<リプレイ>
●人の素性 日々の労働に勤しむ人々が行き交いするのを目にしつつも、冒険者達は事件のあった倉庫へと訪れた。初夏を迎えて陽射しは強く、立ち並ぶ倉庫の前を行く人々の肌にはじわりと汗が浮かび、彼らの様子を伺う緋痕の灰剣・アズフェル(a00060)の肌にもまた、玉のような汗が湧き出す。 「一見、普通のようだな……」 道行く人々と変わらぬ姿となった彼は、それとなく不自然にならぬ様に辺りの様子を伺う。この辺りで聞き込んで得られた事柄を脳裏で反芻するが、照りつける陽の暑さと共に焦りばかりが彼を満たす。 この倉庫で働いているものならば、立ち入るのは容易い。時に働く彼らの家族が昼食などを届けに来るという話もあり、絞り込むのは難しいとアズフェルは眉を顰める。店でターマを始めとした店の者や、近隣の住人にも尋ねてはみたものの、目星を付けられるだけの人間には辿り着けなかった。 「他はどんな様子だろうかな……」 盗品の行方を追うという、水鏡に写る月・レン(a60327)や想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)の事が気にかかるアズフェルであった。 またターマの店には帝界戦神ヘタレカイザー・ロスト(a18816)や紅戦士・ルナ(a60264)達が姿を見せていた。 「ターマさーーん久し振り〜〜!」 ターマの姿を認めると、久方ぶりの逢瀬と言わんばかりに、レンが元気よく駆け寄った。続いてみんなの・ゼソラ(a27083)が勢い良く迫り、ロストとターマの双丘に抱きついた。ふにふにとふくよかな感触を満喫すると、徐に離れて満足げな笑みを零す。 「倉庫を捜索させていただきたいのですけど、許可を戴きに参りました」 蒼い雷帝・カイン(a06953)がそう言って一礼すると、いともあっさり許可は下りた。ターマから話を聞いてみたいというロストはそのまま店の奥へと通されて、
「質の悪い品って何処で売られている物なんでしょう。また、仕入れたりは?」 「うーん……うちは私か父がこれだ、って思った物以外は滅多に仕入れないんです。お得意様が欲しいって注文があればするですけど。何処で売られてるかは……そうですね、これくらいなら食器を扱ってるお店でしたら簡単に手に入ると思うです」 遠まわしに言えば、所得層の低い人間が一般的に手に入れられる品という事らしい。となると、この皿の流通経路から手掛かりを得るのは少々難事と言える。 「そういえば、以前にカーガンさんと一悶着ありましたけど、何かまたありませんでしたか?」 「カーガンさんですか……お年始に商工会の寄り合いがありまして、その時は思いっきり避けられていた気がします。最近は仕事でニアミスする事も少なくなりましたし……なった時は凄い目をされますですけど」 ううーんと難しい顔になるターマ。どうやら以前に面倒があったカーガンと表面上は今の所大きな問題はない、ように思えなくも無い。 「でも、この間にちょっとありましたですよ。げんこつぐーくらいの綺麗なサファイヤ……紺碧の涙って名付けられた宝石なんですけど」 「その……紺碧の涙とやらはどうなったんでしょうか」 「父ががっつり手に入れてしまいましたですよ。あの時、競り場に居たカーガンさんの目がこう……『もし視線で人が殺せたら、わたしは何人殺せるのだろうか』みたいな本のお話に出るようなすごい感じで」 少しばかり小さくなるターマを目にして、ロストは「ああ、やっぱりなあ」などと確信を得て。
「台帳はこれか」 普段は外の人に見せる物ではないのですけど、とターマに前置きされながら渡り鳥・ヨアフ(a17868)は彼女からこの先一週間分ほどの台帳を受け取ると、何か手掛かりになる事は無いかと調べ始めた。 台帳には持ち込みと持ち出しの予定が記されており、これを天井から倉庫内を見張る積もりのゼソラに教えれば、随分と楽になるのではなどと考える。 「しかし……目的が良く分からん」 顎を撫でながらヨアフは一人呟く。 酒場で聞いた限りでは病気の家族を助けるべく働く青年が怪しいと踏んでいた。無論、それは彼だけではなく、他の冒険者達もそうだ。生活を楽にしたいのであれば、金目の物を狙うだろう。けれども実際に被害にあっているのはそうした高価な物ではない。 「初犯だから、被害の少ない物を? いや、違う。それなら売約済みのものをわざわざ狙ったりもしないよなあ」 壷の商人が宣伝の為にやったのか。それとも商売敵がここの人間関係に亀裂を入れる目的で行ったのか。 「むむむむ……」 ヨアフは紐に作られた解けない結び目を前にしたように渋面を浮かべた。 「とりあえずは三日目の午前に持ち出しか。見るべき所はその前、だな」
