<リプレイ>
●嵐の到来 大地を駆けるグランスティードの猛々しい足音が響き渡る。 早駆けを駆使し仲間より一足早く目的地に到着した冒険者は、逃げ惑う群衆に避難を呼び掛けながら、魔風ウェルダンの襲来する方向を確認していた。 「同盟の冒険者です! 北東の方角から危険な存在が接近しています! ボク達が迎撃するので、皆さんは安全な場所に避難して下さい!」 鋼鉄の乙女・ジル(a09337)の呼び掛けに応じるように、大勢の住民が安全な場所へと避難していく。 彼等の中には冒険者の姿を確認し安心した表情を浮かべる者もいれば、ただただ恐怖に打ち震えている者もいる。 こんな状況で町が戦場と化せば、被害は避けられないだろう。 彼等を一人でも多く守るためにも、魔風ウェルダンを迎え撃つために町外れに布陣した彼等が見たのは、丘陵の向こうから迫り来る巨大な竜巻の姿だった。 「大きいですね……」 荒れ狂う巨大な竜巻と、それを生み出しながら突き進む魔風ウェルダンの巨体を確認し、誓夜の騎士・レオンハルト(a32571)は静かに身構える。 あの日散っていった仲間のためにも、彼等が命懸けで残した大地を守るためにも、あれは絶対に止めなければならない。 全てを吹き飛ばす神の息吹のような、恐るべき破壊力を秘めた魔風ウェルダンの脅威……進路上にある草木を吹き飛ばし、土くれや石ころすらえぐり取り舞い上がらせながら襲い掛かるギアは、立ち塞がる冒険者さえも吹き飛ばすように猛攻を仕掛けていた。 「……来ます!」 魔王様・ユウ(a18227)の警告と同時に、魔風ウェルダンの複眼から放たれた熱線が、冒険者の足元を薙ぎ払う。 途端に地面から爆発が巻き起こり、爆風に叩き付けられながらも必死に耐え抜く冒険者を、赤烏・ソルティーク(a10158)の奏でる高らかな凱歌が包み込んでいく。 「大丈夫ですか!?」 「何とか……」 ジルとレオンハルト、二人の施した鎧聖降臨の加護が彼等を守っている。 だが、4人だけで持ち堪えられるか。 後続の仲間が到着するまで、町には一歩も入れさせない……意を決し立ち向かう冒険者だが、その間にも、魔風ウェルダンの猛攻は続いていた。 叩き付けられる巨体の生み出す凄まじい衝撃に息を詰まらせながら、ジルは聖なる一撃を叩き込む。 「……っ、硬い!?」 得物を持つ手に思ったより強固な手応えを感じ取り、それでも、グランスティードの力で無理矢理にでも押し切っていく。 「仲間が追い付くまで保たせますよ!」 そこに、ユウの放ったデモニックフレイムが突き刺さると、魔風ウェルダンの装甲を撃ち抜いていた。 しかし、与えたダメージは巨体に比べると微々たるもの。 苦痛も恐怖も感じることなく、大神ザウスの残した命令を忠実に遂行するだけの物言わぬ兵器は、自分が傷付くことなどお構いなしに突っ込んでくる。 純粋で、無垢で、だからこそ残酷なギア。 大神ザウスの残滓は今も世界に影を落としていた。 これを倒さなければ、先へは進めない。 あの時の戦いを……神との戦いを本当の意味で終わらせるために。 神無き世界に、自分達の存在を示すために。 冒険者の確かな力と、強い意志を叩き付けなければならなかった。
●その力、誰のため 魔風ウェルダンの生み出す巨大な竜巻が渦巻いている。 それを見上げながら、ユウの鳴らす呼子を目印に現場に駆け付けた冒険者が目にしたのは……少人数で苦戦を余儀なくされている仲間の姿だった。 魔風ウェルダンが力任せに石造りの防護壁を突き破り、巨体を町に侵入させる。 「……させません!」 バラバラと崩れ落ちる石材を空中に巻き上げ、尚も突き進もうとする魔風ウェルダン……そこに、諒闇黎明・ユリア(a03563)の放った緑の突風が叩き付けられていた。 ペインヴァイパーの力と同化した緑の秘術第三の技は、魔風ウェルダンの巨体をも防護壁の外側に押し戻していく。 体勢が崩れたところに、王剣の騎士・アラストール(a26295)が一気に詰め寄ると、すかさず電刃衝を繰り出していた。 (「――あらゆる理不尽、災禍より人々を守る」) 一番最初の誓い。 