【エリアル・フェリアック】空飛ぶウサギ



<オープニング>


●エリアル・フェリアック
 爽やかに吹き渡る風にそよぐ翡翠色の草は、なだらかな坂を成す大地の上を柔らかに覆う。緩やかな斜面を勿忘草の色に透きとおる空と交わるところまで上れば、そこは切り立つ断崖の際。
 澄んだ水の香を孕んだ風吹き上げる断崖の端から望めば、遥か眼下に広がる水と花に溢れた湿原を一望の下に見渡すことができた。陽の光を受けて煌く澄んだ水が大地を覆い、水の中からは明るい萌黄の草が顔を出す。風が渡れば水と共に萌黄の草が光の波紋を成し、その合間に咲き群れた春の雫のような淡桃や光のかけらのような黄の花々が揺れて、その様子は水鳥達が楽しげに遊ぶ姿と相まって、楽園の如き光景を生み出していた。
 ひととき水が枯れかけていたとは思えないほどに美しく潤う、フェリアック湿原。
 春の終わりともなれば、遥か断崖の底フェリアック湿原から水の上に咲く花を巻き上げるほどの強い上昇気流が吹き上がってくる。断崖の傍にあるエリアル村には古くからこの上昇気流を利用した遊びが伝わっていたのだが、ここ数年はその遊びを楽しむことができない状態が続いていた。それはフェリアック湿原の水が枯れかけていたせいであったのだが、湿原に再び豊かな水が戻ってきたのならば、もう何の問題もないはずだ。
 数年振りに復活するその遊びの名は、エリアル・フェリアック。
 究極の道楽者のための娯楽とも呼ばれる、伝統の遊びである。
「と言う訳で、ボギーもちゃーんとこの目で甦ったフェリアック湿原を見て来たのですよ〜♪ あれならばっちりエリアル・フェリアックが遊べるはずなのですっ!」
 楽しみですねっと酒場でリス尻尾を振っているのは、ハニーハンター・ボギー(a90182)。
 だがボギーが「鳥達もいっぱい遊んでましたたし、動物の群れとかもいたみたいなのですよ〜」と続ければ、酒場のカウンターで鮮やかな赤のナスタチウムの花を飾ったマンゴージュースを飲んでいた藍深き霊査士・テフィン(a90155)が、大きく数度瞬きをした。
「その動物の群れなのですけれど……どうやら動物ではなく、兎グドンのようですの」
「ぎゃー!?」
 エリアル村からのものと思しき書状をひらひらと振る霊査士に、ボギーは思わず絶叫した。

●空飛ぶウサギ
 エリアル・フェリアック。またの名を究極の道楽者のための娯楽。
 それは知る人ぞ知る、エリアル村に伝わる遊びの名前であった。
 エリアル村の南の断崖の下、フェリアック湿原からは、春の終わりから秋の初めにかけて、強い上昇気流が吹き上がる。エリアル芋の大きな葉を傘のようにさして断崖から飛び降り、上昇気流に乗って一瞬だけの空中散歩を楽しんで、遥か下の湿原にゆっくり着地する。これがエリアル・フェリアックと呼ばれる遊びである。但し、一旦フェリアック湿原に入ってしまえば、断崖の底にあるフェリアック湿原から戻ってくるのには数日かかってしまう。なお、大きな荷物を抱えていては飛ぶことが出来ない為、エリアル・フェリアックを遊ぶ者が携帯する食料はドライフルーツのみというのが古来よりの作法だ。
 つまり、刹那の楽しみだけのために、その後の数日をドライフルーツのみで過ごしつつ湿原を渡る覚悟がある者だけが、エリアル・フェリアックを遊ぶことができるのである。それが『究極の道楽者のための娯楽』の名の所以であるらしい。

