【Dark Card】7、The Chariot



<オープニング>


●一節
 ん? 何だい? デリー・ホーキンス。
 話が聞きたい?
 いいよ、じゃあ話をしよう。
 そうだな、今日は――ああ、アレがいい。
 愚直な妄信、それは猛進。
 時には、意思ある全てを上回るってね?

                      ――――放蕩奇術師物語、二百十三ページより

●討伐依頼
「つー訳でー」
「どーゆー訳だ」
 ホントになー。
「お仕事っす」
「ああ」
「毎度の事ですが、モンスターが現れました」
 ピーカン霊査士・フィオナ(a90255)は言う。
「残虐で、攻撃的なヤツっす。
 その能力を、『猛進』に特化した文字通りの化け物。力勝負はノーサンキューっすね」
 彼女は、肩を竦めて続ける。
「力こそパワー大いに結構。
 ンですが、冒険者の技と知性、存分に見せてやるといいのですよ?」

マスターからのコメントを見る

参加者
アルカナの・ラピス(a00025)
獅天咆哮・デューク(a10704)
赫焉・ラズリ(a11494)
幻槍・ラティクス(a14873)
蒼月・ハーウェル(a18412)
無影・ユーリグ(a20068)
空ノ蒼色・イオ(a21905)
有限と無限のゼロ・マカーブル(a29450)
錦上添花・セロ(a30360)
悪鬼羅刹・テンユウ(a32534)
漆黒の雷閃・クオン(a35717)
刻紋史書・ウィンスノゥ(a43983)


<リプレイ>

●猛りし破壊のDark Card
「久方ぶり、でしょうか……闇のカード。その眷属よ」
 葬醒・ハーウェル(a18412)の双眸は虚空を貫き、その敵を捉えていた。
 悪鬼と対峙せしは、彼女以下十二人。任務を受けし冒険者達。
 強い風に吹き付けられて、もうもうと粉塵が舞う。
「猪突猛進が身上の破壊者、敵でも味方でも厄介なタイプですね」
「こりゃ、確かに。暴走されたら手に負えなさそうだなぁ」
 無影・ユーリグ(a20068)、幻槍・ラティクス(a14873)は、変わり果てた周囲の光景にある種感嘆にも似た溜息を吐いていた。
 果たして、現場の村は、聞きしに勝る勢いで無茶苦茶に破壊されていた。
 崩し倒された漆喰の壁、砕け散った煉瓦。夥しいまでの瓦礫の中にソレは居る。
 ヒトなる身のそれよりも、軽く二周りは大きい隆々とした上半身。その巨躯を包み込む甲冑、三メートルにも及ぼうかという長大なランスは、一体何キロあるのだろうか?
「相も変わらず、面妖な……不気味な連中じゃ。こうも次々現れては、いっそ創造主でも邪推したくはなるがのう」
 アルカナの・ラピス(a00025)の軽口が、少し乾いている。
「この手の相手は厄介なのだよなぁ……元々私は力押しをするスタイルではないし」
 黄昏の賢者・デューク(a10704)は、同じくやれやれと顎鬚を扱いていた。
「これも因果」
 彼は、進んで死地に身を置きたがる。言葉こそ、辟易を感じさせぬでもない内容なのだが、美髭の口元は僅かに笑んでいた。実に、彼らしい。
「今度は『戦車』か」
 有限と無限のゼロ・マカーブル(a29450)の視線は、『騎士』の下半分を向いていた。鉄騎の下半身は、彼の言う通り『戦車』を思わせる形状をしていた。隆々とした上半身を歪に支えるのは、対になった鉄の大型車輪。モンスターの形状は、この場合、素直だった。
 それは、Dark Cardなる悪辣の存在、此度がその七番を示す何よりの証明だ。
「力押しでは解決しない事もある事を、教えてやらねばな」
「ええ」
 マカーブルの言葉に頷いたのは、風紋雪華・ウィンスノゥ(a43983)だった。
「戦争はパワーだけじゃ 勝てないものですし。非力なればこそ、のやり様を差し上げましょう」
 パーティは、色濃く匂う威圧感に負けては居ない。凡百の人物ならば、瞬く間にも戦意を喪失してしまうであろう強敵を前にも、決して意志を鈍らせる事は無い。
「暴力って意味での力ならそれなりに無くは無いが……
 力だけあった所で、路傍の石一つも乗り越えられない事もある。そんな事を言っている俺も大差ないが」
 黒外套をはためかせ、悪鬼羅刹・テンユウ(a32534)が呟き、
「さって、勝負!」
 大振りの無骨な刀をぴたりと構えた空ノ蒼色・イオ(a21905)が、一つ気合を入れ直す。

 おおおおおおおお……!

