忘れ去られた誕生日 〜アルペジオの誕生日〜



<オープニング>


 いつもと代わらぬ今日。
 本当は特別な日なのだというのに。

 彼はしっかりと忘れていた。
 自分の誕生日を。

「………どうしよ」
 そっと酒場を覗いて、淡雪のきまぐれ紋章術士・ティンヴァ(a90354)は呟いた。
「どうしたの、キミ?」
 そこに声をかけるのは、偶然居合わせたセイレーンの第四王女・アリッサ(a90360)。
 ある意味、彼らが出会ったのは、運命かもしれない。
「あ、あのあの、もうすぐ誕生日の人がいて……お祝いしてあげたいなって」
 小さく、お世話になったからとティンヴァはそう告げた。
「それは、盛大にお祝いしないとっ! で、誕生日を迎える人って誰なの?」
「あそこにいる人なの」
 ティンヴァが指し示す先にいるのは、山陽の霊査士・アルペジオ(a90032)であった。

「というわけで、アルペジオ君をお祝いするんだよ!」
 アリッサの隣で、うんうんとティンヴァが頷く。
「場所はね、近所の山の上なんだ。アルペジオ君って登山が好きなんだって。実はあたしもなんだよね。だから、山に決定したよ。それに、あそこの花畑ってとっても綺麗なんだよねー」
 そういうアリッサもかなり乗り気のようである。
「そ、それでね、お茶会とか開いたらどうかなって」
 ティンヴァは緊張しながら告げる。
「あたし達は会場を準備しとくから、みんなは……アルペジオ君を誘ってくれるかな?」
 どうやら、肝心な事を忘れていた様子。
「えとえと……お山でお祝いのお手伝いもしてくれると……嬉しいの!」
 どきどきしながらティンヴァも付け加える。
「よかったら、一緒にお祝いしてあげようよ、ね?」
 こうして、アリッサとティンヴァのお祝い計画が始まったのである。
 果たして、どうなることやら?

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参加者
NPC:山陽の霊査士・アルペジオ(a90032)



<リプレイ>

●はじめよう、これから始まる素敵な時間
 その日、空は遠く澄み渡っていた。気持ちのいい天気。これほど良い天気ならば、きっと。
「ふう……到着っと!!」
 セイレーンの第四王女・アリッサ(a90360)は、沢山の荷物を抱えながら、額の汗を拭った。
「お、重かったようっ!!」
 アリッサに続いて、淡雪のきまぐれ紋章術士・ティンヴァ(a90354)もやってくる。
 それともう一人。
「2人とも、大丈夫か?」
 折りたたみのテーブルを背負い、2人に声を掛けるのは依頼依存症・ノリス(a42975)。
「「だいじょーぶっ!」」
 アリッサとティンヴァの笑顔に吊られて、ノリスも笑顔を見せた。
 ノリスは折りたたみのテーブルや椅子、それに大きな樽まで運んできていた。
「この樽の中身、何?」
 じっと見つめるティンヴァには、まだこの樽の中身がわからない。
 と、そこへ。
「皆さん、お待ちしておりましたわ」
 ノリス達よりも先行して、会場の掃除を行っていたのは、第一のセフィラ・マリウェル(a51432)。
 とはいっても、あまり人の入らない場所。ゴミなどは特に見当たらなかった為、邪魔な丸太や切り株を退けるくらいで、少し時間が余った様子。その分、会場に相応しい場所を見つけられたようだ。
「皆さん、ここが一番良いと思うのですが、いかがですの?」
「おおっ!! すっげーイイじゃん! 眺めも良いし、花も綺麗だし!」
 そう嬉しい声をあげるのは爆走する玉砕シンガー・グリューヴルム(a59784)。
 彼もまた、この誕生会を盛り上げる為に来た一人であった。
 良い場所も決まり、彼らは準備を始める。
 ノリスは自分の持って来たテーブルを出し。
 アリッサはノリスの用意した椅子をテーブルの側に並べる。
 マリウェルは皆が用意したお茶やお菓子などを用意し始める。
 そして、ふわりと空色のテーブルクロスがテーブルに掛けられた。
「これ、ニューラに頼まれたんだよね」
 綺麗なテーブルクロス。
「このお茶もニューラさんが用意したものでしたわね」
 アリッサの言葉にマリウェルは微笑みながら頷いた。
 今、楽風の・ニューラ(a00126)は、ドラゴン特務部隊の一員として、旅立っていた。
 だが、出発する前に、アルペジオの誕生日を聞きつけたニューラは、事前に仲間達にいろいろなものを託す形で参加したのだ。
「今頃、元気でやってるのかな?」
 思わずノリスは呟く。
 と、その横で。
「これ、ここでいいか?」
 グリューヴルムは、ティンヴァとテーブルを飾り付けている。
「うーん、もう少し左かな?」
 ティンヴァの言葉にグリューヴルムはむうっと眉をひそめる。
「これでいいと思ったんだけどなぁ〜」
 そんな2人のやり取りをノリスとマリウェルが見つめる。
 準備は着々と進められている。
 だが、この誕生日には、一つ問題があった。
 そう、アルペジオを誘うという大仕事がまだ残っている。
 果たして、アルペジオはこの場所に来れるのだろうか?