「フェリアック湿原に降りる遊びですもの。グドンなどがいるようでは、当然困ってしまいますの」
 エリアル村からグドン退治の依頼が来てますの、と冒険者達を呼び集めた霊査士は、皆にマンゴージュースを配りながらそう語る。湿原に降りてグドンを退治すればいいんですかとボギーが訊けば、霊査士はふるふると首を振った。
「勿論最終的には湿原のグドンを掃討して頂かなければならないのですけれど、それよりも先に対処して頂きたいモノがいますの。湿原にいる兎グドン達の仲間なのですけれど……翼を持ったピルグリムグドンが二体、断崖の傍を飛び回っているよう。湿原にいるグドン達が湿原の外に出ることはありませんけれど……このピルグリムグドン達はいつエリアル村へ向かうかわかりませんの。まずはこの二体を退治して下さいまし」
 有翼のピルグリムグドン達は刃の如き腕と鞭の如き腕を持ち、刃の腕を持つ個体はその腕で斬りつけた箇所を爆裂させる狂戦士のような技、鞭の腕を持つ個体は広範囲に幻の鎖を放ち敵を絡め取る邪竜導士のような技を使うという。飛行能力を持つことを考えれば非常に厄介な敵ではあるが――
「そのピルグリムグドン達、実はあまり飛ぶのが上手くありませんの」
 霊査士はきっぱりとそう言い切った。
 ピルグリムグドン達は湿原からの上昇気流に乗ることで自在に空を飛ぶことを可能にしている。
 つまり、気流の届かぬ断崖の上に誘き寄せてしまえば大して飛べなくなってしまうという訳だ。
「恐らく食べ物の匂いで誘き寄せるのが一番かと。兎ピルグリムグドンですから、やはり……人参?」
 言いつつ小首を傾げてみせる霊査士に、ボギーは張り切って頷きを返す。
「人参ですねっ! 折角ですから人参の料理やお菓子を作って行くのも楽しそうなのですよ〜♪」
 霊査士は少しばかり羨ましそうな顔をしつつ、「では、宜しくお願い致しますの」と話を締め括った。

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参加者
柳緑花紅・セイガ(a01345)
白想雪・リッカ(a14073)
雷神天狐・シーグル(a27031)
白蝶と舞う森の精・ミュー(a27242)
海天藍・エルヴィーネ(a36360)
冬に咲く花弁雪・チルカ(a43006)
夢猫・リュミナ(a52430)
葡萄空・ベルベル(a61842)
守護拳士・クゥ(a62976)

NPC:ハニーハンター・ボギー(a90182)



<リプレイ>

●空飛ぶ花
 初夏の光と瑞々しい香りを抱いた風が空へ向けて大地を翔ける。
 空と大地が交わる場所は断崖の縁。断崖の際に立って眼下を望めば、透きとおる水が溢れ鮮やかな花々が咲き誇る豊かな湿原が広がっていた。湿原からは水の香を抱いた上昇気流が吹き上がり、風に乗って舞い上がった桃や黄の花弁が澄み渡る蒼穹を背に踊る。
 深呼吸すれば花の香りまで感じられそうな気がして、葡萄空・ベルベル(a61842)は胸いっぱいに風を吸い込んでみた。もうすぐ自分達もこの空を飛ぶことができるはず。「あと少し、ですね」と呟けば、清冽な水の香りに瞳を細めていた海天藍・エルヴィーネ(a36360)が「今回も頑張りますの」と微笑んだ。
 日毎に鮮やかさを増していく空も陽射しも、空と大地の狭間を翔ける風も、何もかもが心地好くてたまらない。水の香りを纏った風に抱かれ、舞い上がる花と共に空を飛ぶ――エリアル・フェリアックの復活が叶ったなら、どれほどの爽快感が味わえることだろう。
「こないだの奴、動物だと思ってたらグドンだったのか」
「どっきどきですなぁ〜ん」
