星に願いを



<オープニング>


「蛍を見に行かない?」
 ヒトの霊査士・リゼル(a90007)は、そう言ってテーブルを囲む者達を見渡した。
「さいはて山脈の麓の、森の中にある村近くにね、清流と湖があるの。蛍はそこで見られるわ」
 夜に訪れれば、とても幻想的な光景に出会えるだろう。
 ちなみに、清流の水は、近隣では『甘い』と評判の美味しい水だ。
「それにね、湖には、そこへ突き出る形の崖があるんだけど……崖の上で夕暮れの1番星に願いをかけると、願いが叶うって」
 もちろん、それは伝説であって、本当に、願いが叶うとは限らないが……。
「蛍たちがね、星に願いを届けてくれるっていう伝説なの!」
 くううっ! とリゼルは握りこぶしっ。
 何か願いがあるらしいが、聞いたら聞いたで危険な気がするので、このまま放置するのがいいだろう。
「蛍を見ながらゆっくり……か。まあ、たまにはいいかもな」
 しっかり無視して、護りの黒狼・ライナス(a90050)はそう言った。

マスターからのコメントを見る

参加者
NPC:護りの黒狼・ライナス(a90050)



<リプレイ>

●星に願いを
 さいはて山脈の麓。豊かな森の中に村はある。
 そこからも少し歩く距離。湖畔に1人で立てば、清流のせせらぎが聞こえてきそうな静けさだった。
 アイシャ(a04915)を連れ、グランスティードで昼のうちに目的地へ着いたサンタナ(a03094)は、思わず深呼吸する。
 澄んだ空気が胸を満たし、寄り添うアイシャのノースポールの香りが鼻をくすぐった。
「水の側ゆえ、夜は冷えるからのぅ。羽織っておくと良いのじゃ」
 薄手のショールを広げると、サンタナは風に晒されたアイシャの素肌を包み込む。そのまま抱き寄せられ、彼女は恥ずかしそうに頬を染めた。
 願いが叶うと言うけれど。
(「私にはもう、これ以上願いなど……」)
 崖の上、先端の特等席で空を見上げたアイシャは、ただ幸せそうに目を閉じた。

 陽の長い時節――初夏の夕暮れは、殊更にゆっくりと訪れる。
 絶えることなく流れ続ける清らな水に、ニューラ(a00126)は素足を潜らせた。
『約束が、果たされますように……』
 切なさに痛む彼女の心を留めているのは、使い込まれたスキットルと虹の海鳥の止め具。漆黒の髪を揺らし、水面をざわめかせた風は、留まる身を置いて吹き抜けて行く。
 風の行方に空を振り仰げば、ごく薄い闇の天幕が辺りを包み始めていた。

 もうすぐ、1番星が見える頃。

 物思うアキュティリス(a28724)やカナト(a65324)のような者達は、薄藍の帳にひっそりと紛れて歩く。
 闇が舞い降りてきても、道を見誤ったりはしない。きっと今夜は、蛍達が、儚くも美しい輝きで、冒険者達を誘ってくれるから。
 辿り着いた崖の上には、思い思いに願いを抱える冒険者達。

『大切な仲間が欠けぬよう……』
『悲しい思いをする人が、少しずつでも、1人でも多く減るように』
『この地に生きる全ての人が、幸せでいられますよう』

 冒険者だから。戦を経験したからこそ、そう願う者達。
 たとえ夢物語でも、信じ、願う心を忘れては近づけない。ぎゅっと両手を組んで目を瞑り、真剣に願うイク(a60414)の足元から、ふっと蛍が飛び立った。
 まるで、彼女の願いを聞き入れたように、星へ届けと仄かに光る。
 口に乗せずとも、聞こえているとでも言いた気に、ひっそりと願うアリスティア(a65347)やシンイ(a65512)の周りにも、蛍は掠め飛ぶ。
 目を見開いて、アリスティアはその行方を追った。
 そして、冒険者だからこそ。願いは自分で叶えるものと信じる、誓うガルスタ(a32308)やショウ(a27215)のような者達も……。
 星1つだけが瞬く薄闇の空から、ふと目を転じたショウは、淡い光の乱舞に目を細める。一瞬、心動かされた己を嘲るように、ふと口の端で笑った。
 願うなら、精々、自分の力の及ばぬこと。
『散っていった者達が、安らかに眠れるように』と――。

