<リプレイ>
●終わりの朝I 明け方だと言うのに、余り過ごしやすくない。 「……冬はくそ寒かったが、夏は嫌んなるほど暑ぃな……」 無骨な刀を肩に背負った咆紅鬼人・カッツェ(a23528)は、少しうんざりするように呟く。 (「数年前までは、私はこの土地の事を知りはしなかった。 様々な敵と戦い、新たな友邦ができ守るべき者が増えた。そして、守るために……命を刈り取らなければならなくなったのは、結果なんでしょうね」) ふと、医学生・カウェル(a01014)は考える。 (「しかし、最早余地も無い。私達のこれからの為にも、この地を安定させなければいけません」) 早朝は、苛烈な敵地にあっても変わらず静まり返っていた。 「念願の一つだったグドン地域の解放、か」 業の刻印・ヴァイス(a06493)の言葉が、何処か皮肉に響く。 二つ以上の意思が交錯する場所には、必ず生物的なエゴが存在する。それが、お互い相容れぬ存在同士ならば尚更だ。彼が覚えるのは、一抹の罪悪感に似た問うても詮無い僅かな苦味。 「ともあれ、早急にこの地を平定し、ランドアース統一への足掛かりと致しましょう」 邪龍の巫女・カムナ(a27763)は言う。一同、冒険者十二人のパーティをこの地へ赴かせた理由を。 円卓の決めたグドン地域完全制圧――その大規模作戦は、同盟領のみならぬ大事業だった。 (「かつて探索部隊の一員としてこの地に足を踏み入れてから、随分経ちましたね。 あの約束、今度こそ守れるように頑張ります」) エンジェルの重騎士・メイフェア(a18529)は、思う。 彼女だけでは無い。幾多の血を吸い、同盟とも並々ならぬ因縁を秘めたこの地を、『完全に』終わらせようというのだから、意気が高くない者は無いだろう。 パーティは、危険を伴うという集落の攻略に、朝駆けの作戦を立案していた。 昨日、グドン地域への行軍を開始した一行は、必要最低限の遭遇戦に勝利しながら、迅速に集落周辺へと到着した。然る後に、流鎖の射手・レイティス(a42194)、偽神の少年鏡・ゼロ(a50162)が集落の様子を偵察、確認を済ませた上で、密かに一夜を過ごす事に成功した。 有視界戦闘が約束される共に、敵の不意を討てるという意味では、早朝の襲撃は実に理に叶っている。彼等は、自身の気配を極力殺し、音を消し、肌に泥を塗り、朝に紛れ攻め込もうとしていた。 「殲滅も……手に届く範疇でやるしかないですけどね」 刻一刻と近付く『その時』を待ち、レイティス。 ややあって、パーティは完全に準備を整えた。 作戦は、朝駆けを行う以外は、単純だ。露払いと、主力のみを分け。後は、単純に、倒して、倒して、倒すのみ。 五体にものぼるピルグリムグドンは、甘く見れる相手では無いが、遅れを取る心算も無い。 「さて、それじゃ、グドン退治と行こうじゃないか。 絶対に負けられない。もう悪さする事も出来ない位に、徹底的に叩き潰そうじゃないか」 目を閉じ、暫し。得物を抜き、眼光鋭く大地を翔ける蒼き翼・カナメ(a22508)。 応える声は、百樹夜行・スズ(a23391)のモノ。 「過去あれだけ減らしたというに、まだ此れだけの作戦をかける余地があるとは。じゃが、いずれにしてもこれで終いじゃ」 彼女は、一旦言葉を切って、それから残りを吐き出した。 「そんな地域もあったのぅと――いい加減、過去にしても良い頃合じゃろ?」 戦いが、始まる。 長く続いたこの地での、この地での『最後』を目指す戦いが――
