LAST RITES



<オープニング>


「弔いに行かぬか?」
 唐突に口を開いたのは黒甲冑の策士・ギーギィである。
「リザードマン領の村なのですが……最近疫病で死者が沢山出たらしいデス」
 ギーギィの珍しく無骨な物言いをフォローするように、ロウが説明する。
「しかしどうも一部の村人がアンデッドを酷く恐れているようで、慣習の土葬を拒んでいるようなんデス。年寄りの方々などは『死者を焼いて苦しめることはならぬ』と頑なに土葬を支持し、どちらかというと若者が反抗していマス」
 もっともそれだけで依頼にはならない。
「訊けば『焼いてしまえばこっちのもの』という過激な若者グループがいるようで……村は死者を中心に険悪デス。死体の方は各家庭にあると放火の危険があると言うことである場所に匿われているようデス。皆サンには村人の仲裁を御願いしマス」
「何にせよ、静かに眠らせてやりたいからな……」
 ギーギィは目を細める――そこにどんな感情が宿るのか。
 それを見せるほど、彼は自身に優しくなかった――

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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
蒼然たる使徒・リスト(a01692)
闇夜の鴉・タカテル(a03876)
沈黙の剣士・アーネスト(a04779)
紫苑の翼・シエスタ(a06178)
紅蓮の翼・ナタル(a06179)
アフロ凄杉・ベンジャミン(a07564)
れ・バニラ(a07898)
黒甲冑の策士・ギーギィ(a90111)



<リプレイ>

「またご一緒できて、光栄ですよ」
 蒼然たる使徒・リスト(a01692)が思慮深さを感じさせる穏やかな笑みを見せると、黒甲冑の策士・ギーギィは小さく頷いた。
「私もこうなるとは思わなかったがな」
 それは決して否定的な物言いではない。
 そしてリストは何を言わずとも彼の内心ぐらいは察する。
「しかし、あなたが自ら足を運ぶとは珍しいですね。何か特別な理由でも?」
「……」
 一瞬ギーギィは口を開き、そして噤んだ。
 リストは無理に訊き出そうとはしなかった。
「そうですか。でもそろそろ、本音を話せる相手を作った方がよいのでは? ……お節介かもしれませんが」
「私はお前達を信用しているのでな……」
 小さく呟いたギーギィに、リストはおや、と表情を改めた。

 リザードマンの村に依頼で出掛ける、というのは実に珍しいことかも知れない。
 これからどんどん増えていくのかもしれないが――
「何でも揉め事があるって?」
 目敏く暇そうな、されど話が好きそうな者達を見つけた黒き夜の悪夢・アーネスト(a04779)が朗らかに世間話をした後、さりげなさを装って尋ねた。
 トラブルというのは何でもそうだが、とにかく話のネタになる。
 話好きな主婦とかはどの種族にも関わらずいる――まして珍しい奉仕種族(彼らにはこういう表現しか知らないだろう)の冒険者と来れば、彼らは我先に己の意見を主張する。
「土葬でも火葬でも、死者が安らかに眠れるならあたしは構わないのだけれど」
「酷い病気だったからなあ……火葬の方が良くないか?」
「でも火は人の姿を壊してしまうから……」
「……それぞれみたいだな」
 がやがやと討論を始めるリザードマン達を余所に、アーネストは苦笑を見せた。

