シュガー



<オープニング>


「依頼だ。草原に出没する、凶暴なオラウータンを退治してもらいたい」
 夕暮れ時の酒場に、生真面目霊査士・ルーイ(a90228)の声が、唐突に響きわたった。
「元々その草原は、近隣の猟師達にとって格好の猟場だったそうだ。最近やっと冬眠から冷めた動物達もある程度太ってきて、これからというときに、そのオラウータンは現れたのだそうだ」
 草原を己の縄張りとして、入る人間に容赦なく攻撃を加えるのだという。
「幸い、このオラウータンは基本的に草や木の実、虫などを食べるのであって、草原にいる兎や鹿を捕って食べる様なことはないらしい。
 だから、獲物が経る心配はないのだが、漁師達にとって捕れない獲物はいないと同じだ」
 さしずめ草原の動物達にとってそのオラウータンは、理想的なボスといったところだろうか。
「オラウータンの攻撃に特殊なものはない。ただ、非常に動きが速く、こちらの攻撃を当てるのは容易ではない。常に軽いステップを踏んでおり、大概の攻撃は簡単にかわす。
 むやみやたらに攻撃しても、中々当たるものではないだろう。
 もう一つ厄介なのが、こちらの攻撃に対して、非常に巧みにパンチを合わせてくると言うことだ。
 性能的に言えば、矢返しの剣風の近接戦闘版といったところか。ただし、これはアビリティ攻撃にも有効なので、気を付けてくれ」
 なるほど、中々厄介そうな敵だ。よほど旨くやらない限り、 長期戦になりそうだ。
「幸い、固有の攻撃力はそう高いものではないようだ。
 俺の霊視ではこれが限界だ……すまないが、よろしく頼む」
 そう言ってルーイはいつも通り丁寧に頭を下げるのだった。

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参加者
六風の・ソルトムーン(a00180)
猫又・リョウアン(a04794)
忘却武人・ラン(a20145)
銀の剣・ヨハン(a21564)
ピースメーカー・ナサローク(a58851)
復讐を誓いし黒翼なる刻死天使・マサミ(a59923)
樹霊・シフィル(a64372)
気力一瞬・ソフィー(a64378)


<リプレイ>

●草原の雄
 猟師達の命綱とも言える肥沃な草原に、恐ろしく強いオラウータンが住み着いた。
 困り果てた猟師達の依頼を受け、八人の冒険者達は草原にやってきたのだった。
「……眠い……」
 言葉通り眠そうな半眼で、忘却武人・ラン(a20145)は、ゆっくりと草原を見渡し、オラウータンの姿を捜す。
 一見するとまるでやる気がなさそうだが、実際には……どうなのだろうか。
 冒険者達は、視界の開けた草原で、問題のオラウータンの影を求め、さまよい歩く。
 動きは素早く、回避能力に優れ、カウンター攻撃のスペシャリストであるというオラウータン。
「なかなかに難儀な敵ではないか? 同盟の冒険者に欲しいくらいだのぅ」
 年齢から来る貫禄か、はたまた力量に裏付けられた自信か、六風の・ソルトムーン(a00180)は、グランスティードに跨ったまま悠然とそう軽口を叩く。
「ええ、体力や攻撃力が高い相手より、回避力の高い相手の方が手強いですね。当たらなければどんな攻撃も無意味ですからね」
 対して相づちをうつ、猫又・リョウアン(a04794)の声には深刻な色が滲む。
 リョウアンとて、ソルトムーンに比肩しうる同盟最高クラスの冒険者なのだが、だからこそ敵の厄介さを理解できるのだろう。
 歩み進む冒険者達の間を、清涼な風が吹き抜ける。
 あまりに平和な風景に、冒険者達は一瞬完全武装の自分たちこそ場違いに思えてしまう。
「オラウータンは草原の守護者。私達が草原の平和を脅かす侵略者。何とも複雑な気持ちですね」
 思わず、 銀の剣・ヨハン(a21564)はそう溜息をもらす。
 事実、草原の動物達の視点から見ればそのとおりだろう。だが、この草原を猟場とする猟師の視点で見れば、オラウータンこそが自分たちの生活を圧迫する邪魔者で、冒険者はそんな猟師達のためにここに来ている。
「罪は無き者とは存じますが……これも冒険者の務めでございますので」
 樹霊・シフィル(a64372)は軽く目を瞑り、己に言い聞かせるようにそう呟いた。
 一同が足を止め、辺りを見渡したその時だった。
「キキィ」
 ゆっくりと正面から、大きなオラウータンが近づいて来ている。
 トントンと足元は軽快にステップを踏んでいるが、よく見ると気づく。その上半身は全く上下していないことに。
 両拳を軽く握り、左拳を顔の前、右拳を顎の横に構え、軽快なフットワークで近づいてくる。
(「ふん、人間達から動物を守って守護者気取りなのだろうがな、こちらも猟師の生活が危ぶまれるのを黙って見ている訳にはいかんのだ……許せよ」)
 心の中でそう呟きながら、ピースメーカー・ナサローク(a58851)は、蒼空の神聖剣・マサミ(a59923)に鎧聖降臨の守りを施す。
「ありがとう」
 マサミは、迫るオラウータンの方を向いたまま、ナサロークにそう返すと、両腰に下げた二本の剣の柄に両手をかけ、オラウータンの動きに合わせ、僅かに立ち位置をずらした。
 同じ頃、リョウアンも自分が纏う迷彩柄の鎧に鎧聖降臨をかけ、守りを固めていた。
 隣では、ソルトムーンが利き手に持つブーメランに、ウェポン・オーバーロードを使い、鋭刃な外装を付与している。
 着々と戦闘準備を整える冒険者達に、怯える様子もなくオラウータンは静かに近づいてくる。
 ブーメランを持つソルトムーンにとって、既に敵は射程内なのだが、「圧倒的な回避力」という前情報に、安易な攻撃は躊躇われる。
 と、その時だった。
「シッ!」
 突如速度を上げた、オラウータンが恐るべき速さで突っ込んで突っ込んでくる。
「私が相手ですッ」
 その進路に身体をねじ込むようにして、リョウアンが立ちふさがる。
 神速を極めたオラウータンと、熟練の武道家。無手の両者が交錯した。

