＜リプレイ＞
●疾く、速く
無人の荒野を、駆け抜ける七つの影。七体の召喚獣、グランスティードの背に、それぞれ二人の冒険者が乗り、地平線の見える荒野をただひたすら、全速力で駆け抜けている。
冒険者達の目指す先は、町を滅ぼす凶悪なるギア、魔風ウェルダンのもと。
「グランスティードが７体か……こう見ると壮観だな……」
自らのグランスティードを疾走させながら、横目で左右を走る仲間達のグランスティードを見やり、蒼流閃・ヴォスト（a36861）はそう呟いた。
一体のグランスティードに二人の冒険者。ヴォストも後ろに、蒼翠弓・ハジ（a26881）を乗せている。
ハジは、風避けに頭からチャドルを被り、グランスティードを操るヴォストの腰にしっかりと掴まる。
グランスティードの速駆けは、通常の冒険者の移動速度と比べても、破格の速さを誇っている。突き進む向かい風が「息苦しい」と感じるこの感覚は、中々体験できるものではない。
だが今はそんな事を考えている余裕は何処にもなかった。
一刻も早く、ウェルダンの元へ。冒険者達の思考を支配するのはだたそのことのみ。
「特急グランスティード４６号出発進行！ 制限解除、高速進行！」
威勢のいい声を上げ、南阿蘇水の生まれる里白水高原・スルット（a25483）も、アベノ・メディックス（a49188）を後ろに乗せ、その言葉通り全速力でグランスティードを駆けさせる。
１４人の冒険者が、その地にたどり着いたのは今までの常識からすると考えられないほど早かった。
全周囲見渡す限り荒野が続くその場所で、冒険者達はグランスティードを止め、地に降り立つ。
ただ、ヴォストと、白光の祝福を受けし死神・ライン（a47806）、裏切りと災厄の天使人形・マサト（a47419）の三名は、グランスティードに跨ったまま、きびすを返す。
「後は任せた。俺達もできるだけ早く合流できるようにする」
「よろしくお願いします。万が一の事も考えなければいけませんから」
どこにでもいる少女・ナンシー（a90238）の言葉を背に受け、三体のグランスティードは再び駆けだした。彼らの向かう先は、一つの町。近隣の村人達が避難している、この辺りで最後の人里だ。
速駆けで駆けていく三体のグランスティードは、アッという間に見えなくなった。
町の人々の誘導はヴォスト達に任せるしかない。残った者達の役目は、ここで何としてもウェルダンの侵攻を食い止めること。そうすれば、ヴォストの行った避難誘導は、無駄な行為となるだろう。しかし、避難誘導を無駄にできるのなら、こんなに望ましいことはない。
「……」
恋愛至上主義的格闘美少女・クレア（a37112）は、息を呑み、遠眼鏡でウェルダンが来ると思われる侵攻方向を見張る。
同じく遠眼鏡を持つハジは、まずはいったん全周囲をゆっくりと確認する。
「…………」
互いの呼吸音はおろか、心音すら聞こえてきそうな静寂が荒野を支配する。
最初に異変気づいたのは、やはり遠眼鏡を使ってそちらの方向を見張っていたクレアだった。
地平線の彼方からやってくる、立ち上る竜巻。荒野の砂塵が舞い上がり、一見するとただの自然現象にしか見えない。
「来ましたっ！」
だが、遠眼鏡で見ていたクレアには、その風の中にいる、巨大な虫型のギアの姿が見て取れた。
「速い、すぐに来ますっ」
息を呑むようなハジの声と同時に、ウェルダンの姿は他の者達にも見えるところまで近づいてくる。
幸いにして、ウェルダンは真っ直ぐこちらに突っ込んでくるようだ。
冒険者は突っ込んでくるウェルダンを受け止めるように半包囲の陣形を築きながら、各員素早く戦闘準備を整える。
「町には近づけさせません！」
強い意志を込めた言葉と共に、邪竜の力を解放した、人形遣い・トラス（a58973）は、その身に漆黒の炎を纏い、
「ここから先へは一歩たりとも進ませません」
口調は静かなれど、負けないだけ強い思いを込めた言葉を呟いた、比翼連理・ゼラン（a44038）がトラスに、君を護ると誓う、をかける。
「この場にて引導を渡します」
「こないだのザウス戦争でぼこぼこにされた借り、きっちり返してやるぜっ、ウェルダン！」
「いきますっ！」
濡れ羽色の閃光・ビューネ（a38207）の弓が、星薙ギノ剣・ミズチ（a46091）の巨大剣が、そしてナンシーの長剣が、先鋭的な外装を付与され、それぞれの手に収まる。
武器を構え、ウェルダンを待ちかまえる冒険者達に、メディックスとハジは手分けをして、順に鎧聖降臨の守りを付与していく。
最後の一人に鎧聖降臨をかけ終わった直後、ハジはその愛用の背丈ほどもある大弓に、矢をつがえ、ウェルダンの巨体めがけ撃ちはなった。
