星祭り・酔芙蓉の恋



<オープニング>


●恋の伝説
 それは遥か昔の出来事だった。
 とある夏の晩、ひとりの旅人が『碧き渚ミティブル』を訪れる。
 彼はたいそう美しい若者だった。夏の初めには渚に暮らす青き髪の乙女と恋に落ち、夏の半ばには永久の愛を誓い合ったと言うのに、夏の終わりを待たずに若者は再び旅立った。
 彼らの間に何が起きたのか、彼らの他に知る者は居ない。
 ただ乙女は、朝、波際の崖に立ち、夜、星の瞬くまでひたすらに海原を見詰め続け年月を経た。
 まるで待ち人は海から来たるのだと言わんばかりに、乙女は『碧き渚ミティブル』で待ち続けた。
 やがて、その夏が来て――

 乙女は、『碧き渚ミティブル』から姿を消した。
 そしていつの日にか、渚は美しい芙蓉の花で満ち溢れる。
 芙蓉は柔らかい花弁を広げた、清らかな気品を持つ花だ。
 朝に咲いた花も夜には萎んでしまうその芙蓉は、儚い恋を思わせた。
 純白の華が時の流れと共に紅を差し、夕陽が沈む頃には朱に染められる酔芙蓉。
 艶めいた香りと幻想的な渚の気配は現在も尚、夏の名所として恋人たちに好まれている。

●夏の記念
「……悲恋の名所では無いか」
 何故恋人たちに好まれねばならん、と毀れる紅涙・ティアレス(a90167)は眉を潜めた。
「解釈の違いかと思いますわ。この伝説は悲恋では無いのですもの」
 幸福を齎す女・ベアトリーチェ(a90357)は柔らかく微笑んで彼に答える。
 曰く、渚を訪れた青年は永く留まることの出来ぬ身――星空へと還らねばならぬ存在だったのではないか。そして約束を果たしにその夏、乙女を迎えに渚へ戻り、今は乙女と共に綺羅星の合間で幸せに過ごしているのではないか。
「そう願われる方も多いのではないかしら。……わたくしも、そう信じております」
「成る程。で、何故にエテルノが出向く気になったか聞いても良いか」
 話を振られた馥郁たる翠楼・エテルノ(a90356)は、満面の笑みを二人に向けた。
「折角の夏の夜、恋人同士思い出を作る方々も多いのでしょう。であれば、記念品を手にする機会のひとつやふたつ用意せねば、と……」
 内なる声が囁いたらしい。
「波の打ち寄せる夜の渚で肩を寄せ合い過ごす、と言うのも良いものかと思います。是非、浴衣姿でいらしてくださいね」
「我は私服で行くが!」
「来なくて良いですよ」
 笑顔のまま突き放されてティアレスは膝を抱えた。
「記念品ですが、珊瑚と真珠を合わせ、酔芙蓉を模したアクセサリなどいかがでしょう。その白い砂浜には主に恋人同士である御二人を対象にした、可愛らしい夜店が多く並んでいるそうですよ」
 品々の中には、まだ見ぬ恋人と巡り合えるよう祈りを篭めたお守り、と言うものもあるらしい。
 エテルノは冒険者たちを見回し、にっこりと微笑んだ。
「若しも気が向かれましたら、ご一緒させてください」

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参加者
NPC:馥郁たる翠楼・エテルノ(a90356)