「あの、これつまらないものですが……」
「これは忝ない……」
 ドリアッドの紋章術士・バニラ(a07898)が楚々として差し出した菓子折に、受け取ったリザードマンの老人は礼を告げた。
 早速ですが我々の用件は、とスペースタキーシード・タカテル(a03876)が切り出す。
「アンデッドに変じる危惧を、村の若者は抱いていると聴きました……一体何故そんな話に?」
「我々もよくわからぬが……多分、奴等はアンデッドを目撃したようでの」
 どうやら若者達は王都よりの町まで所用で向かったとき、アンデッドに襲われる村を目撃してしまったらしい。
 近隣の村で彼らが事情を聴いたところ、疫病が流行、土葬して後、その遺体が甦ってきたのだと。
 まさに今この村がその状態である。
「アンデッド化するのに、土葬だの火葬だのは関係なく……どちらでもアンデッドになる可能性はあるのです」
 静かにリストが老人達へと告げた。
 この争いは不毛であるのだ、と。
「本当にその可能性を捨てたいなら、遺体をバラバラにするしか……」
「とんでもない!」
 すぐに言い切られ、タカテルが「でしょうね」と苦笑した。
「ですから妥協案です。土葬をするなら何か……石などで厳重な棺を作り、其処に遺体を安置して埋めるのです」
 タカテルの言葉に老人達が顔を見合わせ合った。
「棺か……そう簡単に作れぬな……何せ十数人分、今すぐに手配しても一ヶ月以上は掛かるであろう……」
「ああ……そうですね。そういわれてみれば……」
 ちょっと考えていませんでした、タカテルは苦笑した。
 この村では棺は木製が主流であり、それも外部発注で作るのだ。
 石棺を作る技師達も無論いるだろう。ひとつふたつなら一月を待たず出来上がってくるかも知れない――だが疫病で大量に埋葬を待つ者がいる以上、現実的な案ではなかった。
「……取り敢えず皆様にわかっていただきたいのは土葬も火葬も関係なく、埋葬とは死者を一番に想うもの――直接の話し合いもなく啀み合うのは、死者も望まないでしょう」
 リストの言葉にタカテルも頷いた。
 冒険者達を見つめる老人は、小さく「わかった」と頷いた。
「……だが貧しい我々にとって、火種は貴重なのだ、ということも覚えておいてはいただけぬか? 確かに遺体は生きた人間よりも火の周りは早いであろう。だが火種は必ず必要であるし、その火を管理する者も必要だ。だが遺体とは言え――愛しい者の身体が、燃え、灰になり、骨となるのに、私は耐えられないのだ……」
 苦しげな声にずっと耳を澄まし、老人達の言葉を頭に刻んでいたバニラが問い掛けた。
「もしかして、親しい方がお亡くなりに……?」
「妻と子を、私は亡くした……」
 切なげな告白に、しばしの間冒険者達は沈黙した。

 過激派の若者、といっても常に殺気立っているわけでもないし、村人である。
 普通の生活を送りながら普通に他の村人と交流しているのだ――冒険者達の接触は容易であった。
 若者達から何故火葬を強く支持するようになったか、その経緯を訊き出した想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は小さく頷いた。
「俺達はアンデッドの恐ろしさというのを、身を以て知った。これだけは譲れない」
「襲われてからじゃ遅いんだよ!」
「君達の考えはよくわかったよ」
 紫苑の翼・シエスタ(a06178)が宥めるように言う。
「でも死体は、焼いたらアンデッドにならないって物じゃないんだよ?」
 彼は諭すようにその言葉を口にした。
 リザードマンの若者達が驚いたような表情になった。
 ――霊査士からの補足、彼らはソレを若者達に丁寧に説明した。
 腐肉を多く持つ遺体の方が確かにアンデッドになりやすいし、火葬した後の遺体がアンデッドとして甦り騒ぎを起こすという例は極めて少ない。
 だがそれは完璧な対処ではなく、スケルトンのようなアンデッドがいることなどを冒険者として見聞きしたことも踏まえ、彼らは告げる。
「……死体となった体だけでも……静かに眠らせてやれば良いと思う……」
 ずっと黙っていた紅蓮の翼・ナタル(a06179)が口を開き、ぽつりと呟いたことに、父親のシエスタが若干驚きつつも、静かに自分たちの話を聴く若者に問うてみる。
「これ以上、眠っている人を巡って争うのはやめよう? 死んだ人達も、落ち着いて眠りたいと思うよ?」
 しかしリザードマン達の見せる反応は戸惑いと恐怖である。
 絶対と信じていた火葬が駄目で有れば、彼らは一体どんな対処を取ればよいと言うのだろうか。
「もし……更に可能性を消し去りたいのであれば、遺体を破壊するしかないのですが」
 ラジスラヴァが控えめに言うと、リザードマン達の顔色が変わった。
 しまったと思いながら、彼女は矢継ぎ早に、
「今は、私達も痛いが何故アンデッドになるのかその仕組みは良くわかっていません。遺体をアンデッドにしてしまう術があるのかもしれません。この様な遺体をアンデッドにされてしまう悲劇を一日でも早く起きなくするように原因を調べています。ですから、自分達の思い込みで行動するのはやめていただけませんか?」
 駆け出そうとする若者達を引き留め、強く告げた。
 だが振り返ったリザードマン達の表情には失意しかなかった。
「……同盟とか言って頑張ってる冒険者って言うんで期待したけど」
「俺達の希望の種をつみ取る事しかできないって……無意味だよな」
「ちょっ……」
 慌てたシエスタが再び駆けだしたリザードマン達を引き留めようとしたが、時既に遅し。
「……無能」
 軽蔑したように父を見て、ナタルが小さく呟いた。冗談であったのかも知れないが、今のシエスタにはちょっと堪えた。

