略奪の徒



<オープニング>


●起
 暴虐の徒である鬼の脅威、その多くを『護楓の盾カムライ』の活躍によって払されたセトゥーナ州。州内には現在も尚、幾つかの国が其々に統治されていた。州を十の字に区切り、北西部に存在するのがエルフの治めるイヨシキの国。その下、南西部に存在するのがストライダーの治めるトコラヒの国。そこから内湾を渡って南東部には、セトゥーナの海賊を擁するヒトの国、スミツが存在する。そして最後に、嘗ては青火島の鬼に支配され、鬼の手から開放されたもう一つのヒトの国、サギミヤ。
 処々あったものの、今では国土を三つに分かたれ、其々の国が分領として統治されていた。その内、イヨシキの国が治める第一領にはサギミヤの城と共にグリモアが存在し、その城下では生き残った数少ない人々と共に、自国の民を含めて多くの人々が流入し始めている。
 かつて鬼に苛まれた国は、遅々とした歩みではあるものの、徐々に復興への道程を歩みつつあった。
 だが、しかし――

 サギミヤ城下の一角にある武家屋敷。この地に果たす勤めがあるとして残る事にした、秘色の霊査士・コノヱ(a90236)と深緋の忍び姫・ツバキ(a90233)の両名は其処で忙しない日々を過ごしていた。屋敷はそういう事情であるならばと、この地を治める者達から宛がわれたものであったが、それ程大きな物ではなかった。しかし屋敷に滞在するのは主にこの地に残ったコノヱとツバキ姫の二人であり、それを考えれば充分な場所を用意されたと断言しても言い過ぎではない。
 屋敷の離れに建てられた茶室へと冒険者達は誘われると、屋敷の現主であるコノヱは茶を点てて振る舞った。
 温かい湯で点てられた其れにより茶室には仄かに茶の香が広がり、一頻り落ち着いた空気感が辺りに満ち始めた頃、揃った者達の顔ぶれを確かめたコノヱは茶碗を置いて、立ち延びた菖蒲の姿を連想させる様にすらりと背筋を延ばす。
「わざわざ遠方から御足労様です。私も本土の方々とは接する機会が多くありませんので、皆さんのお顔を拝見していると郷里を懐かしく思い出します」
 白い顔に柔和な笑みをコノヱは浮かべてみせた後、傍らに置いた長い紙の束に手を触れ、その場の者達を一通り観察すると静かに深呼吸を一つした。
「私の事はさて置いて。皆さんにこうしてサギミヤの国に揃っていただいたのは、皆さんでなければ為し難い問題を解決する為なのです」
「……その問題とは一体?」
 集った冒険者達の内、一人が単刀直入に尋ねると、コノヱは僅かに目を伏せ、悲しみの色を露にする。
「つい先日の事です。この城下から二日程離れた村が幾つか壊滅しました。警邏についておられた武士の方々から話を伺った所、どうも鬼の仕業であるようなのです」
 鬼。
 以前と比べ、この地で姿を見る事も少なくなった存在。先の戦から逃げ延びた生き残りであろうか。その様な思考が、集まった冒険者達の脳裏に浮かび上がる。真剣な面差しを見せる彼らを前に、コノヱは幾ばくか険しさの篭められた声で言葉を紡ぎ続ける。