<リプレイ>

●碧き渚ミティブル
 薄い雲が風に流れる蒼穹の空、波の音に紛れて揺れる白砂の渚に祭りの時が訪れた。
 日暮れ頃になれば沖を泳ぐ子供らは姿を消し、ミティブルは恋人たちの渚へとその趣を変えるのだろう。打ち寄せる白波に素足を晒して、カナタは彼岸の華が描かれた浴衣の裾を翻す。恋の蕾の有無を内に探って、浴衣姿の馥郁たる翠楼・エテルノ(a90356)を振り返った。
「ほら。普段と違う服装って、何倍も特別に見えるんですよ」
 眩しげに陽光へ手を翳していた彼は、君が期待してくれたから誂えてみたのですよ、と彼女へ向けて微笑み返す。濃い錆浅葱の地に淡い千草色の絣を入れた浴衣をゆったりと肌蹴て、墨色の帯は腰よりやや低い位置できっちりと留めていた。
「……純白の華が、こうも心を揺さ振るのは何故でしょうね」
 未だ白い酔芙蓉から目を逸らし、この景色もまた忘れられそうに無い、とサフィアルスは物憂げに呟く。エテルノは僅かに眉を持ち上げて、深緑の袖に隠された彼女の手首を幾らか強引に掴んで引き寄せ、手を重ねるように己の胸へ触れさせた。瞳を細めて彼女の顔を覗き込み、密やかに囁く。
「今は私が此処に居るのに、如何して寂しそうな顔をなさるのですか」
 更紗の紐で緩く纏められた翠の髪を爽やかな夏風が揺らし、季節にそぐわぬ白梅の香りが柔らかに散った。蒼い袖口を軽く持って、自分の姿を心配そうに見遣りながら、フィーネは困惑混じりに彼を呼ぶ。慣れない浴衣は落ち着かないと眉を寄せるも、良く御似合いですと普段通りに微笑まれて少しばかり安堵した。欲しい装飾品を尋ねられて思考するエテルノに、同じものが欲しいと笑って見せる。
「オレの想いを酌んで、オレにも何か見繕ってくれッ!」
 了承と共に露店へ向かう彼らの前に、メローは砂を踏み締め立ち塞がった。
「(オレ、エテルノにメロメロみたいじゃないか……? でも、星凛祭では会えなかったし……)」
 金魚柄の浴衣で攻勢に出つつも思わず自問したところ、極々自然に額へ口付けを落とされた。エテルノはにっこり微笑んで、そんなに拗ねないでくださいね、と柔らかな声音で宥める。
「お望みとあらば、他の場所にもキスしてあげますから」
 何とも仲良しな様子を見ていると、此方まで幸せな気持ちになれた。リディアは笑みを浮かべると、露店で髪飾りを買いたいのだが選んではくれないかとエテルノへ声を掛ける。紫陽花を咲かせた浴衣を着て、弾むような足取りで遊歩道を進みつつ、ルキは渚の伝説を話題に出した。白花の咲く薄桃色の袖を持ち上げ、フィーが答える。
「芙蓉の花は夕方、朱色に染まるんでしょ? それって、お空の色と似てるもの」
 この花は夜空に還り、星になるのでは無いか。
 伝説の恋人たちは、きっと、ずっと一緒なのだ。
「うん」
 ルキは頷くと彼女と手を繋ぎ、その感性がとても好きだと微笑んだ。いつも自分を抑えるその優しさに、感謝の気持ちと願いの形で報いたい。待つのは本当に辛いものなのだ。心に残る過去と重ねて、赴きたいと願ったのに果たされず留まる自身が痛い。ユーリィカは小さな溜息を吐いた。思い返さざるを得ないのは、偲ばせる品を皆が身に付けているからか。黒髪を横に纏め、藤立涌の文様が美しい巾着を手にオリエは昼の芙蓉を眺めていた。平和な世界であれば飽かず見詰め続けるだろう世界の優しさに身を浸す。
 ティアレスは特に何も言わず彼女らの言葉を聞いた。汗こそ流すことは無いが、真夏の海を前に彼の表情は渋いままだ。ユーティスが構わずに飄々と語り掛けると、話題が矜持に至った頃に彼は僅かに目を見開いた。何の為にも貴様が自分を貶める必要はあるまい、と薄い笑みを浮かべて答える。
「あの方を一番幸せに出来るのは私ですから」
 会話の途切れ目にエルサイドが発した不意の宣言で、ティアレスは表情を一変させた。真夏の昼下がりだと言うのに蒼褪めた顔を背け、無言のままに彼から離れる。隠し切れずに零れるほど行動に滲ませた彼の腕を、半ば強引に取って「ほら、行くぞ!」とドリアッドのレインが声を掛けた。立ち並んだ露店を目指し、可愛らしい浴衣の娘らが集まる様に心弾ませる。
 祭りの喧騒は独特だ。存分に楽しまなければならない。

