旧ソルレオン王国復興  〜未来へのEtude



<オープニング>


 まだこの地にはモンスターに苦しめられる人々がいる。そして。
 拡がる版図。次々と現れる強大な敵。激しさを増す一方の、戦い。
(「私たちは、常に、更に、強くあらねばなりません……」) 

 月夜に咲く一輪の花・コトナ(a27087)が仲間たちを引き連れ、旧ソルレオン領辺境へと足を踏み入れたのは、危機感にも似た痛切な使命感ゆえ。
 同行の仲間たちもまた彼女と志を同じくする者ばかり。
 一行は、廃墟と化した城塞のひとつに足を踏み入れる。その石造りの城塞に立ち入った者は誰も帰らないのだという噂を、最寄りの村で耳にしたからだ。強敵を求め旅する彼女達には渡りに船。
 何より。其処がモンスターの棲み処ならば決して放置は出来ない。人々の安寧の為に。
 荒れ果てた回廊を注意深く歩み抜け、中庭へと到る。その広さはざっと三十メートル四方といった処だろうか。
 唐突に拡がる視界。時は既に夕刻。

 ――赤光が、世界を染めあげていた。

 剥きだしの大地に深々と刺さる剣。その数は、三。長く黒く、地にみっつの影を落とす。
 かつてこの地を守護していた者達の遺品か、墓標か。感慨を胸に歩み寄ろうとした仲間のひとりへコトナが警告を発する。
「気をつけて! 敵は、此処にいます……」
 夕焼けの逆光の眩さに眼が慣れ始め……そこでようやく中庭のあちこちに人や鳥の骸が転がっている事に気づいたからだ。

 半ば朽ちた子供の骸は鋭い一撃で心臓を貫かれ、更に一刀両断。腰から下を断ち斬られていた。
 無残にも頭や腰骨を力任せに粉砕されて息絶えたらしい屍骸も幾つか見える。
 腐肉を狙って飛来したと思しき鴉の群れは……体中から血を流しボロ雑巾のようにひしゃげ黒羽をばら撒いていた。その内の何羽かには互いに啄ばみ合ったらしき傷跡や爪痕が刻まれているのが奇妙だった。
(「技、体、そして、心……少なくとも3種の敵……?」)

 その思考を遮ったのは、一迅の殺意。
「……っ!」
 墓標のひとつであった筈の巨大剣が突如、仲間の鼻先をかすめたのだ。
 柄の先に有るべき使い手の姿は、無い。刃を軋ませながらひとりでに動いた大剣はあっさりと地から解き放たれ、土くれを振り撒きながら地上3mの程の高さで静止した。
 剣先はギラリ冒険者たちへと向けられたまま。
 その右脇にくるくると独楽回転を繰り返す朽ち錆びた細剣が。後方にはゆらり身を震わせる儀式刀じみた複雑な曲線を描く石剣が。
 共に、大剣の後を追うように浮遊を開始し、ピタリ。同じ高度まで上昇した所でまたも留まる。
 それは夕陽を背に、誇るような威容。

「モンスター……3体とも……」
 ――ピシリ
 自身の繰り出した強撃の代償か、大剣の肉厚な刃に幾筋かの裂傷が走った。
 と、今度は石剣が回転を始めた。すると、ヒョォと笛の音にも似た風切り音が鳴り響くと同時に、大剣の傷口がピキピキと塞がりだした。回復まであるのかと、誰かの苦い呟き。

 『彼ら』いずれからも尋常でない殺気と力量、そして、隙の無い強固な『絆』を感じる。
 コトナは今回引率役の予定だった。
 彼女抜きでの実戦で、仲間たちの実力を底上げする訓練を。
 そういう目論みだったのだが――相手が悪すぎる。肌で敵の強さを感じ取りそう判断したコトナは即座に予定の中止を告げ、総力をあげての攻撃に転じようと身を翻した。
 だが。
 仲間たちはニッコリ笑って首を横に振った。大丈夫だと。 

(「皆ならきっと大丈夫。 ……手は、出さない」)
 逡巡し無防備を敵に晒す暇はなかった。コトナは無言でうなずき、中庭を一望できる回廊への出口まで身を退いた。皆を信じているから。
 だが、それでも。
 コトナの胸に得体の知れぬ不安が去来する。