それこそが、彼女が剣を振るう理由だろうか。 だが、ウェポン・オーバーロードに裏打ちされた刃でも、神の僕を砕くのは容易ではない。 魔風ウェルダンの強靱な装甲に、雷光が弾け散る。 「疾く……貫き通せ!」 そこに、色無き世界を彷徨う片翼の天使・エリシエル(a18134)の放ったソニックウェーブが突き刺さると、魔風ウェルダンを内側から切り裂いていく。 現場にいる冒険者の中では、彼の力は一番弱いかも知れない。 しかし、攻撃は確実に効果を発揮していることを確認し、エリシエルは自信を深めていた。 (「ラウレックよ……貴方は……この戦いを……見ているのだろうか……?」) ふと、一瞬の思考が脳裏を過ぎる。 世界から立ち去ったという神々が今の戦いを見ていたら、どう思うだろう。 傷付いた世界の惨状を知って、何を思うだろう。 大神ザウスに突き付けられた過酷な運命に必死に抗う希望のグリモアの冒険者から、何を感じるだろう。 虹の円環の向こうに、答えはあるのだろうか。 だが、一瞬の思考は一瞬でしかなく。 「危ない!」 魔風ウェルダンの放った閃光が、立ち塞がる冒険者を薙ぎ払う。 咄嗟に反応する冒険者だが、攻撃を免れたのは一部だけ。 破壊の力にさらされ、傷付き倒れる冒険者を、深淵の水晶・フューリー(a36535)の奏でる高らかな凱歌が治癒していた。 実戦経験も実力も折り紙付きの冒険者である。 決して引き下がるつもりはない。 破壊を止めるための破壊という、あまりにも理不尽な行為を阻止するため。 彼等は強大な敵に立ち向かっていく。 「……ッ」 魔風ウェルダンの体当たりを避けながら、紅蓮の颶風ルーズリーフ・グウェン(a19529)は標的との距離を測る。 一気に懐に飛び込み叩き付ける斬鉄蹴は、しかし、本来の力を発揮することはない。 自身の破壊の力に耐えるためだろうか、魔風ウェルダンの堅固な守りは生半可な力を寄せ付けなかった。 それでも、ダメージは確実に積み重なっているのだが、それは冒険者も同じ事。 しかし、戦況は徐々に冒険者へと傾いている。 彼等の卓越した力は、彼等の強靱な意志は、確実に魔風ウェルダンを上回り圧倒していくのであった。
●ウェルダン、撃墜 「我が剣よ、光を宿せっ! 我に加護をっ!」 守護者・ガルスタ(a32308)の繰り出す聖なる一撃が、魔風ウェルダンの装甲に叩き付けられる。 同時に生み出された護りの天使は、主の身を守るようにフワフワと付き従っていた。 それすらも、過酷な戦場では長くは保たない。 魔風ウェルダンの撃ち出す熱線が、護りの天使ごと彼を撃ち抜いていく。 護りの天使で軽減され、さらには鎧聖降臨で軽減されながらも、一撃の威力は大きかった。 だが、ガルスタの心は折れない。 不退転の決意にて立ち向かう彼の意志は、重騎士として確かなものである。 それは、何ものにも代え難い武器になるだろう。 後方からは、混沌の闇に舞う光の風花・クローネ(a27721)の放った貫き通す矢が突き刺さり、魔風ウェルダンの体力を奪い取っていた。 「今の内だよ!」 彼女の援護射撃を貰いながら、冒険者は戦列を立て直している。 後方から魔風ウェルダンの様子を確認しながら、的確に指示を飛ばすクローネのお陰で、冒険者の被害は最小限に食い止められていた。 「ここから先には通さないんだよぅ!」 再度、彼女の放った貫き通す矢が魔風ウェルダンを貫くと、紅虎・アキラ(a08684)が攻撃のチャンスとばかりに間髪入れず破壊の一撃を叩き込んでいく。 「破壊は何も、テメェだけの専売特許じゃねぇんだよ!」 ウェポン・オーバーロードに裏打ちされたデストロイブレードの破壊力が、魔風ウェルダンの強固な防御をも圧倒していた。 気迫で押し切られ、魔風ウェルダンが体勢を崩したところに、ソルティークの生み出した巨大な火球が叩き込まれる。 「破片一つ残さず消滅なさい、ウェルダン!」 圧倒的な火力が装甲を押し潰し、膨大な熱量で焼き払っていく。 「……ゲート・オープン……コード『プロミネンス』」 さらには、フューリーが撃ち出したエンブレムノヴァが追い討ちをかけ、魔風ウェルダンを容赦なく呑み込んでいた。 