シィルの誕生日3



<オープニング>


 ドリアッドの霊査士・シィル(a90170)がこのたび、霊査士になって3回目の誕生日を迎えることになった。
 そこで有志の冒険者たちは、どんなことをして祝おうかと相談していたのだが、なかなかいい案が思いつかない。
 結局、本人の一番したいことをさせてあげようということになった。

「んーと、そうですねえ。夜の歓楽街で大人の時間を過ごす……とか、いいかもしれませんね。私、そういう夜遊びみたいのを、あんまりしたことがなくて」
 シィルは無邪気な笑顔で言った。
 それならそれでいいと、冒険者たちの意見も一致する。
 大人なシィル。どんなものだろうか。
「ふふ、夜の世界のご教授、よろしくお願いしますね。何を着ていこうかなあ?」

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参加者
NPC:ドリアッドの霊査士・シィル(a90170)



<リプレイ>


 歓楽街が夜闇に包まれると、店からは淡い灯りとともに色香が漂ってくる。
 大人による大人のための時間と空間へ、シィルはドキドキしながらやってきた。
 大人の雰囲気なら艶やかな黒色の、胸元が開いたナイトドレスが良いですよ。事前にクーヤにそうアドバイスされた彼女は、普段よりも二割増しほど胸の谷間を見せるドレスにした。ただのおとなしいドリアッドだった彼女も霊査士になって3年、様々な人と触れ合うようになり、これが自分のアピールポイントなんだなと理解するようになっていた。
 待ち合わせ場所には、すでに参列者たちが並んでいた。
「こんばんわ、シィルさん」
「白い肌と相まって綺麗です〜♪」
 ノリスが帽子をとってお辞儀をし、青いドレスのクーヤがにこっと笑った。
「私が最後ですか。お待たせしてしまったようで」
「主役は最後に来るものだと思いますよ」
 セロが気の利いたことを言う。シィルとは初対面の彼だが、まずはインパクトを与えることができたようだ。
「これ、いい感じの店をいくつか調べておきましたから。シィルさんが行きたいところに行きましょう。それと……はい、プレゼントです」
 ニューラが赤丸のついた地図、そして木製のアクセサリーボックスを手渡した。蓋には泰山木の花が描かれている。植物好きのシィルにはまたとない贈り物だった。
「俺からも誕生日プレゼントだ」
 そう言ってヨウが正面から翡翠のネックレスをかける。ドリアッドにもっとも似合うその色が、美しいラインの首と肩を彩り、彼女をいっそう華やかに変身させた。
 シィルは笑顔で礼を言ってから地図に目を通す。チェックしてある店は、未成年でも酒を頼まなければ入れるらしい。
 まずは軽く飲めるクラブにしようということで決定した。