 戦車より、低く獣のような唸り声が響いてくる。
 腹の底を震わせるかのような重低音は、ビリビリと空気を揺すり、否が応無しに辺りの緊張感を高めていく。十数メートルの距離を置いて対峙する両雄は、まさに対決の時を望んでいた。
 殺気が、走る。戦車の『足下』で、ガリガリと地面が削れるような音が立ち。その巨体が、爆発的な膂力に満ちていく。
 呼応するかのように、パーティは陣形を整える。圧倒的な単純暴力に相対せんとせし、その半円形を。

 どんっ――!

「戦車……汝が往く道はこれまでじゃ! これ以上、命奪う事叶わぬと知れ。観念せい!」
 弾けた爆音を迎撃するには、ラピスの裂帛の気合。その手の竜眼剣が、天高い陽光を跳ね返す。
 華々しい号砲も何も無く。無骨な日中の死闘が幕を開けようとしていた――

●無敵要塞
 出鼻を挫く一撃までもが、届かない。
「コレでも喰らいなっ――って……!」
 イオの、最強最速の居合い抜きが、青白い火花を立て長大なランスに弾かれた。
「慣れない小細工は、するものではないな」
 テンユウは、苦笑い。
 遮蔽物、瓦礫の多い戦場を選んだテンユウ、ウィンスノゥの考えを嘲笑うかの如く戦車の膂力は圧倒的であった。彼は、留まる事を知らない。目の前に壁があろうと、瓦礫があろうと、敵があろうと、越えられぬ者等無いとばかりに――暴れ回るばかりだった。
 相対するパーティの陣形は、前述の通り、敵を前に半円を描いていた。それは、大まかに分けて三列の形を取っている。前列には、赫焉・ラズリ(a11494)、ラティクス、イオ、マカーブル、錦上添花・セロ(a30360)ら、耐久に優れた攻撃役を置き、中列には、ラピス、ハーウェル、テンユウら、頑健な肉体を持つ回復役を置いていた。彼等は、回復、補助と共に三列目――デューク、ユーリグ、ウィンスノゥら術士陣が十全な役目を果たせるように、パーティの戦列を支える役目をも担う事となっていた。
 これら三列に、遊撃的に敵を撃つ『四列目』――漆黒の雷閃・クオン(a35717)を加えたのが、此度のパーティの戦列だった。
 流石に、歴戦の冒険者の判断は、的確にして素早い。
 圧倒的な暴虐に、正直に相対するは愚の骨頂。素早さに勝るパーティは、それを生かし、ラピス、ラズリ、ハーウェル、セロらの分担した動作で攻撃の被害に先んじて鎧聖の付与を配る事に成功していた。
 とは言え、戦車はやはり戦車。戦いは、緒戦より壮絶な様相を呈していた。
 如何に防御を固めたとて、彼我の威力差は、余りにも甚大過ぎた。歴戦の冒険者だからこそ、一太刀交わせばそれが分かるのだ。
 車輪が、激しく地面を削る。前傾に、射出されたかのような戦車が向かってくる。
「く――!」

 ――っんっ――!

 鋼を噛み合せる事すら叶わず、ラティクス、その後ろのハーウェルまでもが吹き飛ばされる。
 その突撃は、まさに暴風のよう。パーティの陣形の内に踏み込んだ戦車は、周囲に群がる敵共を悠然とねめつけていた。
 ランスを振るう豪腕の前に、冒険者は脆弱で。
 鉄の要塞が如き、巨人は……渾身の攻撃にも容易に傷付いていない。

 おおおおおおおお……!

