コタツネコ



<オープニング>


●コタツネコ
 ――某所。とある大きな街道沿い。

 ずんっ!!

 圧倒的な存在感を滲ませながら、そいつは居た。
 その体躯は、人のそれを遥かに凌駕する4mほど。姿形は……ぼってりと太った『猫』に近いだろうか。
 顔に明快な表情は浮かんでおらず、というより寧ろ、何も考えていないと言った方が良いような、何とも緊張感のない緩み切った雰囲気を醸している。
 しかも、その体相応の大きなテーブルを抱くように座し、いっさい動こうという気配は無く……その巨躯に抱えられたテーブルは、季節感の欠如した厚手の毛布が被せられ、そこに収めた巨大猫の両手足の先を完全に覆い隠していた。

 一見すると人畜無害。にも関わらず感じられる違和感の正体は、周辺にまったく生者の気配が感じられない事。完全なる静寂に包まれたかのようなその空間に、異様な『音』が響く。
 舌なめずりでもするかのような、下卑た音が……。

●謎のヴェールに包まれて
「ソイツはね、視えた限りはただ其処に居るだけ。でも、疑うことなくモンスター。それも、かなり強力な……ね」
 そう言うと、運命を信じてる霊査士・フォルトゥナ(a90326)は集まった冒険者たちに霊査の結果を語って聞かせた。一言で表すならコタツに入った猫という形容の敵――その能力は、たぶん『殲術の構え』のようなカウンター系。でも、そのタイミングや正確な効果については不確定ゆえ、試してみるしかない……と。
 そしてもう1つ。
「周囲に生き物の気配がないって事は、単に防御ばかりじゃないってコト。猫モンスターが手を出すのは勿論だけど、それ以外にも何か別な類への警戒が必要ね」
 とにかく、いずれにせよ放置は出来ない。ならば斃すしかないでしょ!? と端的に告げると、後は宜しくね、と言い残してカウンターへと戻るのだった。

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参加者
ストライカー・サルバトーレ(a10671)
旅風・タチ(a22859)
雄風を纏いし碧眼の黒猫・ユダ(a27741)
闇夜の暗殺者・レンジ(a31648)
月の揺籃・アニエス(a35948)
冰綴の蝶・ユズリア(a41644)
田舎の歌姫・アミニティ(a46157)
白き衣の癒し手・ルシルク(a50996)
瓢風・カーツェット(a52858)
心極振り・ウルザ(a64924)


<リプレイ>

●もう1つの武器
「お話を聞いた限りでは凄く可愛いみたいですけど、どこか怖い感じがするんです……」
 傷痕が疼く時のような嫌な予感に苛まれ、回復屋さん・ルシルク(a50996)が呟く。
「ええ。コタツにネコの組み合わせなんて反則的な可愛さがあります。が、今回ばかりは倒さなければなりませんね」
 田舎の歌姫・アミニティ(a46157)が頷く。如何に可愛かろうとモンスターなのだから。
 が、可愛いという言葉に思わず対抗心を露にする禍音・アニエス(a35948)。
「べ、別に……。どんな猫かなんて気になった訳じゃないんだからね! だいたいウチのアリエッタの方が可愛いんだから」
 ある意味、条件反射のようなものか。しかし、これを皮切りに話が脱線し始める。
「世間一般から見れば、ぽってりして可愛らしい容貌だろうが……俺はスレンダーな猫以外、認めん!」
「見た目は可愛いっぽいんだけどなぁ……布団とか、どう見ても季節外れだろ?」
 と。特に雄風を纏いし碧眼の黒猫・ユダ(a27741)と刹那の刃・レンジ(a31648)の主張が独特な味を醸していた。
 その様子に、思わずストライカー・サルバトーレ(a10671)も、
「ったく……どう見ても緊張感ねぇ相手だなぁ」
 と呆れ顔。だが、その割に錯乱坊がどうとか聞こえたのは……いや、きっと気のせいに違いない。
「さぁて、何はともあれ、そのコタツネコの顔とやらを拝みに行きますかっ!」
 と、止まぬ談義をタッチー(ツイ・タチ(a22859))が打ち切り、得物のランスを大きく振りかざしたのだった。