●攻略殲滅I 激しい戦闘が始まっていた。 グドン地域の最中にある彼等の集落は、当然の事ながら今回の襲撃を予知してはいなかった。 早朝の突き、奇襲を仕掛けたパーティの意図は、ハッキリと奏功していた。つまり、決戦の緒戦は、パーティのモメンタリーのままに押し込む展開となったのだ。 「作戦通りに――!」 簡易な家らしき巣から顔を出しかけたグドンを、即座に地蔵星・シュハク(a01461)が打ち倒す。 「ピルグリムグドンを!」 鎧聖の付与を纏ったメイフェアが叫ぶ。散発的な反撃を仕掛けられた彼女だが、酷く慌てての攻撃程度、到底通用するモノでは無い。あっさりと弾き飛ばし、返す刀で一撃。 纏まっての反撃が来る前に、敵を可能な限りに仕留める事―― 「さぁて……あん時のリベンジだ。容赦しねぇぞ、グドン共!」 「あなた達を……逃がす訳には……いかないの……」 吼えるカッツェ、葬姫・ツバキ(a20015)の意図も、まさにそこにあった。彼等四人の『露払い』は、村の中央を駆ける主力掃討班の為に邪魔なグドンを減らしていく。 「行きますよっ!」 ゼロの長剣が、宙空に紋章術を描き出す。 光の雨が弾幕と降り、短い間隔で炸裂音が鳴り響く。 如何な有利とて、余裕は無い。ここは、敵地。それに、霊査士は言ったから。
――乾坤一擲、見敵必殺、グドンっつーグドンを撃破して、撃破して、撃破しまくるです――
多くを倒そうと言うのならば、油断も隙も許されない。 可及的速やかに、且つ賢明に。これら敵を殲滅せねばなるまい。それが、勝利自体の難易度を上げるのは間違い無いが、同時に届かない望みでは在り得ない。 「糞グドン共、今度こそがっつり潰してやるぜ!」 巨大な剣を軽々と担ぎ、暴風の・オーソン(a00242)が走る。 先述した通り、敵集落のあちこちでは、混乱が起きていた。露払いの五人は、早々とグドン達との戦闘を始めている。 「よーし、出たな?」 オーソンが不敵に笑ったのは――七人の前に、白っぽい影が現れたのは、そんな時だった。 「流石に、普通のグドンと同じようにはいかないようですが」 そのオーソンと、背を合わせるようにして背後をちらり見たカウェルが言う。 前方より二体。両側面、後方よりそれぞれ一体ずつ。足を止めた七人を囲い込むように、ピルグリムグドン達は出現していた。村落の細かい構造や、敵の配置を知っていた訳では無いから、この辺りは不可避の側面も強いが……どの道、倒さねばならぬ相手には違いない。 羽のある個体、異常に発達した顎を突き出すようにした個体、長い尾を振りたくる個体、異常に長い腕をぶらりと垂らした個体。 そして、それらより軽く二回りは大きい、ボスと思しき個体。 医術士のカウェルを中心に、咄嗟に円陣のような陣形を取ったパーティは、一瞬で意思を疎通させた。 「望む所だ。仕掛けるぞ!」 言葉で合図を送り、ヴァイスは、正面の二体へ蜘蛛糸を繰る。 間合いを閃いた拘束の糸は、ペインヴァイパーの力をも借りた特別製。巨大なボスと、腕の個体を縛り上げる。 「前以外は、任せた」 動きを失ったそれらに向けて、カナメが間合いを詰める。 得物を狙う飢狼が如く姿勢を低く、青い髪を揺らして戦士は奔(はし)る。 「け。いい所ばかり――渡すかよ」 戦いに高揚してか、オーソンが何処か楽しそうに舌を打つ。そんな彼は、カナメを追い。 「任された。では、妾は此方を」 背後の的に向けて、スズは輝く銀狼をけしかける。 蜘蛛糸と同じく大きく力を増した獣の像は、顎の個体へと組み付いた。 「まず一撃。派手にいきましょうか!」 「いざ、参ります」 レイティスは、その強弓を引き絞り、黒炎を纏ったカムナは、異形の像を撃ち出した。
キイイイイイイイイィ……!
