桃色パーティー



<オープニング>


「おひさしぶりなのですー! プラムなのです〜!」
 酒場が、やけにがやがやと煩い。
 中心にいるのは、どうやらストライダーの少年のようだ。淡い紫色の髪に、鳶色の瞳。銀色の狐尻尾。

 誰だあれ? 見覚えあるか? いや全然……
 一同は顔を見合わせ、首を傾げる。
「あぁうぅ……1年以上ぶりのせいでだあれもプラムのこと、覚えてないのですぅ……」
 1年以上?
 じゃあ知らないはずだ、と呟く新米冒険者に、やっぱり解らん、と首を傾げる冒険暦1年以上の冒険者。

 桃色笑顔・プラム(a90207)……。
 一昨年の11月ごろ、唐突に酒場から姿を消した、やけに元気のいいストライダーの少年、なのだが。
 成長期だったからだろうか、すっかり背も伸びて、顔もやや大人びてしまって、完全に別人である。
 特に身長なんか、実に15センチも伸びているわけで……。
 これでは誰が誰だかわからないのも無理ないかも。

「がーんっ、ちょっとプラムがごにょごにょしてる間に、何だることですか! しょーがないのです、いっちょパーティーでもやって、プラムの知名度を取り戻すですよ!」
 机からダンッ! と激しい音を立てて飛び降りたプラムは、手当たり次第に冒険者を捕まえて、自己紹介をしたり、謎の封筒(パーティーの招待状)を配ったりしはじめた。

 ………ところで。
 ごくごくわずかながらいる、昔のプラムと、目の前で暴れている少年一致した冒険者は心の中で呟いた。

 図体はそんなに大きくなったのに、ひらがなばっかりの喋り方が変わっていないのは…………どうなんだろう? と。

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  しょーたいじょー。
  プラムと一緒にプリンを食べるパーティーをします。
  みんな来て下さいです。
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参加者
NPC:元気炸裂子狐・プラム(a90207)



<リプレイ>

●籠×プリン
 確かに、
「バケツいっぱい食べても大丈夫?」
 なんて呟きながら歩いて来たけど。招待状に書かれていた通りの時間に酒場を訪れた白楽天・ヤマ(a07630)は、あんぐりと口を開けた。
 彼女が考えていたのはプリンの量の話であって、サイズの話ではない。
「うっわ、でけぇー!」
 ほぼ同じタイミングで入って来た、妹分である願いの青・ヘレン(a55495)の手を引いてやって来た誓いの朱・アトリ(a29374)も呆気に取られている。
「……はわわわ……ゆ、夢にまで見た『ばけつぷりん』が目の前に………!」
 ヘレンは驚いているというよりは――感激しているという方が正しそうだが。
 彼等が見たのは、特大のかご入りプリンだ。
 一体ドコから出した!? と、主催者の桃色笑顔・プラム(a90207)を取っ捕まえて問いただしたくなるような量のかごが、ところ狭しと並んでいる。

「プラムさん初めましてなのですぅ〜♪ お近づきの印にキャンディーあげちゃうですよぉ〜♪」
「プラム様、おさそいかんしゃなのです……!」
 ぽかんとしている3人の前で、当のプラムは超能天気娘・ミリル(a08887)、それから花冠の童話・キハル(a63744)と一緒にわいわいと喋っている。
 左手に桃色の可愛らしいキャンディーを持って、右手ではミリルと握手している。
「キハルはどりあっどのとるばどーるしてますです。プラム様となかよくなりたいなーっておもってますですようー……! よろしくおねがいしますなのです……♪」
「プラムはストライダーの邪竜導師なのです〜。よろしくですー!」
 と、プラムがこちら側に気付いた。
「およ、新顔なのですー! よーこそプラムのプリンパーティーへ、なのですよぅ♪ さあ、この巨大スプーンで食べまくるです〜!!」
 キャンディーをポケットにしまいつつ、どこからともなく……レンゲにしか見えない巨大スプーンを取り出し、ヤマとアトリとヘレンに手渡した。
 ……ついでにもう片方の手はというと……握手のやめるタイミングがよくわからなくなったのか、まだキハルの手を握っていたりする。
「はっじめましてー! 招待状、ありがとさん……って、こら、ちび! プリンは挨拶してからにしろ! おい!」
 ワンテンポ遅れて、ようやく調子を取り戻したアトリが元気良く大声で挨拶し……しかし、巨大プリンに突進してゆくヘレンに引き摺られるようにして移動していってしまう。ひらひらと、彼が手にしていた招待状が揺れる。
 そして、ヘレンとアトリ、その後を追うように突っ走ってゆくミリルを皮切りに、パーティーが始まった。

