【新米商人ターマさん】抜ける様な青の如く晴れやかに



<オープニング>


●母の思い
 冒険者の酒場で冷水で冷やされた茶を満喫していた白銀の霊査士・アズヴァル(a90071)の元に、ある女性が二人訪れた。その内の一人はここ最近出入りをする商人のターマで、もう一人はそこそこに歳行った女性であり、焦燥した様子と共に、余り体調が良くないのか、覚束無い足取りで霊査士の元へと歩み寄る。
「すみません、アズヴァルさん。今回のお仕事をお願いしたいのですけど」
 以前の事件で気落ちした感が拭えないままのターマがそう言うと、アズヴァルとその周囲に居た冒険者達は一様に肯いて見せて。
「この間、牢獄に入れられた……その、ボルツ君っていうんですけど。そのお母さんのレジーナさんが、どうしても彼がやったなんて思えないんだって仰って。私もその、らしくないな、って思うんですけど……」
「うちの息子が牢獄に入れられるような事をするようには思えないのです。きっと、私の薬代を工面する為に……」
 そこまで言うと、レジーナは二度、三度と咳き込んだ後に深く俯いてしまう。その様子にターマはそっと彼女の肩を抱き、優しく背中を撫で擦る。
「私からもお願いしたいのです。ボルツ君はきっと、魔が差しただけなんです。本当に彼がうちの倉庫であんな事を自分からしたのか、知りたいのです」
 現場を捉えられた時、彼はある商人の名前に一瞬反応は見せたものの、それ以外には無言を突き通し、牢に入れられても尚、それは変わらなかった。しかし、普段の彼を知る母親であるレジーナや、彼の雇用人であったターマとその父親もまた、不自然さを感じ取っていたのである。
「わかりました。それでは、何か手掛かりになるような話や品がいただけないでしょうか」
 アズヴァルが二人にそう告げると、レジーナは一振りの短刀を。ターマは拳よりも一回り大きな箱を取り出した。アズヴァルが箱を開くと、そこには大振りのサファイヤが一つ納められている。抜けるような青が印象的な、非常に大きな品だ。
「それは、この間手に入れた紺碧の涙です。もしかしたらと思ったので、父にお願いして預かってきました」
「了解しました。では少し調べてみましょう」
 霊査士は二つの品を霊査すると、深い息を吐き、徐にその場に居た冒険者達の顔を見渡した。得られた事を順に述べていくと、ボルツは確かに、病気の母親の事を盾に盗みを強要されていた事。そして、宝石からはカーガンの意思が読み取れた。
「必ず、大きな失敗を着させて失脚させてやろうという病気めいた熱意が感じられました。そして、既にそれは準備を進めつつあるようです」
「そ、そんな……それでしたらすぐにカーガンさんを……!」
 驚いたターマはすっくと立ち上がるが、アズヴァルはそれを諌めた。
 霊査から得られた情報だけでは彼を捉えるのは難しい。何らかの物証なりを得る必要があった。牢獄にいるボルツにそう証言をさせたとて、今は罪人として扱われている彼の話はまともに取り合われる事はない為だ。
 以前に痛い目を見た筈なのだが、どうも虎視眈々となかなか尻尾を掴ませない為に手を労して彼女とその父親の商売に嫌がらせを強いて来ているらしい。これは何としても阻止せねばなるまいと、その場に居た冒険者達は考える。
「ですので、彼の出方を待つ事にします。何か、そちらで大きな取引はありませんか」
「え、ええと……一つあります。この宝石に買い手がつきましたので、これを届けに山一つ越えた向こうにある町に住んでいる貴族様の元に納めにいくのが」
 拳大の大きさで、透き通った青を湛えた紺碧の涙と呼ばれる宝石。それに酷く興味を示した好事家の貴族が高値で買い取りたいと書状が届いたのだと言う。勿論、品物を直接確かめてから、という話が付記されていたが。
「それは、他の方もご存知なのでしょうか?」
「はい。その貴族様は宝石好きで、あちこちの商人に珍しい宝石は無いかって尋ねまわっていたそうですから、カーガンさんの所にも多少なりとも伝わっていると思います」
 商人間の情報は冒険者達が思っているよりも早く伝わる物らしい。今の状態で相手が事を起こすとすれば、現状では宝石を届けにいく最中でしかないだろう。山道を行く最中に盗賊紛いのゴロツキが出てくるのが関の山の様に思えるが、さりとてゴロツキとカーガンとの因果関係が掴めなければ、只の盗賊として言い逃れられてしまう。
「では、その護衛を皆さんにお願いすれば良さそうですね。それと、二手に分かれてカーガンさんの周囲も洗う必要もあるかも知れません。その結果、彼が先の騒動に関わっている事を何らかの証明できたなら、ボルツ君を取り巻く状況も一変させる事が出来るかも知れませんね」
 霊査士の齎した言葉に、ターマとレジーナはよろしくお願いしますと深く頭を下げるのだった。

