【花守】咲かない薔薇



<オープニング>


 とあるバラ園。そこには広大な敷地に沢山のバラが植えられている。好事家が保養の為にと作った物だが、当人は商売が忙しくてなかなかバラの時期に訪れることがない。けれど主が不在であってもバラは毎年美しい花を咲かせていた。

 エルフの霊査士・マデリン(a90181)は顔を曇らせていた。
「この広大なバラ園のほんの一角なのですけれど、まったく花を付けない場所があるのです。ここを任されている方が丹精してもちっとも成果があがりませんの。でも、それはその方のせいではなく、地中に潜む巨大な生き物のせいなのですわ」

 その一角はそこだけで1つの庭園となっていた。中央に小さなエルフの女性像があり、その像の手から清水が滴り落ち水たまりとなっている。まわりにはベンチが1つあるところどころ盛り上がった地面によって斜めに傾いでる。庭園を囲むようにツルバラが垣根を作っているが、その葉はどれも弱々しい薄い緑色で、枯れ落ちた物も多い。

「あまり想像したくはないのですけれど、その地中には大きなミミズ……の様な長くて、うにょうにょしたものがおりますの。それがバラの根を激しく損なっているのですわ。このままにしておけば、被害はドンドン広がってしまうでしょう。いずれはバラ園全てが枯れてしまいますの」
 被害はそれだけに留まらないだろう。田畑を荒らされればそれは人々の生活にも直結する。
「そのミミズに悪気はないのかもしれませんわ。けれどその存在は許されません。あまり係わりたくないと思うかもしれませんが、どうか、地中の巨大ミミズを退治してくださいませ」
 そうする事でバラに再び花をつける力を取り戻してやって欲しい……それがマデリンの願いであった。

 淑やかに一礼して背を向けたマデリンであったが、急にくるりと振り返る。
「あ、そうでしたわ。今回はアロンさんも同行するのでしたわ。無愛想だし、足手まといかも知れませんけれど、やる気だけはあるみたいですからよろしくお願い致しますわね」
 ニッコリ笑ってマデリンは言った。

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参加者
桜雪灯の花女・オウカ(a05357)
雄風を纏いし碧眼の黒猫・ユダ(a27741)
神盾・ジーン(a32076)
音の葉・ユーリィカ(a36042)
花深月・ユディール(a49229)
リザードマンの武人・ユウテ(a49610)
湛盧之剣・アセレア(a50809)
永久に気高き碧き英雄姫・リア(a63557)
NPC:碧水晶の吟遊詩人・アロン(a90180)



<リプレイ>

●バラの守り人
 待機場所には2人の人影しか見えない。他の者達は敵を地中から誘い出し、ここまで引っ張ってくる作戦だからだ。
「えーっとぉ……アロン様、もう怪我はよろしいのですか?」
 桜雪灯の斎女・オウカ(a05357)は隣で仲間達が去った方角を見つめている碧水晶の吟遊詩人・アロン(a90180)に声を掛けた。先だって同行した依頼でアロンが重傷を負った事はオウカの記憶に新しい。
「あぁ大事ない。俺が不甲斐ないばかりにあの時は皆に迷惑を掛けた。今度はそのような失態とならないよう気をつけよう」
「はい……あの、えーっとぉ……どうか無茶はならさずにお気をつけて」
 うなずくアロンにオウカはもう一度作戦の説明をする。今回の敵は味方の気勢を削いでくる。オウカは立ち位置まで細かくアロンに指示をした。