魔氷魔炎の効果を纏う一矢は、ウェルダンの周りに渦巻く風をモノともせず、真っ直ぐに飛来し、その硬質な巨体に突き刺さる。
しかし、その魔氷と魔炎の効果は発生しなかった。
「駄目ですか」
ハジはホッと息を吐いたその時、ウェルダンの複眼から、糸のように細い一筋の光がハジの放った矢の軌跡を逆行するように伸びてくる。
「うああぁっ！」
光線に胸を貫かれたハジの悲鳴が、荒野に響きわたった。
●避難勧告
同じ頃、町に着いたヴォスト達三名は、町の入り口でグランスティードを止め、町の入り口に降り立った。
見たこともない猛スピードでやってきた三人の冒険者に、町の人々の視線は必然的に集中する。
その機を逃さず、ヴォストは大きな声で呼びかける。
「俺達は同盟の冒険者だ。町の代表に会わせてもらえないか！」
表情からその真剣さが伝わったのだろう。
町の人々は素直にヴォスト達を、町長の元に案内しようとする。
「こっちです」
三人の冒険者は、足早に案内する町人の後をついていった。
「これはこれは冒険者の方々。一体どのようなご用件で」
初老の落ち着いた男が、冒険者の突然の来訪に少し目を剥きながらも、丁寧な言葉で対応する。
ヴォストは抑えた声と真剣な面もちで、話し始めた。
「現在、この町はギア……かなり危険なモンスターと思ってくれ。それが迫っている。離れた場所で仲間達が迎撃を行っているが、冒険者と言っても万能ではない。
万が一の事を考え町の住人の避難をお願いしたい」
「なんと……」
町長は、驚いた顔でしばし言葉を失ったものの、気丈にも気を取り直し、頷いた。
「分かりました。すぐに知らせましょう」
「時間は十分にあるッ、慌てる必要はない！」
「ほらっ、こっちだ」
避難誘導が始まった。付近の難民も集まっていた町の人口は通常の倍近く。その人々を安全に、避難させるというのは容易なことではない。
幸いにして、村の近くには開けた草原があったため、村人達は冒険者達の誘導にしがたいそちらに避難していく。
人数の割には、避難誘導はうまく行っていると言える。しかし、あまりに時間がかかる。
「戦闘に参加するのは、難しいか」
冷静にそう考えながらも、ヴォストは避難誘導がすみ次第、全速力で戦場に向かうと心に決めていた。
●ウェルダン
「うああぁっ！」
ウェルダンの光線をくらったハジがその場に崩れ落ちる。
「大丈夫ですか」
ただの人・グリッド（a60472）が、癒しの聖女でハジの負傷を治している間に、前衛の者達は、距離を詰めるため全速力で駆けだした。
「それっ！」
手に持つ巨大な十字ブーメランにウェポン・オーバーロードを付与し、クレアは力一杯投擲すると、その後を追うように全速力で走り出す。
十字ブーメランはギリギリと鈍い音を立て、ウェルダンの装甲に火花を散らし、駆け寄るクレアの手に戻る。
「ッ、硬いッ」
思わずクレアの口からそんな言葉が漏れる。全くダメージがいっていないわけではないが、かなりの部分装甲に弾かれた感触だ。
「ハッ！」
後方からビューネが、ライトニングアローでウェルダンを攻撃する。雷撃の矢に撃ち貫かれたウェルダンは、ビクリと一瞬動きを止めた。
その隙に、グランスティードに跨ったゼランは接近を果たし、ウェルダンの側面に潜り込む。
「ハアッ！」
全身の闘気を巨大剣の刀身にこめ、力一杯振り下ろす。甲高い轟音が乾いた荒野に鳴り響く。まるで、巨大剣の柄掘られた三首の獣が吼えているかのようだ。
だが、ウェルダンはその一撃に全く堪えてないかのように、その巨体を悠然と前に進ませる。
その前に、立ちふさがったのは巨大剣を構えたミズチと、板金鎧に身を固めたメディックスだった。
「無理はしねーが、無茶はする！」
宣言通り、ミズチは迫り来るウェルダンの巨体の真正面に立ち、巨大剣を振り下ろす。
「此処は一歩たりとも通させはせぬ！」
メディックスは盾を構えながら、逆の手に持つ蛮刀を高らかと振り上げ、武器の重さを力に変えて、ウェルダンの躰に叩き付けた。
連続する甲高い破壊音。
二人の剣戟は、ウェルダンの巨体に痛撃を与えた。だが、その動きを止めるには至らない。
「うわっ！」
「くっ！」
ウェルダンの体当たりに、ミズチとメディックスは為すすべもなく吹き飛ばされる。
「大丈夫だ」
玻璃のみぎわ・アネモネ（a36242）の放ったヒーリングウェーブはすぐに二人の傷を完全に癒す。しかし、転倒した二人の前には、ウェルダンの巨体が迫っている。
その時、後方から燃えさかる木の葉が飛来し、ウェルダンを包み込んだ。
「貴方が仕える主は死んだのです。……貴方も後を追いなさい」
トラスの放った緑の業火だ。
さらに、一瞬遅れてハジがライトニングアローを飛ばし、前衛の者達を援護する。