 俺ピルグリムグドンと戦うのって初めてなんだよな、と続ける闇を切り裂く銀の雷神・シーグル(a27031)に、私も初遭遇ですなぁ〜んと淡雪ノ舞・リッカ(a14073)が頷いた。だが二人の表情に不安の色はない。手強い相手ではあるが、信頼できる仲間達となら決して勝てない相手ではないのだ。だが厄介なことに、敵は上昇気流を利用して自在に空を飛ぶ能力を持っている。気流の届かない此方側へピルグリムグドンを誘き寄せるべく、冒険者達は準備を始めたのだが――
「な、なぁ〜んっ!?」
 草に足を引っ掛けてよろけたリッカが、両腕いっぱいに抱えていたお菓子ををぽろぽろと零してしまった。そのまま斜面を転げていくかに思えたが、丁度下から上って来た白蝶と舞う森の精・ミュー(a27242)が転がってきたお菓子達をキャッチする。ありがとうですなぁ〜んと駆け寄ったリッカは、ふっくら艶々と焼き上がったマフィンやケーキに付いた草の汁に酷く哀しげな声を洩らした。
「これはもう諦めて囮に使いますなぁ〜ん……」
「…………」
 ちょっぴり汚れてしまったもの美しい狐色をした焼き菓子を受け取り、しょんぼりと戻っていくリッカの背を見送って、ミューは腕に下げた篭の中にこっそり視線を落とす。そこには少々、いやかなりこんがりと焼き上がったシフォンケーキがあった。
「……ふわふわのキャロットシフォンケーキになるはずでしたのに……」
 切なげに呟きつつも、粉砂糖を振れば見栄えは良くなるはず、と健気に前を向くミュー。彼女の視線の先では即席の竈が組まれ、ベルベルが持ち込んだ人参スープが温められていた。
 ことこと煮込まれた橙色に蕩けるスープからは、淡い湯気と人参独特の甘い香りが漂い始めている。
 鍋を覗き込んだ小さき武道家・クゥ(a62976)は、人参の香りに誘われてくるであろう兎ピルグリムグドンに思いを馳せた。
「初めて見るので楽しみなのです。少し可愛いといいな〜なのです」
「いやアレは可愛くないぞ……ってボギー、スープは旨そうだが、今は我慢だ」
 柳緑花紅・セイガ(a01345)はクゥにそう断言しつつ、ハニーハンター・ボギー(a90182)にさり気なく釘を刺す。物欲しげな顔で鍋を見つめていたボギーは「はうあっ!?」と弾かれたように顔を上げ、スープをかき混ぜていたベルベルがくすくすと微風のような笑みを零した。
「あ、この人参の色。ボギーさんの、頭、みたい」
「美味しい人参焼きましょ〜♪ こんがりまっくろに美味しく〜♪」
 ボギーの目をひたと見つめ、人参を丸ごと焼いていた夢猫・リュミナ(a52430)がすかさず真顔で歌い出す。黒々と焼かれていく人参の姿に「う、うわああん!」という泣き声が空に響いた。
 ふわりと辺りに広がり始めたスープの香りにエルヴィーネは「お腹が空いてきますわね……」と口元を綻ばせ、人参のお菓子を辺りに並べていたミューも「これなら……グドンでなくても食いつきたくなります、ね」と思わず頬を緩めた。温かな料理の香りはいつだってひとを幸せにするものなのだと思う。
「いい匂いがしてきた……そろそろ敵も来る頃やろねぇ」
 冬に咲く花弁雪・チルカ(a43006)が断崖の先を警戒するように見遣れば、ベルベルが懐から遠眼鏡を取り出し皆は辺りに身を伏せた。茂み等に身を隠せないのは心許なかったが、それは仕方がない。
 遠眼鏡を覗き込んでいたベルベルがふと眉を寄せた。
 彼女の周りの空気が張りつめたのを感じ取り、冒険者達は草の上に伏せたまま身構える。
 小さな唇から囁くような声音が洩れた。
「兎が、二匹……迷い込んで、きた」

