グドン地域完全制圧:カミン・スルー・ザ・ライ



<オープニング>


●グドン地域完全制圧
 ランドアース中央部に広がるグドン地域。
 この、大繁殖したグドンが棲息する荒れ果てた森林地帯は、獰猛なトロウル王国から自国を護るために、北方セイレーン王国がグドンを養殖して作り上げたものである。

 しかし、トロウル王国の脅威が無くなった現在では、グドン地域は誰にとっても百害あって一利無しの、厄介者と成り果てていた。

 また、神との戦いによって国土の何割かを失った、北方セイレーン王国とチキンレッグ王国の避難民の受け皿とする為にも、この地域の制圧は欠かせないものだったのだ。

 勿論、ランドアース全土に版図を広げる同盟諸国にとっても、大陸中央部に広がるグドン地域は厄介者である。
 グドン地域から流出するグドンが引き起こす事件は周辺地域の治安を悪化する要因であったし、グドン地域によって、それぞれの地域の交流が阻害されている事も、大きな問題だったからである。

 これらの問題を一気に解決すべく、グドン地域の完全制圧の為の作戦が行われる事になった。

※※※

「みんな、よく集まってくれたわね。それじゃ、早速説明するわよ」
 ヒトの霊査士・リゼル(a90007)は、集まった冒険者達にそう切り出した。
「今回の作戦は、チキンレッグ王国から西へ向かうルート、北方セイレーン王国から南下するルート、エギュレ神殿図書館の周辺から制圧するルートの3ルートで侵攻を行なっていくわ。詳しくは、担当の霊査士からの説明を聞いて頂戴」
 リゼルは、グドン地域の地図を取り出して指差しする。

 昨年末に行なわれたグドン地域大制圧戦により、グドン地域の占める領域は狭くなっているが、今回は残りの全ての部分を制圧するのが目標となる。

「グドン地域の真ん中にいけば、グドンの集落を発見するのは簡単よ。だから、目的の集落を制圧した後、余力があるようならば他の集落に攻撃を仕掛けるのも可能だと思うわ。
 でも、欲を出しすぎて返り討ちにあわないように気をつけてね。
 今回は、特に春の繁殖期を終えたグドンの集落になるから、相手がグドンだからといって気を抜いちゃダメだからね」
 リゼルはそう言うと、冒険者達に、ちょこんと頭を下げた。

●カミン・スルー・ザ・ライ
「ライ麦の仲間が自生している原っぱがあります。その中央部にある虎グドンの集落を壊滅させて下さい。

 集落は野生の麦が生い茂る中に、粗末なテントがいくつか集まったものです。規模は百体ほどで、うちピルグリムグドンが十二体。
 ピルグリムグドンの内訳は、筒状になった片手から光の矢を射出するものが六体。皮膚が鉱物化した重量級のものが三体。原始的な歌唱で他を癒すものが三体です。それぞれ、牙狩人に似た能力、重騎士に似た能力、吟遊詩人に似た能力を持ちます。

 わりかし長く生き延びている集落で、戦い慣れというか経験則というか、戦術めいたものを持っているようですね。だから結構良い場所に居座れているんでしょう。

 そして一面に伸びている麦の仲間ですが、背丈がちょうどグドンと同じ程度で、敵の姿は見え難くなりますがこちらの姿は隠れません。グドン並に背の低い人は別として」

「良く麦が食べられずに残っていますね」
 千一ページ・カロリナの言葉に、午後の霊査士・イストファーネは頷いた。
「荒野で勝手に生えているやつですからね。まだ青いし、よほど不味いんでしょう……あれ?」
「どうしました?」
「書物も何も関係ないのに、何故いるんです?」
 霊査士の問いに、カロリナはやや斜めを向き腕組みしてフッ、と薄く笑った。
「書物は人類至高の宝ですが……同じくらい掛け替えのないものだってありますから」
 良いことを言ったつもりのようだが、言う相手を間違っている。案の定、イストファーネは冬の日のすりガラスのような濁った目でもって怪訝そうに沈黙した。
「……」
「…………」
「………………」
「なんちゃって。全て嘘です。根暗で陰険な私は神殿図書館探索の時グドンに邪魔された恨みを晴らしたいだけです」
 恥ずかしさに勝てなかったらしい。前言撤回したカロリナに、イストファーネは大仰に納得した。
「なるほど! そうでしたか。足手纏いにならないように頑張って下さい」