●砂浜の露天
「大変良く御似合いです。貴女は素晴らしい審美眼をお持ちだ」
 小さな真珠と珊瑚が互い違いに連なる首飾りを掲げ、どうだろうか、と尋ねたアマネにエテルノは答えた。彼女はからりとした笑みを湛え、空が被って綺麗だ、と長身の彼を見上げる。夏空は緩やかに色を変え始めていた。からころと下駄が音を立てる。
 髪を涼しげなお団子に纏めたアリアは、恋のお守りを選んではくれないかと彼に声を掛けた。自分自身が魅力的にならない意味が無いとも思う、と呟けばエテルノは「君は既にとても魅力的ですよ」と返す。そんな彼女の様子を見遣り、やれやれ、とルビナスはお守りを物色しながら息を吐いた。今日の彼女は特に元気が良い。
 ジーフグリスは生真面目な顔をして、片想いの女性に贈り物としたいのだとエテルノに相談を持ち掛ける。相手の情報が無い状況で良い助言は出来ませんよ、と言いながらも露店に向かうエテルノへ彼は続けて問い掛けた。
「主は相当もてるらしいが……。想いを寄せる人は、居るのか……?」
 それは知りませんでした、とエテルノは驚いたように目を瞬く。
「ですが、勿論居ますよ。20人くらい」
 如何にも親しげに手を繋いだ2人も、そんな彼に助力を求めた。青い小花を散らした白いサマードレス姿のニノンは、仲良しのお友達と恋のお話をしながらお祭りを楽しみに来たのなぁ〜ん、と説明しながら揃いの品を選んでは貰えまいかと話し掛ける。過去は根深いけれど、彼女との絆は永遠に揺るがないとユズリアは信じていた。誰よりも自分の弱さを知っている彼女が、大好きだと自分の側で笑ってくれることが本当に嬉しい。救われているんだ、と照れたように笑みを浮かべる。
 彼女らの横を通り抜けていくラスカの着ている甚平は、カリュンによって縫われたものだ。彼の服装を見遣りながら、彼女は気恥ずかしそうに目を伏せる。人混みに紛れないよう、慣れない下駄で足を痛めないよう、彼に手を取られながら進み、夜店の楽しさに目を輝かせた。久々に2人きりで遠出して、本当に良かったと思う。
 銀色の月を描く清楚な浴衣姿の恋人を見て、レナートは嬉しそうに目を細めた。本格的なデートは今回が初めてだ。手を繋ぎたいとセイカが強請れば、彼は笑んで腕を組んでくれても構わないと答えた。可愛らしい春色をした珊瑚や、月にも見紛う美しい真珠たちの並べられた露店の合間を擦り抜けて、2人はこっそりと互いの為に土産を選ぶ。
「婚約指輪みたい、ですわよね?」
 お互いが選んだ指輪を贈り合える幸せを噛み締めながらリタは顔を朱に染め、ダンドリオもまた照れたように頬を掻いた。多くの出会いは刹那に終わる。想い続けた優しい恋は羨ましくも思うから、その奇跡に肖りたいとも思うのだ。
「あ。これ、重なるんやね。素敵やなぁ……!」
 酔芙蓉を模るアクセサリを見詰め、ほう、とツバメは息を洩らしてセレの袖を引く。きらきらと光る可愛らしい装飾品の数々に、宝物が並んでいるような錯覚を覚えて彼もまた笑みを深めた。何処か無邪気な彼の横顔を見、ツバメは小さく想いを馳せる。
 碧き渚ミティブルに伝わる伝承は少しだけ物悲しい。
 信じたいのは、いつか自分が置いていってしまうから。
「でも……」
 星の世界に還ったとしても、きっと迎えに来る。
 東の空は優しい紫に染まり、昼と夜との境目に至った。