●さあ、一緒に山登りへ!
 彼はすぐに見つけることができた。
 いつもの酒場でいつも通り仕事をこなしていた。
「随分と久しぶりだな。覚えてっか? 以前、山登り勝負したトトだ」
 そこに現れたのは、侍魂・トト(a09356)。
「あ、久しぶりですね! ちゃんと覚えていますよ……僕のライバルですし」
 ちょっと思い出したのか、アルペジオは僅かに眉をひそめた。一瞬だけだったけれど。
「それなら話が早い。久々にいっちょ如何だ? オレはアレから随分と鍛えてきたつもりだけど、アルペジオが仕事に感けて鈍ってないか見てやるよ」
 そのトトの言葉にアルペジオは驚く。
「え? 山登りですか? で、でも、その僕は仕事がありますし……」
 そのアルペジオの言葉にまた新たな声が。
「ア〜ル〜ちゃん、山・登・ろ♪」
「一緒に山登りましょう」
 笑顔の郵便屋さん・リリィ(a60360)と神速の弾丸・シルク(a61206)だ。どうやら彼らもアルペジオを誘いに来たようだ。
 いや、それだけではない。
「アルちゃん暑くなってきたから涼みに山へ登るのにゃ」
 幸せを呼ぶ黒猫・ニャコ(a31704)も現れた。しかもどーんと登山道具一式も持っていた。
「登山道具一式も準備してきたにゃ。もちろんシュークリームもいっぱい持って来たにゃ」
 甘いシュークリームにアルペジオは、うむむと唸っている。
 もう一押し。
 彼らは思った。もう一押しだと!
「こんにちわ、アルペジオさん。ずいぶん前に依頼を紹介して頂いたとき以来ですね」
 そこに現れたのは、竪琴を持ったせせらぐ琴線・リナリー(a59785)。
「リナリーさん?」
 リナリーは優しい微笑で、その唇を開いた。
「そう言えば山登りがお好きらしいですね。ちょうど、近くに素敵な景色の山があるのですよ。その頂上から臨める花畑が満開で、とても綺麗だそうですよ。よろしければ一緒に行きませんか?」
 もう、アルペジオはぐらぐらだ。89.9パーセントくらい山に行きたいという顔をしている。
 リナリーは続ける。
「今から行ってもそんなに時間は掛かりませんから、お昼のティータイムまでには頂上に行けるかもしれませんね。今日みたいに天気が良い日は、遠くに雪を被った山並みも臨めるかもしれませんよ」
 …………。
 暫しの沈黙。
「し、仕方ありませんね。皆さんからそう誘われてしまったら」
 すくっと立ち上がり、アルペジオはにこっと微笑んだ。
「さあ、行きましょう! 山が僕を待っていますっ!!」
 こうして、アルペジオは100パーセント、いや、いまや無限大の確率で山登りに向かったのである。

 その様子をじっと見つめているものがいる。
「……ダメじゃないのよっ」
 影に隠れて、その様子を見ている者がいた。
 紅い魔女・ババロア(a09938)である。
「……を忘れるなんて……!!」
 実はアルペジオを誘う者たちの話まで聞いていたババロア。
 彼女も彼らの後をつけていくのであった。