 それは逢魔が刻。
 ひどく赤く朱い、夕暮れ。戦いの幕開け。
 ――『明日』を目の前に、だが、闇はゆるやかに侵蝕を始める……。

マスターからのコメントを見る

参加者
漆黒の凶剣・レギオン(a05859)
月夜に咲く一輪の花・コトナ(a27087)
桜と飲み比べる森の守護娘・シンブ(a28386)
特別天然記念物級理想主義者・メイ(a28387)
光祈麗嬢・ミューズ(a29133)
想いを謳う医術士・スズネ(a36692)
風薫る剣の使い手・ユズ(a50407)
十六夜の月と戯れ踊る白狐・クルワ(a55507)


<リプレイ>


 黄昏に灼けそまる空のした。
 所々朽ち崩れた城壁に囲まれた赤土の庭は、さながら方形のコロシウム。
(「きっと、きっと……平気です……」)
 白花が儚くゆらめく薄衣に鉄壁の護りを宿し終え、月夜に咲く一輪の花・コトナ(a27087)はアーチ描く石造りの出口に身を潜め、見つめる。
 祈るように。

 踊るように。
 先ず戦端をひらいたのは錆びた細剣。きゅるん、風切り音だけを置き去りにして。
 次の瞬間には漆黒の凶剣・レギオン(a05859)の左脇腹をしたたか抉り廻していた。
 素早く白銀の弓を構え、ぎりりと番えた雪解けを待つ森の守護娘・シンブ(a28386)の細い指が一瞬硬直する。
 まず撃破すべしと定めた敵は、石製の儀礼剣。回復術を確認済みのこの敵は早々に潰しておきたい。それにはまず前衛として立ち塞がる敵2体――大剣・錆剣と石剣を引き離さねばならない。
 だが遭遇時点で既に接敵状態。敵陣にナパームアロー投射、と視線を巡らせたシンブは、しかし、既に在る味方の存在も捉え、躊躇を余儀なくされたのだ。

「構わねぇ……撃てぇシンブ!」
 猛け吼える暴風。背から巨大剣テンペストを解き放ち、レギオンは振り返りもせず、叫ぶ。
 レギオンの叫びに点火されるように。先端に赤炎を宿した矢は生みだされ、放たれた。
「まったく厄介な剣ですわね……行きますわよ」
 そらには清浄な、月のひかり。
 否、それは光祈麗嬢・ミューズ(a29133)が掲げた蒼月杖。紅矢を追いかけ淡くおおきな紋章をひとつ、赤に染まる空へと描く。
 乱舞する爆風と光雨。
 大剣ののっぺりした刃面で虹と炎が爆ぜ、錆剣の柄装飾からぱらぱらと黒錆が散り飛ぶ。石剣にはエンブレムシャワーのみが降り注いだがこれは回避されたようだ。
 ふたたび撒き散らされた土くれに紛れ石剣を目指す、逢魔時と戯れる白狐・クルワ(a55507)と気ままに紡ぐ医術士・スズネ(a36692)。
 己の血を滴らせる錆剣と真正面から睨みあい、獰猛な笑みを浮かべるレギオンには、虹光の乙女が寄り添いその傷を癒した。
 特別天然記念物級理想主義者・メイ(a28387)が、宵の明星にも比する輝きの小杖から放った癒しの聖女だ。
(「厳しい敵だけどみんなが一緒なら絶対に勝てる……勝ってみせる」)
 凛と、必勝への決意と信頼を湛えた緑瞳。彼女は、レギオンや妹にあたる風薫る剣の使い手・ユズ(a50407)ら敵前衛陣の抑えを担う者達を一手に支える大任を担う。

 夕風と背に負う爆風の名残に、クルワの長い白髪が乱れ流される。漆黒の篭手に覆われた腕がざらり、石造りの剣を捉える。
「さて、お前の相手は俺だ。全力でいかせてもらう……」
 内心スズネから鎧聖の護りが飛ぶかと思っていたが彼女はひたすら治癒に徹する構え。
 コトナを除けば唯一鎧聖降臨を使えるシンブは他ならぬ彼らの支援射撃中。無論弾幕をばら撒き終えた後には彼女からクルワに守りが注がれる手筈ではあったが、それは体力と防御に不安を残したまま敵と渡り合うユズの後だ。
 だが此処で足と手を止める訳にはいかなかった。
「覚悟しろ!」
 クルワは飛び込んだ勢いそのまま渾身のデンジャラススイングを放つ。
 石の刀身は僅かに身じろいだ。ぐっと抵抗の圧がクルワの腕に伝わる。が、構わず強引に取りつき、そのまま空中で横に1回転半。
 穏和にすら映るその繊細な容貌からは想像もつかない豪快な荒業。
 石剣は出鱈目に振り回された後に、ぽおんと宙に放り投げられ、赤い大地に叩きつけられる。
 ひょぉと鳴った小さな音は悲鳴のようでもあった。