●身長×プリン
「私が冒険者になったのは一昨年の8月だから……もしかしたら酒場ですれ違っていたのかもしれんな」
「そーですねー。プラム、そのころはちょい忙しかったから、毎日酒場にいたわけじゃないですしぃ」
 プラムが、守護者・ガルスタ(a32308)と、巨大プリンを食べつつのんびりお喋りしている。プリンは好きだがカラメルが苦手……そんなガルスタの悩みは、ごろごろと転がる様々な種類のプリン達の前に掻き消えた。
 多分同じものばかりじゃなかろう、という希望的観測、大当たりである。
「あ、ミルクプリンもありました!」
 そんな恩恵に預かっているのはガルスタばかりではない。普通の卵プリンよりもミルクプリンの方が好きな日向大好きへっぽこ看護士・リム(a39935)は、ちょっと巨大すぎるかごプリンにおっかなびっくりしながらも、嬉しそうにミルクプリンの籠を抱え上げた。
「そのミルクプリンはですねー、中にいちごソースが入ってるですよ! 自信作なのですぅ!」
「え、ええっ、ここのプリン、プラムさんが作ったんですか!?」
 丁度近くにいたもりのねこさん・キヤカ(a37593)がは、にっこり笑って親指を立てたプラムに向かって思い切り振り返った。
 実は彼女、マイスプーンを持っていたので、巨大スプーン攻撃は免れている。……女の子に、大口開けないといけない巨大スプーンはそもそもちょっと酷だし……気にしてない人も多いけど。
「もっちろんですよぅ!」
「うわーっ、うわーっ、こんなにすっごく美味しいプリンを!? で、弟子にしてください!」
「ででで、弟子ですかぁ!?」
 思わずプラムに飛びつくキヤカ。
 微笑ましいなあ……。
 思わずガルスタとリムが顔を見合わせ、にっこりと笑い交わす。
 ……しかし、それに釈然としない顔をしている者も1人、2人……。
「キヤカはさておき、体ばっか発育いーんは何処も同じか……」
 スタイルは抜群なのに、巨大プリンに興奮して、あちこち零しながらかぶりつくヘレンを見て溜息するアトリと。
「ぬぅ……漢ならばシャキッとせぬか、シャキッと。身長の割に話し方が甘ったるいのぅ……!」
 根無し姫・セイフィール(a60475)である。
「これ、プラムとやら、そこに直れい!」
「ほ、ほえぇ?」
 びしっ! と床を指さすセイフィール。ばっちりお説教モードである。
「よいか、冒険者たる者……」
 こりゃくどくど続きそうだなあ。と、肩をすくめる傍観者達。
「常に心身を引き締めて…………なんと美しい!」
 しかし。
 結構すぐ終わった。

 最初から、お子様と同じように、両手に紅茶プリンと抹茶プリンをそれぞれ持って頬張っていたセイフィールのことである。
 ちょっと離れたところで、プリンをデコレーションしよう大会を開催していた行雲流水狐・エン(a60664)とフルーツグラディエーター・チナ(a48715)の方に、思いっきり気を取られ、その隙にプラムに逃げられてしまったのだった。

