とうもろこしのぱんとぶどうのぱん



<オープニング>


「やぁやぁ、おはようさん」
 間延びした声と共に、ヒトの霊査士・ブレントが酒場に入ってきた。その腕の中には可愛らしい子犬。
 子犬をカウンターの上に置き、ブレントは手で軽く子犬をじゃらしながら話始めた。
「この街にいる姉妹、ピノとピコがいなくなった。とは言っても、行き先は分かっている。近くの村のおばあさん家だそーだ」
 ピノとピコの姉妹は大のお婆ちゃん子で、今日は自分たちで焼いたパンを持って遊びに行くはずだった。
 ところが、母親に急な用事が入り行く事ができなくなったのだが、絶対今日渡すんだと二人してダダをこねていたらしい。母親は放って置けば諦めるだろうと、無視をして出掛けたのだがしばらくして戻ってみると二人の姿はない。二人が焼いたとうもろこしパンとぶどうパンもない。そして、慌てて偶々見つけたブレントを掴まえ助けてくれと訴えて来たのである。
「ま、はじめてのおつかいって思えばなんてこたないんだが、途中森を通るんだよ。母親と一緒に何度も婆さん家に通っているとは言え迷う可能性はあるからな」
 そう言うとブレントは子犬を冒険者たちに手渡した。
「あの子達が可愛がってる犬だ。この犬が多分、二人の持っているパンの匂いを追って二人を探してくれるはずだから。二人がちゃんと辿り着けるように、よろしく頼むわ〜」

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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
潮騒の養い子・リオン(a05794)
萌えなずむ逆襲の魔人・サボテグロン(a06780)
赤百舌・ミニア(a06994)
銀糸の紡ぎ手・ソロネ(a07017)
夢幻を惑いし夜鶴・スフィア(a07050)
優美なる紫瞳・テリー(a07563)
蒼忍具爬・アイル(a07709)


<リプレイ>

●子犬ノコと仲間たち
「ワンワンワンっ! ワン!」
 何気なく抱かれている子犬に手を伸ばしたドリアッドの邪竜導士・サボテグロン(a06780)は吼えられた。
「あー大丈夫よ、大丈夫。怖くないわ」
 と、子犬を抱いている優美なる紫瞳・テリー(a07563)が子犬をなだめているのを見て、サボテグロンは渋い顔をした。
「まずは、紐をつけなきゃね」
「結ぶのは僕がやるよ。船で育ってるから解けにくい結び方を知ってるし」
 銀糸の紡ぎ手・ソロネ(a07017)から長めの紐を受け取った潮騒の養い子・リオン(a05794)は子犬の首輪に手際良く紐を結びつけた。
「お仕事お仕事、初めてのお仕事〜♪ って、浮かれてる場合じゃないよね」
 赤百舌・ミニア(a06994)は少し表情を引き締めながらも、どこか嬉しそうに目を細めながら子犬の頭を撫でた。
「みなさ〜ん」
 じゃれる子犬と待っていた冒険者たちの傍に想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)がやって来た。ピノとピコの母親にいろいろ聞いてきたのだ。
「おばあさんのお名前と家までの道筋を聞いてきました」
 あと、子犬の名前も。と言ってラジスラヴァはにっこり微笑んだ。
「名前?」
 静かに小さく首を傾げた未来を失いし夜鶴・スフィア(a07050)の言葉にラジスラヴァが言った。
「ノコちゃんだそうですよ」
「ノコ……ピノとピコの犬だから、ノコか。わかりやすいですね」
 リザードマンの忍び・アイル(a07709)は小さく笑うと仲間たちの顔を見た。
「そろそろ出発しましょう」
「よし。行こう、ノコ!」
 子犬ノコに括りつけた紐を手に駆け出したリオンとそれを追うように走るノコ。彼らの後を追い一行は出発した。

