<リプレイ>
●百花繚乱 その村はノスフェラトゥの服を作る村であった。村人達はほとんどがヒト族で、別の村から運び込まれた服地を使い、裁断し縫製する。今回は特別に同盟の冒険者達が村に出向きデザインの助言をする。出来上がった試作品の服は別の場所に運ばれ、多くのノスフェラトゥ達に評価されることになるだろう。もしかすると、今回作成された試作品の中から、大流行のデザインが生まれるかもしれない。
「どれがランドアース風って聞かれても私だってよくわからないのですますぅ。だから、わたしの着ている服を参考にしてもらいますですぅ」 とってもごはん・コウメ(a41963)は普段着ている服と同じ型のものを沢山荷物に詰め込んだ。そしてミュントスの村にやってきたのだ。 「あ、第1村人発見ですぅ。はじめましてですぅ、同盟から来ましたぁ」 コウメはペコリとお辞儀をする。 「お話はもう随分前からうかがってございます」 村人は丁寧に挨拶し、深々と頭を下げる。見かけは同盟領に暮らす人々と少しも違ったところはない。年輩の者でも革の服を着ているのは違和感を覚えるが、同盟領で絶対にいないわけでもない。 案内されるままにコウメは一軒の広い家に連れて行かれた。そこはお針子達が仕事をする作業場らしい。 「これがわたしの服です。縫い方とか裁断の仕方がわかるように分解してもらって構わないのですぅ。参考にして貰えませんかぁ?」 最初はもったいないと言っていたお針子さんだが、コウメが同じものは沢山あると言って荷を見せるとようやく服を受け取った。 「それではこのお衣装をこちらの服地で作ってみとうございます。よろしゅうございますか?」 「勿論ですぅ!」 コウメはうなずくと厨房はどこかと尋ねた。作業に入るお針子さん達のために、せめて自慢のおにぎりでも振る舞おうと思ったのであった。
背負える限界までの荷を担いで来た想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は、村に入りとある家に通されるとすぐに荷を降ろした。そこは一通りの作業が出来るこぢんまりとした部屋であった。真ん中には作業台と思われる大きなテーブルがどーんと鎮座している。その台の上にラジスラヴァは荷の中の物を取り出して乗せた。柔らかい曲線を描く服地であった。木綿、麻、絹。ランドアースでは見慣れた素材だ。 「これは珍しいですね」 女は細い手でラジスラヴァが広げて見せた服地の表面を触る。 「どれもランドアースでは一般的に使われている服地なの。木綿は綿花の綿毛から、麻は植物の繊維から作ったのよ。この絹は昆虫の繭から取った糸で織ったものなの」 更に、ランドアースでは素材の違う物を組み合わせたり、透き通る様な布をまとったりすることも伝える。 「わたくしどもの村ではそのような素材を使った服は作ったことがありません。大変目新しいものです」 女は初めて見た異郷の服地に目も心もを奪われているようだ。
難しい顔をしたまま無所属・アスゥ(a24783)は低い声でつぶやいた。作業台の廻りに立つお針子さん達がじっとしたままアスゥの言葉を聞いている。 「衣装はそれだけで完成品とはならない。その衣装を着る人がどのような機能を必要としているのかを考え、着る人がアレンジ出来るものが良いと私は思う」 それはアスゥの持論であった。お針子さん達は真摯にその言葉を聞いている。 「それなので、私が提案する服はピースを複数に分けたデザインだ。これは便利で良いと思う。今の私の着てる服も同じ発想で仕立てられているものだ」 「あの……もしよろしければお立ちいただき、着ていらっしゃるお衣装をよく見せていただけませんか?」 意を決した様子でお針子の1人がアスゥに話し掛けた。うなずいてアスゥが立ち上がると、お針子達は心持ち身を乗り出し、深緑色のその服をじっと見つめてくる。 「これも必要が無い場合は上だけ脱げばいい。肌の露出を抑えつつ、体の線が顕著に浮き出るようなものを……無難に好まれるらしい黒を基調とし、獣の毛皮を使うのも良いだろうな」 アスゥの言葉に触発されたのか、お針子さん達がひそひそと話し始め、部屋の中は途端に騒々しくなる。 「お袖や襟、丈の調節なども出来るかも知れません。ちょっとわたくしどもで考えてみますので、目を通していただけますか?」 「勿論だ」 二つ返事でアスゥは請け負った。