●疾風
「くっ……」
 予想はしていたことだが、リョウアンの拳は空を切った。だが、オラウータンからの反撃はなかった。少なくともリョウアンはこの時そう思った。
「逃しませんっ」
 素早いフットワークで自分の前から移動しようとする敵を、リョウアンは追いかける。
「リョウアンさん、大丈夫ですか?!」
 と、後方に控えていた、歓声を吸い込み立ち上がる・ソフィー(a64378)が、リョウアンを中心にヒーリングウェーブをかける。
「えっ?」
 この時、リョウアンは初めて、自分の右頬が熱く腫れていることに気づいたのだった。
 大した傷ではない。正直、癒す必要もないくらいのかすり傷だ。だが、問題はそんなことではない。
「放っていたのですか、カウンターを」
 リョウアンは呆然と息を吐いた。正直に言えば、全く見えなかった。
 その間に、フットワークで草原を丸く使いながら、オラウータンはこちらの出方をうかがっている。
「参ります!」
 追いかけるリョウアンとちょうど挟み込むようにして、ヨハンが神速の踏み込みから、白銀色の儀礼長剣を振るう。
「カウンターを放つ際にはステップは踏めまいて」
 半瞬遅れてソルトムーンが、ブーメランを投げつける。しかし、
「カッ……」
「む、これでも遅い、か」
 オラウータンは、ヨハンの達人の一撃をカウンターで返し、一瞬後に側面から襲ってきたソルトムーンのブーメランは、憎らしいほどの余裕を持って、バックステップで回避した。
 ヨハンの喰らったダメージは無いに等しいが、カウンターが見えなかった事に変わりない。
 しかもオラウータンはその隙に、素早いフットワークでヨハンの横を抜け、後衛に迫っている。
「当たるも八卦……でございますわ」
 後ろに下がりながらシフィルは、緑の束縛をオラウータンに仕掛けるが、現れた木の葉の腕は、対象に触れることなく、霧散した。
 僅かに速度を落としただけで、オラウータンはそのまま迫ってくる。
「ハッ」
 その動きを阻害するように、横合いからマサミが氷炎二振りの長剣を、交差させるように抜刀、斬撃を浴びせる。
「キッ!」
 マサミの居合い斬りは当然のようにカウンターで迎撃されるが、そのことを覚悟していたマサミは、奥歯をかみしめ、オラウータンのパンチに耐えた。
「……ジェットアタック……っぽい一撃……」
 半眼の眠そうな顔つきとは裏腹に、マサミの影から神速の踏み込みで接敵したランが、両手持ちの重斧を振り下ろす。
「あぐっ……」
 しかし、ランも結局顔面に強烈なカウンターを喰らってしまった。なまじ、重い攻撃を繰り出しただけ、ランが一番重傷だ。
「今、癒します!」
 負傷者が続出するのを見たソフィーが、ヒーリングウェーブをかける。まだあまり熟達しているとは言えないソフィーのヒーリングウェーブだったが、ラン以外のものはそれだけで、全快した。
 元々、カウンター対策に動きを止めるまでは軽い攻撃を主とするという方針が、功を奏した形だ。ただし……、
「キキッ!」
 神業じみたカウンターを披露したオラウータンは、挑発するように歯をむき出しにして、鳴き声をあげた。