●白磁の行方 摩り替え、盗まれた白磁の食器を追う為、情報をかき集めるべくレンは彼方此方の店先へと赴いていた。面倒なことには変わりないが、仕方ないのだと自身を納得させながら、特に食器を扱う関係へと足を向ける。 「うへぇっ……何か疲れるや……」 ほんのりと額に浮かんだ汗をぬぐい、レンは進捗のない現状に疲れを感じて落ち着けるところに腰を下ろす。一方で目的を同じくするラジスラヴァもまた、目立たない衣装へと着替え、「両親の結婚記念に贈るプレゼントに良さそうな物を探している」という触れ込みで質屋や露天商、故買屋と行った、盗品の流れる可能性がありえる所を重点的に巡っていた。 「そういうのは扱ってねえなあ。わりいなあ、嬢ちゃん」 「いえ、すみません。ありがとうございました」 店の親父が済まなそうな顔を見せたのにこちらこそと頭を下げると、ラジスラヴァは質屋を後にした。ターマから聞いた品は多少色艶の良い品ではあるのだが、酒場で霊査士と共にターマが言っていたように、それほど価値のあるものでもなく、また、似た品物は比較的市場に多く出回っている。 「品物が見つかれば回収したのですけど」 その序とばかりに誘惑の歌などを用いて売りに来た人間の話でもと考えていたのだが、そもそも品物が流れていないのではそれすらも叶わない。 「もう少し手がかりがあれば……」 自然、呟く彼女だった。 彼女らとは別に、紫炎の記憶・ネヴィル(a64549)もまた手掛かりとなる盗品の探索に市場へと赴いていた。自分の目にかなう良品を求める貴族としてチキンレッグである彼は振る舞い、実際にこれはと思った品を手中に収めつつも、本来の目的を遂行する為に足しげく多くの店先を渡り歩く。骨の折れる仕事ではあるが、これはこれでなかなか楽しいものだと彼は思う。 「これだけ探しまわっても見つからない、と言う事は売りには出てはいない、という事なのでしょうか」 一頻り市場を回り終えたころ、ネヴィルは青い鶏冠を撫でながら率直な感想を漏らした。市場に流れないというからには何かしらの理由があるのではないだろうか、とも。 「……はて。風評が悪くなる事を望む者が居たような気もしますが……」 何方であったろうか。ネヴィルはその存在にきな臭さを感じるのであった。
●其々の努力 ターマ達が商品を保管するのに用いる倉庫には、大小の品物を運び入れる為の大きな搬入口と、それとは別に通用口が設けられている。本来正規の入口として用いられている二つの入口、それ以外の侵入経路があるのではとカインは考え、倉庫の中を探索していた。 「何一つ解らない状況で手探りで犯人を探し出すのは……本当に難しいわね」 つい後ろ向きに考えを巡らせてしまう心を諌め、カインは荷物に隠された壁などを逐一調べ、何かしらの手掛かりはないかと注視する。そんな彼女の様子を横目に荷運びをするのはストライカー・サルバトーレ(a10671)である。新しく入った人足として、犯人の動きを探るべくターマに提案した、その結果だ。 「よう兄さん、今夜ちょっと飲みに行かないか?」 「お、新入りは酒が好きか。いいだろう、付き合ってやるよ」 親睦と称して既に半数の人足に声をかける。それもサルバトーレには考えがあっての事。 「うむっ……事件は迷宮入りかっ……だが、迷宮には必ず入口と出口はあるものなんだよ――君っ!」 何故か犬面のヒゲ親父が脳裏に浮かびましたがそれはさて置き。 青年や壮年の人足達と共に場末の酒場へとサルバトーレは足を運ぶと、仕事の愚痴や日常の悩みなどを聞き、逆に自分の愚痴を吐き出したりもした。 「うちの奥さんが怖くてなぁ……」 こないだ浮気したら殺されかけたとか、前の仕事での借金を返すのに一心不乱に働かなきゃならないとかぶつくさと零すと、あんたも似たようなものかなどと青年に肩を叩かれてみたりする。普通に生活して生きていくと言うのも、なかなかに苦労があるのだなと、しみじみとサルバトーレは感じ入るのだった。 そんな日々の愚痴のやりとりをしつつ、一日目の夜は過ぎた。
あれから結局、ラジスラヴァは手掛かりとなる品を見つける事は出来なかった。目的を同じくするレンもまた、同様であり、少しばかり落胆の色が目に留まる。あれから幾つかの店を当たってみたのだが、むしろ新しい食器はどうだと進められてしまう始末。けんもほろろと言っても差し支えなかった。 「当てが外れたみたいです」 「となると、売り払ったと言う線は消えますね」 レンの言葉に溜息を吐くと共に、ラジスラヴァの表情に落胆の色が浮かぶ。 「でも、わざわざ盗み出した物なのに何故表に出ないのでしょう」 「表に出ては困るから、なんて?」 腕を組んで考える愛嬌のある仕草をしたレンが言う。確かに彼女の言う通り、表に出ては困るのだとしたら、何らかの理由があるのだろう。 「見つかっては困る。見つからなければ困らない。……その品が見つかれば、自然、手掛かりになる訳ですよね、何らかの」 「自分で使っている、という可能性も否定は出来ないけど」 確かにそれはありえないとは言い切れない。しかし、それならば盗んだ物を使うに足る理由がなければならず、その理由を考えるも答えに辿り着く事は出来ない。 「どこかに隠しているのでしょうか。でもそうなると、誰がどこに隠しているのやら」 何か理由があっての事かも知れないけど、やっぱりいけないことだと思う。過去を思い、僅かに遠くを思うレンであった。 後は、倉庫でずっと様子を伺っているゼソラ達が何かしらの手掛かりを得られるかどうかだ。