●空飛ぶウサギ
 断崖の向こうに舞い上がる花弁の向こうに影が見える。
 大きく広げられた翼で吹き上がる上昇気流を受け、兎耳を持った異形が此方へ向かってくる様が視認できた。門歯を剥き出しにした兎の口から威嚇と思しき甲高い声が洩れる。冒険者達が準備に充てられる時間は一瞬のみ、即座に竈の火を消したミューが鋭い声を上げた。
「セイガさん、来ます!」
 高く飛翔することはできなくなったようだが、それでもピルグリムグドンの動きは侮れるものではなかった。大きく振りかぶられた刃の腕が空間ごとセイガを裂こうとし、紙一重で躱したセイガのグランスティードの鼻先を掠め翡翠の草の上に盛大な爆裂を巻き起こす。エルヴィーネの護りの力がセイガの銀鎧に届いたのはこの瞬間だった。
「当たってたらキツかったか……けど所詮は紛いモンの技だな。本物の技受けてみろってんだ!」
 焔を意匠した剣の柄から一気に闘気が噴き上がり、瞬時に闘気を漲らせた刀身がピルグリムグドンの体に叩きつけられる。強大な闘気は大きく爆ぜてピルグリムグドンにかなりの痛手を齎したが、ぐらりと傾いだ翼の向こうにもう一対の翼が見えた。ボギーの雷光がその翼を射るもその体は微かに揺らいだのみ。もう一体のピルグリムグドンは鞭の腕を鋭く撓らせ虚空から幻の鎖を撃ち出した。四方へと解き放たれた幻の鎖は冒険者達全員を強かに打ち据え絡め取る。
「しまったのです……!」
 クゥは強大な力を乗せた蹴撃を喰らわせようと地を蹴ったところで思い切り草の上に叩きつけられた。範囲攻撃である以上グリモアの加護で痛手は半減しているはずであり、シーグルに付与された鎧聖降臨もクゥの護りを厚くしているが、それでも比較的経験が浅い分やはりキツい。しかも門歯をカチカチ鳴らし勝ち誇ったようにキィキィ鳴く兎ピルグリムグドンは――全く可愛くなかった。
「空飛ぶウサギさんだなんて、とってもメルヘンに聞こえますけれど……これは、あまり、趣味ではないです!」
 気力を振り絞ったミューは自らの幸運で鎖を振り払い、痛みを堪えて癒しの光を紡ぎ上げる。だがこの術は鎖に打ち据えられた痛みを取り除くことはできても、鎖の齎す束縛から仲間を解き放つ力はない。何とか自力で鎖を払いのけたリッカが未だ動けぬチルカやベルベルを庇うべく前に出た。素早く地を蹴りしなやかな脚を刃の腕持つピルグリムグドンに叩き込むが――浅い手応えにリッカが眉を顰めた刹那、ピルグリムグドンが膂力を篭めた腕を振り上げる。轟と風を切った刃の腕を凄まじい勢いで叩きつけられ、壮絶な爆音と共にリッカの横腹が大きく爆ぜた。
「――っ!」
「やばいんだよっ!!」
 幸運の加護で鎖の束縛を断ち切ったリュミナが声の限りに凱歌を歌い上げる。
 リュミナの鎧聖降臨がリッカを護ったからこそ彼女はまだ何とか意識を繋いでいたが、翡翠色の草の上に振り撒かれた鮮血の量は尋常ではない。この凱歌が間に合わぬ内に鎖が来ていれば間違いなく立ち上がれなくなったはずだ。草の上に響く歌声が痛手を癒し皆の束縛を解いていく。だが澄んだ歌声に乗せられた魔力はかなり強力であるにも関わらず、リッカの傷は僅かに塞ぎきれていない。
 刃の腕から振るわれる技は狂戦士のものと同じく時に爆発的な威力を発揮するらしい。召喚獣を持つ者ならまだしも、そうでない者には刃のピルグリムグドンの技は危険すぎる。
 ならば――速攻で叩き潰すのみ!
「ピルグリムグドン相手に気を抜いてはいけませんの……!」
 己の得物に強化の術を施している余裕はないと一瞬で判断し、エルヴィーネはセイガと視線を交わし一気に左右から刃のピルグリムグドンに躍りかかった。エルヴィーネの紫電がピルグリムグドンの翼を焼き、セイガの剣に篭められた闘気が刃の腕で爆ぜる。やはり余裕はないと悟ったシーグルが勢いよくグランスティードを駆った。
「おしっ! 合わせていくぜっ!」
「今度こそなのです!」
 シーグルは稲妻を纏わせた剣をグランスティードの勢いごと叩きつけ、併せて飛び込んだクゥが今度こそ眩く輝く軌跡と共に鋭い蹴撃を喰らわせた。間髪入れずに叩き込まれた攻撃にピルグリムグドンが大きく体勢を崩す。一瞬のその機会を窺い続けていたチルカが全身の力を振り絞って地を蹴った。
 誰かに聞いたとおり、ピルグリムグドンは強かった。だが決して――倒せない相手ではない!
「時間差攻撃なんょー!!」
 風を巻き込み大いなる螺旋を成したチルカの技が、体勢を整えきれないピルグリムグドンの体を大きく抉る。間断なく攻撃を浴びせられた刃のピルグリムグドンはそのままどうと地に落ち、動かなくなった。だが同時に緊迫したミューの声が響き渡る。
「鎖が来ます……!」
 鋭く風を裂く音と共に幾多の鎖が襲いかかってきた。
 草の上に転がり辛うじて鎖を躱したミューは、即座に身を起こし正面に流麗な紋章を展開する。二重の紋章を重ねた輝きは燃え盛る火球となり、鞭のピルグリムグドンへ向けて宙を翔けた。「落としたお菓子の仇なぁ〜ん!」と八つ当たり気味に幻の鎖を払いのけ、火球を追ってリッカも駆ける。炎が焼き焦がした敵の腹に、渾身の力を篭めた蹴撃を叩き込んだ。ピルグリムグドンが濁った血を吐いたが、蹴りを放ったリッカの脚からも血が零れる。鎖に打たれた時の傷だ。けれどそれも即座に消えた。
 傷を包み込む温かな光に気付き振り返れば、やはり自らの幸運で鎖を振り払ったらしいベルベルが小さな身体から溢れる魔力で辺りに癒しの光を広げている。
「みんなが、倒れない為に。全力で、支える、の」
 鎖が齎す痛手は刃のものと比べれば浅い。だからベルベルの術ひとつで完全に痛手を拭い去ることはできたのだが、この術では皆の束縛までをも払うことはできなかった。唯一その術を持つリュミナは未だ鎖の中でもがいており、凱歌の恩恵を得られず数人が鎖から逃れられずに足掻いている。だが救いとなったのは、その中から唯一鎖を振り払うことに成功したのがエルヴィーネであったことだった。
「そちらが鎖なら……こちらは氷ですの!」
 宝玉で飾られた十字型のブーメランが翡翠の草の上を翔け、敵の翼に突き立ち一気に炎と氷を噴き上げる。キルドレッドブルーの魔炎と魔氷に覆われたピルグリムグドンが身体の自由を奪われ草の上に落ちた。すかさずミューとリッカが攻撃を叩き込んだ所で、ようやくリュミナが己の幸運を以って身体の自由を取り戻す。歌声が草の上から空へと響けば、漸く全員が鎖の束縛から解き放たれた。
 即座にセイガが闘気を打ち込めば、その爆炎が治まらぬうちにシーグルが突っ込んでくる。
「今のうちにやらせて貰うぜっ!!」
 紫電を纏った刃が大気を焦がし、炎と氷に包まれたままのピルグリムグドンに止めを刺した。