●頂上で待っているもの
「さぁ出発にゃ!」
 ニャコの掛け声に皆も頷く。
 しっかりと準備を整えたアルペジオ一行は、目的地である山の頂上を目指していた。
 先頭を歩くのは、アルペジオ……ではなくて。
「山登り〜、山登り〜、楽しいね♪」
 歌いながら、歩いているのはリリィ。その後をしっかりと付いてくるのはシルク。ちょっと厳しい顔をしているのは、リリィの悪戯を警戒してのこと。
「この山はハイキングにぴったりなんです。どんな人でも楽しめる山で……ほら、見てください。こうやって上りながら見る風景もなかなかのものなんですよ」
 アルペジオは嬉しそうに山の話をしている。
「アルペジオさん、この山に登ったことがあるんですか?」
 リナリーが尋ねる。
「うん、ずっと前にね」
 そういって、微笑んだ。
「じゃあ、この頂上にあるものも知っているの?」
 今度はリリィが尋ねる。
「うん。でも……かなり前だったから、変わっているかも」
 その言葉にシルクは。
「そうかもしれませんね」
 シルクは知っている。いや、ここにいるアルペジオ以外の者達は全員、この先に何があるのかを知っている。
 知らないのは、本人だけ。
「ニャコちゃん、疲れちゃったのにゃ。みんなでシュークリームを食べるのにゃ♪」
 ニャコの提案により、暫しの休憩を取る事になった。
 にこっとニャコは微笑んで。
「アルちゃんもどうぞなのにゃ」
「ありがと、ニャコさん」
 嬉しそうにアルペジオはニャコの持って来たシュークリームを受け取る。
「登山しながら食べるシュークリームも、また美味しいのにゃ」
 そのニャコの言葉にアルペジオは嬉しそうに頷いた。

 きゅぴーん!
 お腹が満足したトトは、その瞳に炎を宿した……ように見えた。
「なあ、アルペジオ。オレの言葉、忘れてないよな?」
 ぴぴーんっ!
 口に付いたクリームを拭いながら。
「ええ、もちろんっ!」
 アルペジオも答える。
「休憩もしたし、ここでちょっと運動するか?」
「臨むところですっ!!」
 2人は軽く準備運動した後。
「じゃあ、どっちが先に辿り着けるか……勝負だっ!!」
 トトの掛け声で、勝負が始まる!
「ちょ、ちょっと2人とも、待ってください!」
 止めるリナリーの言葉はもう届かない。
 2人の足は一直線に頂上へと向かっていった。
「と、とにかく私達も行きましょう!」
 シルクもリリィもリナリーも、そしてニャコも2人の後を追う。
 そして、少し離れた場所でババロアも。

 トトとアルペジオの登山勝負。
 トトの勢いには目を見張るものがあるが、アルペジオもそれに負けじと付いてくる。
「流石はオレのライバル。まあ、前の勝負の時も、結構良い勝負したもんな」
「そんなこと言っていられるのも今のうちですよ。僕だって負けませんよ!」
 互いに抜きつ抜かれつのデットヒートを繰り広げ。

 最初に頂上に辿り着いたのは、アルペジオであった。
「え? ええ?」
 アルペジオの前にあったのは、一度みた、あの美しい花畑と。
「「誕生日おめでとうっ!」」
 暖かくアルペジオ達を迎える仲間達の姿。
「え? 誕生日って……ええ!?」
 アルペジオの驚く姿に、皆は楽しげに笑みを零すのであった。
 だが、驚くのは彼だけではなかった。
「ええっ!? ま、マリー様っ!?」
 でも驚くのはほんの少しだけ。すぐに平常心を取り戻す。
 いや、取り戻そうと勤めていると言っていいかもしれない。
 シルクは自分のご主人様であるマリウェルの姿を見て、暫し固まっていたのであった。

●忘れられない思い出
「ちょっと待ってっ!!」
 楽しいパーティーが始まる前に、現れたのはあのババロア。
「今日はご両親に自分を生んでくれてありがとうとご奉仕をする日! 忘れるなんてもってのほかよ」
「す、すみません」
 ババロアに言われて、思わず頭を下げてしまうアルペジオ。
「山に登るのは、其処に山があるから。ご飯を食べるのは、お腹が空くから。生きていればお腹は空くのです」
 回りくどい言い方だが結局は。
「だから、誕生日もお祝いなのです!」
 彼女もアルペジオの誕生日を祝いに来ただけなのだ。ちょっと照れ屋な所があるようだが。
「それじゃあ、メンバーが揃ったところで、昼食にしましょうか」
 マリウェルの提案に皆は頷く。
「「さんせーっ!!」」

 心地よい風と共に暖かなお茶が配られる。
「はいどうぞ! カモミールティーよ」
 他にもミントティーもある。
「蜂蜜とレモンを加えると爽やかさも一層増すんですって」
 そういって、アリッサはティーカップの他にスライスされたレモンと蜂蜜の入ったミニポットをテーブルに置いた。
「宜しければ、このアップルパイもどうぞ」
 リナリーが用意してきたのは、今朝焼いたばかりのアップルパイ。ここに来る途中で少し冷めてしまったが、それでもとても美味しそうである。
「ありがとうございます、リナリーさんっ!」
 嬉しそうにアルペジオは美味しそうなアップルパイを口に頬張った。
「うん、とっても美味しいですっ!」