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参加者
緋痕の灰剣・アズフェル(a00060)
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
ストライカー・サルバトーレ(a10671)
渡り鳥・ヨアフ(a17868)
思い出を紡ぐ者・ロスト(a18816)
終曲奏者・ネジ(a28473)
青雪の狂花・ローザマリア(a60096)
紅戦士・ルナ(a60264)
蒼月と紫水晶が導く道標・レン(a60327)
夜天光・ネヴィル(a64549)


<リプレイ>

●欲深き男の店
 人通りからそう遠くない、大小の店が並ぶその一角に想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は訪れていた。以前から商売敵として縁あるカーガンの構える店へと足を踏み入れ、彼女は踊りに使うアクセサリを探しに来たと言う名目で、他の一般客に混じってその中を窺っていた。
「品並びは悪くないわね」
 上物が結構な数見られる事から率直な感想を洩らす。と同時に、他の来客と進めている商談を盗み聞くに、思ったよりも値が張る事を知る。その程度の事しか得られぬと判断したラジスラヴァは気の入る品が無かった事を告げて、店を離れた。その後近隣の人間にも彼や、彼の店の評判を尋ね回ってみると、阿漕な商売をしているという話が主だった。
「これ以上は得られないかしらね」
 一人呟き、街の薄暗い場所へと彼女は向かう事に決めた。
 そんな彼女とは別に、カーガンの店周辺で彼の監視を決め込んだストライカー・サルバトーレ(a10671)の姿があった。
「手のこんだ逆恨みだなぁ、商人は冒険者より恐ろしいなっ……」
 近隣の茶屋で、目立たぬ様にしつつ彼は店の奥に姿が見えるカーガンに注視する。彼の計略で先日牢へと入れられたボルツ青年と、その病気の母であるレジーナを思い、何とかしてやらねばと胸中で決意する。
「この後の行動、どう出るかだなぁ」
 彼の行動を追おう。そう決めたサルバトーレは卓上に開いた羊皮紙に描かれた、カーガンの屋敷までの道程を確かめるのだった。

 カーガンの周辺を窺う彼らとは別に、紫炎の記憶・ネヴィル(a64549)は以前訪れた倉庫へと赴いていた。今も人の行き来は変わりなく、荷を運ぶ人々の姿が目に留まる。以前の折に見かけた、ターマ親子の倉庫で働く人足を認め、声をかけた。
 幾人かに声を掛けてボルツの話を尋ねてみた所、やはり彼がそうした悪事に手を染めるのは今一信じ難いという答えが殆どだった。
「やはり……強要されていたのかも知れませんね」
 ネヴィルの言葉に、彼らもまた肯く。
 同意を得られた彼らから、倉庫でボルツが用いていた作業部屋まで案内されるも、残念な事に書類の類は無く、日常用いる工具や着替え以外の目ぼしい物は見つからなかった。一先ず、ボルツのよく通っていた店などの場所を尋ね得ると、ネヴィルは早々にその場を後にした。


