<リプレイ>
●惨劇の道標 この地を愛する人々が居る。幾つかの諍いを内包しながらも、広い懐と大地で自分達を抱く世界を、彼らは敬意を込めて『故郷』と呼んだ。 この地を愛した神が居た。繰り返す争いを嘆きながら、我が子たる世界をその腕で抱きしめ続けた。 やがて神の嘆きは世界の滅びを示唆する。その時――命を賭して世界を守った、仲間達が居た。
グランスティードで先行し、村人へ避難を誘導する役目を負った白鴉・シルヴァ(a13552)らは、正に一陣の風の様に丘を越えた。簡素ながらもしっかりした造りの門を通り抜け、ウェルダンより数歩早く村に辿り着く。何事かと不安げに顔を覗かせる住人らに、空を望む者・シエルリード(a02850)はにこりと微笑んでから、村長の居所を尋ねた。 いきなりやってきて村長に話を、それも冒険者が、と、小さな村を不安が駈け巡る。村長に面会が叶ったシエルリードは、仲間達に人払いを頼んで、早速今の状況と避難のための協力を村長に要請した。チキンレッグの村長は、嫌な感じはしていたのですと独りごち、頷きながらこう言った。 「ご相談されるまでもありません。ならばすぐにでも、皆に呼びかけましょう」 闇夜に踊る神官戦士・イストテーブル(a53214)は、声を張り上げて村人達への避難指示に当たった。 「とにかく身軽なままで、丘の向こうまで!」 「畑が心配? 大丈夫だって、俺達が守るから。避難して貰うのは念の為だよ、念の為!」 一方では、渋る住民を世界の猫飯を食べつくすぞ・リュート(a48849)が言いくるめている。 とにもかくにも、住民達の避難は順調に進みつつあった。この調子ならばウェルダンが民に被害を与えることは――冒険者が敗北しない限り、無いであろう。 「……ち。聞こえてきたな」 不意に顔を上げたシルヴァが、小さく舌打ちした。不吉な風の音が、確かに聞こえ始めていたから。
●誓いの道 後発班は、村への道程の中ほどあたりで、避難してくる村人達とすれ違った。冒険者達が急いでいる様に、村人達は道を譲る。幾許かの不安と、小さな希望を秘めた目で、駆ける冒険者達を見送った。 (「良かった。無事に避難できそうなのです」) 走りながら横目で村人達を見た星槎の航路・ウサギ(a47579)は、特に混乱している様子も無いその姿に小さく安堵する。そしてすぐに前を向くと、進む足に力を込めた。 「……お、お兄ちゃん達!」 と、一人の少女が声を上げた。立ち止まった冒険者達に、不安げな目の少女はこう呼びかける。 「が、頑張って!」 ぐ、っと拳を突き出して、必死な様子で。目的を果たすまでは余計なことを考えまいとしていた業の刻印・ヴァイス(a06493)も思わず表情を緩め、同じように拳を突き出して見せた。 ――負けられないと呟いたのは誰の声だっただろう。
村に、七色に明滅する光とオカリナの澄んだ音が満ちた。幼き眩惑の狐姫・セレス(a16159)が到着の合図を送ったのだ。徐々に大きくなる風の音と敵の姿に気を揉んでいた先発班は、ほっと息を吐いてそちらに向かう。 「大分近付いてきているな」 至心の想主・ラウド(a34201)の言葉に、シエルリードは神妙な顔で頷いた。 「急ごう! 少しでも距離を稼がないと」 セレスの言葉に頷いた一同は、出口で待っていたシルヴァと合流し、吹き荒れる暴風に向かっていった。
●己の道 すさまじい風の音が、冒険者達の聴覚を奪った。ウェルダンは冒険者達を認めると進むことを止め、向き直った。 改めて対峙してみれば、そのなんと巨大なことか。しかし、冒険者達の瞳には一片の恐怖も見られなかった。あるのはただ、それぞれに秘めた決意。黒の剣が閃き、戦闘は開始された。
「っらぁ!」 シルヴァの振う巨大剣は、さながら獲物を喰らう烏の嘴。鋭い一撃がウェルダンの脚を強かに打つ。しかし、ウェルダンはその攻撃を気に掛ける素振りも無く、じりりと前に進んだ。 「成程、これは厄介な代物だ」 己が身に漆黒の炎を纏いながら、ラウドは初めて相対する敵を観察する。冒険者10人分と言われるだけの頑強さと能力を誇るようだ。ヴァイスは己の防具をより強固に変化させながら、無感動に敵を見遣った。脳裏に浮かぶのは『任務遂行』の一言のみか。 (「ボク達が逃がさなかったら……!」) 幻惑のステップを取りつつ、セレスはあの時の悔しさを飲み込んだ。逃がした物の後始末、付けるのは逃がしてしまった者の責務として、闘志を燃やす。 「あの戦いには参加できなかったけど……っ!」 シエルリードが豪奢な手袋を翳すと火球が現れ、真っ直ぐな軌道を描きながら飛んだ。 「これぐらいは、しないとね?」 放たれた力は赤く無機質な目を直撃し、小さな破片が落下する。微細なダメージであろう。だが、いける。確信を持ちながら、次に備えた。 黒炎覚醒を用いながら敵を見据えるリュートは、大事な誰かを喪った多くの冒険者の、その一人であった。