●ピノとピコと仲間たち
「おいし〜おいし〜とうもろこしのぱん〜♪ おばあちゃんはとうもろこしのぱんが好き〜♪」
「甘〜い甘〜いぶどうのぱん〜♪ おばあちゃんはぶどうのぱんが好き〜♪」
 自分勝手なメロディに乗せて歌っていたピノとピコは立ち止まり、顔を見合わせる。
「おばあちゃんはピコのぱんが好きなの!」
「ちがうもん! ピノのぱんが好きなの!」
 森の中でパンの入ったバスケットを大事に抱えたピノとピコはキャアキャアと言い合う。その声に追いかけていた冒険者たちは気がついた。
「……ようやく、追いついたみたいだな」
 疲れた顔で言ったサボテグロンにつられるようにソロネも少し疲労を感じる肩を軽く回した。
「ちょっと時間かかっちゃったけど、無事みたいで良かったよ」
 ノコを先頭に冒険者たちは姉妹の後を追い、森へと入ったのだがノコはまだまだ好奇心旺盛な子犬。気になる匂いがあるとすぐに道をそれて駆け出すのだ。最初は姉妹の匂いを見つけたのかと冒険者たちも後を追うが、匂いの正体がヘビだったり動物の糞だったりと期待はずれの結果に振り回されつつようやく言い争っている姉妹の近くまで辿り着いたのだ。
「じゃ、早速影からのサポート行って来ます」
 軽く手を挙げそういったミニアは一行から離れ森の中へ分け入る。スフィアもアイルもそれぞれ森の中へと消える。残った冒険者たちはまだキャアキャアと言い合う二人の少女に近づいた。
『あ、ノコ!』
 冒険者たちが声をかけるより早く、ピノとピコが愛犬の鳴き声に気づき二人同時に声を上げた。
 ピノは栗色おかっぱ頭。ピコは黒髪おかっぱ頭。だが、二人の背はほとんど変わらずまるで双子のように顔も良く似ていた。
「ピノちゃん、ピコちゃん。お姉ちゃんはラジスラヴァって言います。ラジスって呼んでくださいね」
 そう優しく言いながら微笑んだラジスラヴァの横から腰に手を当て、怒ったような表情を作りながらソロネがピノとピコに言った。
「こら。お母さんを心配させちゃだめだよ」
『え〜だって〜……』
 呼吸も示し合わせたかのようにピッタリに言ったピノとピコ。
「ね、二人には二人の理由があるだろうけど、帰ったらお母さんに謝ろうね? とっても心配しているよ?」
 大きな背を屈めて言ったリオンに姉妹は曖昧な表情で頷きながらリオンを見上げていた。
「でも、まずはおばあちゃんのところに行かなくちゃ、ね」
「うむ。その通りだ。ここまで来るのに時間もかかったしな、すぐにでも行くぞ」
 言ったテリーとサボテグロンをぽかんと口を開けて見上げるピノとピコは次にやはり二人そろって同じ言葉を口にした。
「うわっ! おおきいっ!」
 まだ6歳と5歳の子供たちはテリーやサボテグロン、それにリオンの背の高さに目を丸くする。きっと、彼女たちの周りには彼らのような大きい人たちはいなかったのだろう。素直に驚いている。
「えーっと……とりあえず、おばあちゃんのおうちに行こうか?」
『あ、そうだった!』
 テリーに促され、ようやく動き出した姉妹に冒険者たちは苦笑しつつも付いて動き出した。
「森は危険がいっぱいなんだよ? まだ二人だけでおばあさんの所に行っちゃだめ。わかってる?」
「お母さんはね、二人のこと心配してお姉さんたちにおばあさんの家まで一緒に行ってほしいって頼んできたのよ」
「二人とも歌上手なんだね! 僕も一緒に歌おうかな」
 入れ代わり立ち代わりソロネ、ラジスラヴァ、リオンは言うが子犬と同じ好奇心の塊たちは話を半分聞いてはすぐに意識が別のところへ向いてしまう。
「ごめんね。可哀想だけど、これがあたし達のお仕事だから……えいっ」
 背後できゃらきゃらとはしゃぐ姉妹の声を聞きながら、ミニアは木々の間から様子を伺っている狼へ気を練って作り出した刃を飛ばした。刃は狼の前の木を抉ったが、去っていく尻尾を見てミニアは一息ついた。
「それにしても……大好きなお婆ちゃんにパンを、かぁ。何だか良いなぁ。あたしにもお婆ちゃんがいて、二人と同じ状況に置かれたら、同じことしてたかもしれないなぁ」
「あ。あれなんだろ?」
 道から外れた木の根元に何か見つけたピノが駆け出し、ひっそり影に隠れていたスフィアの方へとかけて来る。と、微かに木の葉を揺らす音がした。森の中では当たり前の音のように思えるが、スフィアには警戒を発する音に聞こえていた。
 すぐに音の原因を探したスフィアは何がピノに近づいているのか判った。人の首の太さほどの蛇がゆっくり木の頂上からゆっくり幹に絡みつきながら獲物に近づいていく。音もなく赤い舌を出し大きく開けられる蛇の口。
「こらこら、ピノちゃん。寄り道ばかりじゃダメよ」
 テリーに手を引かれ、道に戻るピノを失った蛇は名残惜しそうに舌をちろちろさせていたが、影から現れたスフィアの一撃により舌を吐出す頭は胴から離され地面に落ちた。
「自分たちでパンを作るなんて、すごいのね。今度私もつくってみたいなぁ」
「あのね、あのね! おばあちゃんが好きなんだよ、とうもろこしぱん」
「ちがうもん! おばあちゃんはぶどうのぱんが好きなんだよ」
 違う、違うとまたもケンカを始める二人に割って入ったのはサボテグロン。
「子供たち、ケンカを止めるんだ。さぁ、さっさと進むんだ。これでは日が暮れてしまう」
「そうそう。それに、折角作ったパンがおいしくなくなっちゃうしさ」
 リオンの相槌で付け加えた言葉に姉妹は慌てだす。彼女たちにとっておいしくなくなると言われては、一大事なのだから。
 道を先回りしていたアイルはようやく順調に進み始めた一行に小さく息を吐いた。時々森の中へ走り出そうとする子犬に口笛を吹き、正しいところへ誘導しながらアイル自身もどんどん先回りして進んでいった。