●ある酒場
 一方、霊査によって彼の動向を知る事となった翠聖劍姫・ローザマリア(a60096)や紅戦士・ルナ(a60264)達は、街のごろつきが屯し易い場末の酒場へと足を伸ばしていた。羽根を隠したローザマリアは一足先に店の従業員に成り済まして、訪れる荒くれ者に酌をし。ルナは道中の金子に困った流れ者という風体で店の一角に腰を下ろしている。見渡せば、風体の悪い男達が数人おり、彼女らの様子を興味深げに窺っている。
「よお、姉ちゃん。随分とぴりぴりしてやがるが、景気でも良くないのかよ?」
「まあな……」
 この街まで流れ着いたはいいが、路銀が尽きて困っているのだと彼女が言うと、声をかけた一人の男は下卑た笑いを浮かべ。
「そうかい。姉ちゃんみたいな美人だったら、簡単に客取れる所知ってるぜ。ちっと働きゃ……」
「そういう仕事は別の人間に言うんだな」
 剣呑な空気を纏ったルナが腰に下げた短剣を僅かに抜く。鈍く光る刀身に頬に歩み寄ってきた刀傷を持つ男は狼狽し。
「じょ、冗談だって。お約束みたいなもんじゃねえか」
 そういうものか。そう彼女は呟くと短剣から手を離す。男はほっと胸を撫で下ろすと、ぼりぼりと頭を掻き。
「姉ちゃんみてぇな腕の立ちそうなのがもう少し早く来てりゃあ、良い仕事あったんだがな。ま、どっかの商人の用心棒でもどうだ。暫くは時間がとられるが、それなりに稼げるぜ」
「そう言えば、商人と言えばどこかの倉庫で働いていた子が捕まったそうね。もう少し巧くやれなかったのかしら」
 木製のジョッキに並々と注がれた酒を運んできたローザマリアが二人の話を聞き、何気ない様子で話題を振った。すると、ルナと話し込んでいた男はひらひらと手を動かし。
「ああ、ありゃあしょうがねえよ。あんな冒険者の出入りする時に仕事した餓鬼が悪い。幾ら母親だかが病気だからってな。少し待ちゃ、冒険者もすごすご引き下がるだろうによ」
「仕事って、盗むのが仕事だったって事?」
「どうも倉庫の中身入れ替えるって仕事を請けたらしいがな。余程困っていたんだろうよ」
 徐に懐から取り出した紙巻に火をつけながら、男が話を続ける。
「でもま、それと引き換えに豚箱行きじゃあ割りに合わねぇ。愚直って奴は本当に使い勝手が良いもんだって、仕事振った奴も思ってるだろうよ」
 下品な笑いを浮かべる男にローザマリアとルナは内心憎憎しげに思うも、務めて表には出さず、男の話に耳を傾けていた。
「でも、入れ替えた品って何処に消えたんだろうね。それなりの品じゃなきゃそんな事思わないでしょう」
「多分、仕事頼んだ奴が抱え込んでるんだろう。後ろ暗い話だからな、用意周到にもなろうってもんさ」
 何せ頼んだのがあのしみったれの親父じゃな、と小さく呟く男の言葉をローザマリアは確かに耳にした。
「いやはや、困ったもんだ全くよ。負け込んで素寒貧だぜ」
 そこに、渡り鳥・ヨアフ(a17868)が顔に不機嫌を露にして酒場に入ってきた。彼は荒々しく手近な席に腰を下ろすと、注文を聞きに着たローザマリアにエール酒を不躾に要求する。そんな荒れた様子の彼に、先程の下品な男が歩み寄ってきた。
「よう兄弟。どうだい調子は」
「聞くんじゃねぇよ、勝ってりゃこんな所に気やしねえって」
「違いねぇな。ぶっはっは」
 渋面を作るヨアフに男はそりゃそうだと合点入った様子で朗らかに笑う。内実、演技半分で残りは真実だった。牢番にボルツに面会を申し出たのだが、あっさりと断られてしまったのだ。これはローザマリアも同様であったが、まだそれは彼の知る所ではなかった。
「まいったぜ、この暑いのに懐は空っ風が吹きやがる」
「そいつはツイてねえな。ちったぁ景気の良い話でもありゃいいんだがなぁ」
 勝負に負けたギャンブル狂を装うヨアフに、男は残念そうに肩を竦めてみせる。
「景気の良い話ねぇ……ついちょっと前にならあったんだけどよ」
「へぇ、そりゃあどんな話だい?」
「大きな声じゃ言えねぇがな、しみったれのカーガンの仕事さ。珍しく気前が良かったんで請けた連中は気味悪いくらいニコニコしてやがったぜ」
 仕事の内容までは知らねぇがな。と、酒盃を口にする男を前にヨアフはもう少し話を引き出せないかと思案を巡らす。
「ここか……」
 そんな最中に酒場に新たな来訪者が姿を見せた。青い鶏冠が特徴的なネヴィルであった。どうもボルツの足取りを追った彼が辿り着いた先がこの酒場だったようだ。次いでラジスラヴァが姿を現す。