 そこは歓楽街の中でも有名で、夜の街の初心者にぴったりという触れ込みの店だった。誕生日パーティーだと告げると、黒服は一番広い席に案内してくれた。
 着席し、オーダーした酒が次々に運び込まれる。吟遊詩人がいるらしく、安らかなハープの音色が聞こえてくる。
 グラスが全員に行き渡ったところで、シィルが挨拶した。
「ええと、今夜はありがとうございます。こうして冒険者の方々に誕生日を祝っていただくのは3回目ですね。いつも感激して、今年はどんなだろうって……あは、こういうコメントを考えるのってちょっと苦手で。早く楽しんじゃいたいと思います。それでは」
 全員で大声を上げるようなことはせず、大人っぽく静かに……乾杯。
 手始めに開けられたのは、めでたい日に欠かせないシャンパンだ。
「さぁどうぞ。お誕生日おめでとうございます」
 隣のタクトがグラスにシャンパンを注ぐ。彼は未成年なのでサイダーである。それでも髪を赤い紐で留めて、背伸びをした格好をしている。もちろん釣り合うように、だ。
 シィルは一息に飲み干し、笑顔を振りまいた。
「お洒落なバーでしんみり酒を飲むのは大人の女の特権だからな」
 身長の違いはいかんともしがたいが、リューランもシィルと同じ大人。経験も豊富である。いろいろ。
「いっちょ一番高い酒を頼んでみるか? これが俺からのプレゼントってことでな」
 かくして運ばれてきたのは、大富豪の冒険者でないと頼めないような高級ウィスキー。琥珀を溶かしたような、輝かしくも大人の色合いを醸している。
「こいつはすごいな。どう飲ませるんだ」
 エンデミオンが試すように聞く。リューランが自信たっぷりに伝授した飲み方はウィスキートディ。ウィスキーにお湯を注ぎ、蜂蜜を加えたもの。芯から温まれる飲み方だ。ちなみにリューランはオン・ザ・ロックが一番好きらしい。
「ふわあ」
 ポーッとした顔になるシィル。頭の中がふわっと膨らむような、幸せに満ちた感覚が彼女に降ってきた。こんなの初めて、と艶っぽく呟いている。
「シィル、俺と踊っていただけますか?」
 腕を取ったのは、まさに紳士といったスーツでドレスアップしているルフィス。
 中央のダンススペースにふたりは立つ。どこからともなくアップテンポなギターがスタート。
 ルフィスがイリュージョンステップを刻み始めた。素晴らしく巧みな脚さばきに、周囲の客からも口笛が飛んだ。シィルもドレスの裾をふわりと翻して楽しく踊る。この日のために勉強してきたのだ。
 と、一瞬まばゆい光が溢れた。なんとスーパースポットライトだ。すっかりルフィスに引き寄せられたシィルは、抱き合うように密着した。音楽がメロウなものに変わり、ふたりは体を前後に揺らし始める。いわゆるチークダンスだ。
 演奏が終わると、惜しみない拍手が舞い込んだ。ああ、これが大人の踊りなんだとシィルは胸が熱くなった。


 しばらくしてから、一行は河岸を移した。
 今度はローザマリアの提案した、ダンスホールや賭場の入った複合施設である。街が見下ろせる高台の上に建っており、テラスに出ると、とてもいい眺めを満喫できた。
 月がまばゆく照って、いっそう大人のムードを作り上げている。
「素敵な施設ですね。大人のための遊び場という感じで」
「改めてハッピーバースディ。……大切に思う人の誕生日を祝えるのは嬉しいことですね」
 ルフィスがネックレスをかける。シンプルな銀色がよく似合っていた。
 ノリスが続いてやってくる。
「シィルさん、遅れたけどプレゼントを……」
 渡された小箱の中身は銀製の蛇の腕輪だ。青色のトルマリンで鱗を模し、瞳に澄んだ泉のようなアクアマリンを嵌め込んでいる。蛇には再生の意味があり、つまり永遠に若さを維持されることを願う……というメッセージなのだった。
「おふたりともありがとうございます。……さあ、みんなで遊びましょうか。ぜひ教えてくださいね」
 様々な遊戯が揃うこの店。まずはダーツに挑戦することに。
「肘はあまり動かしちゃダメ……そう、硬く投げずにリラックスして投げれば的に当てるのは難しくないわ」
 ローザマリアの指導を受けつつ、シィルは難しい顔でダーツを放る。的の一番外側に当たった。狙ったとしても結構難しい箇所であるがもちろんまぐれだ。隣のニューラはなかなかのセンスで、連続して高得点をものにしている。他のメンバーも似たようなもので、さすがに日々戦いに身を置いている人は集中力が違うなあとシィルは思った。
「カジノは上の階みたいだな」
 スパークリングウォーターを飲みながらノリスが言った。
 賭け事こそ大人の華である。彼らはいそいそと階段を上り、小規模ながらも立派なカジノが広がるフロアに立った。
「先に賭け事での注意を言っておきましょう。勝っても負けてもほどほどにすることです。どちらの場合も度を過ぎれば身を滅ぼしますので注意してください」
 この場での指導者はセロが買って出る。真に迫る言葉だった。
 シィルは頷き、まずはシンプルなルーレットに挑戦してみる。玩具のルーレットは遊んだことがあるが、こうした本格的なものは初めてだ。妙に興奮してきた。
 とりあえず適当に赤に賭けてみると……当たった。さすがに2分の1の確率だから当たりやすい。気をよくしたシィルは、徐々に配当を増やすように賭けていく。回転するホイールに目を奪われる彼女。しかしそうそう上手くいくものではなく、間もなくチップが当初の半分以下になってしまったので切り上げた。
 それから再起を懸けてカードゲームやダイスなど、様々なゲームに挑戦してみる。しかしビギナーズラックとはいかず、最後の方はひそかにセロがイカサマをしてシィルを助けていたり。
「あは、賭け事の才能はないみたいですね、私」
「こっちおいでよシィル。飲み直そう。愚痴があったら聞くよ?」
 テーブルの一角に誘うアヤメ。持参のカーネル土産の酒を出している。ここは飲食物の持ち込みが可能なのだ。
 シィルは珍しい味の酒に舌鼓を打ちながら、あれこれと語った。しかし愚痴はまるで聞かれない。のんびり屋の彼女にたいした悩みはないようだった。アヤメにはその性格がうらやましくもあった。
「涼しげなカクテルを彼女にお願いします〜」
 ここでクーヤもやってくる。ぴったりと密着して。
「時には狙われやすいそのお胸、だけど武器には変わりなし! さりげなく強調したりして、わざと酔った振りをするのも女性の嗜みですよ〜。ちょっと私相手に練習してみてください♪」
 そうですかあ、と言われるままに寄りかかる。もみゅもみゅするものが当たってニンマリする百合っ子エルフ。自分が楽しみたいだけじゃんとリューランが突っ込んだ。
 そこへちょうどよく男たちと飲んでいたヨウが参上してくる。
「良かったら、ダンスのお相手を願えませんか? お嬢様」
 シィルは快く応じ、席を立つ。
 踊るのはゆったりとしたワルツ。手を重ね合わせ、フロアの中央でふたりは静かな波のように揺れ動いた。
 一瞬のような時間が過ぎ、無事に踊り終える。シィルは無邪気に笑った。酔ってしなだれかかったりは、踊りについていくので精一杯で結局できなかった。
「誕生日おめでとう、シィル」
 チュ、と。頬に口づけをされる。しばし硬直してしまう彼女。
 心臓がトクンと跳ねた。