見上げればミュントスの不思議な色合いの空が広がっている。 「うわぁ! 本当に空が紫色だ〜! すご〜い!」 遠くで仲間の声がする。それを知っていながらそっと顔をあげる。 「エルヴォークの空の色と変わらないんですね」 桜花の唄姫・カヅキ(a31571)は心の深く奥まった部分にチクリと痛みを感じたが、表情には出さなかった。今はミュントスに同盟風のデザインを教える……それだけを考えようと思う。だから紫色の空を映す瞳をそっと閉じ、前を向いた。 カヅキはお針子さん達に最初の質問した。 「革製品が多いと聞きましたが、その他によく使われる様な素材って何がありますか?」 お針子さん達は15人ほどが集まっていたが、その中で一番年上の女が1歩進み出る。 「革の他には金属でございます。銀や鉄などを少量使いまして、鎖やボタンなどに使っているのでございます」 幾分顔を伏せたままヒトの女は言う。 「そうですか。服地が限られているとしても、絵付けや刺繍であれば使えると思います。こちらを見ていただけますか?」 カヅキが作業台の上に広げたのは刺繍の図案集であった。 「私の着てるの……アオザイって言うのですがこの桜も刺繍なのですよ」 「あの……このお衣装もとても気になるのでございます。出来ればもっと詳しく見せて頂けないでしょうか?」 「ぬ、脱いだ方がよろしいでしょか……」 「是非」 気が付けば、他のお針子さん達も期待の眼差しをカヅキに向けている。 「わかりました」 帯のモデルになる事を思い出し、カヅキは小さくうなづいた。
お針子さん達の1人をモデルとし、永久なる翠流の守り人・キールディア(a40691)は出来上がったばかりの服を着せ掛けた。 「そう、前を合わせる順番を間違えちゃったら駄目だよ。うん、それでいいよ」 真っ直ぐに断った布は様々に縫い合わされ、今はモデルの身体をすっぽりと覆っている。 「ベルトは?」 「用意してございます」 別のお針子さんが漆黒の長いベルトをキールディアに手渡す。特に柔らかくて扱い易い素材で作った長い長いベルトはつまりは帯であった。器用にその帯を何度も結び、キールディアはモデルの着ていた服を楓華風の衣装に仕上げた。黒く染めた布には美しく艶やかな色合いの胡蝶と、それを引き寄せる牡丹の花が刺繍で描かれている。 「なんとか形になったのでございますね」 嬉しそうにお針子さんが言った。彼女達は今回、自分たちが普段行っている様な方法は一切採らずに服を仕立てた。その為につい先ほどまでとても不安だったのだ。 「ちゃんと身につけられるようになっていたでしょう? 安心した?」 「はい」 お針子達は安堵した様子で微笑む。モデルになったエルフの娘は物珍しそうに着ている服を見つめ、くるりと回ったりする。 「気に入って貰えたかな? 慣れたら1着数日で仕立てられるよ」 「とても、とても素敵でございますわ」 嬉しそうなモデルの様子にキールディアも笑顔を返した。
鮮やかな若草色の地に白抜きのツルを染めた布を紐解き、漆黒の花守人・キョウ(a52614)は中に入っていた荷を取り出した。 「まぁ……」 「珍しい」 お針子達から溜め息まじりの声が漏れる。 「錦織の袋帯、ビロードの半幅帯、鹿革印傳の細長い物を持参したんだよ〜」 キョウが中身の説明をするがお針子達はきょとんとしている。 「あの……お客様、お言葉が難しすぎてわたくしたちには解りません」 「申し訳ございませんが、わたくし達はミュントスの事しか知らないのです」 「どうぞ教えてくださいませ」 お針子達は皆丁寧に頭を下げ、キョウに教えを乞う。その姿は卑屈過ぎはしなかったが、なんとなくキョウに居心地の悪い思いを抱かせる。けれど笑顔を浮かべて見せた。 「大丈夫だよ〜ちゃんと説明しますからね〜その為にモデルさんにも待機してもらっているんですよ〜ほら、カヅキ」 困ったような顔をして見上げてくるお針子さん達に笑顔で応え、キョウは1人の娘の名を呼ぶ。呼ばれて部屋に入ってきたのは背に小さな白い羽根を持つエンジェルであった。アオザイ風の服から楓華様の服に着替え、簡素な細い帯を腰で結んでいる。 「これで良いですか? キョウちゃ」 「勿論だよ〜」 キョウはカヅキに礼を言い、手早く帯を結んでいく。その魔術の様な手さばきをお針子さん達が熱い視線で見つめている。
夕染影草・イク(a60414)は持参してきたその服を作業台の上に置くと、集まっていたお針子達の様子を見た。 「僕がみんなに見て貰いたいのはこういうの。『浴衣』って言うんだよね」 イクは畳んであった浴衣を広げて見せた。重なった布をイクが広げるとちゃんとした完成品であった事に皆驚く。 「これ……これから作る生地ではなかったのでございますね」 「わたくしも服地だとばかり思っていたのでございます」 「しかも、このように頼りなく薄い生地で……」 「あ、これは夏の服だから一重なんだよ。秋とか冬にはもっと厚手の生地で作るんだけど、ほら、これってシンプルだからミュントス風にアレンジしやすいと思うんだよね、どう?」 簡単に説明しながらイクは広げた浴衣を服の上から羽織ってみせる。 「お身体には合っていないのではございませんか?」 「お丈も長すぎますし、ボタンもありませんけれども……」 おずおずとお針子達が質問してくるのにイクは笑って答える。 「ほら、この帯っていうベルトで身体に合わせるんだよ。長さはこうやって調整するんだ」 イクが着付け方法をざっと教え、実際にやってみせると部屋のあちこちから感嘆の声があがる。 「普段使っている布地で同じ物を作ってみたらよろしゅうございますか?」 「やってみとうございます」 「うん! やろう! やってみよう」 ここからが本番だ。イクはお針子達と楽しげに相談を始める。