 いくつもの蛍が、いくつもの願いを受けて輝き、夕闇は次第に深くなる。
『過ぎ行く時の中で、彼女の笑顔が曇らぬように』
『あの子が、今も笑っていますように』
 家族の幸せを祈る声が聞こえて、カラス(a64589)はシャイアントソードの柄を握り締める。
 伝説でもいい。叶うと言うのなら、星にでも何にでも、祈ってみるだろう。
(「裏切り者を、この手で……っ」)
 たゆたう蛍に手を伸べると、鍛錬のために硬くなった指先で明滅し、ふわりと飛び立った。
 悲しみは、復讐を誓う激情に埋もれている。
 裏切りの日常に、涙はとうに涸れ果てて。生き延びるため――誓いを果たすためだけに生きてきた。
 けれど……蛍の淡い光は、そんなカラスの心の奥底を照らし出す気がした。
 見渡せば、蛍達の乱舞。
 星も、蛍も、見分けが付かなくなりそうな……光の天蓋が広がる。
「願いは、叶うでしょうか……?」
 水際に座り込んだアキュティリスが俯くと、クロッカスの花が水を含んで色を濃くした。
 水面に、大切な面影を思い浮かべようとして、滲む。
 思い出ばかりが脳裏を巡り、溜息をつきそうになった時、すぐ傍に、ほんのりと淡い輝きが起こる。
 長い、長い時を過ごした彼女でも、奇跡を信じたくなるような美しさだった。
 ぼんやりと見上げ、カナト(a65324)は瞬く光の中に1番星を探した。
(「僕は、他人とは違う何かが欲しい……」)
 漠然とした願いは、けれど、いつも心の中にある。
 どうすれば見つけられるのか、それが分からなくて。いつも、ただ、繰り返し願っている。
 『特別』であることは、歴戦の冒険者達にも難しいこと。
 幾度も繰り返す冒険の果てに。
 誰かが、カナトを『特別』だと思う時に。
 そう在ることが出来るのだから……。
(「叶うだろうさ……」)
 夕闇に舞う蛍を見ながら、ガルスタは心内に呟く。
 強さを手に入れながら、それでも冒険者達が何かに願うことを、彼は否定しない。きっと、想いの強さは――願いを叶える強さに変わるから。
 『集まった者達の願いが、星に届くと良いな……』
 だから、今は。
 そう祈ることにして――。

 清い流れの傍で、メリーナ(a10320)のためにと、タケル(a06416)は葉蘭と松葉で簡易の虫籠を作る。
「虫籠……?」
 何の変哲もない葉が、タケルの手で姿を変えていくのを、メリーナは驚きながら見守った。
 籠が出来上がると、タケルは、その手に優しく蛍を包み込む。1匹を虫籠へ入れると、仄かに籠の中が灯った。
 手伝おうとしたメリーナの指先は彷徨い、結局は、捕まえ損ねてしまう。
「あ……」
「大丈夫だよ」
 3匹を虫籠に入れると、タケルはメリーナを誘い、2人で川辺の岩へ腰掛ける。そうして、光を放つ虫籠を、彼女へ差し出した。
「彼らは、光で言葉を交わすのだそうですよ」
 蛍よりも、向けられる笑みが、眩しいとでもいうように目を細めるメリーナ。
(「いつも、こんな穏やかな気持ちでいれたらいいのに」)
 思うと、彼女はタケルの肩に寄りかかる。
 時は、清かな水音となって、2人の間を流れて行った。