甲高く、耳障りな怒りの声が鼓膜を揺らす。 「いちいち、うるせぇってんだよ!」 オーソンの繰り出した一撃が、それを遮るように重い爆音を放っていた。
●攻略殲滅II 「逃げかかってる、アレを狙って――」 シュハクの声に応えたゼロが、頭上の火球で射線上の敵を焼き尽くす。 「逃がさない! ムーンライトブレイカー!」 大方の予想のその通りに、露払いの五人はさしたる苦戦をする事も無く、自身の務めを果たしていた。不意を打たれた為か、逆に散発的に向かってきたり、逃げたりするグドン達を殲滅するのは少し骨が折れたが、元より彼我の実力差は余りに甚大だった。 彼等が屠ったグドンは、数十秒で、既に十数体を数えていた。 「ち、案外居やがるな……!」 またわらわらと向かってくるグドンを一瞥して、カッツェは舌を打つ。 「鬱陶しいんだよっ!」 自身から間合いを詰め、得物を振り上げ。猛る烈風を以って、グドンを突き上げる。 更に、二体。 「あなた達に……終焉を……謳ってあげる」 葬送を歌う為。例外無い葬送を謳う為。 ツバキは、静かに呟き。戦意を亡くしたグドンまでもを撃ち抜いた。 一匹たりとも逃さず、殺す事、壊す事。それが殲滅。今日と言う日。常から何処か物憂げな少女の表情から、その心を読み取る事は難しい。唯、事実として彼女はその瞬間、更に三体の葬送を果たしていた。 (「出来るだけ早く――行きませんと……」) グドンの粗末な得物を受け止め、弾き飛ばしメイフェアは内心で呟いた。 徹底的な殲滅が求められる以上は、雑魚と言えど見逃す訳にはいかない。 「倒れません。それに、メイフェアの前で、倒させはしませんの」 だが、今回の作戦で主な障害となるのは、あくまでピルグリムグドン達になる筈だった。事実、彼女の視界の隅に移る仲間達は、そう楽勝であるという様子でも無い。 「一気に行きますの――!」 裂帛の気合が迸る。 大上段より振り下ろされた一撃は、綺麗にグドンの体を両断していた。
●攻略殲滅III 一方的な展開となった対グドン戦とは異なり、対ピルグリムグドンの戦いは、激しさを増していた。 「厄介ですね……」 自身の炎にも燃え尽きぬ敵を見やり、カムナは呟く。 ピルグリムグドン達は、何れも高い自己再生能力を持っていた。攻撃方法、攻撃力等は個体毎に異なるが、これも、決して甘く見れるモノでは無い。 「……っ!」 ピルグリムグドンの長い尾が、カムナの肩口を切り裂く。 「穿て、雷閃!」 レイティスも、自身の敵に即座に一矢を放つが、コレが的を捉え切らない。羽を備えた個体は、見た目通りの俊敏さを発揮し、逆に彼に襲い掛かる。 「焦る程では――」 陣形の中央に位置する形となったカウェルは、冷静に癒しの力を紡いでいく。今回の作戦を実施するのが、皆歴戦の冒険者であった事は、確かな幸いだった。己の敵に向かう冒険者は、それぞれに苦戦はしているが、全員が耐久力に優れている。不測の事態をも考え、そのそれぞれが回復手段を備えている事は、連携面で大きなアドバンテージとなっていた。 戦いは続く。幾攻防かを繰り返し、互いに傷付けあいながら戦況は推移していく。 「これ以上、お前らの好き勝手はさせないぜ」 ややあって、正面の敵――『怪腕』に、対してカナメは勝負に出た。 埒が明かない戦いならば、一度に決めれば良い。そう言わんばかりの彼は、強引に間合いを詰めた。
キイイイイイ!
伸びた怪腕が、カナメの脇腹を抉り取る。だが、彼は速度を緩めず、その手の鋼糸を敵に放つ。 機会は一瞬。刹那、煌くは蒼い糸。旋律は、戦慄。そして、百花繚乱。 「は――っ!」 放たれた絶命の一撃の横で、オーソンが気を吐く。 横殴りの一撃を受け、吹き飛んだ彼の口元には血が滲んでいた。普通の人間ならば、幾度も死ねる殴打である。だが、それだけ強かに打たれながらも、彼の戦意は一つも鈍ってはいなかった。 起き上がった彼は、自身の巨躯よりも、更に巨大な敵に向け、只管に一撃を叩き付ける。 「糞グドン、木っ端微塵でも直せるか、試してやろうじゃねぇかっ!」
ずどむっ――!