●夕暮れの海
 紅い珊瑚ならば見たこともあるが、様々な種類の品が見たいとノリスは白珊瑚を探して店々を渡り歩く。精巧な品があるたび足を留め、店の主と言葉を交わした。人混みの中にティアレスを見つけ、グレゴリーは声を掛ける。想う女性に贈り物を探しに来たのだが、と助力を求めると彼は眉を寄せた。
「想いを篭める品を、我が選んで如何する」
 縛りになるまいかと頭を掻く彼に、相手次第だ、と自分には知り得ないことをティアレスは答える。彼も随分と柔らかくなったものだ、とエルフのレインは瞳を細めた。純白から朱へと移り変わる酔芙蓉のように、人の心もまた変化と共にあるのだろう。菖蒲柄の浴衣を着、扇子を片手に混みあった露店の並びを抜ける。
「此処は綺麗だけれど、その女性は旅に出たのかも知れませんね。……なんて」
 少し重ね過ぎか、とロスクヴァは目を伏せた。
「いつか、飛び切りの大人の女性になった頃、一緒に遊んでくださいね」
 微笑む彼女にティアレスは、今時分でも充分に似合うさ、と浅い息を吐きながら答える。
「心に留まり続けるならば、余程良い男だったに違いあるまい。己の目には自信を持て」
 桜柄の浴衣を選んだアリシアは、背伸びをしながら空を見上げた。結い上げた黒髪が首筋を撫で、不意に物悲しさが胸を満たす。星が瞬き始める時の訪れに合わせ、夜の潮風が金の刺繍が施された紅色のリボンをはたはたと揺らした。今はただ失うことばかり怖い。願いを抱くには未だ、落ちた涙が乾き切らない。
「僕はまだまだ弱いけど、絶対に……守るよ」
 ただ彼女の笑顔を願って、ショーティは誓いを口にした。悲しそうな顔は見たくない。証を立てるなら、芙蓉の花飾りが良い。ベアトリーチェは優しく微笑み、静かに彼の手を取った。
 紺の浴衣を纏ったシーナは白さを残す花を捧ぐ。添えられた言葉に、わたくしは酔芙蓉のように移り気かしら、と王女は小鳥のような仕草で肩を揺すり笑みを零した。その彼に、ソフィアが声を掛ける。黒髪を流れるままに落とし、漆黒の瞳を真っ直ぐに向けて、伝えたい思いを口にしようとした。打ち寄せる波が弾け、渚の音ばかりが世界を深く包んで行く。
 漣に耳を傾けながら繋いだ手の先を見、はにかむようにシュレイナは笑んだ。ふんわり心が休まるような暖かさを感じ、星凛祭に出会ったばかりだと言うのに自分の憧れを叶えてくれようとしている彼を見遣る。落ち着きなく視線を彷徨わせながら、青い髪に手を伸ばしてくる彼女を見返し、ロディウムもまた、本当に可愛らしい人だと心を和ませた。
 再度の誘いにリネットは感謝を述べる。黒地に薔薇を染め抜いた彼女の衣装に見惚れながら、寧ろ星凛祭に誘えなかった非礼を詫びたいほどだとコルフォが口にした。渚の伝説は確かにとても綺麗だけれど、待つのも待たせるのも好みではないと手を差し伸べる。離れないように放さないで居たい、と茶目っ気たっぷりに片目を瞑った。
 最近、肝心なところで些細な擦れ違いが起きているように思う。歩幅を合わせることも少し難しい。ジョジョは例え離れても心は常に傍らにあると己の剣に誓いを立てた。胸が切なくなるほど直向きな彼が愛らしい。今は今だけで良いのだとシリウスは微笑み、肩越しに来た道を振り返る。点々と残された足跡に、彼女は少し笑みを深めた。
 紅花に彩られた浴衣を着込み、穏やかな海に足を浸したルラを見詰めて、カイジは胸を詰まらせる。彼女の想いを知っているから、余計に彼女が愛しくなる。
「これからも、ずっと……私の傍に、笑顔で居てくださいね」
 願う彼に彼女もまた、ずっと一緒に、と小さな声で囁くのだった。