「こっちもいくぜぇっ!」
 畳み掛けるように錆剣からも激突音。生まれ消える火花。レギオンが態勢を整え攻勢に転じたのだ。
 強靭な大剣への総攻撃時に備える作戦上、デストロイブレードこそ封じていたが鋭利なシルエットの錆剣に青白い巨刃の豪撃は鮮やかに決まる。
 顔色どころか顔すらない相手故そのダメージの程は伺い知れなかったが。
 巨剣と錆剣が激闘を繰り広げるそのやや後方で、ユズが両手の戦斧をぎゅっと握り直し、力を注ぐ。
 カツ、カツン。
 鉄鱗鎧と斧柄が触れる金属音に、ユズは自身がしらず震えていた事にようやく気づく。眼前で飛び交う攻防。そのひとつが掠めただけで今の彼女では膝をつく羽目になろう。
「……こういうのって武者震いって言うのよね」
 だが、それでも。 ……絶対に生きて帰ってみせる。
 夕焼けに照らされ朝顔の女戦士の微笑はあくまで涼やか。レギオンをフォローする一太刀の隙を伺い始める。

 此処まではおおむね順調。詰めていた息を小さく吐くコトナ。
 駆け抜けたスズネがこちらまで来るのではと云うくらい下がった時には思わず声が出そうになったが最後方から戦場を見渡すシンブが素早く、位置取りの指示を飛ばした。セイレーン髪をゆらり揺らして、吹き飛ばしの一撃を加え終えたクルワの後方へとつくスズネ。
「さて、と。コトナの信頼を裏切らないようにがんばりますか」
 しなやかに弓弦に指をかけたままシンブは笑みを浮かべた。戦いはこれからなのだ。
 そう。
 それはモンスター達も、等しく。


 空気が、一変した。
 三剣の反攻はまず、石剣から。
 まだ彼らには余力があるとでもいうのか、ソレが選んだのは回復ではなく。歌。
 複雑な曲線を描く刃は、ゆらりくるり気まぐれに身を踊らせ、唄いはじめた。
 ひどく耳障りで不協和音な、破滅の歌を。

 身も心も引き裂く調べが何人かの下に舞いおちる。そして、歌に導かれる様に。
 見るからに鈍重な大剣が、突如その身をはね起し、ミューズの頭上に飛来した。
 他二剣と異なり、大剣の傍らにその刃を阻む前衛は存在しない。豪奢な金髪に向け、陽炎の如き闘気すら揺らめかせ大剣は振り下ろされた。断頭台の処刑刃。
 とっさの、奇蹟のような身のこなしで致命傷だけはかろうじて回避したミューズ。ピキリ、大剣にまた自壊の傷が刻まれる。
 髪から滴り落ちる鮮血が、白い翼と衣服をぼたぼたと染めてゆく。意識だけはかろうじて手放さずに済んでいた。
 レギオンやユズもその光景をただ見ていた訳ではない。大剣とほぼ同時、錆剣の鋭撃はユズに襲い掛かった。
「……させるかよ」
 だが、愛剣の巨刃を盾代わりに掲げ、後ろ手にユズを庇ったレギオンの防御が凌ぎきる。
 しばし間を置いて、傷をぬぐい心奮い立たせるメイの歌声が紡がれ、石の魔歌をうち払う。
「石剣の、ファナティック? 厄介ね……」
「ちっ、メンドくさいぜ」
 シンブから鎧聖の助けを得、防御を固めた武人の呟き。苦々しげに狂戦士は剣を構え直した。
 錆剣の攻めは明快に鋭く、大剣のシンプルな剛さには共感すら覚える。そういった強敵と肉薄し命のやりとりをする方がずっと彼好みだ。

 正確に言えばファナティックソングよりも直接ダメージ自体はかなり低く、かわりに反動の恍惚が無い。石の『恍惚』がはたしてどういった状態なのかやや想像し難いが。
 黒鴉の屍の、互いに傷つけあったと思しき痕跡はこの歌の所為だろう。
 静謐にすべきかと悩むスズネ。だがより多くの味方を状態異常から解き放つには敵の攻撃域に踏み入るしかない。
 吹き飛ばしの射程は3m。クルワが取る戦法は、確固たる壁役を担うレギオンとは異なりヒットアンドアウェイ。石剣の側にも自在な動きを許しがちだった。
 故に石剣班後衛はおいそれと踏み込めない。一歩タイミングを間違えば、混乱した味方の手で討たれかねないのだ。
 ならばメイの凱歌でも傷を塞ぎきれなかったミューズへ癒しをと思ったが……これも別班後衛同士の距離ゆえ届かない。歯がゆく思いながらも凱歌を受けて尚狂乱に身を置く恋人の為に祈り捧げるスズネ。清らかな力の雫はクルワの精神を鎮め、解きほぐしてゆく。