 傾いだベンチの辺りはもう地面がでこぼこしていた。まるで種を植え付ける前の畑の様にうねって盛り上がった土が直線的に幾重にも連なっている。それもこれも、地中に潜む巨大ミミズのせいなのだろうか。
「本当に……この辺りのバラは他と比べて極端に元気がないのですね」
 気高き孤高の翔剣士・アセレア(a50809)はなんとも不憫そうにこの一角のバラ達を見つめた。時期は少しばかり遅いのだろうが、この場所に来るまでには沢山のバラが咲いていた。しかし、ここだけはバラは花どころか葉も変色し、多くは散って根元に落ちている。
「地中から引きずり出したら西へ誘導する」
 雄風を纏いし碧眼の黒猫・ユダ(a27741)はもう一度言った。このバラ園を管理する者から、西に更地があることは聞き出した。そこにアロンとオウカも待機している。
「距離はあんまりない。でも移動出来ないようだったら、あたしがコレでオウカとアロンを呼ぶよ」
 花深月・ユディール(a49229)は首から下げた笛を皆に掲げて見せる。それはオウカとアロンにも了承済みだ。ユディールは管理している人に地図を書いてもらっていたので、位置関係はハッキリ頭に叩き込んである。
「俺も聞いて見てきましたが、あそこならバラを気にせず戦えます」
 同じく管理する者から場所を聞き、白獅士・ジーン(a32076)も下見を済ませていた。ゆくゆくは庭園にする場所なのだろうが、今は何もないまっさらの場所だ。ジーンの手には借りてきたらしい大きなバケツがある。中には水がなみなみと入っているのだが、白い鎧にはなんとも不釣り合いだ。
「ジーンも彼の者からバケツを借りて来たのか。ほとほと困っていた様であったから、バラさえ無事ならば、水も道具も制限なく使ってくれと言っていた。懸念なく戦える」
 音の葉・ユーリィカ(a36042)の手にもジーンと同じ無骨なバケツがある。その足ともには同じ様なバケツが3つも4つもあって、それぞれ水がいっぱい入っている。
「ミミズは益虫でござった筈だが……さて、拙者も水撒きの手伝いをさせて頂くでござるかの」
 リザードマンの武人・ユウテ(a49610)はユーリィカの足元にあるバケツを軽々と持ち上げる。雨の日にはミミズは地中からはい出てくるらしい。ならばこの水に誘われて地表に姿を見せてくれないだろうか。
「ミミズなんて考えただけでも嫌になる。さっさと片付けてしまおう」
 普段凛とした様子の碧き英雄姫・リア(a63557)だが、そのの表情はもう曇っていた。

●過ぎたるは消え去るのみ
 バケツの水が幾度となくでこぼこした地面の上に撒かれていく。けれど、柔らかい地面は貪欲に水を吸い、まだ水たまりは出来てこない。
「振動でも反応はないか」
 恐れ気もなくユダはでこぼことした地面のほぼ真上でわざと強く足を踏みならした。ぬかるみかけた地面の泥がユダの靴を汚したが、応える振動は感じられない。
「水だけでは駄目なのでしょう……あ!」
 ジーンのつぶやきは最後まで言えなかった。その目の前で大きく地面がうねり始めたからだ。明らかにその下に何か巨大な物が潜んでいるのがわかる。
「もっと水だ」
 動く場所めがけてユーリィカが水を掛ける。けれども敵の姿は土に隠れたまま出てこない。ユディールはとっさにもう壊れていたベンチの木切れを拾い上げた。そして動く地面の辺りをザックリと掘る。黒い土の向こうに白い様な肌色の様な動く物がチラリと見えた。それは表面がテカっていて、なんとも気持ちが悪いシロモノだ。
「いたよ! で、でも……気持ち悪い」
 ゾワゾワとユディールの背筋を悪寒が走る。出来ればもう2度と見たくない、そんな気分になってしまう。
「掘っても駄目なら刺すだけでござるよ!」
 ユウテは二振りの武器を鞘から抜き、両手に持って地面に突き立てた。

 その瞬間、地面が沸騰したかの様に吹きだした。いや、土や泥と一緒に何か巨大な物が地中から飛び出してきたのだ。
「う……気持ち悪い……な」
 地表に現れた敵の姿は……巨大なミミズそのものであった。ぬらぬらとした表面、不気味な色、蠢く様子も気持ち悪い。リアがつぶやいたまんまである。
「出てきましたね」
 それが何か見もせずアセレアは視線を下げ『力』を使ったた。それは直感と経験によるものだった。なんとなくアセレアの身ごなしが軽く素早くなった気がする。

 その振動と物音は離れた場所にいたオウカとアロンにも伝わっていた。
「えーっとぉ……始まったようですわ」
 心配そうな表情のオウカにアロンはうなずいた。2人は更なる音、特に笛の高い音色はないかと注意を向ける。

 一瞬の驚愕と言って良い衝撃から立ち直ると、ジーンは風を呼んだ。
「風よ……」
 深い森の中にいるかのような爽やかで心地の良い風が吹いた。それはどこからともなく優しくそよぎ、皆の心を清々しく吹き抜けていく。
「助かる」
 やはり驚愕の様な一瞬の間隙から立ち直ったユダは短くジーンに礼を言い、その額辺りにまばゆく強い強烈な光を呼んだ。ゆらゆらとうごめいていた巨大ミミズの頭部に変化が生じた。スッとユダの方へ頭部を降ろし、向かってきたのだ。
「糸で引いてやる」
 ミミズの姿に気分が悪くなったユーリィカも、清々しい風になんとか持ち直した。そして、その手から淡く白い糸が宙を舞う。レースの様に繊細な糸はユーリィカの足ともに落ち……その糸を再度ふわりとミミズに向かって投げつけた。糸はユダを追っていたミミズに絡みつくが、その動きまでも止める力はない。
「その糸の端、拙者も引かせてもらうでござる。なに、力にはいささか自信がござるでな」
「わかった」
 ユーリィカの持つ淡い糸の端をユウテもグイッと引っ張った。強い力にミミズの移動速度が速くなる。
「私は先に行く」
 少しの間おぞましい感覚に苛まれていたリアはミミズには関わらず、オウカ達の待つ方へと走る。ユーリィカの糸が絡まるのを見ていたユディールもリアの後に続いた。
「こんなもん、絶対居ちゃ駄目だ。気分悪くなりすぎる!」
 思い出すとまた気分が悪くなりそうで、ユディールはぎゅっと唇を噛み全力で走った。