 それから、ローザマリアがテラスのレストランで頼んでいたケーキを出してもらった。何か忘れていたなあと思っていたケーキを目の前にして、ワクワクがさらに昂ぶる。
 ケーキを食べ終えたが、興奮は収まらない。一年一度の誕生日、まだまだ飲んで遊びたいとシィルは言った。
 その要望に応えたのはエンデミオンだった。
 一行は歓楽街の外れの、少し小さな店に入った。柔らかく、暖かい空気。
「他に連れて行けそうなとこなかったんでな。いい雰囲気と、いい酒と、婦人の演奏が売りの店だ。ああどうもご主人、実はな――」
 そうして、誕生日パーティーだと知った店の者も親身になって接してくれた。
 店の質は大きさで決まるんじゃない。さっきのような派手さはないけれど、皆、心行くまで幸せな時間を楽しむことができた。


 日付が変わる頃。
 店灯りがだんだんと少なくなり、パーティーもゆっくりと閉幕された。
 外に出て、火照った体を夜気に晒す。ああ、夜というのはこんなにも気持ちいいことだったか……。
 今日はありがとうございました。そう挨拶すると、みんな極上の笑顔を返してくれた。自分は本当にいい仲間に恵まれている。この誕生日という日は、そのことを一年で一番強く教えてくれる。
「それじゃ。あ、今度また海行けたらいいわね。新しい水着とか買ってね、みんなで泳ぎに行きましょう」
「はい、アヤメさん。ぜひ」
「シィル、遅れてしまったけどこれを」
 セロが渡したのはおさかなクッキー。とても可愛く、しばらくは食べないで飾っておこうかと思った。
 めいめい散っていく中で、タクトが家まで送りましょうかと申し出る。かなり酔っているし、女ひとりの帰り道は危ないだろうし、お言葉に甘えることにした。
 何事もなく家に帰ると、タクトは自分の髪を留めていたリボンで結んだ白薔薇の花束をテーブルに置いた。素敵ですねと呟くシィル。
「おやすみ、シィル」
 そう言って退出するタクト。直後、彼はものすごく恥ずかしくなった。

 今夜の中には、仲間という以上の好意を寄せてくれているらしい男性が含まれていることに、のんびり屋のシィルも気づいた。
「素敵な殿方が多くて困っちゃいますね」
 酔いとは別の理由で、彼女の頬に紅が差している。


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作成日:2007/07/07
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