 強敵の一団、と三振りの魔剣は完全に認識した様だ。遭遇時の、散発で場当たり的な動きはもはや完全に影を潜め、隙も容赦もない。

 レギオンと朽ち錆びた剣との相性は悪くは無かった。狂戦士らしい軽装の脇をいやらしく突いてはくるが、持ち前の体力に加えユズやメイの援護もある。己の全力攻撃を抑えて尚、そう長くはない時間でこの敵を叩き砕く自信が彼にはあった。だが……。
「ユズかレギオンさん、どちらかがミューズさんにつくべきかしら」
 レギオンの懸念はユズが先に口にした。レギオンは余裕があれば大剣への牽制も、と考えていたが流石に其処までの暇は敵も与えてはくれない。
「錆剣を先に倒して下さいませ。私は、大丈夫」
 吹き荒れる七色の葉群が生まれ、大剣をねじ伏せる。緑の秘術が一、緑の束縛。
「それ以上は近づけませんわよ」
 悠然と言い放つミューズ。
 今の布陣状態ならば確かに、彼女の頑張りに賭け、石剣と錆剣の打倒いずれかを少しでも急いだ方がまだ分が良さそうだった。
「オラオラッ、チョコマカしてるんじゃねぇ! ……さっさと、堕ちろっっ」
 狂戦士のお株を奪う味方の奮戦に血が滾らずにおれようか。最早アビリティ温存などと言っていられない。闘争本能そのままに。
 レギオンは牙を剥き、もてる漆黒の闘気すべてを眼前の錆びついた剣に叩きつけ爆発させた。


 一方、石剣班はある種の膠着状態に陥っていた。
 グリモアのもたらす幸運と召喚獣の加護があるとはいえ、クルワは、精神攻撃への耐性が些か劣る。どのみち彼の視界には石剣しか映らぬ故同士討ちの懸念はないが……防御に気を配っての戦いはしばしば中断された。
 何よりも。此処まで石剣にダメージを入れるのが、得意の無手でなくあえて宝石剣を振るう彼ひとりだったのが致命的だった。蹴り技が幾らか通じたがそれも微傷。
 弾幕係。複数への鎧聖。対石剣最大戦力のシンブがなかなか本格攻勢に移れずにいた。

 ミューズの放った紋章術は依然がっちりと大剣の表面を覆い、縛りつけている。
 だが、彼女と敵の間に立ち塞がる盾は唯この木の葉達のみ。大剣はひたすらにギチギチもがき、今にも緑のいましめを食い破らんとしている。
 幸運は時にこの堕ちたる怪物にも微笑みかける。その都度彼女は緑の束縛を撃ち浴びせてきた。
(「あと、ひとつ……」)
 彼女は一歩たりとも退かなかった。時に紋章術の光線を叩き込み、巨大剣と錆剣双方に消耗を強いてすらいた。
 石剣より先に錆剣が落ちそうな気配。どちらにせよあと少しの辛抱。
「もう少々じっとしていて頂きますわ」
 ミューズは凛と敵を見据える。
(「……これが、最後」)
 あとひとたび敵が幸運を得ればそれだけで崩れ落ちる、白刃の上の一方的攻勢を果敢に続けるのであった。

 そして、鎧聖を配り終えたシンブはようやく弦に雷光の矢を番えた。思わず零れる、幾人かの安堵。
 だが。


「っ!?」
 暮れゆく黄昏の中、稲光は二度爆ぜた。
 一度目は石剣の、薄皮一枚の手前。遅れてシンブが纏う乳白色の鎧の胸部で。
 石剣は嘲笑うかの様に悠然と独楽回転の浮遊を繰り返していた。
(「ライトニングアローを……反射された……」)