ギアがどのような思考で動いているのかは知れない。だが、トラスとハジの攻撃により、ウェルダンは確かにその全身を一時止めた。
その隙に、ミズチとメディックスは立ち上がる。だが、二人の立ち位置はあくまでウェルダンの真正面だ。
「へっ、無茶は、承知！」
不敵に口元を歪めながらミズチが嘯けば、
「通さぬと言った」
メディックスは静かな中に裂帛の気合いをこめ、立ちふさがる。
だが、この時ウェルダンの目標は彼らではなかった。後方のトラスに向けられたウェルダンの複眼が、陽光を反射し鈍く光る。
「あ……」
避ける間もなく放たれた光線が、華奢なトラスの躰を貫いた。
「クハッ……」
「ウグッ……」
トラスが仰向けに倒れると同時に、前線ではゼランが巨大剣を地に突き立て、片膝を落とす。君を護ると誓うの効果により、ダメージの半分がゼランに来たのだ。
それがなければ、トラスは今の一撃で戦闘不能に陥ってもおかしくはなかった。それくらいの威力だ。
グリッドとアネモネがヒーリングウェーブでトラスとゼランの傷を癒す。
「はあっ！」
ゼランとは逆の側面に潜り込んだクレアは、ブーメランを持つ手をグルグル回転させ、力任せに何度も何度もウェルダンに叩き付ける。
甲高い音を立て、硬いウェルダンの装甲が歪んだ。
気のせいか、ウェルダンの動きが少し鈍くなった気がする。
だが、そんなことを確かめている余裕はなかった。ウェルダンの複眼が今度は今自分の横腹を傷つけたクレアに向けられる。だがしかし、
「させませんっ」
「合わせます」
ハジとビューネ、タイミングを合わせ放たれた二筋の矢が、今まさに光線を放とうとしていた複眼と、その分厚い装甲を無視し突き刺さった。
一瞬遅れて放たれた光線は、クレアの背にひらめくダークネスクロークが見事に受け流した。
ガシャン……。
一瞬だが、ウェルダンの頭部が荒野にぶつかる。
今度は間違いない。明らかにウェルダンはその活動限界が近づいている。
「畳み掛けます！」
勢いづいたゼランは再び、その巨大剣に全闘気込め、あらん限りの力で振り下ろす。
金属の砕ける甲高い音に続き、もっと鈍い音が荒野に響く。
ウェルダンがその身を荒野に落とした音だ。
最早浮遊する力もないのだ。
地に落ちたウェルダンに止めをささんと、冒険者達が一気に詰める。
「くらえっ！」
ミズチの巨大剣と、
「きめる」
メディックスの蛮刀が、同時に正面からウェルダンを叩きつぶす。
ウェルダンの頭部はグジャグジャに崩れ、すでに態を成していない。それでも尚、活動を止めないのは、生物ならぬ無機物の故のしぶとさか。
だが、それも無駄なあがきに過ぎなかった。
「トドメッ！」
クレアの再度のワイルドラッシュを食らったウェルダンは、ついにその活動を完全に停止したのだった。
●戦闘終了
「ハア……」
戦闘の終了を確信したゼランが大きく一つため息をつく。
まるでそれが合図であったかのように、冒険者達の緊張は解けた。
「なんとか片をつけられましたね」
動かなくなったウェルダンを見つめ、そう呟くトラスに、メディックスも同様に視線を前に向けたまま頷き返す。
「ああ……だが、この程度で苦戦をしているようでは私も、まだ護持を極めるには至らぬという事か。精進せねばならぬな……」
メディックスは己を律するようにそう呟いた。
だが、何はともあれ、町は守れたのだ。一人の死傷者も出さずにすんだのだ。今はその成果を喜んでも良いだろう。
「よっし、それじゃ町に奴等に教えてやろうぜ」
ミズチの言葉に一同は賛成の意を示し、ゆっくりとした足取りで町へ向かうのだった。
「驚異は完全に排除した」という、最高の成果を伝えるために。
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参加者：8人
作成日：2007/06/15
得票数：戦闘18
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冒険結果：成功！
重傷者：なし
死亡者：なし
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あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
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シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
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