≪緑種の女王エンケロニ≫夜に蠢くもの



<オープニング>


 月明かりに照らされた樹木の影が風に煽られて不気味に揺れる。
 そして始まったばかりの夜に吹く生暖かい風は、鉄の混じった独特のにおいを運んできていた。
「う〜ん……ウサギかしら?」
 所々に茶色いものが見える赤い塊を前にデュラシアが唸っていた。
 先日そこら辺に居た人の大きさくらいのウサギ怪獣の姿が見えないと言い出したシエルリードとキヤカの言葉に従って周囲を調べてみたところ、原型をとどめていないソレを見つけたのだ。
 セラフィードがウサギ様子を詳しく調べてみると、どうやら固い物で一撃でぐちゃっとやられたように見える。そう、例えばメイスの様なもので。
「ううう……」
 何かを引きづったような痕を調べて昼間だったらもっとちゃんと調べられるんですけどねと呟くユリアに、昼間だったらもっとぐちゃぐちゃじゃないかと抗議の視線を向けつつグチョっとした肉塊の一部を手に取るとリンは拠点へと引き上げた。

「ふむ、椰子の木だな」
 紫猫の霊査士・アムネリア(a90272)はリンから受け取ったモノを犬怪獣に食わせて処分すると何処かで聞いたような事を言った。
「……いや、椰子の木って言っても普通の椰子の木じゃないぞ? この椰子の木は異様に成長した蔦の生える椰子の実を振り回して攻撃してくる厄介な奴だ」
 ぐるんぐるんと何かを振り回す真似をしながらアムネリアは説明する……鉄球を振り回す巨人みたいなものだろうか。ウサギとは言え怪獣を一撃で葬るのだから決して侮れない威力だ。
「こいつはここら辺のボスでな、倒せれば暫くは楽できる。そして、今から追えば捕らえる事が出来るだろう……が、夜の戦闘になるからくれぐれも注意するように。特に強すぎる光や音は色と厄介なものを引き寄せるんだからな」
 それじゃ頑張ってと言うとアムネリアは護衛士達を見送った。

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参加者
白陽の剣士・セラフィード(a00935)
そよ風が草原をなでるように・カヅチ(a10536)
白銀の山嶺・フォーネ(a11250)
桜舞彩凛・イスズ(a27789)
彩士・リィ(a31270)
弓使い・ユリア(a41874)
ノソ・リン(a50852)
虹色の羅針盤・シェリパ(a60767)


<リプレイ>

●夜の情景
 木々の合間から見える星空は満天の輝きを放ち、大地を照らす月明かりは夜の道を彷徨う旅人に行き先を示すようだ。
 幾分かの冷気を含んだ風は、昼間に活動したものたちへ僅かな間の安らぎを与えるかのように優しくその頬を撫で……、
「誰だよ! 今回は植物怪獣だから、赤くてグチャグチャしたのとは無縁だよって言ってたの!」
 ワイルドファイアの情景などなんぼのもんじゃい! とばかりに、椰子の木ボスにぐちゃっと潰されたウサギ怪獣の骸を前に、銀花小花・リン(a50852)が切れていた。何か赤くてぐちゃぐちゃしたものにトラウマでもあるのか、リンは赤くてぐちゃぐちゃしたものが苦手なようだ。なのにこんな元が愛らしいウサギのぐちゃぐちゃしたものを見せられて大変御立腹だ。しかも、今回は大丈夫だと思ってたからなお更である。
 唐突に叫んだリンに一瞬ビクッ! と、大地の鼓動・シェリパ(a60767)は肩を震わせる、護衛士として始めての仕事だとドキドキしていたところに叫ばれたのだからしょうがない。別な意味でドキドキが収まらなくなってきたシェリパであるが、兎に角しっかりと自分の役割を果たさなくてはと、小さく拳を握り締める。
「……私だよ!」
 逆切れでガックリと膝をついて項垂れるリンにシェリパは再びびくぅ! と驚いていたけど……兎に角頑張るのだ。
「ワイルドファイアの夜はどきどきわんだーらんどなのですよ」
 リンとシェリパの様子に妙に良い笑顔で、そよ風が草原をなでるように・カヅチ(a10536)は言う。どこら辺がどきどきわんだーらんどなのかと言えば、夜中に気が付けば人の頭ほどの大きさの蚊に血を吸われていたり、夜に咲く綺麗な花に近づくと頭から丸かじりされたりする辺りがどきどきわんだーらんどなのだろう。
 とは言え、そんなどきどきを楽しんでいる余裕も無いのですがと急に表情を引き締めたカヅチに、彩士・リィ(a31270)は同意を示す。
「そうじゃのう、アムネリア殿の説明を聞けばどうにもコミカルじゃが……」
「鉄球並みの椰子の実ね……頭を叩き割られないよう気をつけなくちゃね」
 見た目に反して恐ろしい強さを秘めているのじゃろうな……と考え込むリィに頷いて、白陽の剣士・セラフィード(a00935)はぐちゃっと潰れているウサギのようにはならないようにしないとと気を引き締める。
「エンケロニ討伐に力を集中させる為にも、まずは足場を固めませんとね」
「はい、あまり時間もないですし……エンケロニを早く討伐する為にも、絶対に負けられませんね」
 今後の憂いが無いように確実に撃破しなければと、白銀の山嶺・フォーネ(a11250)はセラフィードの言葉に表情を引き締め、桜舞彩凛・イスズ(a27789)は肩の力が入り過ぎないようにと息を吐きつつも小さく拳を握り締めるのだった。