 ――そうして、軽口もそこそこに向かった街道沿い。
 そのど真ん中、明らかに何より邪魔な場所にでーんと巨大な存在感を主張する化け物。霊査士の説明どおり厚手の毛布を被せたテーブルを抱いている。
 その姿は、一同の想像を上回る脱力ぶり。のほほんとした表情は、温かさに満足するネコそのもので、はっきり言ってかなりヤバイ。
 これほどまで冒険者の戦意を萎えさせるとは!?
「よく見ろっ! ……実物見たらそんなに可愛くないぜ?」
 なんとなく消沈していく空気を、レンジの叫びがぶち壊す。
 ―――。
 見つめる10人の眼差しと、暫しの静寂。
「こ、これこそ奴の思うつぼかっ、気を引き締めていこうっ!」
 僅かな動揺と共にサルバトーレが我を取り戻す。
「薔薇に刺ありとはよく言うが、この場合……」
 胸中に渦巻く葛藤と戦いながら、言葉を紡ぐ冽月の蝶・ユズリア(a41644)。だがこの場合……他に何と表現するべきか!?
「やっぱり張り手が武器か? と、まぁ冗談はおいといて……だ」
 煙草を消す仕草の飄風・カーツェット(a52858)。どうやらこれで冷静さを保ったらしい。
「いんふぃにてぃアーム!!」
 唐突にタチが叫び、ランスに外装を加える。続いてレンジやユズリアがそれぞれユダとタチに鎧聖。そしてアニエスが黒炎を纏うと、それに倣ってアミニティも黒炎を紡ぎ出す。
「邪竜の力を我が身に……」
 そんな2人と同様、黒炎を身に纏いながらも、ウルザは更に1歩下がって『見』に集中。
「だけど、何より全員無事に帰ろうなっ……こ、怖いわけじゃないからな」
 こそこそなんて……。
「まずはネコさんのカウンターを突き止めないと……。回復は沢山用意しましたから頑張ってください〜」
 そんな中、前に立つ者たちにルシルクが声援。ある意味怖い台詞ではあるが、頼もしい言葉でもある。
「じゃ、まずは探りを入れて見るか…」
 射程ギリギリに立ったカーツェットが、毛布の中央目掛け弓弦を引き絞る。
 ――ついに、最初の一矢が放たれたのだった……。

●カウンター
 バシッ!
 矢が毛布を貫く寸前、ネコが目にも止まらぬほどの速さで回転。体全体で弓の射線に入ったかと思うと、何かがその目の前を疾る。その瞬間、カーツェットの矢が弾かれ地に落ちた。
「ならば、これならどうだっ! 暴いてやるぜ! てめぇの正体!」
 タッチーの編み出した鎖が、派手な音を立てて伸び、その先のランスを操る。標的はもちろん毛布中央。嫌な予感の大本を確かめようと真正面から貫くつもりらしい。
 が、それすらも、体躯に似合わぬ早さで体勢を入れ替えたネコの、神速の何かによって弾かれ、真逆の軌道を辿り彼自身を貫いた。
「ぐはっ!!」
 タッチーの身体から真っ赤な血が溢れ出す。意識が遠退いていきそうな衝撃。
 だが、倒れるよりも早くルシルクが駆けつけ、癒しの力を齎す聖女を召喚。ゆっくりと傷を塞いでいく。
 更に、サルバトーレとユダの衝撃波、そしてアニエスの黒炎が続いて放たれるも、やはり同様に甲高い音を立てて弾かれ、それぞれの使い手に徒を為した。
「焦ってはいけません。癒しの歌に耳を傾けて」
 アミニティが彼らに高らかな凱歌を捧げる。
「さて……どうしたものか」
 攻めあぐねる冒険者たち。
「何にせよ、あの速さは意外だったな。まずはそっから……か」
 先ほどまでの応酬を思い返しながら、レンジが1歩踏み出し、粘り蜘蛛糸を用いてネコの動きを封じる。
 毛に絡みつく糸を、厭々とでもいうように体を振って払おうとするネコ。しかしながら毛布の下の手を出すことはない……。
「まずはカウンターの切れ目を探るしか、ないのかな」
 仲間にフォローを依頼しつつ、アニエスが続けて炎を放つ。タイミングを計っての総攻撃!?
「少なくとも、あのコタツを攻撃されたくはないようです。同時に掛かればあるいは……?」
 後ろから見ていたルシルクが一計を案じる。
「よし、また俺が……」
 ランスを脇にしっかり構え直すと、召喚獣のもたらす氷炎を纏わせ突っ込むタッチー。拘束が聞いているのなら、ネコもさっきのような動きは出来ない筈だから。
「フォローは任せろ」
 サルバトーレがネコの背面から衝撃波で攻撃。意識を散らせれば可能性はあがる筈。