 猛る戦車のランスがぐるりと回る。
 しかし、これを押し留めたのは――一人遊撃の位置より的確な攻撃を行うクオンだった。
「猪突猛進、単純な敵だ。単純であるからこそ、その威力は大したモノなのだろうな?
 しかし、俺との相性としては悪くない」
 ウェポンオーバーロードを以って威力を増した彼の弓は、鉄壁の装甲に逆棘の矢を潜り込ませていた。
「愚直な猛進、時には、意思ある全てを上回る……な」
 ラズリは、この隙を見逃さない。
「言いたいこたーわからなくもないけども。だからったって負けてやるつもりはないな、っと――」
 鍛え上げられた技量より放たれた鋭い足刀が、甲冑を斜めに叩く。
「怒り猛り、突進するばかり。理性のない闘志の行き着く場所は――逆位置が示す通りの唐突な終焉。
 殺戮の連鎖に意味なんて認めません……だから、行きます!」
 セロが、続く。ラズリの作った間隙を突くかのように、鋭いステップから幻影の一撃を繰り出した。
 連携は、速い。一呼吸で繰り出された連続攻撃は、戦車の猛威を縫い止めた。
「……助かった……!」
 勇気ある彼等の戦いのその間に、ラティクス、ハーウェルが態勢を取り戻す。その身を地面に強かに打ちつけた二人は、小さくないダメージを負っていたが、
「妾に任せよ」
「まだ倒れるには早いだろう?」
 これを、即座にラピス、マカーブルらがフォローする。
 耐久力に優れた回復手を前後列問わず複数置いた事は、ここまでの戦いで奏功していた。二列目に『壁』を配置した陣形は、まだ戦車の猛威を三列目には届かせていない。
 はっきりとした反撃の機会に、パーティの意気が上がる。
「これで、どうかね?」
 黒炎を指先に集めたデュークが、異形の炎を繰り出した。
「お返しだ。その身に刻め……疾れ、風刃!」
 呼吸を整えたラティクスが、見えぬ刃で敵を衝く。
「殺戮者――断罪の業火にて、その身を焦がし朽ちなさい」
 更には、ハーウェルが、紋章術の炎を導き出し、
「おまけだ! 黒き炎も食らっとけ!」
「これも――ついでに、どうぞ」
 連撃に叩かれ、業火に包まれた戦車に、ユーリグ、ウィンスノゥの黒炎が次々と炸裂する。
 パーティの一連の動きは、完璧に近かった。事前に想定した連携のその通りに連続攻撃を決めた彼等は、確かな手応えを感じていた。

 ……それなのに。

「成る程、これはたまりませんね……」
 攻撃の姿勢のまま、ウィンスノゥは乾いた声を上げていた。
 黒い炎に塗れる強大なる戦車は、大して効いた様子も無く、纏わり付く炎を打ち払っていた。

●バランス
「……甲冑纏いて敵薙ぎ払うは、本来民の守護にその身を賭す騎士の姿……
 ですが、無辜の民に死を振りまく貴方を、決して騎士とは思えない。貴様は、貴様は、唯の――」
 ハーウェルの業火が、今一度目前を朱に染める。
「――ッ――!?」
 直後の悲鳴は、誰のモノだったか。
 烈火を切り裂いて、巨影のランスが躍り狂う。周囲全体を巻き込むその一撃は、重く強烈だった。首を刈り取らんとする姿、それはまさに風車の如く。
「……ち……!」
 マカーブルは、直撃すんででこれを受け止め、膝を突く。
 防御姿勢を取っても殺し切れないその威力は、今度こそパーティの陣形をズタズタに切り裂いていた。耐久に劣るウィンスノゥが、吹き飛ばされ、後衛を庇ったハーウェルが壁に強かに打ち付けられた。
 ……ここまで、パーティは実に素晴らしい健闘を見せていた。当てた手数は圧倒的にパーティに分があり、効果的に攻めたのもパーティであると言える。その理由は、この敵にはバランスと言うモノが存在しなかったからだ。単調な突撃に、小回りの利かない巨躯。ユーリグの敵考察、後衛より回避を指示したウィンスノゥの活躍もあり、パーティは、完封ペースで仕事を進めていた筈だったのだが。
 まさに、鉄の要塞と化した戦車は、不利を力技で押し戻していた。バランスと引き換えに手に入れた敵の力は、余りにも単純すぎるパワー、それそのもの。同盟精鋭の冒険者の攻撃が効かぬ筈は無い。確かに効いてはいるのだが……鎧聖の付与を遥か上回る防御を得た戦車は、見事な耐久を見せていた。
 この、逆転の瞬間を目指していたかのように。
 戦いのモメンタリーは完全に逆転し、パーティは急転窮地へと追い込まれていく。

 ――がっ……!