●暗中模索
 ウサギ怪獣の躯から先に、何かを引き摺ったような後が続いていた。
 蒼穹の虹飛燕・ユリア(a41874)は無言でその跡を指差すと、予め決めた置いたブロックサインで中間達に合図を送る。
『バッバッバッババ(これを辿った先に怪獣さんが居ます)』
 カヅチは暫しの間そのブロックサインを眺め、ポムと手を叩くと合図を返す。
『ババッバババ(そのウサギ食べられますよ?)』
 もうユリアさんってば食いしん坊だな〜って……伝わってない。これって食べられる? と勘違いしたようだ。
『バッババババ(音とかに気をつけてね!)』
 だが、ユリアはそれを、解りましたの合図だと解釈し、またブロックサインを返す。カヅチはそのサインを見てからたっぷりと熟考し、ふふん解りましたよ? 的な笑みを浮かべてサインを返す。
『ババッババッバ(今夜はカレーよ)』
 今夜はウサギ肉カレーらしい。
「「うわーい♪」」
 カレーと言えば老若男女に大人気のメニューだ、其処だけ理解した数人の仲間が諸手をあげて喜んで――
「そろそろ行きますよ?」
 と笑顔で、普段より低い声を発したイスズの前にすごすごと真面目に椰子の木ボスの探索を始めるのだった。

 闇夜に光が揺れる……リン達が持つランタンから放たれる僅かな光が風に揺れる木々を映し出し、風に揺れるそれらは大地に不気味な陰を落とす。何か動く影が無いかと警戒していたセラフィードはその様子にじっと目を凝らすのだが、こうも動くものが多いと陰に注意することは難しいだろう。
 そして夜の森は静寂に包まれる事無く、草木の揺れる音や無視の鳴き声に包まれ、音に注意を払っていたリィやシェリパはむぅと唸るばかりだった。そんな中フォーネは、一つまみの塩から作り出したクリスタルインセクトに意識を集中させるイスズを担ぐように背中に乗せて、ゆっくりとグランスティードを進ませる。闇雲にクリスタルインセクトで偵察しても意味は無いが……怪獣の移動した跡などを追えるなど、完全な遭遇戦よりも僅かに有利な条件が揃ったからこそ使える手段だろう。
 背中で微動だにしないイスズを感じながら、フォーネは頭上に蔦の生えた椰子の木が無いかと目を凝らすが、蔦つきどころか普通の椰子の木すらないようだ……フォーネは上を向き続けて痛くなった首を水平に戻すと軽く頭を振ろうとして――ズドン! と少し前方から何か重いものが地面に落ちたような音がした。
「居ました」
 そして、その直後に背中から不意に発せられたイスズの声にフォーネは小さな悲鳴を上げると吃驚した様子で振り返ったのだった。

●椰子の木
 途切れ途切れの月明かりの中を揺らめく影が動いてゆく、何処か歪な体を引き摺るように……何かを目指すように。
 ゆったりと動くその影が不意に動きを止めた……何事かと見上げるものにゆっくりと振り返ると、それは大きな丸い黒い影を振り上げて――

「と言うわけですので、間違いないでしょう」
 クリスタルインセクト越しに見た光景を説明しながら、イスズはその身に黒い炎を纏ってゆく先ほどの音はクリスタルインセクトが潰された音だったようだ。
「なるほどのぅ」
 イスズの肩に手を置き守りの誓いを口にするカヅチと同じように、シェリパの肩に手を置きながらリィは頷き、
「絶対に、成功させて帰ろうね」
 シェリパもまた、リィの肩に触れて誓いを言葉にした……頑張ろうと真っ直ぐに見つめるシェリパからリィはふぃと視線を逸らす……リィの誓いには彼女の名前を間違えないようにするとか入っていたから少し後ろめたかったのかもしれない。
 そしてお互いを守りあうために、フォーネとリンもお互いに誓い合い、セラフィードは中間達の鎧に強大な力を注ぎ込んでその形状を大きく変化させた。
「それじゃ、いきましょう!」
 最後に、ユリアが新たな外装を追加した強弓を手に気合を入れると一行は椰子の木怪獣に向かって走り出した。