「……くっ……!」 一方で、『巨大顎』に捕まったスズは、苦しい展開だった。 強引に間合いを詰めたそれは、既にボロボロだ。だが、体力を代償にスズに食いついたそれは、彼女に致命的な深手を与えようとその大口を開いていた。 至近距離の間合い――それは、術士のモノでは無い。だが、それでも。 「終わらすと……言ったじゃろ?」 その白い肌を、更に蒼白にしながらも、スズはその大口目掛け、幾度目か知れぬ銀狼を放っていた。
ギイイイイイ……!
一撃が、巨大な顎を貫いた。 ピルグリムグドンは、不自然に痙攣し、勢いのまま仰向けに倒れる。 「もう少しです……!」 パーティは、ここを攻め手と見た。 レイティスは、貫く矢を放つ。敢えて自身の前の『羽』を避け、カムナを襲う『長尾』目掛けて。『羽』は、即座にそのレイティスに襲い掛かろうとするが…… 「させるかっ!」 入れ替わる形で、それをフォローしたヴァイスのカードがソレを阻む。 カムナは、このダイヤモンドのような猶予を決して無駄にはしなかった。 「今度こそ、燃え尽きなさい……!」 衣装を血に染め、泥で頬を汚しながらも――カムナは、凛と言い放った。 力ある炎が、再び悪鬼の像を結び、苦しむ敵へと襲い掛かる。黒炎に巻かれたそれは、今度こそ避ける術も、耐え切る術も持ってはいなかった。 一気に傾き始めた趨勢。 そこにトドメを刺すかのように、露払いを終えた仲間達が向かってくる。 (「あの子の敵討ち、とは違うけど。 でも、あの子が守ろうとした世界に、あの神様が残したものがいるのはつらい。 あの神様は嫌いじゃなかった、でも残していったものは、不愉快な塊にしか見えないの。 ……きっと八つ当たりかもしれない。いや、八つ当たりなんだろう。 それでも――それでも。今は凄く、あの塊が不愉快だ――」) 相対するのは、シュハク。万感の篭った一撃に、『羽』が、悲鳴のような声を上げた。 「逃がすかぁっ!」 咆哮が響き、風が唸る。 『巨躯』を、跳ね飛ばしたのは、「獲物を譲ってたまるか」と言わんばかりのオーソンだった。
●終わりの朝II かくして、戦いは終わった。 負傷者は出たが、深手は無い。概ね完勝と言える展開に、パーティは確かな手応えを感じていた。 「帰路でもう少し探してみましょうか……」 ある程度の余力を残した勝利に、レイティスは言う。 一匹でも多くのグドンを倒し、集落を潰す事。それが、今求められている。 「まだまだいけるぜ。……ああ、だけどその前に。一本だけタバコ吸っちゃダメか?」 埃を払って、カッツェが嘯く。 やがて、村落を後にする一行の最後尾で、ツバキはふと足を止め、戦場を眺めていた。 (「敵は殲滅するのが……葬姫としての役目……ね? でも、こうして……邪魔なものをすべて排除する事が……本当の平和を勝ち取る道だと……思えない。正解だとは思えない……けど……今は……」) ツバキは、瞳を閉じて一人想う。 「死ねば……誰もがただの骸。なら……せめて……死に逝く者への鎮魂歌は……舞ってあげる」 続いて漏れた一言は、誰に届く事も無く風に溶けた。
鉄の意志ある人物は、まるで槍のようだと言う。 困難に負けず、不屈を貫き、幾多の壁を越える――鍛え抜かれた槍のようだと言う。 ならば、冒険者達は、ディアスポラ。何にも負けず、天にも媚びず、目標を一閃に貫くばかり。

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参加者:12人
作成日:2007/07/31
得票数:冒険活劇15
戦闘8
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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