喪家の犬・リョウト(a61097)がアドバイスをした服は6人のお針子達の手により、少しずつ形をなしていく。まだ1つ1つはバラバラだが、お針子達は日焼けしたことのない白い手で緻密で繊細な仕事を続けている。今も1人のお針子の手が淡い花びらを布の上に再現していた。 「あぁ……とても……綺麗ですね」 細い仄かに紅い糸が描き出す散りゆく花びらにリョウトは思わず感嘆の声を漏らす。 「わたくしはこの花を見たことがございませんけれど、これでよろしゅうございますか?」 ストライダーの猫の尾を持つ娘は座ったままリョウトを見上げて首を傾げる。 「はい。申し分ありません。俺の故郷では……誰もその花を愛しんでいます。花の盛りにはそれは沢山の者達が花を見るために繰り出すのですよ」 「美しいところなのでございますね」 普段よりもリョウトは饒舌だったかもしれない。故郷には苦い思い出の方が多い。だから口にすることも滅多にないが……ここでは誰も何も知らない。 「それにこの違う服地や色合いの物を重ねて着る……それも興味深い事柄でございます。この村には向こう側が透けて見えてしまうほどの薄い布はございませんけれど、重ねた色合いもまた素晴らしいものでございます」 年かさのお針子がリョウトの持ってきた端切れを大事そうに持ち上げ、別の布と重ねてみる。赤と白の布が重ねることでもっと淡く優しい色合いとなるのがどうにも不思議なようだ。 「……お茶にしましょうか。いえ、皆様はそのままで」 優しく微笑み、リョウトはこの家の厨房へと歩き出した。リョウトの背には客人がいなくなり楽しそうに笑いさざめくお針子達の声が聞こえ始めていた。
ヒトノソくのいち見習い・スズリ(a63695)は通された部屋の中で悩んでいた。 「もうぉどうしょうなのです、なぁ〜ん」 一口に同盟風の衣服と言ってもその版土は広い。それぞれの土地ごとに気候も風習も違うのだから衣服だって多種多様だ。 「でも、ミュントスの人達に気に入ってもらえるようなとっても可愛い服を作るのです、なぁ〜ん」 可愛い服は嬉しい。自分もだが、ミュントスの人達が目新しい可愛い衣装で喜んで暮れたら自分はもっと嬉しくなる。 「わたしの私物だけど、色々と持って来たのです、なぁ〜ん」 「これが……お衣装ですか? なんというか、これでは着る方の身体の厚みがございません」 「それにお色も地味でございます」 最初は無言でスズリの服を眺めていたお針子達だが、すぐに手に取り裏地や縫製などをじっと見ながら思ったままを口にする。 「これは楓華っぽい……でもないのです、なぁ〜ん。あえて言うならば忍び風の服なのです、なぁ〜ん」 スズリの言う『忍び』が解った様子ではなかったが、説明を続けていくとお針子の1人がデザイン画をおこしはじめた。粗末な羊皮紙にサラサラとペンが走る。 「あ、ここは紐で縛った方が可愛いです、なぁ〜ん」 そんなスズリは本当に楽しそうであった。
ゆっくりと進み出た彷徨う騎士・ミルディン(a60712)は小さく一礼すると緩やかに息を吸い込んだ。 「では、私達の作りました衣装を、御覧下さい」 その声音も口調も抑揚も、柔らかく物静かだが不思議と耳に心地よく入ってくる。見るディンの右手が示す方からは1人のお針子が出来たばかりの真新しい衣装を着用して歩いてきた。それは衣装……というよりは防具、鎧であった。元になった鎧はランドアースではごく一般的な広くどのような者でも身につけることが出来るものだ。特にこれといって特別な力もないし強い防御力もない。けれど良質の素材で出来た軽く動きやすい鎧だった。 そんな実用的な鎧がこのミュントスで一変していた。鎧は磨き上げられ宝石の様に光り輝いていた。襟もとからは豪華な黒い毛皮がのぞき、その背は豪華にもシルクの赤いマントが長く膝よりも下まで流れている。 「ミュントスにも武で名を為す方々は多いと思います。式典などでお使い頂ければ、考案した私も誉れに思うことでしょう」 あらかた鎧の説明をした後、ミルディンはやはり穏やかな低い口調でそう言った。
試作した衣装は原案を提供した冒険者達が持ち帰り、その村では更に試作を重ねて完成品を作り上げることになった。そう遠くない未来にこの村からノスフェラトゥ達を魅了しる服が出来上がるかも知れない。

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参加者:10人
作成日:2007/06/04
得票数:ほのぼの14
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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