そうして魔風ウェルダンの巨体は、自ら破壊した瓦礫の中に沈み込んでいく。 「やったか……?」 「……いえ、まだです!」 渦巻く巨大な竜巻が、魔風ウェルダンが機能停止していないことを物語っていた。 積み重なる瓦礫を力任せに吹き飛ばし、冒険者の目の前に再び巨体を現しながら……しかし、その身は度重なる攻撃により大きく破損している。 だが、魔風ウェルダンは最後まで破壊活動を止めようとはしない。 「これ以上、好きにはさせません!」 レオンハルトの繰り出すホーリースマッシュが、魔風ウェルダンの装甲を打ち据える。 グランスティードの突進力を上乗せした一撃は、確実にダメージを与えていた。 耳障りな金属音と同時にひしゃげる魔風ウェルダンの装甲に、グウェンの斬鉄蹴が追い討ちをかけていく。 「あいつらに恥じない闘い方をしないと……」 そのためにも、まずは、目の前の戦いを終わらせる。 繰り出される一撃は、魔風ウェルダンの装甲を打ち貫いていた。 ユウの撃ち出したデモニックフレイムが突き刺さり、ジルの叩き込んだホーリースマッシュが駄目押しし。 そこに、アラストールの繰り出した電刃居合い斬りが、裂帛の気合いと共に叩き込まれる。 「これで……っ!?」 手応えは確かなもの。 電光石火の一撃は、確実に絶大な威力を発揮していた。 しかし、魔風ウェルダンは倒れない。 膨大な稲妻の奔流にさらされながらも、最後の反撃を仕掛けてくる。 残された力で体当たりを仕掛ける魔風ウェルダンだが、起死回生の一撃も、冒険者の意志を砕くことは出来なかった。 「ボク等は生きて大陸の未来を託された、お前は取り残されて目的を失った。既にお前の命運は尽きてるんだ!!」 ジルの掲げる盾が、魔風ウェルダンの突進を食い止めている。 「……残念ね」 ユリアの放った緑の突風が、魔風ウェルダンの巨体を押し戻していた。 そこに、エリシエルが突っ込んでいく。 「俺は……強くならなければ……ならない」 失ってしまったものに酬いるため。 これから先、目の前で二度と大切な何かを失わないため。 強い決意と、渾身の力を込めて撃ち出した音速の衝撃波は、魔風ウェルダンの装甲を突き破り残された体力を奪い取っていく。 ――風が止まった。 魔風ウェルダンが生み出していた巨大な竜巻が、勢いを失いながら徐々に掻き消えていく。 それが、戦いの終結の合図となり。 崩れ落ちた魔風ウェルダンの残骸はもはや動くことなく、大神ザウスの遺志が潰えたのを証明するように、いつまでも地面に横たわっているのだった。
●神無き世界に 冒険者は誰一人欠けることなく、最後まで戦い抜いている。 それもこれも、彼等の力と意志が予想以上に大きかったことの証明かも知れない。 魔風ウェルダンが破壊したのも、町を囲む外壁のごく一部だけであり、これくらいならば復興にそれほど時間は掛からないだろう。 しかし、見た目の傷跡よりも、神との戦いで受けた衝撃は大きい。 神は死んだ。 大神ザウスと決別し、自らの力で歩き出すことを選択した冒険者だが、未来への不安は尽きない。 神々は、もうここにはいない……残された人々は、自らの手で運命を切り開かねばならないのである。 それは、決して平坦な道のりではないだろう。 この先には、今までより大きな困難が待ち受けているかも知れない。 だが、賽は投げられた。 彼等は自分の信じた道を突き進むしかない。 希望のグリモアの冒険者は固い決意を胸に秘めながら、未知なる明日へ新たな一歩を踏み出すのだった――。

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参加者:12人
作成日:2007/06/20
得票数:冒険活劇8
戦闘8
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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