「よーし! それじゃ、俺達の芸、見てくれよな!」
 グリューヴルムがそういって見せる芸は、白と黒の子猫との共演の舞い。
 すごいというよりは、むしろ可愛らしく微笑ましい芸であった。
 その芸にアルペジオはもちろん、周りの者も惜しみない拍手が贈られた。

「そう言えば……シルクさんは、誰かに踊りを見せたと言っていましたが……一体誰に見せたのでしょう? 見て頂いた方には、是非その時の感想をお聞きしたいですわね」
 マリウェルは思い出したようにそう呟いた。
「えとえと、とっても綺麗だったの!」
 そのティンヴァの声にマリウェルは満足げな笑みを浮かべる。
「あ、アルペジオさん……誕生日プレゼントとして、その……私の舞踏を披露いたしますわ」
 シルクは緊張しながらも、アルペジオの前で綺麗な踊りを見せる。
 前にティンヴァに見せたものとは違う舞踏。五月雨をイメージした舞踏は、どこか悲しげな雰囲気を漂わせながらも、少しずつ前向きな姿勢を見せるものであった。見ていた者達の心をぽっと灯すようなそんな暖かい踊りであった。
「ありがとう、シルクさん。とっても綺麗でした」
 そのアルペジオの言葉にシルクも嬉しそうに微笑んだ。

「アルちゃん、誕生日おめでとにゃぁ。これプレゼントにゃ♪」
 ニャコが手渡したもの。それは、にゃんこをあしらった可愛らしいアウトドア調理セット。
「誕生日おめでとう」
 ノリスが渡したのは青い釉薬が目立つ、鉄製の七宝焼きの指輪。
「これは私からね」
 ババロアから渡されたものは、日記風に面白い詩が書かれた羊皮紙であった。
「誕生日おめでとう♪ また依頼で会ったらヨロシクな」
 トトが手渡したのは、腕に付けられる便利なコンパスであった。
「皆、ありがとう……本当に嬉しいよ……」
 いくつものプレゼントを受け取り、アルペジオは思わず涙を滲ませる。

「では、私からも……見ていただけますか?」
 マリウェルの提案に。
「ええ、もちろん!」
 アルペジオは嬉しそうに頷く。
 マリウェルはその美しい舞踊を披露した。シルクの披露したものよりもかなり高度なテクニックを駆使して、舞う姿は、まるで昔この地にいた神の踊りのようにも見えた。
「日は流れ、空の色は代わり行けど、幾重にも時と心を通わせた絆は、変わる事を知らぬ」
 そう呟いてマリウェルの舞踊は終わりを告げた。
 割れんばかりの拍手がマリウェルに贈られる。
「す、凄かったです、本当に。その……ありがとうございます」
 アルペジオの言葉にマリウェルは嬉しそうにその瞳を細めたのであった。

「あ、あのね。その……これ、ニューラさんから頼まれたの」
「ニューラさんから?」
 アルペジオの言葉にティンヴァは頷く。
 彼女から渡されたもの。
「わあ……」
 サーペンテインで出来た蔦の葉の首飾りであった。蔦の生命力と、夏の日にもその葉陰が熱から守ってくれることを願ったニューラの想いが詰まった首飾り。アルペジオはさっそく、それを首に下げて皆に見せるのであった。

 楽しい時間も残り僅か。
 もうすぐ日も傾き始める。
「アノ日から3年か……お互いよく生きてたモンだな。オレ達は、何時命を失ってもおかしくない立場に居る。それでも……また来年、こうして皆で山登りを楽しめれば良いな」
 トトの言葉にアルペジオは素直に頷いた。
「ええ、来年と言わずに再来年、またその次の年、次の年も……ずっと」

 汚れた食器は持参した布でふき取り、祝いの場所を汚していないかを確認した。
 もう、誕生会は終わり。
 ノリスはもう一度辺りを見渡し、その荷を背負った。
「さあ行くか」
 後に残ったのは、僅かに曲がった草の跡と、皆からもらったたくさんの思い出。
「忘れないよ、今日の事は」
 黄昏色に染まる空に、きらりと光った星に向かって、アルペジオはそっと呟くのであった。


マスター:風祭あいり 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2007/07/05
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