その時から、形の掴めない何かが心の片隅を占めている。言葉にならない想い――ウェルダン打倒を区切りにして、終わりにしてしまおう。もっと前へ、進まなくてはいけないから。 「行きます」 イストテーブルは蛮刀を構え、ウェルダンに肉薄した。放たれる矢のゼロ距離射撃。装甲を貫く一撃だが――相手はまるで意に介さず、無造作に彼を薙ぎ払った。 「……っく!」 重たい一撃、確かな強さ。追撃を加えんとするウェルダンのその脚に、我等皆家族・マカロン(a90333)が雷の矢を放ち牽制した。 (「負けないのです!」) 回避できるように備えながら、ウサギは強く思う。その為に、自分はここに在るのだと。 ウェルダンが大きく動いた。その巨躯をそのまま冒険者にぶつけようと向かってくる。狙う方向にはヴァイス。それを認めた彼は、予め考えていた通り真横に跳んで直撃は回避。僅かに掠った左腕の痛みもものともせずに、槍を振るった。金属音が強い風音の中に微かに響く。 ラウドが牽制するように黒炎を放ち、それに合わせてシルヴァとセレスが前に出た。勇敢にもウェルダンの正面に位置を変えたシルヴァは、凝縮された闘気を刃に宿して複眼に、セレスは接近して斬鉄蹴をその脚に見舞う。シエルリードのエンブレムノヴァが再び複眼を狙い、若干それた位置に焦げ跡を作った。 「おとなしくスクラップにでもなってろ!」 リュートから跳んだ闇色の炎が宙を翔る。イストテーブルの蛮刀が陽光を反射したかと思った次の瞬間、それはウェルダンの脚の一本に派手な裂傷を生じさせた。畳み掛けるウサギの薔薇の剣戟。華やかに散る花弁とは裏腹に、その攻撃は確かな傷を負わせる。
どれだけ戦いは続いただろう。不意に、セレスが小さく叫んだ。 「あっ!」 ウェルダンの忌むべき赤の瞳に、光が集約するのが見えたからだ。しかし警告を発する前に、瞳に飽和した光が放たれた。 ここに、冒険者達唯一の失策があった。光線を警戒していたのはおよそ半数、具体的な回避策を取っていたのは、更にその半分だったこと――。 「危ないのです!」 ウサギがリュートを突き飛ばして庇い、マカロンがシエルリードの盾になる。目も眩む光線が収まった時、辺りには夥しい紅が広がっていた。 「ウサギ、お前……っ!」 「あう……へ、へーき、なのです。だから、早く……」 リュートが癒しの光を広げれば、僅かに出血は落ち着いたように見えた。しかし戦線復帰は難しいだろう。出来る限りウサギを敵から離し、他の冒険者達は一気呵成の猛攻撃に出た。 「終わらせる!」 「アンタはもうお役御免なんだよっ!」 ヴァイスの槍は死角からの鋭く的確な一撃を加え、シルヴァが翼にも似たマントをはためかせて駆け、壊れかけの複眼にとどめの一発を叩き込む。 「さぁ、決着だ」 「もう誰も……悲しませない!」 シエルリードが最後の火球を放ち、セレスが渾身の斬鉄蹴で硬い脚を削り取った。ラウドとリュートのデモニックフレイムが、同時にウェルダンを焦がす。 「私達の行く道、空けて貰います……っ!」 イストテーブルの改心の一撃に、耳障りな軋む音を立てながら、ウェルダンは倒れ伏した。
●未来への道標 「終わった、か?」 もはやぴくりとも動かぬウェルダンを見、ラウドが呟いた。そう、戦闘は終わった。冒険者達が勝利したのだ! 「良かった。村も無事だね?」 振り返り、村には軽く柵が曲がった程度の損傷があるのみと解って、セレスもほっと息を吐く。その柵を軽く押して直すと、ヴァイスは安堵の笑みを漏らした。北東の空を仰いで、そっと瞼を閉じ、祈る。 「後始末完了、と」 「まったく、執拗いヤツだったな」 シエルリードはそう言って笑む。シルヴァは、漸くの決着に大きく溜息を吐いた。リュートは、やっと軽くなった気がする胸に手を添えて、遠い空を見る。イストテーブルも一仕事終えた安心感からか、表情は和やかだ。 「え、へへ。ウサギ達は勝ったのですよー!」 痛みに少し顔を顰めながら、それでもウサギは嬉しそうに顔を綻ばせた。やがて村には人が戻り、いつもの生活を繰り返していくのだろう。 神の嘆きと民の嘆きの上に払われた代償。残った『故郷』たる世界。その中で、問いは繰り返される。 ――汝、どの道を行く。その道で何を、為す。

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参加者:8人
作成日:2007/06/20
得票数:冒険活劇13
戦闘1
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冒険結果:成功!
重傷者:汎愛の弓・マカロン(a90333)(NPC)
星槎の航路・ウサギ(a47579)
死亡者:なし
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