 覚悟していた通り、衝撃が弾かれるが、分かっていれば、大して怖くはない。ほんの……かすり傷程度。そして、その甲斐あってか、タッチーのランスは思い切り毛布のど真ん中に突き立った。確かな手応えが手元に伝わる。手応え……間違いなく何かの肉体の感触。それも、ネコの足などとは違うような……。
「何だってんだ……!?」
 脳裏を過ぎる不吉な予感と共に引こうとするが、深く刺さったそれは簡単に抜けはしない。
 ――力で抜くのを諦め、ウェポンオーバーロードで取り戻そうとした瞬間、テーブルが毛布ごと高く舞い上がる。ネコが持ち上げたのか!?

 いや! そうではない!!

●食らふモノ
 それは、コタツ自身が大きく持ち上がったもの。
 それまでネコとしっかり一体化していたコタツは、幾人かの警戒通り、独立した存在。そして、近くにいたタッチーの頭上から圧し掛かる。
 最後に彼の瞳に映ったのは……巨大な口。
 飲み込まれそうになる彼を目の当たりにしたその時。『見』に回っていたウルザが動いた。
 渾身の力を込めて放ったのは、スキュラの力持つ魔炎。
 炎が大きな口を焦がし、タッチーを吐き捨てさせた。その身体をアニエスとアミニティが駆け寄って救い出す。
「まだ倒れるわけにはいきませんよ」
 ――生憎と既に意識は失われていたが、それでも魂を呼び起こすべく懸命に呼びかける。
 救われるかも知れない命。しかし、その代償は決して軽くはない。
 気がつけばウルザのすぐ傍に、かの巨大ネコ。テーブルと離れた事によるストレスか、のほほんとしていた顔からは癒しの表情が消え、より虚ろな無表情を醸して立ち竦んでいたのだから。
 ちょっと怖い……。が、勿論それで済む筈はない。
 ウルザが退がろうとした途端、ネコの拳が放たれた……と思う。
 思うというのは、目にも留まらなかったから。そう、先ほどまで攻撃を弾いていたのも、この拳なのだろう。それが、ウルザの全身に凄まじい衝撃をもたらした。
 肉が潰され、骨が軋むうような感覚――。一度も味わったことのない痛みを超えた力。
「それ以上はやらせねぇ」
 ネコの後方から、レンジが尻尾の付け根辺りを目掛けて身体を捻る。スパイラルジェイド!
 カウンターが拳なら後方は緩いハズ。溜め込んだ力が回転を通してネコの背後に突き立つ。深く、大きな傷痕を穿つ。
「いずれにせよ、敵の正体はすべて掴めた……総攻撃開始だ」
 ユズリアが冷たく言い放つ。それは仲間を傷つけた敵への、明確な決別であった……。

