落ちてしまう! な、ならばわたしのやるべき事は、ただひとつ! 地獄に落ちろ、馬鹿エルフ!」 のほほんとした表情を浮かべるキリを見つめ、エルナが必殺の蹴りを炸裂させる。 その一撃によってキリが谷底へと落下しそうになったが、間一髪の所でエルナの足を掴み巻き込むようにしてツッツキ鳥の巣に落ちた。 「こ、これってまさか!? 最悪の展開じゃあ!? ぼ、僕は無関係ですよ? ひぃっ!」 どしゃぶりの雨の如きツッツキ鳥が降下してきたため、キリが青ざめた表情を浮かべて逃げていく。 その後ろからはエルナ達も着いてきており、我先にとばかりに巣から続いていた洞窟の中を突き進む。 「み、皆さん、無事ですか!?」 反対側の通路からロレッタが現れ、心配した様子で眠りの歌を歌い出す。 それと同時にツッツキ鳥が眠りにつき、エルナ達を襲う前にパタパタと落ちていった。 「はぁはぁ……、何とか助かりました。でも、オトコギ草が、まだ……ってあれ?」 いつの間にかオトコギ草を掴んでいた事に気づき、エルサイドが驚いた様子で首を傾げる。 この様子では崖から落ちそうになった時に、オトコギ草を掴んでいたらしい。 「近くの洞窟と繋がっていたなんて驚きなの。えーっと、キリお兄ちゃんは……」 キリ達の姿がなかったため、セレアがキョロキョロと辺りを見回した。 ……殴り合う、ふたり。 ふたりともトラブル続きだったためか、我を忘れて拳で語り合っている。 「えーっと、喧嘩するほど仲がいい、って誰かが言ってたの。……だから大丈夫そうなの」 そのため、セレアは何も見なかった事にした。 いや……、正確に言えば『見てはならないもの』だと本能的に認識したのである。 その後、冒険者達によって持ち帰られた材料を使い、チキンレッグ達が伝説の育毛剤を完成させた。

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参加者:12人
作成日:2007/05/01
得票数:コメディ17
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冒険結果:成功!
重傷者:特定医療食・ラルフ(a90213)(NPC)
死亡者:なし
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