!注意!
 このシナリオは同盟諸国の命運を掛けた重要なシナリオ(全体シナリオ)となっています。全体シナリオは、通常の依頼よりも危険度が高く、その結果は全体の状況に大きな影響を与えます。
 全体シナリオでは『グリモアエフェクト』という特別なグリモアの加護を得る事ができます。このグリモアエフェクトを得たキャラクターは、シナリオ中に1回だけ非常に強力な力(攻撃或いは行動)を発揮する事ができます。

 グリモアエフェクトは参加者全員が『グリモアエフェクトに相応しい行為』を行う事で発揮しやすくなります。
 この『グリモアエフェクトに相応しい行為』はシナリオ毎に変化します。
 午後の霊査士・イストファーネ(a90338)の『グリモアエフェクトに相応しい行為』は『不殺(korosazu)』となります。
 グリモアエフェクトの詳しい内容は『図書館』をご確認ください。

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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
狂刻の牙・ウォーレン(a01908)
鉄芯・リジュ(a04411)
ヒトの剣聖・ジュダス(a12538)
博愛の道化師・ナイアス(a12569)
書庫の月暈・アーズ(a42310)
依頼依存症・ノリス(a42975)
そぼふる雨・エルレイン(a65285)
NPC:次のページへ・カロリナ(a90108)



<リプレイ>

●麦に巣食う者
 影を垂らす雲が消え、清い空気が消え、空の青は毒々しく、地面は沸々と怒り出す。誰に許しを乞うこともできないまま朝を看取り、昼の暴虐を受け入れるしかない。霊査士の情報を元に麦の原に着いたのは、そんな時刻だった。

「動物は見当たりませんね」
 想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)が辺りを見回して、少し困った表情をする。獣達の歌で偵察のグドンを見かけないか聞くつもりだったのだが、あえて捕食者の集落に近寄る獣はいないらしい。自分達以外の動物といえば、嫌な光沢の羽虫が飛び交っているのみだった。
「ところどころ、踏み折られて道がついた麦があるようどす。グドンの活動範囲なのは間違いないおますな」
 そぼふる雨・エルレイン(a65285)が慎重に麦の生え具合を探り、注意を喚起する。冒険者達は各々召喚獣を遠ざけて体にカムフラージュを施し、麦のざわめく音の中へと飲み込まれていった。

「この歳でかくれんぼ、ね」
 ヒトの剣聖・ジュダス(a12538)がぽつりと漏らす。一同は匂いを消すために泥を塗り、鎧の隙間に布を詰め、麦の穂を折り取って服や髪に差し、身を低くして進んでいた。乾いた熱風を正面に受けながら、波立つ麦の海を搔き分けて中央部へ近づく。
「こんだけの麦見るとなんかこう……あれだね、収穫したくなるねぇ」
 冒険者を生業としてどれほどの星霜を重ねても、若かりし日の思い出は消えないらしい。かつては農民であった轟鋼瀑布・リジュ(a04411)は、麦の生育を観察していた。
「流石グドンも喰わないだけあって、色艶悪ぃけども」
 麦は青かったが溌剌とした勢いはなく、暑熱と乾燥のために痩せ、枯れたものもあった。そのおかげで前方も全く見えないわけではない。
「静かに……集落だ」
 時折頭を麦から出し、遠眼鏡で周囲を確認していた斬風の黒琥・ウォーレン(a01908)が告げた。レンズ越しの視界には、麦の海から突き出る諸島のようなボロのテントが五つ、映っていた。
「ノリスさん、カロリナさん、クリスタルインセクトを」
 書庫の月暈・アーズ(a42310)の淡々とした声は、上からの強い陽射しの中でささやかな涼しさを感じさせる。
「よし、やるぜ」
 暑さで心が溶けかけていた依頼依存症・ノリス(a42975)も持ち直し、アーズ、ノリス、カロリナはクリスタルインセクトを召喚した。

 体長一メートル半のクリスタルインセクト達は青い頭頂部に光を受け、アーズ達の視覚をグドン集落へと運ぶ。アーズのインセクトは南側から、ノリスのインセクトは東側から、カロリナのインセクトは西側から、傾いたテント群へ近づいた。
「ナンだアレは!?」
 ほどなく、見張りに立っていた虎グドンに発見される。見張りのグドンは言葉にならない吠え声で騒ぎたて、テントの中から同族達を引きずり出した。