●宵の宴
「ふーむ? ライナスに、蛍と願い星の湖、か。こりゃまた似合わん……って、い゛でてっ!」
 キッパリ言うティキ(a02763)の耳を、ぐいぐいと誰かが引っ張った。
 キッと振り返ると、目の合ってしまったニューラが、「私じゃありませんよっ」と首を振っている。
 『今日は』礼を言うつもりだったのだ。
「そりゃ、お互い様」
 そう言うライナス(a90050)に見下ろされ、「お前か」とティキは毒づいた。祝いのひと言でも言ってやるつもりだったが、その案は心中で却下する。
「陰口は言わないことだなっ」
 悪戯が成功したからか、当のライナスは機嫌が良い。
「ライナスさん、こっちー!」
 呼ばわる声は、バーミリオン(a00184)。レスター(a00080)の傍らで、酒瓶2つを振っている。
「お酒も用意したのー」
「お前は飲めないだろっ」
 むにっと頬を引っ張ってツッコむと、「ろまらいよぅ(飲まないよぅ)」と笑いが返る。
「誕生日だと聞いたよ。おめでとう」
「おめでとうございます」
 タケルとメリーナが、バーミリオンに無沙汰の挨拶をする道すがらに声をかけてくれる。気付いて、ガルスタやカラス達も。
「おめでとうね。それに、ありがとう」
 カリナ(a18025)が言うのに、何のことか分からずライナスが首を傾げると、
「そういうこともあったんだよ」
 護衛士団でのことを指して言い、少年は微笑した。
「お酒の後で、お茶煎れてあげるよ。お茶請けは葛切りで」
 料理が得意でなくても、何とかなりそうなメニューだ。
 毒づいていた某エルフも、実はスープを作ろうとしていたが……祝いの心が消えた分、危険な液体になるかもしれない。
「お! じゃ、これも飲んだ後にな! 祝い代わりだ。懐かしいだろ?」
 そう言って、ダグラス(a02103)が手渡してきたのが緑汁だと気付くと、さすがにライナスの笑顔は引き攣る。
 わっはっは、と笑って去って行くダグラスを、緑汁を知る複数名が、恐ろしげに見送っていた。
 けれど、そんな他愛ないやり取りこそ、ダグラスの願い。
 『仲間と笑いあって過ごす日常が、続いて欲しい』
 願いをかけた夜空をチラと見上げ、彼は口元に笑みを浮かべた。
 お弁当を食べ、元気に走り回っていたミリアム(a03132)が、
「ダグラス、蛍捕まえてほしいなー。ほたるぅ〜」
 と大声で手招きする。それに気付くと、彼はまた破顔した。
「いいけどな。最後は逃がしてやれよ?」
 蛍の命は短い。それに、星空とも見紛う蛍の群れは、皆の願いの光だから。
 ニカッと漢笑いすると、ダグラスはすっと伸べた手に蛍を捕まえる。両手に包み込まれた光が、ミリアムの頬を照らした。
「キレイだね……」
 言いながら、うつらうつらとし始めるミリアムを、ダグラスは苦笑しながら抱き寄せた。
「う……」
 感動の場面なのに、嘔気がこみ上げるのは手作り弁当のせいか。
「(成長しても、料理の腕は相変わらずなんだなぁ……)」
 呟きながらも、見越して薬草を持参するのだから、お似合いということだろう。

 やがて、夜は深まり。サンタナが、アイシャお手製のハートのパンを頬張る頃。
 冒険者達の手持ちのカンテラには灯が入れられ、月琴の音は宵の宴を始める空気。
「肴が欲しいな……」
 酒はあったがツマミが無いのに気付き、ライナスは辺りを見回す。
「お魚?」
「ツマミのことだよ。……芋の苗なら持参したんだけどね。焼いても煮ても蒸しても美味しいし」
 バーミリオンに説明しながら、レスターは真顔で苗を差し出した。
「……」
 好きは好きだが。なぜ、苗?! 焼いても煮ても蒸しても、食えない気がするが?!
 無言の問いに、レスターはクスクスと笑う。
「誕生日の祝いだよ」
 荒れた土地でも成せる事をなし、力なき弱者が何処でも住み笑えるようにしよう。――そう語りかける代わりに。
 海よりも深ーい理由があるのだと笑うレスターから、苗を受け取ると、
「で、ツマミは無いままだな」
 とライナスは苦笑した。
 少し出歩いた彼は、ダグラスの所で目当てのものを見つける。
 近くで、物思いに耽り、蛍を見遣っていたバルモルト(a00290)が、ライナスに気付いて杯を寄越した。
「よう、一杯どうだ?」
「何をしんみりしてるんだよ?」
 受け取りながらそう声をかけると、「たまにはいいじゃないか」とバルモルトは苦笑する。
 願いを運んでくれるという蛍を見ながら、彼は溜息のように吐き出した。
 自分の願いは……もう、叶うものではないから、と。
 散った命も、秘めた想いも、蛍の灯火ほどに儚く思えるばかりだった。

 三弦を掻き鳴らし、アリスティアが訳の分からない歌を歌い始めると、場は賑やかになり始める。
「何だよ、その歌はー」
「もっと雰囲気のあるやつにしろって」
 笑い含みのツッコミに、アリスティアも笑って返す。
 そうして、違う歌を歌ってみるけれど、巧いワリには感動とは程遠く。再び、周りからツッコまれる繰り返し。
 酒の入った者達には、酔いも回り始めていたから、たったそれだけでも笑い転げていたのだけれど。

 酔い醒ましは、お茶と葛切り。それに、山菜のスープ。
 味の薄すぎたスープは、採れたての山菜の御陰で、皆の舌を満足させていたのだった。


マスター:北原みなみ 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:20人
作成日:2007/06/22
得票数:ほのぼの10 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。