●空飛ぶ葉っぱ
 青い空と翡翠色の草が交わる断崖に立てば、遥か眼下の湿原から上昇気流が吹き上げてきた。
 風と共に数多の花弁が舞い上げられてきて、ミューはまるで花の噴水の中に放り出されたような心地になる。陽射しの中に煌く桃や黄の花弁の彼方には空の色を映した透きとおる水の湿原が広がっていた。水の香りを纏う風や、皆が持ち寄った人参のお菓子や料理。心地良いこの場所と美味しい食べ物に身も心も満たされ、すっかり幸せ気分だった。
 葉っぱ採って来ましたよ〜という声に振り返れば、ボギーが巨大な傘を思わせるエリアル芋の葉を幾つも抱えてやって来る。「俺も混ぜてくれよな♪」とセイガが鮮やかな緑の葉を手にとってみれば、己の背丈よりも長い茎と通常の傘の倍以上はある葉を持つそれは意外な程軽かった。
 上昇気流がぶわーって来たらタイミングを併せて飛ばすのですっ、とわかったようなわからないような説明をするボギーの隣に立ち、シーグルは断崖の下から吹き上げてくる風を待つ。
 ふわりと辺りの大気がかき混ぜられるような感触があったかと思えば、突然遥か眼下に広がる湿原から数多の花弁が吹き上げられてきた。
 今ですよ〜との声に合わせ手からエリアル芋の葉を手放せば、艶やかな緑色の巨大な葉はくるくると回りながら遥かなる蒼穹へと旅立っていく。「あんなに飛ぶのか!」と声を上げれば、もう少したったらボギー達もあんなに飛んじゃうのですっ、とボギーが尾を振った。
 次いでセイガと一緒に葉を飛ばし、チルカは眩しげに瞳を細めて声を弾ませる。光に満ちた空と大地の狭間を舞う緑の葉と花々は、何かの祝福のようだった。
「いつかちぃたちもあの中で飛ぶんやねぇ♪ すごぃ楽しみー」
 自分よりもずっと大きな葉を飛ばし、ベルベルはその行方を瞳で追いつつチルカの言葉にほうと吐息を洩らした。湿原からの風は花を飛ばし葉を飛ばし、そしてひとまでも飛ばすのだ。
 ――なんて大きな、世界の、ちから。
 鮮やかな青空に葉を飛ばしたリュミナは、高く舞い上がっていく葉を追うようにして吹き上げられた花の吹雪に瞳を潤ませる。澄み渡る青空を背に舞う花々には、何故かやけに爽やかなボギーの笑顔が重なった。そう、「あなたのことは忘れないから」のノリで。気配を察し「もきゃー!?」と抗議を始めたボギーの足元では、クゥが何やら夢中になって絵を描いている。彼の手元を覗き込んだエルヴィーネは、そこに葉っぱに掴まって空を飛ぶテディベアが描かれているのを発見し、こっそりと笑みを零した。
 風に煽られる髪を押さえてそっと手にした葉を託せば、大きな葉っぱが空へと吸い込まれるかのように舞い上がっていく。飛び立つ葉に願いをかければまた一歩エリアル・フェリアック実現に近付けた気がして、心が浮き立っていくような心地がした。

 皆が葉を飛ばし終えるまで待っていたリッカは、小さな瓶を括りつけた葉を手に断崖の際に立つ。
 透きとおる硝子瓶の中には、少しだけ未来へ宛てた手紙が一通。
 きっとエリアル・フェリアックを復活させて、必ずこの手紙を見つけに行く。
 だから――
「先に待っててなぁ〜ん!」

 花と共に空へと向かう上昇気流に大きな葉っぱと小さな手紙を託し、リッカは大きく手を振った。


マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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作成日:2007/06/01
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