「手掛かりを得るべく、私も足を運んでみた所……横たわった村人達の骸は鋭利な刃物で切り刻まれた痕が見られるものから、両断されたもの、炎で焼かれた様なものまでありました。多種多様に渡る傷から、この地に多くが根付く怪異や妖怪と言った魔物の類では無いと私は判断しました」
「霊査では何か得られなかったのか」
 尋ねられ、彼女が持つ紅の瞳が僅かに翳りを見せた。そして歯切れの悪い様子で言葉を紡ぎ始める。
「調べた結果、確かに鬼の影を捉える事が出来ました。彼らの目的は不明瞭なれど、確かに何かしらの目的を抱いて村を襲ったようなのです。村の僅かな蓄えなどが残らず無くなっていた事から、それらを手に入れるのが目的であったのかも知れません」
 これまでに遭遇した鬼の殆どは粗暴であり、殺戮を好む、正に悪鬼羅刹と言う言葉が相応しい。襲われた村人達が最後に見せられた光景は、それはさぞかし惨い物であったろう。
「そして、彼らが次に襲う村を幸運にも知る事が出来ました。皆さんには村を襲うであろう鬼を打倒して頂きたいのです」
「だが、この国には他国の武士団が居るだろう。そちらはどうなっているんだ?」
 サギミヤと言う国は先の戦を経た後、今では州内三国が其々国土を分け、分領として統治されている状態である。少なくとも複数の武士団がこの国内には存在する筈だと。
「申し訳ありませんが、武士団の方々からのご助力は得られない物とお考え下さい。先程も口にしましたが、皆さんでなければ成し難い事柄なのです。不用意に協力を請えば復興の最中であるこの国から守り手を削る結果に成りかねません」
「手が足りない、と言う事か」
「端的に言えばそういう事になります。それに現在、鬼と相対して拮抗出来るだけの力量を持った方は同盟の冒険者くらいですから」
 ある冒険者の言葉が漏らした理解の言葉に、霊査士は柔和な笑みを浮かべて見せた。そうして、彼女は傍らに置いた束を広げ始める。
 冒険者達の前に広げられたのは、このサギミヤの城下近隣を記した簡素な地図であった。城下や山々、林などといった目立つ地形の中には村が複数記されており、その内の幾つかには朱で「×」と記されている。其れらの村はこれまでの間に襲われた村の箇所なのだと彼女は告げた。
「次に鬼が襲うであろう村は城下から北西にある、山よりの村です。
 その村は炭焼きで日々の生活を支えている慎ましやかと言っても差し支えのない村なのですが、この村を深夜から早朝にかけての、人々が寝静まった頃合を狙っている様なのです。夜陰に紛れて、彼等は彼等の目的を果たす積りなのでしょう」
 その村は彼等の生活を繋ぐ田畑と幾つかの炭焼き窯、数にして十軒程度の家が立ち並んでいる。鬼達は村の北部から襲撃する所までは霊査士である彼女の力により、冒険者達は知り得る事となった。
「恐らく、以前の戦で数を大きく減らした鬼達は、村に違和感を感じれば襲撃を取りやめるかも知れません。彼等の多くは非道であり、其れでいて狡猾でもある側面を有していますから」
 物憂げな表情を浮かべ、霊査士は集まった冒険者達に注意を促すのであった。