●おいしいぱんと仲間たち
「ピノ! ピコ! 勝手にばあちゃんところに来ちゃダメじゃないか!」
 無事におばあさんの家に着いて、姉妹は真っ先にこっぴどく叱られた。
「おばあさん、二人は大好きなおばあさんの為に……」
 叱られ口をへの字に曲げてぐっと堪えている姉妹のフォローと事の説明をする為に口を開いたラジスラヴァだが、静かにおばあさんに制された。
「お話は伺っています。冒険者の皆さんにはご迷惑をお掛けしました」
 丁寧に頭を下げたおばあさんはアイルを見て、微笑んだ。
「でも、おばあちゃんに、ピノのつくったぱんを食べて欲しかったの!」
「ピコも食べてほしかったの!」
 目にたくさん涙を溜めてそう声を張り上げたピノとピコの前にしゃがんだおばあさんは優しく二人の頬に手を添えた。
「もし、冒険者の皆さんがいなくて、危ない目にあってたらどうするの。ばあちゃん、そうなったらとっても哀しいんだよ」
『……ごめんなさい。おばあちゃん』
 優しく孫たちを抱きしめた祖母の姿に冒険者たちは微笑んだ。
「さ、疲れただろう? 中に入っておやつにしよう。皆さんもどうぞ、この子達のパンを食べていって下さいな」
「え、いいの?」
「えぇ、もちろん」
 招き入れられた冒険者たちは温かな紅茶とピノとピコの作ったパンで遅いおやつで疲れを癒したのだった。
 もちろん、帰りもピノとピコを家まで送り届けた冒険者たち。安堵感からくる怒りで喧々轟々と叱り続ける母親を宥める頃にはすっかり夜になってしまったのでした。


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作成日:2004/04/29
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