 仲間達の走る音、ミミズが揺らす大地の振動が少しずつ大きく激しくなる。最初に見えたのはグランスティードに乗るユウテであった。続いてユダの姿が見えはじめ、そしてリアとユディールの姿が見えた。
「オウカ! アロン! 大成功! ミミズはこっちに来てるよ」
 笛の音ではなく、ユディールの肉声が風に乗って聞こえてきた。
「アロン様、では先ほどの様に」
「わかった」
 オウカとアロンは距離を取る。互いの『力』がギリギリ届く辺りに場所を移動する。アロンの位置を目視すると、オウカはそっと手を胸の前で組み合わせた。そのまま深く清らかな祈りを捧げる。誰に祈るということではなかったが、今ここにいて、共に世界を守ろうとする仲間達を助けたかった。彼等を襲う全ての禍から守りたい。仲間達が思う存分戦えるよう、そっと支えたかった。無私の心と温かい思いが祈りとなり、祈りは『力』となって仲間達を守る。遠くでアロンの歌声が聞こえた様な気がしたが、それでもオウカは祈り続けた。

 オウカとアロンの支援のせいか、あいかわらずミミズの姿は気色悪いけれど、正視する事が出来るようになっていた。
「行きますよ」
 素早く華麗な動きは翔剣士の得意とするところだし、最も翔剣士らしい。アセレアは愛用の剣を閃かせた。剣の動きが光となり戦場に幻の花びらが舞う。1度、2度、そして3度バラの花びらが舞い散り、そして消えていく。
「手早く行きます!」
 ジーンの両刃剣は移動中に少しだけ姿を変えていた。その剣と頭上に輝く守護天使と共に一気にミミズに振り下ろす。その刃はミミズを斬りつけ音を立てて体液が噴き出した。

 オウカは祈り続けている。手を組み目を閉じて祈る様子は無防備に見える。もし、敵に攻撃されたら、回避することも大変な事かもしれない。それでもオウカは祈りを止めない。今、ここに居る仲間達を信じて……仲間達が敵の無為無形の攻撃に脅かされない様、心からの祈りを捧げる。アロンもまた深く息を吸い朗々と歌っている。

「悪意がないとはいえ、被害を出すわけにはいかない」
 ユダの手にした『紅龍』が閃く。素早い動きが空気のうねりを呼び武器へと変えていく。真っ直ぐに巨大ミミズへと向かって走る衝撃波は柔らかいミミズの身体を切り裂いた。先ほどにも増して体液が雨の様に降りそそぐ。
「……これ以上無粋な真似はさせない」
 ユーリィカの手の中にあった剛糸が激しく動く。その動きもまた空気に干渉し衝撃波を生む。真っ直ぐに飛ぶその形無き刃がミミズのまだ無傷であった上部の身体を裂いた。激しくミミズがのたうち回る。けれど、動きを止めることはない。
「さすがに生命力が旺盛でござるな。しからば……」
 グランスティードに騎乗したユウテは二振りの蛮刀を振るって強烈な攻撃を仕掛けた。ミミズの身体のごく狭い部分を2振りの刃が遅う。一寸刻みにする気概であった。ミミズの動きは更に激しくなる。切り裂かれた身体の痛みなのか、それとも目の前の冒険者達への敵意なのか。のたうつ身体がミミズの傍にいたジーンとユウテを打ち付け、薙ぎ払う。大きい割に柔らかい身体だが、さすがに体当たりされると普通にキツい。ジーンとユウテに鈍い痛みが打たれた場所からじんわりと広がっている。

「行け! 我が内なる鎖よ!」
 リアのミレナリィドールが解ける様に姿を消す。のたうつミミズに向かってリアの身体から無数の虹色の鎖が放たれた。リアは動けなくなるが、同時にミミズの動きも止まる。
「止まった? ならあたしからはコレだ!」
 ユディールが虚空に描き出す紋章は虹色に光る。そこから飛び出した銀色の狼がミミズに襲いかかった。強大なミミズを組み伏せ、鋭い牙で食いちぎる。

 更にアセレアとジーン、そしてオウカの虹色の針を雨の様に浴びたミミズは、その体液の半分以上を失って動きを止めた。


マスター:蒼紅深 紹介ページ
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