 三人は発見されたインセクトを雑音形態で放っておき、新たにインセクトを出して再び集落に向かわせる。先に召んだインセクト達はグドンから攻撃されたらしく、水晶の体を赤く輝かせて戦っていた。グドン側はテントから続々と姿を現し、てんでにインセクトを取り囲む。中にはピルグリムグドンの姿もあり、その行動は他のグドンとは違っていた。
「あれは、『君を守ると誓う』どすか?」
 遠眼鏡でグドンの様子を探っていたエルレインが呟く。鉱物化した皮膚の重騎士風ピルグリムグドンはお互いに、更には吟遊詩人風ピルグリムグドン達にも、重騎士のアビリティに似た力を掛けていた。それが終わるとクリスタルインセクトの包囲に加わる。
「牙狩人ピルグリムグドンはテントの北側に向かうようだ」
 同じく遠眼鏡を覗くウォーレンが仲間達に伝えた。片手が筒状に変化したグドンは六体連れ立って、インセクトと包囲の同族を置いたまま麦の奥に消える。しばらくすると六本の光の矢が、踊る緑陰の間から飛び来たり、インセクトを次々に貫いた。光る矢はホーミングアローに似て、捻じくれた軌道を描いていた。

「普通のグドンと重騎士グドン、吟遊詩人グドンが敵を囲んで足止めし、安全な距離まで下がった牙狩人グドンが一斉射撃する戦術――というか戦法というか――のようですね」
 仲間からグドンの様子を伝え聞いたラジスラヴァが考察する。
 その横でアーズ、ノリス、カロリナは逐次インセクトを召喚し、グドン達の方へと送り出していた。グドンの戦列は水晶の輝きを追い、徐々にこちらへ近づいて来る。
「ファミリア、ナパームを頼む。派手に射ってグドンを減らしてくれ」
 敵が十分接近したのを見計らって、ウォーレンが蒼の想唄・ファミリア(a03208)に促した。突如巻き起こった爆発にグドン達は慌てふためき、次に攻撃して来た者を探してファミリアを発見する。
「アソコにもテキだ!」
 クリスタルインセクトの突撃を受け止めた重騎士グドンが、棍棒でファミリアを指し示した。
「いよいよですか」
 黒炎に覚醒する博愛の道化師・ナイアス(a12569)を筆頭に、ファミリア以外の十二人も立ち上がる。一番小柄なリジュでも、足腰をしっかり伸ばすと頭が麦の上に出た。してみると、麦の丈にすっかり収まってしまうグドン達はリジュよりもう一回り小さいのだろう。麦を揺すり、踏み倒しながら殺到するグドンを、冒険者は迎え撃った。

●麦の野原で捕まえて
「……とはいかないおますな。捕まるわけにはいかないおます」
 エルレインがサーベルを抜き放ち、チキンスピードで全員の反応を高める。
「『捕まえて』というのは思い違いで、本当は『出会ったら』だったんですよね」
 どうでも良いことを言いながら、カロリナは緑の突風で回り込もうとするグドンを吹き飛ばした。しかし多勢に無勢の上、視界の悪い中で一度に多くのグドンを倒せない冒険者達はじわじわと包囲されていく。

「数だけで勝てると……数次第では勝てるな」
 ジュダスはグランスティードに跨り、巨大剣インぺリウムでグドンの攻撃を弾く。ただの虎グドンの爪牙では、ノリスの鎧聖降臨で守備を固めたジュダスにほとんど傷をつけられなかった。重騎士グドンの棍棒は流石に鎧の上からダメージを与えてくるが、
「大丈夫ですか?」
 それもラジスラヴァ、温・ファオ(a05259)、吟遊詩人・アカネ(a43373)の凱歌とヒーリングウェーブによってすぐに全治する。
 見れば、ウォーレン、リジュ、ノリスも打たれ弱い仲間を円陣の内側に庇いながら、余裕で攻撃を捌いていた。エルレイン、着ぐるみ疑惑・ガルーラ(a39452)も危なげなく対処し、隙間を縫ってくるグドンはアーズとカロリナが緑の突風で押し戻す。