●踏み越える死線
 だが、決別は元から。外見が可愛かろうと、所詮は相いれない存在なのだから。そしてそれは向こうも分かっている。
 くいっ!
 ネコとテーブル、両者が居並ぶ。すでに擬態する必要もないらしく、指を曲げ冒険者たちを挑発。
「まぁ概ね思った通りか……だが、タネさえ分かれば!」 
 サルバトーレが背後に回り込もうと走る。視線で追うネコ。
 その僅かな隙を突き、ユズリアが踏み込む。雷纏いし刃を足元に突き立てる。万一の事も覚悟の上だったが、予想は間違ってなかったらしくネコの反撃はない。
「足を潰せば、動きにくくなるだろう」
「なら、そっちは任せたぜ!」
 弓での攻撃が厳しいと察したカーツェットは、標的をテーブルの側1本に絞り、大きな口の中心に呪われし牙を持つ矢を射ち込む。
 ネコは、それを弾きに向かえず、目の前のユズリアに拳を振るう。そして、ネコとの共生体であったテーブルの方も、食い込む鮫牙を物ともせず、ユズリアを頭上から喰らおうと飛ぶ。
「キミの相手は、この僕だよ。そして……喰らうのは炎で十分だろう」
 アニエスが炎で悪魔を紡ぎだし、言い放つ。
「ネコは俺たちで倒す!」
 再びレンジがスパイラルジェイド。今度は少し上の背中を狙う。ダメージを追っていない今が、最も力を発揮するのだから。
 しかし、それも長くはない。ネコもかの技の事を理解したのか、拳を振り上げ、上からレンジを地面に叩きつけた。
 が、思ったほどの威力でもない。どうやら……ネコにとっての死期は、もう目前に迫っているようだった。
「大丈夫です。即死でない限りはどんな傷も治して見せます」
 ルシルクがヒーリングウェーブで癒しの力を齎しながら、皆に笑顔を手向ける。
「そろそろ……終わりにしようか」
 ユダの放った衝撃波がテーブルのモンスターを切り裂く。そして敵の大きな口は、華麗な体捌きで難なく躱す。厚手の毛布がマタドールの持つムレタのように棚引く。
 そして、ユダに躱されたその先にはアミニティがフォーマルグローブを構えていた。
「黒き炎の蛇、そのみを焦がせ」
 闇色の蛇が大きな口に吸い込まれ……テーブルのモンスターがついに崩折れた。
「あとは、お前さんだけか……」
 カーツェットの蜘蛛糸。僅かといえど、その糸がネコの巨体を封じる。そして……。
 !!
 チャンスを逃すことなく、背後から慎重に近づいていたサルバトーレがジャンプ一閃、星煌剣『日輪』を突き立てる。巨大なネコの首のすぐ下――長剣の刀身すべてが埋没するほどの強烈な一撃であった。

「終わった……」
 ようやく息をつく冒険者たち。
 幸い、モンスターに喰われかけたタッチーも殴り飛ばされたウルザも、命に関わるほどの事はなさそう。
 取り急ぎルシルクから、それを聞いたレンジは改めてモンスターたちの骸を見つめる。
「埋葬……しておくか。とりあえず……生前は寒がりで猫好きだったのかもなぁ。次に生まれる時は、小型な猫にでもなってくれ……頼むから」
「その時には、コタツとネコさん、冬にでもお世話になるかも……です〜」
 こうして、巨大な亡骸を埋葬し、冒険者たちはようやく帰路についた……。

【終わり】


マスター:斉藤七海 紹介ページ
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わからない
参加者:10人
作成日:2007/06/09
得票数:冒険活劇8  戦闘4  ほのぼの3  コメディ1 
冒険結果:成功!
重傷者:旅風・タチ(a22859)  心極振り・ウルザ(a64924) 
死亡者:なし
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