 鈍い音が響く。
「ここは……抜かせぬっ!」
 辛うじて踏み止まっていたラピスの額より、一筋の血が流れ落ちる。
「此度の戦い、元より我慢比べじゃよ!」
「同感だ。俺達は――その為に、ここに居る」
 テンユウも、同じく。敢えて二列目に配された二人は、この苦境に正面から立ち向かう。
 薙ぎ倒された前中列の仲間は、まだ動き難い。辛うじて、受け流しに成功したセロ、イオ、独特のステップと武器捌きで直撃を避けたラティクスは立っていたが、消耗が無い訳では無い。
「……く……!」
 後衛陣で唯一無事だったデュークが、回復の力を紡ぐが……足りない。
(「来た……!」)
 戦車は、ここを勝負と見たか――爆発的なその膂力を内側へと溜め込もうとしていたが……それは、テンユウが待っていた瞬間でもあった。
「チャージなど、させるかよっ!」
 今一度、流れを変えんと……テンユウは動く。
 狙いは、敵が大車輪。戦車の生命線にして、唯一と呼んで差し支えない形状的弱点。
 分の悪い部位狙い、その賭けは……この時、見事に奏功した。

 おおおおおおお……!

 巨体が傾ぐ。チャージより放たれようとした愚直な猛進が、一手遅れた。
「貫け、雷!」
 万全の攻撃手を配した事は、作戦的な成功。
 あくまで、常に万全の攻撃を続けていたクオンの雷光が、間合いを灼き。
「勇者を癒せ戦乙女!」
「一気に、行くのじゃ――」
 ユーリグ、ラピスの賦活に力を取り戻したハーウェルが、反撃の炎を放つ。
「――こういうやり方だって、ありだろ?」
 左右に軽いステップを踏んだラズリが、側面に回り込み死角から一撃を叩き込む。
 幾度の攻撃に耐え抜いた戦車も、これには、ハッキリとした苦鳴を示しつつあった。パーティは、絶好機に手を休める愚かを犯さない。
「……愚直なお前には搦め手が効くだろ?」
 片膝を突き、呼吸を乱しながらもラティクスは不敵に笑った。
 このDark Cardへの皮肉としては丁度いい。不吉を意味するカードが、巨体の胸部を黒く染めていた。戦車は、ダメージに猛り狂い頭を振る……
「ふっ!」
「アンタに負けるよーな私じゃなぁぁい!」
「……動くなよ。あまり得意じゃないんだ」
 ……そんな戦車に襲い掛かるのは、セロの見えぬ刃、イオの鮮やかな打ち込み、マカーブルの炎。
「……言ったでしょう?」
 深手に伏せたまま、巨大な的に黒い鎖を絡めたウィンスノゥは、言った。
「パワーだけじゃ、勝てないって」
 連続攻撃は、完全に戦車の時間を奪い去っていた。怒涛のように突き刺さる攻撃の数々に、難攻不落が陥落したのは、二十秒後の事だった。

●勝利
 かくして、戦いの幕は閉じた。
 パーティは、何れも小さくない傷を負っていたが、命に危険のある者は居なかった。
「……お疲れさま。さ、帰りましょーか」
 灰と化した戦車を、弔ってみせたイオが汗を拭く。
「或いは……甲冑を脱いでいたら。我々はその速度に追いつけなかったかも知れんがな」
 デュークが、ふと呟いた。
 モンスターの場合、甲冑を着ていたのか、甲冑そのものが身体だったのかは知れ無いが。確かに、今回の相手は、そんな冗談が笑えないような膂力であった。
「……ここまで蹂躙されると無力感さえ感じますね」
 ユーリグは、呟く。
 モンスター被害に対して、冒険者が取り得る対抗手段は、殆どが事後対処だ。そこには確かな口惜しさはある。今回で言えば、『ああいう相手』だったからこそ、村の損害は、どうしようもなく致命的。しかし、『ああいう相手』だったからこそ、無事な村人は居る。
「だけど、人間は結構逞しい。この結果が、良いモノであったと。そう私は信じています」
 セロは、その言葉に無言で頷き、空を見上げた。
 青空は高く、雲一つ無い。晴れやかな空に、何時か来る平和を見たと言ったらば。少し、言い過ぎなのかも知れないけれど――。


マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:12人
作成日:2007/06/28
得票数:戦闘18 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。