 緩やかに歩む椰子の子の木怪獣の姿を捉える……セラフィードはグランスティードの突進を活かし椰子の木怪獣の懐に一気に踏み込むと、外装を付け加えて強化した白鋼剣『ヴィクトール』を一閃する。椰子の木怪獣に食い込んだ長剣は硬い手ごたえを返してくる……が、椰子の木の表面を僅かに傷つけただけで致命傷を与えるには至らない。
 椰子の木怪獣はゆっくりと振り返ると、大きく体をのけぞらせて……セラフィードの頭上高くから蔦でぐるぐる巻きにされた椰子の実を叩きつけるように振り下ろした!
「スイカ割りのスイカのように、簡単には叩き潰されないわ!!」
 避けられないと察知したセラフィードは盾を構えて椰子の実を受け――ゴン! と鈍い音を立てて盾など関係ないとばかりにセラフィードの体をグランスティードごと地面に減り込ませる。
 強大な一撃……霞む意識を何とかつなぎとめたセラフィードの横から、椰子の実を振り下ろしたまま体勢を立て直していない椰子の木の懐にカヅチとリィは無造作に踏み込むと舞大通連と雪花黒漆の太刀をそれぞれ振りぬき椰子の木怪獣の体を刻む。
 そしてイスズとリンが癒しの光を放ち、シェリパもまた光をはなってセラフィードの体力を回復させるが……三人だけでは十分ではなく、彼女の体力を完全に回復させる事は出来なかった。
 フォーネが大上段の構えから両手に持った斧を振り下ろし、ユリアが放った鋭い逆とげの生えた矢が椰子の木に突き刺さると椰子の木は体から樹液を滴らせる……そして、セラフィードが椰子の木怪獣の懐に踏み込み長剣を突き立てると椰子の木怪獣は悶えるようにグラリと揺れて――揺れた勢いを利用して再びセラフィードの蔦の絡まった椰子の実を振り下ろす!
 振り下ろされる鉄球のような実をセラフィードは盾で防ごうとするが、剣を付きたてたままの体勢だったせいか一呼吸反応が遅れる。このままでは文字通りスイカのように頭を叩き割られるだけだが――頭上から迫るそれを成すすべなく見つめるセラフィードの横から、リィとカヅチが盾を薙ぎ払うように差出すと盾は椰子の実をかすめ僅かにその軌道を逸らした!
 そのおかげで何とか直撃は避けたものの、打ち下ろされた椰子の実はセラフィードの肩を砕き、その威力を耐え切れなかったセラフィードの体はゆっくりと地面に向かって倒れていった。
 重い音を立てて倒れたセラフィードを視界の端で確認しながら、カヅチとリィは再び椰子の木怪獣の懐に踏み込むと各々の獲物を振るい、イスズは七色の蛇の炎を放ち椰子の木の幹に黒い焦げ跡を残す。
 そして、苦しむように体を振り子の如く振る椰子の木怪獣を挟み込むようにシェリパとリンは駆け寄って、鉄をも切り裂く鋭い蹴りで椰子の木の幹を深く削り取った。
「悪いね、キミに罪はないんだ……ただ」
 悶える椰子の木の動きが緩慢になってくる……ユリアは強弓を構えると椰子の木の動きに併せるように呼吸を整え、
「私達皆の目的のため……ここで倒れて貰います!」
 椰子の木の目の前にたったフォーネは胸をはり、斧を持った両手を高々と振り上げ……鋭い逆棘の生えた矢が椰子の木怪獣に突き刺さるのと同時に、力の限り斧を振り下ろした! そして椰子の木は二度、三度、痙攣するように体を振るわせると……メキメキと乾いた音を立てて縦に裂けたのだった。

 セラフィードの無事を確認した後、倒れた椰子の木の周りに一行は集まった。
「ないなぁ」
 椰子の木の中に緑の玉が無いかと、シェリパは木を刻みながら探してみるが……玉どころか緑色の物体すら出てこない。これだけ探してないと言う事は、椰子の木ボスでも持っていないと言う事か……或いは、
「蔦ですか……」
「蔦かのう……」
「椰子の実……かな」
 蔦の生える椰子の実をまじまじと見つめ、フォーネとリィ、そしてリンが呟く。得物に使うくらいの強度を誇る椰子の実を砕くのは大変そうであるが、調べてみる価値はあるだろう。三人は顔を見合わせて頷きあうと、各々の得物を手に取り、暫しの間只管椰子の実を砕く作業に没頭するのだった。
「おおー」
 好い加減嫌になってきた頃、椰子の実にビキビキと亀裂が入りシェリパが歓声を上げる……そして次の瞬間、パンと軽い音を立てて割れた椰子の実から緑色の玉がコロコロと転がってきた。
 リンはそれを手に取ると、フォーネやリィもそれを覗き込み……、正解でしたのと満足そうに頷いたのだった。

 それじゃ帰りますか、今夜はウサギカレーですよ。と言ったカヅチに促されて一行は帰路に着く。
 夜の森は相変わらず鬱蒼とし、不気味な雰囲気を醸し出していたが……緑の玉を手にし、拠点へと帰る冒険者達の足取りは軽かった。

【END】


マスター:八幡 紹介ページ
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白銀の山嶺・フォーネ(a11250)  2010年06月26日 18時  通報
初の大怪獣依頼。
緊張していましたが、出だしは非常にコミカルなやりとりで、大怪獣GGと八幡MS,そのメンバーの「ノリ」を思い知らされた気がしました。

依頼のお土産として『ウサギカレー』が出てきたのも笑わせて頂ました。なんてフリーダム。