●菫色の思い出×プリン
「逃げるが勝ちー! なのです〜」
 こちら、逃げるプラム。
「プラムさん」
「よーお、プラム!」
 彼に声をかけたのは、エンジェルの重騎士・メイフェア(a18529)と、魔戒の疾風・ワスプ(a08884)だった。
 ききぃっ、と音を立てて、プラム急停止。
「メイフェアちゃんと、ワスプおにーさんですかぁ!? うわぁ、うわぁーっ、お久しぶりなのですー!」
 彼等はかつてプラムと一緒に、美しい4つの泉の景観を守るために戦ったこともある戦友だ。
「おう、久しぶり!」
「……また、お会いできて嬉しく思いますの」
 握手しようと手を差し出したワスプだが……しまった、プラムの手が空いてない。
 それどころか、プラムは意味を取り違えたらしく、どさっと巨大プリンを手渡してしまった。
「やっと知った顔見つけて、すごい嬉しいです〜! ……あ、遠慮なく食べて食べてですよっ」
「……あ、ああ……」
 昔と同じように、プラムは元気いっぱいだった。
 メイフェアが、昔の依頼で手に入れた4つの泉の風景画を全て取り出して、どこか懐かしそうに思い出話を始める。
 巨大な動物達に占拠された、この世のものとは思えなかったほど美しい泉。
 ……彼等が守った風景。
「あれっ、……すみれ色の絵も、メイフェアちゃんが持ってるですか?」
「……ええ、ワスプさんが、譲ってくださいましたの……。お前が持っていた方が良いんだろう、って仰って……」
 はにかんだようにメイフェアが笑った。 
 4つの泉のうち、最後のひとつの泉を守る戦闘にだけ、メイフェアは参加できなかったのだった。……その代わりにプラム達と一緒に冒険に出たのがワスプだ。
「………はわー……カッコイイですね−、ワスプおにーさんったら粋なのです!」
「ほへ?」
「まあ、ワスプさん……」
 しかし。
 籠プリン相手に巨大スプーンで応戦しているワスプは―――――……。
 そんな格好良い言動をする青年には、ちょっと見えなかった。
「おい、お前ら何で笑うんだ!? ……つーかメイフェア、笑ってないで食っとけ。ただでさえ細いのに、重騎士なんてやってんだから」
 プラムとメイフェアはひとしきり笑って、ちょっとむっとしたワスプはぐいぐいと籠プリンをメイフェアに押し付けて。
 それが愉快で、今度はワスプも一緒に笑って。結局最後には、何が何だかわからなくなってしまった。
 結構長い時が流れていたが、彼等の柔らかくて優しい冒険の想い出は、まだ色褪せていなかった。

●ア・ラ・モード×プリン
「うわーっ、すっごいなぁ、チナも、エンも!」
「なぁ〜ん♪ 果物いっぱい持ってきて大正解だったなぁ〜ん」
「へへっ、クリームも大正解だったな♪」
「あっ、私も参加しますー!」
「ほぉ……素晴らしい技巧だな」
 プリンは、食べるだけじゃつまらない。
 会場の一角でチナとエンが始めたプリン盛りつけ大会は、いつのまにか大盛況になってきていた。
 ……最初は、食べている者のいる場所にゲリラ的に出現して、勝手に飾り付して去っていく、というのを繰り返していた2人なのだが、途中からなんか趣旨が変わってしまったらしい。
 リムも飛び入り参加して、更にメイフェア、プラムも様子を見にやって来た。
 ……どっちかと言うとプラムと……それから、ミリルは、食べる方がメインらしい。
 見た目を褒めつつ、躊躇うことなくぱくぱくもぐもぐ、口を動かしている。―――――頑張って盛りつけしたエンとチナとしては、ちょーっと複雑。
「プラム、キミちょっとは味わってる?」
「ほえー?」
「……ほえーじゃないですなぁ〜ん……」
「あ、エンさん、尻尾仲間ですー♪」
「……………誤摩化そうとしてない?」
「ぎくっ!」
「もーっ、ひどいな」
「ひどいですなぁ〜ん!」
 思わずぽかぽかとプラムを叩いてしまった。
「すっごい美味しいですよね♪ アトリさん」
「おうキヤカ………ってわあっ、ヘレン、口がクリームだらけじゃねーか! ちょっと待て、拭くもん、拭くもん……っ」
「むにゃっ……?」
「およっ、キハルちゃん、テーブルに届かないですか? はい、どーぞなのです〜」
「あ……プラム様……ありがとうございますです……」
「うぅ、チナも届かないなぁ〜ん……」
「うにゃ? このいちごプリンなのですかぁ? プラムは届くのですー♪ どーぞっ」
「ありがとなぁ〜ん♪」
「………あーあ、保育園になってら」
「それは禁句だろう」

 行方不明中の冒険話とか、色々聞きたいこともあったはずなのだが、何だかもうお祭り騒ぎでそれどころではなかった。あちらが騒げばこちらが騒ぎ、仲良くしようと握手してみたりお友達になろうと誓ってみたり。
 結局このお祭り騒ぎは夜まで続いて、一同は、もう一生分食べた! というくらいに、プリンを食べた。
 しばらくはプリンなんて見たくもない……ことだろう。

 ……。

「……まだ、お土産に持ち帰る方もいらっしゃるようですの……」
「なぁあ〜ん……チナはもういっぱいいっぱいですなぁ〜ん……」
「……僕も……もう駄目………」
「俺も……」
「私もだ……」

「おみあげですー」
「ふむ……こっちの抹茶プリンと紅茶プリンと……あとは、そうだのぅ……」
「ばけつぷりんー♪」
「え、持って帰ってもいいの? それならわたしも……」
 ちょっと例外もいたらしい……。


マスター:出海吟 紹介ページ
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作成日:2007/05/09
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