 此処まで石剣に浴びせた技攻撃はクルワからの斬鉄蹴のみだった。
 引き剥がしの役割上スイング攻撃が多用され、混乱時は儀礼用長剣を振り回しての衝撃波空振りを繰り返していた。
 石剣の技防御はまだ一回だけ。
「技攻撃だけ跳ね返す、守りの力?」
 おそらくは斬鉄蹴の後、卓越した心能力を駆使して技の見切りに備えだしていたのだろう。
 コトナ、シンブは同時にその結論に到る。
「……流石に、ミスティックイーグルの爪は……痛いですわね」
 でも大丈夫と。美貌に気丈な笑顔を浮かべ、味方に走った動揺を鎮めるシンブ。
 さしもの敵も全弾返せる訳ではない。シンブは果敢にも石剣への射撃を続行した。

 そして、ついにミューズが倒れた。直前、ユズが庇おうとしたが大剣は執拗にミューズだけを狙い、打ち倒したのだ。
「引きずってでも……メイの前で、誰も、死なせません」
「支援するわ、おねえちゃん!」
 尚も追撃を加える大剣の前にメイが飛び出し、ユズもそのフォローに入る。
 軍装ジャケット仕立のメイの上着も鮮血に染まるが仲間の奮戦の証、厭う筈があろうか。
「くたばりやがれっ!」
 レギオンの一撃が黒錆の刀身を粉砕した。救援は間に合わなかったが報いる事は出来た。
 だが勝利の手ごたえを味わう暇は無かった。

 キイィィン……!
 錆剣は粉々の破片と同時に異音を振り撒き、果てた。それを呼び水に。
 真闇が足元から、蠢めきながら次々湧き出しついには戦場全体を侵蝕する。
 ――我らが敵に災いあれと。

「……アビス」
 それは碌でもない置き土産だった。
 混乱や出血から復帰できぬ者がじわじわと増える。みかねてスズネも前進、足を踏み入れて静謐を祈るが、彼女自身も時に危うかった。

(「この技……ブレイブタックルだな。反動が少なすぎる気はするが」)
 今度は自職に似た相手と相対するレギオン。
 大剣は捨身の突進に加え、攻撃の瞬間に損耗軽減の力を宿している。ホーリースマッシュにも近いその力が反動をかなり抑えている様だ。
「だが、やりようはある」
「私だってやるときはやるんだからぁ!」
 闘気に膨れ上がるテンペストの凶刃が大上段から一気に振り下ろされた。矢継ぎ早、雷気纏うユズの双斧も十字を描きしたたかに斬りつける。
 領域下の魔歌攻勢は脅威だが反面で回復供給が途絶えがちで、大剣は既に満身創痍だ。
 だがお構い無しの斬撃がユズの胴部を薙ぎ払った。鉄と肉と骨の軋む嫌な音が鈍く響き、崩れ落ちるユズ。
「ごめん、なさ……」

 気がつけば。空はすでに赤から黒へと暮れ沈みつつあった。


「もう、ムリそうですね……」
 コトナを始め多勢が訓練中止の目安としたのは戦線離脱2名。
 駆け出したコトナから拡がる癒波を合図に撤退が始まった。

「皆、無事に還る為に……」
「無理はしないでクルワ!」
 範囲攻撃は無駄とみたか最も手近なクルワに剣圧で衝撃波を浴びせる石剣。
 血しぶきをあげ尚も支援にと投げ技を強攻した彼が作る隙を、スズネの悲鳴まじりの治癒とシンブの矢が後押しする。

 レギオンも従った。重傷者搬送に彼の召喚獣は欠かせない。
「……っくしょう、あと少しなのにっ」
「ならば」
 コトナが翳した手から燃え盛る黒炎の異形が産まれ、戦い足らぬとばかりレギオンを追う巨大剣を業火に包んだ。
 それは崩れながら地に墜ち……再び剣を形成した。
 足止めを。少女はごく手短にそう命じた。

 そうして。
 倒した敵は2体か。3体なのか。
 それすら確かめる余裕もないまま城外へ脱出を果たした頃にはすっかり、夜。
 コトナは反省会をと切り出そうとして、疲労しきった仲間達を前に思い留まる。
「次は絶対に負けません」
 月をみあげたメイが静かに漏らした。

 誰ひとり欠けぬ生還。敗北すらも糧にするエチュード。
 今はまだ、それでいい。
 ――前進を恐れず、諦めぬ心こそが、未来を拓く何よりの『力』なのだから。


マスター:銀條彦 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:8人
作成日:2007/06/05
得票数:戦闘14 
冒険結果:失敗…
重傷者:光祈麗嬢・ミューズ(a29133)  風薫る剣の使い手・ユズ(a50407)  十六夜の月と戯れ踊る白狐・クルワ(a55507) 
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。