●得るもの、得られないもの 「良い手掛かりは得られませんでしたね……少なくとも、市場には出回ってはいないようです」 「こっちもダメだったよ。見つけられなかった」 倉庫に向かった者達と合流したネヴィルやレン達は芳しい結果が得られなかった事を伝えると、彼らと共に倉庫を警戒する事に決めた。カインは通用口に狙いを定め、来訪するかも知れない侵入者を待ち、他の者は夜の闇に紛れて倉庫の中に潜む事となった。 二日目の夜は更け、辺りはとっぷりと闇に包まれた。既に夕食の一時は当に過ぎ去り、大人達すら床につく頃合へと時が移ろい変わった頃、通用口の付近で息を潜めていたカインとアズフェルは近づいてくる何者かの姿を捉えた。闇に紛れて分からないが、現場を押さえるべく彼女達はその何者かが倉庫の中へ入るのを目したまま見届ける。一方、天井裏に潜んでいたゼソラや他の者もまた、異常に気づいて警戒の色を強めた。 バレない様に気をつけなきゃ、とレンが気を引き締めて沈黙を守る。侵入者は右手にランタンを持ち、左手には幾つかの紙包みを手に、食器類が収められている棚へと迷わず向かう。侵入者が設けられた棚に明かりを置き、棚に収められた食器類に手を伸ばし、紙包みの中身と入れ替えたその時。 「今だっ!!」 ゼソラの声があげられると共に、何処からともなく緑の木の葉が襲い掛かった。途端、侵入者は木の葉にとらわれて身動き一つ取れない程に縛される。 カインの放った緑の束縛は狙いを誤る事無く侵入者を捉えた。手に手に明かりを持った冒険者達が侵入者の姿を確かめると、そこには見覚えのある青年の姿。 青年の手にしていた紙包みに包まれた食器は街で普通に手に入るものであり、摩り替えられる筈の食器は抜ける様な白さを持つ物だった。耳元に息を当てるゼソラの悪戯めいた拘束に多少慌てた素振りをみせるが、冒険者達が揃って姿を見せると途端に落ち着きを取り戻す。 彼の前にレンは一歩歩み出ると、低い声音で彼に尋ねた。 「……何でこんな事した?」 何故に盗みなど働いたのかを彼女は知りたかった。けれど、彼は彼女の問いに答える事はなく。更に人の迷惑を考えた事はあるのかと尋ねると、レンから顔を背けるが、それでも彼は口を割らない。 「カーガンさん、ですか」 不意にロストが尋ねると、青年は急に身を硬くする。何か思い当たる点があるのだろうか。 しかし、アズフェル達がそれ以上を尋ねようとしても青年は頑として拒み、沈黙を保ったまま。 「……そんなものなのか?」 抱いた疑心が的中した事に、ルナは複雑な表情を浮かべ、呟く。 兎に角、犯行の現場を押さえた冒険者達は、アズフェルが手にしたロープで自由を奪うと、夜が明けた後にターマの元へと彼を連れて訪れた。彼の顔を見て、ターマはどうして、と悲しげな表情を見せ。 「理由は分かりませんが、彼が商品の摩り替えを行っていました」 「尋ねてみても、彼は何も言ってはくれませんでしたので」 「……いいえ。本当は私が解決しなきゃいけないことなのです。だから、私ももっと考えてみるのです」 カインやロストの言葉に、ターマは沈鬱したまま彼女達にそう言うと、ありがとうございましたと蚊の鳴くような声で礼を述べた。その様子にレンは物悲しげな感情を感じ、 「少しゆっくり考えたい、かな」 「商売を行うというのは本当に大変なことよね」 カインは気落ちしたターマの様子を目にして、ある意味冒険よりも大変なことだとしみじみと思う。 結局、捕らえられた青年は頑として口を割らなかった。カーガンの名前にほんの一瞬だけ反応を見せたものの、それ以後は閉じられた貝の様に沈黙を守り。そうして彼は、理由を漏らす事無く然るべき場所へと委ねられたのだった。

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参加者:10人
作成日:2007/07/03
得票数:ミステリ13
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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