 リザードマンの若者達は老人達が遺体を隠した場所を知らなかった。
 だが仲間内で虱潰しに調べれば、特定は出来る。
「こっちか?」
 鍬とハンマーを片手に、それぞれ若者達が合流する。
 ある地主の倉庫の前、あの倉庫こそ遺体が一時収容され、隔離されているに違いない。
 ああ、だが――
 リザードマン達は唖然とした。
 でかいマリモが宙に浮いている。
 違う、巨大なアフロだ。
「Yoーメーン?」
 ばしっと決めて、アフロ凄杉・ベンジャミン(a07564)が若者達に声を掛けた。
 ここで茫然となる辺り若さが伺える。
 異様な同族、否異様なアフロに気圧され、彼らは酸素を求める金魚のように口をぱくぱくとしているだけだ。
「死んでもソウルは皆の胸に残っているネー! こんなの見たら悲しむネー! ユーのソウルは痛くないのカーイ?」
 よくわからない。
 気を取り直したリーダー格の青年が、ベンジャミンへ鍬を手に威嚇してみせる。
「ふざけるな! 其処をどきやがれ!」
「ミーが怖いのカーイ?」
 くねくねと踊りつつ、ベンジャミンが問う。
 ええ、とっても。――なんて彼らは言いたいけど言えない。
「ミーに出来るのは踊ることだけ、それだけYO!」
 ひたすら踊る。アフロのリザードマンは若者達が呆れるのも無視して踊る。
「ちっ、行くぞ」
 無視すれば無害とやっと気付き、若者達が無造作にベンジャミンの横を通り抜けようとする。
 だが彼らの手足が不意に、有らぬ動きを取り始めた。
 鍬やハンマーを取り落とし、ベンジャミンの踊りに合わせて踊り出す。
「何でだー!!」
 若者の一人が叫ぶのも無理はない。
「HA−! 結構ノリがいいネ! はいアフロ」
 かぽっとひとつ近くにいたリザードマンにアフロをかぶせるベンジャミン。
 ――その後倉庫の前で踊り回るリザードマン達が解放されたのは、観衆が集まり、長老を説き伏せた冒険者達が合流してからであった。
「チェケラッ」
 ベンジャミンがばしっとラストポーズを取ったとき、拍手喝采だったのは何故だろう。

 結局長老達と踊り疲れた若者達は棺などを用いしっかり封印して土葬することで、火葬せずともアンデッドを封じる手段を選んだ。
 冒険者達は相談に必要以上加わらず、彼らの質問だけ答える形を取り、彼らの決断を促す態度をとった。
 それは比較的平和で穏やかな話し合いとなった。
 ラジスラヴァ達への暴言を取り消した若者達は、今まで迷惑を掛けたと村人達に謝った。
 長老達は彼らほど素直な行動を取ることはなかったが、今後この様な問題が出たときはなるべく広く意見を聴こうと約束していた。
 葬儀には色々と時間が掛かるとのこと、冒険者達はそれぞれに弔いの言葉を告げると、村を去った。

「……穏便に、済ませたか」
 背後で聞こえた呟きにリストは振り向き、やっとその存在に気が付いた。
「……ギーギィさん?」
「……」
 影からじっと経緯を見守っていたギーギィの意図を、リストは察しかねた。
 何も語らず、ギーギィは踵を返した。
「信用……ですか……」
 試されていたような気がするのは、気のせいだろうか。

 酒場――
 目的は果たせたのですかと霊査士が問うた。
 あまり面白く思っていなさそうな口調にギーギィは肩をすくめて見せた。
「同盟の者は説得が苦手なように思えたからな」
「キャラ勝ちですネ」
 霊査士は短くコメントをした。
 その後ベンジャミンにタカテルが「で、何しにいらっしゃったのですか?」と問うと彼は自信満々に「踊りに来た」と答えてくれた。
 結構な緊張を見せていたバニラが思わず笑ったくらいだ。
「しかしリザードマンが解決しているのでは何ともいえぬ。……私は同盟の考え方の偏りを危惧しているのだ。多種族として協力できる点でいけばこのくらいだろう」
 殆ど水に近い酒をあおり、ギーギィは厳しい表情で告げる。
「……事の解決に種族など関係ない、それが同盟です」
 リストの言葉に彼はいらえを返すことはなかった。

 酒場を出ると日が暮れたせいか風が少し冷たかった。
「……ナタル、久しぶりにお母さんに…会いに行こうか。大好きだった華、持っていってあげよう……」
 穏やかに笑んでシエスタがナタルの手を引いた。珍しくナタルはそれに従っていた。
 しばらく歩いて、ナタルが小さく問い掛ける。
「……なぁ…父さん……、母さんは……どんな人だった……?」
「そうだね……」
 父さんと呼ばれたことに驚きを覚えながら、シエスタが過去に思いを馳せた――


マスター:神崎無月 紹介ページ
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作成日:2004/05/05
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