●風を捕まえろ!
「連携しつつ攻撃のタイミングをずらせ! カウンターのために足が止まった所を狙うのだ!」
 軽いフットワークで近づくオラウータンと対峙しながら、ソルトムーンは裂帛の気迫を込めた声で指示を跳ばす。今の声は味方への指示と同時に、迫り来るオラウータンへの足止めもかねている。
 しかし、オラウータンはその紅蓮の咆哮の声すらも、素早いフットワークでかわしてしまう。
 そのままソルトムーンを射程に捉えたオラウータンは、閃光のようなストレートを放つ。
 別段オラウータンとて、カウンターしかできないわけではない。通常攻撃は、あるのだ。
「クッ……」
 全く避けられず、顔面を痛打されたソルトムーンは、一歩後ろにタタラを踏む。
 だが、攻撃のために足を止めたオラウータンを、ソルトムーンの言葉に従い冒険者達が、取り囲む。
「ハッ!」
 拳の届かない距離から放った、マサミのチェインシュート。鎖を付けて射出された二振りの長剣を、オラウータンはサイドステップで華麗にかわす。
 その隙に、ラン、リョウアン、ヨハンの三名が、両側面と背面、三方向からオラウータンを取り囲む。
 三方向からほぼ同時に繰り出される、重斧と、拳と、儀礼長剣。取り囲まれた体勢のまま、その僅かなスペースでフットワークとボディワークを巧みに使い分け、オラウータンはその全ての攻撃をかわしきる。
「グッ……」
 さらには、リョウアンの頬に一発カウンターを入れた。しかし、気のせいだろうか。
 オラウータンの表情は、先ほどまでと違いどこか余裕がないようにも見えた。
「よし、いくぞ」
 と、前衛の皆に鎧聖降臨をかけて回っていたナサロークも、黒炎覚醒を使い、自らも攻撃に加わる。
 突き付けた儀礼長剣の切っ先から、漆黒の炎蛇が飛び出し、オラウータンに襲いかかる。
「キキィ!」
 十分な余裕を持って避けるが、段々と苛立ちを募らせている。
「効果の程は、怪しゅうございますけど……」
 さらにシフィルが術手袋に包まれた手を振り、混乱に誘う蝶の群をけしかける。
 舞飛ぶ胡蝶の混乱効果は弱い。このオラウータンならば、無視してもかまわないレベルなのだが、苛立ちの高まっているせいか、大げさとも言えるフットワークで回避する。
 どれ程の素早く動けても、無駄な動きがあれば隙は生まれる。
 もう、誰の目にも明らかに余裕を失ってきたオラウータンに、冒険者達は集中攻撃を仕掛けた。
 続く戦闘に、冒険者達は段々と要領を掴んでくる。互いのタイミングや間合いを読み、反射的に行う攻撃が、オラウータンの行動の自由を着々と奪い取っていく。
 そしてついに、リョウアンがその氷炎纏う拳をオラウータンの顔面にたたき込むことに成功したのだった。
「よし、今ですッ!」
 キルドレッドブルーの魔炎、魔氷がオラウータンを一瞬にして氷で覆い、炎で包む。
「おおっ!」
「畳み掛けるぞ!」
 冒険者達は今までの当たらなかったうっぷんを晴らすように、全力の攻撃を凍てつくオラウータンに叩き付ける。
 回避力と違い、タフネスにはあまり恵まれていなかったオラウータンは、一連の総攻撃を受けると、グシャリと草原に崩れ落ちたのだった。

●強敵をたたえて
 オラウータンを草原に埋葬する。
 言い出したのは、ヨハンだったがその意見に首を横に振る者はいなかった。
 草原の土を掘り、遺体をいれ土を盛っただけでの簡単なものだ。
 盛り土の前で、冒険者達は各々のやり方で神妙にオラウータンの魂の安寧を願う。
「せめて魂は安らかならん事を……」
 ソルトムーンはそう言ってしばし、目を瞑った。
 草原の動物達の守護者であった、オラウータン。それは、草原の猟師達の取っては不倶戴天の敵であった。
「世界の全てを平等に守る力などないという事でしょうか……」
 そのことを思い出し、ヨハンはしんみりと呟く。
「貴様の骸は、森の滋養となてそこにすむ生き物達を養っていくのだよ」
 感情の乗らないナサロークの淡々と事実を述べるその言葉が、今はむしろ慰めの言葉として胸に響いた。


マスター:赤津詩乃 紹介ページ
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