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参加者
墓標の剣・アコナイト(a03039)
過去に捕られた蒼・ユクス(a13003)
陽黄の騎士・クリストファー(a13856)
愛を紡ぐ・シャム(a14352)
黒焔の執行者・レグルス(a20725)
ごはんが大好き・キララ(a25679)
天照・ムツミ(a28021)
哉生明・シャオリィ(a39596)
天魔伏滅・ガイアス(a53625)
十六夜の月と戯れ踊る白狐・クルワ(a55507)


<リプレイ>

●潜伏
 略奪を行うであろう鬼の凶行を阻止せよとの依頼を受けた冒険者達は、霊査によって凶行の場と発覚した山よりの村へと向かうべく、歩みを進めていた。しかし、普段の彼らとは少々出で立ちが異なっていた。逢魔時と戯れる白狐・クルワ(a55507)や過去に捕られた蒼・ユクス(a13003)は楓華の地で営みを続ける行商人の姿を装っており、ごはんが大好き・キララ(a25679)や天照・ムツミ(a28021)の様なストライダーもまた、尾を隠す事で冒険者である己の素性を極力悟られぬ様にと努めている。更に、この楓華の地に存在しない種族であるリザードマンの天魔伏滅・ガイアス(a53625)に到っては、荷車に詰まれた大樽の中に身を隠す有様。そう、彼らはヒトの行商を装って、向けられているやも知れぬ鬼の注意から極力不審に思われる事を回避しようというのだ。ヒトの国であったサギミヤの事情を考えれば、悪くない判断と言える。
「書状が貰えなくて残念だったわ」
 召喚獣を隠した愛を紡ぐ・シャム(a14352)が、キララに向けて溜息混じりに言うと、彼女もまた、相槌を打つ様に頷く。
 商隊を装う準備の最中、鬼の調査をするという名目で第一領を管轄とするイヨシキの護衛士団に自らの身元を証明する為の書状を求める積りだったが、彼らも領内の問題に相対していた為に得る事は叶わなかったのである。
「仕方ないですにゃ、そういう事もありますにゃよ」
「でもまあ、必要が無いって言われたのはある意味では収穫かもねえ」
 けれど、書状は得られずとも、青火島の鬼を退治たのは同盟諸国の冒険者である事実は民草の間でも広がっているから必要は無いだろうと返答があった事をキララは思い返す。
 小声で交わされる2人の会話を、この土地の衣装に身を包んだリアクション大魔王・クリストファー(a13856)は耳にしつつ黙々と商隊を装っている。そんな彼の内心は正義感からか、私利私欲の為に民の命を奪う外道の所業を許せぬと静かな怒りに満ちていた。
 一方で、彼とは対照的に月紅風穢・アコナイト(a03039)は穏やかに気乗りした様子を見せていた。不謹慎ながらもこの地で受けた仕事――これから遭遇するであろう鬼がどれ程満たし、己を堪能させてくれるのかと期待に満ちていた。
 そうして胸中様々の思いを持つ彼らの向かう先に見えるのは、山々の間から細く白い筋を空へ上らせる小さな村。鬼が次に襲うであろうと霊査士の告げた村にある、炭焼き小屋から上る煙を目にし、ある者は自分達と鬼を呼び寄せる狼煙の様だと思うのであった。


●夜陰
 商隊を装った一行は、村人達を相手にそれらしい取引めいた事を行った。アコナイトの持ち寄った塩は海から遠い村ではそこそこに人気があった。本来の素性と目的を村長へユクスやムツミ達を始めとした者達が伝え済ませた後、その村で夜を迎える事となった。冬に比べ、以前よりも訪れの遅くなった落陽を眺めながら、ムツミ達は素性を隠したまま、只管に夜の帳が空に広がるのを待つ。北と南の二手に分かれ、ユクスや黒焔の執行者・レグルス(a20725)、クリストファーと樽の中に潜んだガイアスが南側、哉生明・シャオリィ(a39596)やシャム、アコナイトらが武器を納めた箱と共に村の北側へと身を潜めた。北側は山に程近く、炭焼き小屋や窯などが点在している。身を隠せる場所が南側よりも多い為、鬼達が攻め入ってくるには都合の良い立地と言って良いだろう。
「やっとまともに息が出来るぜ」
 一方、南側で大樽の中で息を潜めていたガイアスは南側の家屋に運ばれ、中から出るとゴキゴキと肩を鳴らした。狭い中に居た体を解し終えると辺りの気配を窺い始める。
「まだ暮れたばかりか」
 霊査士の告げた刻限はまだ遠い。レグルスはああ、と肯くと早々に道中に身に着けていた衣装を脱いで装備を整え始めた。
「合図はまだの様だな……」
 アコナイトからガイアスが預かった剣は、未だ彼の手の中にある。クリストファーは内に燃える怒りを解き放てる時を待ち望んでいた。
「直ぐ動ける様に気を張っていないといけませんね」
 呟くユクスもまた、既に支度を整えていた。後は村を襲う鬼を待つばかり。穏やかな彼の体には緊張の汗が僅かに浮かんでいた。