「はン、こいつら結構いい動きすんじゃないかい」
「レイジングを撃つ。麻痺の回復を頼む」
 リジュの無銘の鈍刀が、ウォーレンの破戒剣《アルファルド》が、闘気の竜巻を起こす度にグドンの肉片と麦の茎葉が飛び散り、見通しは開けてきた。ガルーダのリングスラッシャーも、敵群に飛び込んで寿命を迎える短い間に麦の穂を刈り落とす。
「これだけ視界が開ければ」
 グドンの姿が顕になってしまえば、ノリスの、アーズの、カロリナのエンブレムシャワーが、ジュダスのレイジングサイクロンが、更にはナイアスのニードルスピアが、回復の隙も与えずにグドンを麦の滋養分と変えていった。

 激しくぶつかり合って数分は経っただろうか。勝負の大勢は決していた。
 九十に迫る数を誇っていた通常グドンは全て死ぬか逃げるかしてしまい、元々の耐久力が違うらしいピルグリムグドンだけが残っている。
 冒険者は重騎士グドンと吟遊詩人グドンに猛攻を仕掛けていた。六体はダメージを分担し回復しながら耐えるが、じわじわと追い詰められていく。冒険者の一団に対して、重騎士グドンも吟遊詩人グドンも脅威とはなり得なかった。
 脅威となるのは六体の牙狩人グドンであり、それに対処する方策を持っていなかったことが、恐らくは冒険者側の敗勢の原因なのだった。

「今だ、ナイアス。止めを頼む」
 短く端的に合図したウォーレンの剣は、今まさに流水撃で重騎士グドンに致命傷を与えた所だった。
「これで斃せば」
 ナイアスの魔杖『蛟麟』から悪鬼の如き炎が迸り、ぎりぎり生の世界に踏み止まっている重騎士グドンを焼いた。
「ギャァァァッ!」
 焼かれた重騎士グドンと、隣でダメージを分担していたもう一体の重騎士グドンが同時に力尽きた。黒い炎は火勢を衰えさせないままに死体から離れ、ピルグリムグドンのクローンへと形状を変える。
「向こうから射掛けてくる敵を斃しなさい。……っ!」
 クローンに命令を出すのとほぼ同時に、六本の光の矢が風を切り、ナイアスへ迫った。ホーミングする矢の最初の一本を躱し、次を鎧聖降臨で強化されたタキシードが完全に弾いたが、残り四矢はナイアスを貫く。治癒する暇もなく戦闘不能に陥ったナイアスを、ノリスが付き添って後方に退避させた。同様にして既に戦闘不能に陥っていたラジスラヴァ、アーズ、ファオ、アカネ、エルレインの隣、麦の群生の中に隠れさせる。

「ガァァァッ!」
「ギィィィィ……」
 ファミリアの鮫牙の矢がようやく一体の牙狩人グドンに止めを刺し、ジュダスのデストロイブレードが庇護を失った吟遊詩人グドンを地に伏させる。それが限界だった。
 ナイアスが倒れたことで十三人中六人が戦闘不能の上、回復アビリティはジュダスのヒーリングウェーブだけになっている。ウェポン・オーバーロードを施したインぺリウムでは、気休め以上の治癒は期待できなかった。
「これ以上は無理だぜ」
「仕方ないねぇ」
「グドンへの私怨が増えてしまうな」
「しぶとく生き延びれば、機会はまた来る」
 幸い、牙狩人グドンを狙って突っ込んでいくグドンクローンに、ピルグリムグドン達は気を取られていた。動ける者が戦闘不能者を背負い、冒険者達は遁走する。

 麦の群生を抜けて後ろを振り返ると、戦いを繰り広げた辺りは遠目にもはっきり分かった。その付近だけ麦は無残に刈られ、生き延びたものは返り血を吸って真っ赤に染まっている。
 ウォーレンは遠眼鏡で確認する。追手はなかった。恐らくはグドン側も、これ以上戦えばどうなるか分らないと感じたのだろう。そういう意味では戦いは痛み分けだったが、集落を壊滅させられなかった以上、依頼としては失敗だった。

「少しでも役に立ちたかった」
 背負われたアーズの口からぽつりと言葉が漏れる。
「全く役に立たなかったわけではありませんよ」
 同じく背負われたカロリナが言った。
 百体のグドンを残り数体まで減らしたのだから、民のため、他の冒険者のため、全くの無駄足ではなかっただろう。それきり何も言わず、冒険者達は帰還を急ぐ。
 刺すような日光と熱風の荒野に響くのは、意味を成さない麦の囁き声だけだった。


マスター:魚通河 紹介ページ
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作成日:2007/08/03
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死亡者:なし
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