●満天の星空
 恋人たちは渚の片隅に腰を下ろし、朱に染まり行く酔芙蓉へ見惚れる。
 可憐な珊瑚は勿論のこと、儚げながら芯のある真珠もリレィシアには良く似合うものだ。雪融けと芙蓉を模した絞りの浴衣を着る彼女の耳元に顔を寄せ、小さな声で囁きを零すと、彼女はとても不思議そうな顔をする。紫黒色の浴衣姿で悪戯っぽく笑う彼を見返し、答えに気付くと頬を染めた。夏の花に酔い、そっと重ねた手を愛しむように握り返す。
 黒い帯は蝶結びに括り、金の髪を一纏めにしたナディアは萎れ散り行く酔芙蓉へと手を翳した。呟きと共に花弁を降らし、綺麗だと楽しげに頬を緩める。くすくすと笑みを零しながら、似合いますか、とヨキは答えて蒼の刺繍が施された浴衣の袖を軽く広げた。結い上げた髪を揺らし、遠目に主催者の姿を認めれば小さな会釈も向けておく。
 旅人の青年は乙女を迎えに戻ったのだと信じたい。そうエテルノに語りながら、ネリューシアは優しく花開く酔芙蓉を見回した。涼やかな浴衣を着ていると言うのに、彼の微笑みに顔が火照る。純白から染まり行く様はまるで恋心のよう、とアユナが呟いた。桃の花を鏤める華やかな浴衣は合わせ帯で留め、ちりちりと可愛らしい音を立てる桜の簪で髪を纏めている。期待と不安を内包したまま目を伏せる彼女に、エテルノは「顔が良い男は皆、性格が悪いんですよ」と助言するつもりで優しい声を出した。
「……愛が変わらない確信は、如何得たと思う?」
 星の描いた河を見遣って、イヴァナは躊躇わない未来を望む。好意には気付きながら、身代わりとも知った恋人と言う名の苦さが喉元にまで込み上げた。先の約束を出来ず、自然と崩れた絆の記憶が蘇る。君の求める答えは返せそうに無い、とエテルノは困ったように微笑んだ。
「恋とは、とても不確かなものです」
 愛に至って漸く確信出来るのだろう、と積み重ねた先を指す。
「物語ならば、エテルノは、どちらが好き?」
 手首を擦り抜ける潮風にアニエスは声を乗せた。伝えられた言葉の真実など如何程のものか、今を生きる者には判り得ない。幸福な成就と悲傷の末路とを比べられ、彼は悪戯っぽく瞳を細める。他の子たちには秘密ですよ、と唇に軽く人差し指を触れさせた。
「悲惨な喜劇が、より望ましい」
 低く抑えた声音に目を伏せて、溜息混じりに見立てを頼む。誕生日を過ぎたのだと理由を添えれば、もう少し軽い意図であれば喜んで、と此方も溜息で返された。
「……離れる辛さの中にも、確かに幸せがあったのだと。私はそう思いたいです」
 臙脂色の布地に白抜きの蝶を舞わせた浴衣の肩を抱き、アクセルは彼女の横顔を見詰める。銀の飾りをじゃらりと垂らし、着流しに袖を通した彼をリツがそっと見返すと、命にも世界にもいつか終焉が訪れようと、この想いだけは永遠なのだと強く断言された。再び寄り添えたことが、涙が滲むほどに嬉しい。
 色を失った己の世界へ鮮やかさを吹き込んだ女性の髪に、オラトリオは艶やかな簪を飾った。慣れに覆われた日常さえ儚く脆い。側で温もりを感じる束の間の時は、何よりも尊く穏やかなものだ。
「どんな苦難が待ち受けていても、君を手放したりはしない」
 クレマチスの花があしらわれた白い浴衣が、彼女を一層清楚に見せた。愛しているよ、と妻の名を呼ぶ。青い絣地の浴衣に触れて、愛しているわ、とナナイが答えた。そして静かに口付けを交わす。
 夏の空はじきに綺羅星で埋められた。
 酔芙蓉の花は散り、夜は密やかに更けて行く。


マスター:愛染りんご 紹介ページ
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作成日:2007/07/18
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