 身を潜めた家屋の住人であった村人達は南側に住居を持つ者の所へと身を寄せている。鬼が北側から来るとなれば、当然其処は戦場となり得る。それが分かっていながら何時もの様に営みを続けられるだけの豪胆とも無謀とも言える神経を、村人達は幸運な事に持ち合わせては居なかった。
「まだ来る気配は無いようだな」
 灯りを落とした家屋の窓を僅かに開いて外の様子を伺うシャオリィ。エルフの夜目で鬼達がやってくるであろう北側の方角を伺っているが、今の所それらしい動きは捉えられない。彼の他にも村が普段通りの夜を迎えたように装う為、同じく身を潜めたシャム達も息を潜めている。

「しかし、鬼達の目的は一体……?」
 灯りを落とした闇夜の中で爪を噛むシャオリィ。彼の呟きに同じく楓華の生まれであるクルワが口を開く。
「少なくとも彼らの目的の一つは略奪でしょう。平穏な日々を取り戻そうと努力する人々から……絶対に守らなければなりません」
 柔和な印象を持つクルワが真摯な面差しでシャオリィに言う。携えた武器である濡羽色の刀は道中の間は怪しまれない様にと包まれていた布を取り去り、彼の腰に下げられている。
「そうだな。分からずとも、同胞の骸を見る事が無い様……そう出来れば」
「ええ。頑張りましょう。先ずはこの村の人々を」
「……着たようだ」
 シャオリィがクルワの言葉を遮る。村を取囲むように生茂る木々の中から人間大の存在が複数、彼の視界に現れる。途端、キララやシャムは気を張り詰め、其々の得物に静かに手を伸ばした。又、アコナイトは合図とするべくガイアスに預けていたロザリオと名付けた巨大剣を手元に召喚する。
「迎撃するのにゃ!」
 村への侵入を阻むべく、キララを始めとした冒険者達は家屋の中から駆け出した。


●襲撃者
「来やがったなッ!」
 ガイアスの手に握られたアコナイトの巨大剣の感触が消えるや否や、剣戟の響き始めた村の北側へと意識を向ける。クリストファーは自らのグランスティードを召喚し、馬上の人となると、ガイアスもまた馬上の人となるべく自らの召喚獣を現す。続いてレグルスがクリストファーの召喚獣に飛び乗った。
「しかし、奴ら……遠征してきたのか?」
 手に篭める力を更に強くしながら己の疑問を零すレグルス。ホクテキと呼ばれる地から、トオミフジ、エミシと2つの州を越えて態々海から来たのだろうか。蓄えを奪うのは戦に備えての物かと思索を巡らすが、真実は襲撃に来た彼らしか知る由は無いだろう。
「駆けるぞ、レグルっさん!」
「応、気にせず飛ばせ!」
 声に応え、クリストファーが馬体に合図を入れると赤い具足に身を包んだ召喚獣は更に足を速くする。
「迂回していくぜ!」
「は……はいっ!」
 前行く2人の後を追う様にユクスを拾い上げたガイアスが召喚獣を走らせた。

「申し訳ありませんが、お仕事の前に遊んで頂けませんか?」
 闇夜の中、炭焼き窯が並ぶ村の荒れた道へと踏み入ったアコナイトが、己が手に外装を施した剣を携えると、鬼達もまた鏡に相対したかの如く肉厚の剣を正面に向ける。黒装束を纏った鬼を前に、アコナイトは相手の術へ牽制するべく構えを取る。彼女の構えの意味を悟ったのか、2体の鬼は後方に控えた者と先頭に立つ者へ護りの加護を与え、正面で刀を携えた鬼は己の得物に外装を施す。
「これ以上、楓華の民を苦しませないよ!」
 一方で前衛となるムツミが自らの鎧を強化し、鬼達の挙動に集中するキララが攻撃を捌くに適した構えをとる。
 そうして南側へと分かれた仲間が揃わぬまま、炭焼き場での戦いは始まった。数に僅かな不利を感じたシャムは、黒炎を纏うと治療に徹して仲間を待った。敵である鬼も、冒険者も護りを固めながらの戦闘となり、互いの削り合いへと変化していく。