 そうして暫くの後。男らと酒を飲み交わして、一回り大きな腹になって得た情報にヨアフは難しい表情を浮かべた。カーガンは用意周到に自分の決めた人数と用向きだけを手紙で伝え、それにより彼らの仲間は仕事を請けた。
 しかし、仕事を請けた男達は既に町を離れており、彼らの行き先は請けた者しか知らなかったのだ。
「潜り込めなかったか……」
 仕事の話を請け、ごろつきに紛れて仕込みを済ませた後に、カーガンとの繋がりを得る積りだった。ふと今になって、霊査士が二手に分かれる必要があるという言葉をヨアフは思い出す。
「こちらもご存じないようですね」
 小さな酒宴の只中に誘惑の歌で店主を惑わせたラジスラヴァが溜息を洩らす。この店の主はカーガンの話は耳にするも、彼の店で使われている人間が来る事は殆ど無いと答えたのだ。訪れても酒場本来の用途だと言う。
「今からでは間に合わない、という事か」
 後は宝石を届けるターマ達と共に向かった帝界戦神ヘタレカイザー・ロスト(a18816)らに委ねるしかない。結論に辿り着いた彼は、酒臭くなった溜息をひとつ吐いた。

●青き宝石は行く
 時は少し遡り。カーガンやボルツの周辺を調べに向かったネヴィル達とは別に、緋痕の灰剣・アズフェル(a00060)達はターマと共に山道を進んでいた。
 紺碧の涙は柔らかな布で丁寧に包まれ、箱に納められた上でターマの手の中にあり、彼女と同じく商人の姿振る舞いを見せる終曲奏者・ネジ(a28473)が彼女と共にノソリン車の上で言葉を交わす。
「商売人らしからぬ所業、私利私欲による妨害行為などさせはしないッ!」
「大勢を巻き込んで意地の悪い事をするのは上手な商売人はんじゃあらへん。カーガンはんのはようないわ」
 妙に力の入ったロストの力説にネジが同意の言葉を返し、水鏡に写る月・レン(a60327)は無言のままで肯いた。何故、罪無き人まで巻き込んでまでと思う彼女は、ターマの様子を窺いつつも辺りの注意に気を払う。
「大分森が深くなってきたな……」
「襲ってくるとしたら、そろそろやろね」
 夏に入ってから草木の成長は目を瞠るほどになっており、雑木林の向こう側すら見通せぬ有様。待ち伏せるには絶好の場所に近づいていると言っていい。
「そういえば、カーガンさんが今回みたいに動くのは、3年前の事件からこれが初めてですか?」
「……うーん、どうなんでしょう。私も詳しくは分かりませんですけど」
 ふと疑問を抱いたロストがターマに尋ねるも、眉間に皺を寄せて悩みこむ。しばしして、彼女は顔を上げて。
「あるのかも知れないし、ないのかも知れないです。私とかが気付いていなかったなら、それは気付かないこちらにも手落ちがあると思いますし」
「そうですか……」
 彼女の返答に考え込むロスト。確かに気付いていなければそれは手落ちだという考え方も理解出来るし、何よりこれまでに目立った素振りを見せなかったからこそ気付かれなかったのかも知れない。結局はやった側の当人でなければ分からぬ事だろう。
「とりあえず、無事に宝石を送り届けないとね」
「はい。それだけは何としてでもです」
 気を紛らわせる様にと、笑顔で話しかけるレンにターマは先程よりも明る気な様子で答える。やっぱり彼女は笑っている方がいいと、ターマの笑顔を見たレンは改めて思う。
「来たようだぞ」
「……!」
 日陰となり、闇深い森の中に人の気配を感じ取ったアズフェルが警告を発すると、一同は警戒の色を強める。前後の山道を挟む様にして茂る木々の中から唐突に盗賊達は姿を現し、襲い掛かってきた。
 彼らは予め目標を定めていたのか、短刀をターマの元へと飛び掛ろうと試みる。けれど、其処にネジやロスト達が身体を滑り込ませ、革鎧に身を包んだ盗賊達とターマとの壁になる。
「護衛か、とっとと済ませるもの済ませちまえ!」
「済ませられるならな!」
 指揮を取る髭面の男の声にアズフェルは咆哮で答えた。力ある咆哮は彼が受け止めた一人の動きを瞬く間に止める。
「奇襲ですか、小癪な!」
「程々にしておかないとね……」
 咄嗟にロストは掌から蜘蛛糸を放ち、父親の形見である宝珠を手にしたレンは盗賊の動きを容易く見切ると延髄を殴りつけた。糸で縛され、また意識を失わされた者と瞬く間に盗賊達は倒れ伏す。
「ぼ、冒険者か……!」
 彼らの巧みな動きに即座に正体に気付いた残りの盗賊達は、踵を返して森の中に散開しようと試みる。けれど――
「悪いけど、一人も逃がさへんで」
 浅黒い指がハープの弦を爪弾き、ネジの歌声が辺りに木霊する。染み入る様に紡がれる歌は、男達をゆるゆると眠りの世界へと誘い、瞬く間に木々の中へと前のめりに倒れてしまう。
「……それ程気負わなくても良かったかな」
「兎に角、無事に済んで何よりですよ」
 あっさりと襲撃者を撃退出来てしまった事に少しばかり考え込むレンに、ロストは何事も無く済んだ事は良い事だと口にする。
 所詮は一般人。冒険者はいとも容易く盗賊達を縛すると、ターマ達はネジに捕縛した盗賊を任せると一路貴族の下へと向かうのであった。

●事の終わり
 帰り際にネジと合流して盗賊を連れ戻ったレン達は、ローザマリア達と合流した。彼らとカーガンとの間に何らかの繋がりを証明出来る決定的な物は無いかと思案する中、一足遅れでサルバトーレが姿を現した。その顔には嬉々とした物がある。
「あの後、ずっと屋敷を見張っていたら、頬に傷のある男が屋敷の裏口に行くのが見えたんでね。つけてみたら案の定って訳さ」
 確か、酒場に居た奴だろ? と、顎鬚を撫でながら伊達男は笑顔を見せる。男は辺りに気を向け、遠回りしながら屋敷へと向かっていたが、物陰に隠れて気配を消していたサルバトーレの姿は見つけられなかったらしい。
 ともあれ、盗賊紛いのごろつきと、カーガンとの線は繋がった。後は仲間と合流し、又も彼の元へ赴き、報いを受けて貰うだけだ。
「これで何もかも終わればいいんだがな」
「最後の締め、気を引き締めていかないとね」
 真剣な面差しをしたヨアフに凛とした声で答えたローザマリアの表情に、一向は真摯な面差しで肯いた。

「な、なんなんだ貴様らは!」
 屋敷の自室に居たカーガンは、突然の来訪者に狼狽した声で叫ぶ様に問うた。彼の視線の先にはネヴィルやロストを始めとした冒険者達だ。
「私達がここに来るその理由は、ご自身が一番分かっていますよね」
 ロストの言葉に促される様に、証拠となる傷のある男を縛り上げたネジが彼の前に転がした。するとカーガンは険しい顔になると共に顔を怒りで紅潮させる。
「あこぎな商売やりたいならやればいいさ。でも他人を不幸にする商売ってのは、結局自分自身を不幸にするということ、わからないか?」
 蔑視の瞳を浮かべたルナに歯軋りをするカーガン。
「またか、また貴様らが邪魔立てをするのか!」
「……あまり、私達を甘く見ない方が良いですよ……?」
 喚き散らす男に、ネヴィルは己の身に黒炎を纏わせて詰め寄り始めた。突然の出来事にカーガンは椅子から転げ落ちて後退りし始める。
「自分がしたことには責任を持て」
「約束を破った人は……その報い、受けて貰いましょう」
 三年前、冒険者達に彼が告げられたその言葉をロストが口にした。そして――

「皆さん、どうもありがとうございましたです。お陰で、ボルツ君もそう遠くない内にレジーナさんの元に戻れるようになるそうですよ」
 あれからカーガンは今回の一件と、それ以外に彼方此方で積み重ねた悪行が芋蔓に発覚し、ボルツと入れ替わるような形で牢へと入れられる事となった。レジーナの事は今後、ボルツが心底仕事に打ち込む事でターマの父が治療の手助けをすると約束がなされたらしく、いち早い復帰を願っているらしい。
「今回の事で、皆さんからたくさん色んな事を教わった気がします。本当にありがとうございました」
 一礼して顔を上げたターマの顔には自信の色が満ち満ちていた。若しかすると、彼女の自立も近いのかも知れないと思う冒険者達だった。


マスター:石動幸 紹介ページ
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作成日:2007/07/29
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