「間に合った……!」
 そんな戦場にガイアスと共に急ぎ駆けつけたユクスはグランスティードから飛び降りると、戦場に残る鬼の集団を見やり、頭数を確かめる。彼の視界に入ったのは7体。事前に霊査士から告げられた8体程度と言う言葉に引っ掛かりを覚えた彼は咄嗟に口を開き、
「気をつけてください、身を潜ませている奴が居るかも知れません!」
「……ユクス、危ないッ!?」
 ユクスの姿を目にしたシャオリィが警告の声を上げた途端、炭焼場の影から不意を突いた一撃がユクスに向けて放たれた。咄嗟に仰け反るも、放たれた凶刃はユクスの腹部に突き刺さる。
「っ……かはっ!?」
 予期せぬ一撃を受けた彼の意識は衝撃により混濁してしまう。対して一撃を放った存在は即座に彼から離れ、仲間の下へと駆け寄った。

「て、敵は……そこか!」
 惑うユクスは紋章筆記によって強化された紋章印を描き、頭上に火球を生成する。放たれるべき相手は――
「うおおおおおおぉぉぉぉぉっ!?」
 自らへと向けられた火球を躱そうとするガイアスだが、間に合わず火球の洗礼を受けてしまう。だが咄嗟にシャムが高らかに歌を紡ぐ事により、ガイアスの負傷と惑乱したユクスの意識を正気へと回復させる。
「面倒臭い相手だね、毎度の事ながら!」
 愛用のギターを携えたシャムは夜の闇に紛れている鬼達を見やり、悪態の言葉を吐く。鬼達は一様に黒い装束を身に着けており、明らかに夜襲を念頭に置いた準備を整えているのが一見出来る。
「ご、ごめんっ!」
「か、構わねぇ、大した事無かったしな。それよりも……」
 闇夜の中から彼らに向けて下卑た笑いを漏らす鬼達へとガイアスは険しい瞳を向け、
「前回は中途半端で不完全燃焼だったんでな、今の礼も篭めて最後までお前らとやらせてもらうぜぇ!」
 身躱しの術を用いたガイアスは一気に重騎士らしき鬼へと距離を詰めた。必殺の間合いへと踏み込んだ途端、十字槍を手にした彼は剣舞を舞い始める。それは只の舞ではなく、緩急を伴った変幻自在の剣舞であり、相手を死に誘う武踊でもあった。
「ここから先は一歩たりとも踏み込ませるわけにはいきません!」
 彼に続き、同じく武道家であるクルワが疾る。手にした刀を抜き払うと、忍びと思しき先程の鬼へと斬りかかった。


●闇を断つ
「我が身守ぶらう者にはあらねど……民が為、悪鬼羅刹切り捨てて候」
「カムライに変わっておしおきにゃー!」
 空を割く轟音がアコナイトの闘気を纏った巨大剣から、細身の体躯に似つかわしくない程に上がり、キララの放った衝撃波が1体目の忍びを切り崩した。更にムツミが追い討ちを放ち、
「鬼の重騎士とは、剣の輝きが違うたぬっ!」
「言ってくれるわ小娘が!」
 冒険者達の攻め手は明らかに鬼達を圧倒していた。爆発と共に鬼の身体を斬り、出血を強いる。彼女らだけでなく、キララやユクス達を含めた殆どの冒険者は鬼の先手を取る事で、一気呵成に攻め立てる。流れは確かに彼らに傾き始めていた。
 けれども鬼達もまた流れを取り戻すべく、ある判断を下した。切り結んだ相手を半ば無視し、只一人先手を奪える相手へと襲い掛かったのである。
「距離を取るんだ、クルワ! こいつら、お前を狙って来ている!!」
「こいつら……!」
 強化された刀剣による斬撃、そして複数の異形の炎がクルワに向けて放たれる。鬼は冒険者の中で最も力量の低い者を集中的に攻め、敵の数を減らす事を選んだのだ。毒に侵され、纏わりつく黒炎の下からはクルワの大量の鮮血が溢れ出る。
「早く治療を!」
「分かってるって!」
 有事と見たシャオリィが癒しの波を発し、高らかに凱歌をシャムが歌い上げる事によって黒炎は掻き消え、クルワの顔色も持ち直す。しかし、それでも尚受けた傷が塞がるには足りず。更に鬼が蜘蛛糸を彼らに向けて放つ事で癒し手の行動を阻害しようと試みる。
「崩せッ! 一人潰せばこちらに流れは傾く!」
 刀についた血脂を振り拭いながら武人らしき鬼が叫ぶと、率いられた鬼達もまた、咆哮を上げてキララやガイアスへと襲い掛かる。
「こ、この程度で!!」
 受けた傷に堪えながら、クルワが間合いを詰める鬼の横合いから必殺の蹴りを放つ。光の弧を描いて鬼の肩口に食い込むも、深手を負わせるには到らず。
「……まだまだ修行が足りませんか!」
「離れろ、援護するぜ!」
 レグルスが魔杖から黒炎を放つのを脇目に見たクルワは後ろに飛び、射線を開く。異形の炎は鬼の顔に命中し、燃え移った炎を消そうと掻き毟る。
「追い討ちを撃たせてもらう!」
 更にシャオリィが紋章印から無数の木の葉を生じさせる事で、鬼の体躯を束縛する。動きの封じられた鬼にアコナイトが斬撃を放ち、ガイアスが止めとばかりに構えた槍を蛇の如く踊らせ、切り刻んで行く。そうして炭焼場にまた一つ、鬼が斃れていく。

 加護を与えたクリストファーの斬撃が絶える事無く疾れば、呼応する様に相対する鬼も超絶なる力で返礼とばかりに強化された剣を振るう。
「貴様等はまだ俺達の邪魔をする気かッ!」
「邪魔? 邪魔なのはお前等だろうが……!!」
 憤怒の形相を向ける鬼に侮蔑の相を持ってレグルスは吐き捨てると、手にした魔杖から異形の魔を模った黒炎を解き放つ。生じた黒炎は頭と思しき鬼に喰らいつくと鮮血を迸らせるが、受けた鬼は怯みすらせず。
「死ねぇぇぇーッ!!」
「にゃ……!」
 ――電光一閃。必殺の間合いで放たれた瞬速の一撃がキララの肩口へと襲い掛かる。振り抜かれた刹那、裂いた傷口から鮮血を迸らせる。しかしキララは返礼とばかりに呼気と共に手に握った刀に力を篭め、逆袈裟に衝撃波を放った。更に畳み掛ける様にしてクリストファーが手にした重戦斧が闘気を以って振り下ろされる。
「外道! その命を以って民に報いるがいいッ!!」
「――――ッッ!!!」
 2人の斬撃は鬼の体躯を交差する様にして疾り、その体躯を寸断した。間欠泉の如く吹き上がる鮮血が冒険者達に降り注ぎ、戦いに火照る体を濡らしていく。そうして、村を襲撃しようと姿を見せた鬼は打倒された。

「……こいつを持ち帰るか」
 戦いから暫くして落ち着いた頃、鬼の骸の傍らには彼らが用いていた杖や太刀が並んでいた。レグルスやムツミは霊査を行う手掛かりとするべく、其れ等を縄で括って背負う。
「何か判ればいいけれど……」
 ホクテキの鬼達を全て倒せばもう鬼は生まれないのだろうか。希望に似た思いを抱くムツミは自然、気が重くなる。新たな憎しみと絶望と言った負の感情が、また鬼を生じさせるのか。けれども彼女の思いに答えを返せるものは無く、勝利した彼女らを迎える様に東の空は徐々に白んで行く。
「朝、ですね」
 無事、平穏な朝を迎える事が出来た。受けた傷が鈍く痛むけれど、


マスター:石動幸 紹介ページ
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作成日:2007/05/18
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