誕生日村withビフィーネ



<オープニング>


「最近ね、ミュントスの変わった村をもっと紹介してくれってリクエストが増えてきているんだけど……ギャロがちょうどいい情報を持ち込んでくれたの」
 艶やかな黒髪を指先で弄びながら、ストライダーの霊査士・レピア(a90040)は地獄の観光地に興味津々の冒険者たちに語りだした。
「誕生日村っていうのがあってね。訪問者がその月の生まれだったらとにかくお祝いしまくる奉仕しまくるっていう、年中お祭り騒ぎの村なの」
 正確には誕生月村だけど語呂が悪いから誕生日村だ、と彼女は付け加えた。
「お祝いのためのアイテムや食材は何でも揃っていて、それはもう、いろいろなことができるわ。何より村人はみんな、他人を祝うことにかけてはプロフェッショナル。至れり尽くせりよ。そこで誕生日会ができたら、絶対に忘れられない日になるでしょうね」
 ちら、とレピアが壁のカレンダーを見る。
「今から準備して行くとなると、8月か。8月生まれの人たち、ぜひ行く価値があると思うんだけど。もちろんそれ以外の人も、他所じゃできないようなお祝い攻勢で楽しめると思うわ」
「……あの、私も8月生まれなのですが」
 レピアの隣のテーブルに座るセイレーンの武人・ビフィーネ(a90295)がそう言った。へえ、とレピアは目を輝かせる。
「ちょうどいいじゃない。行ってきなさいな。……修行になるような危険なことはないからね。一応、それだけは言っておくわ」
 このふたりは数日前に知り合った。レピアもビフィーネの修行好きは聞いていたので、そんなことを言うのだった。
「ええ、たまには羽を休めようかと」

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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
緑星の戦士・アリュナス(a05791)
ローズ・マリー(a20057)
君と笑顔でいたい・ツカサ(a33966)
小さな絵描き天使・ゼフィ(a35212)
闇夜の噂を商う紫炎の操劇・シエン(a37609)
多装武具装士・レクス(a41968)
ドリアッドの牙狩人・リュウハ(a53365)
最後の時まであなたの傍に・カヤ(a56239)
白銀の独奏者・タイミス(a61564)
気力一瞬・ソフィー(a64378)
えきぞちっくますこっと・トミィ(a64965)
NPC:セイレーンの武人・ビフィーネ(a90295)



<リプレイ>


『ウェルカム誕生日村』
 などと巨大文字で書かれたアーチを潜り、冒険者たちは誕生日村に到着した。
 入ってすぐ、女性がひとり立っていた。丁寧な物腰で彼女は聞く。
「ようこそ誕生日村へ。8月生まれの方はどなたですか?」
 シンプルな問いかけであった。該当者が名乗り出ると、受付嬢(?)は首にかけていたホイッスルを高らかに鳴らした。
 奥からどやどやと村人たちが集まってきた。50人以上はいる。
「さあ、この方たちです。出だしは盛大に!」
 8月生まれの面々が、村人たちに捕まった。
 いったい何をする気だと思う間もなく、彼らは宙に浮かんだ。
「誕生日おめでとおおお!」
 わっしょい! わっしょい! わっしょい!
 ポンポンと胴上げされる8月生まれの冒険者たち。驚きつつ、めったにされない胴上げに顔がほころんだ。宙を舞う体が、ぞくぞくと興奮に包まれる。
 この村人たち、最初からテンション高すぎである。君と笑顔でいたい・ツカサ(a33966)は少し恥ずかしいなと思った。こんなに多くの人に祝われるというのは経験がない。
 手始めに気力一瞬・ソフィー(a64378)が、自分のために歌を歌ってもらえないかとリクエストしてみる。
 すると村人たちは、まるで合唱団のようにささっと複数の列を形成し、ソプラノ・アルト・テノール・バス――壮大な男女混声によるバースディソングを歌い上げた。
「すご〜い! 皆さんありがとうございます。完璧にハモッてましたね」
 ソフィーはひたすら感激して拍手を送った。
 しかしこの程度、まだまだ序の口なのだろう。次は何をされるのかと想像しながら、村の奥へ案内されていった。


 誕生日という一年一度の祝日。今までの、そしてこれからの人生に想いを馳せ、周囲のすべての者たちに感謝をする……そんな紳士的な思いでいる新米店長・アリュナス(a05791)は、とりわけ女性たちの注目を集めていた。上質な燕尾服を着ていたのも効果ありだったようだ。
「お兄さん、何をしてあげましょうか?」
 聞いてくる女性たちに、彼は照れながら答えた。
「いやあ、美味しい食事と飲み物と……あとは自分の踊りに付き合ってくだされば」
 決して上手ではないと自覚してはいるけれど、彼は懸命にダンスを踊った。パートナーとなるのはいずれも美女ばかりで、傍から見ても素晴らしい光景。身に余る幸せだなあとアリュナスは破顔する。
「私は……歌を歌わせていただきますね」
 そう言ったのは蒼穹の城を護る守護天使・ゼフィ(a35212)。彼女も8月生まれだが、皆の楽しそうな笑顔が私にとって一番のプレゼント……そう考えていたのだ。
 歌唱が趣味なだけに、ゼフィの歌は抜群だった。小鳥のさえずりのような心地よさが耳を打ち、ダンスのバックグラウンドを確かに務めた。
 ふと、上空がまばゆい光に包まれた。何事かと見上げると、そこに浮かんでいたのは1匹のフワリンだった。
「みなさん、お誕生日おめでとうです」
 そこから、朱に染まる駄天使・トミィ(a64965)がブルースカイアンブレラを差して舞い降りた。華やかな演出に歓声が飛ぶ。
「皆様のために、傘踊りを舞います」
 彼は一礼すると、アンブレラをひゅんひゅんと曲芸のように操った。それは神秘的で幻想的。祝い上手の村人たちも、これほど立派な舞は習得してはいない。我も忘れて見入っていた。
 そして上空にはタライを乗せたトミィのフワリンが。制限時間が過ぎてフワリンが消えると、タライの中身――菓子やら花びらやらが一斉にばらまかれる! 子供たちは大喜びだ。最後にシリュウがタライを見事な斬撃でぶった斬ってみせ、ラストの演出とした。劇団も真っ青であろう。
「祝われるだけじゃつまらないから、俺からも村にプレゼントだ」
 ドリアッドの牙狩人・リュウハ(a53365)がひまわりやパパイヤ、マンゴーなど、地獄にはない太陽を連想させる品々を広げる。村人さらにヒートアップ。おまけに村の少女舞踏団が乱入したりして、場が一気に華やいだ。
 ――こんな感じで、踊りと歌が満ち溢れる広場。出だしは上々といったところ。村人たちも祝い甲斐があるお客だと、至極満足げに笑っていた。

 さて、その向こうのカフェテラスでは、なにやら可愛い女の子と男の子の一団が集まっている。
 中心にいるのは、ぼくの・マリー(a20057)だ。
「最高どすなあ♪」
 右に美少女、左に美少年を抱える彼女。肌をスリスリさせたり頭を撫でたり頬に軽くキスしたり。そんでもってケーキをあ〜んされたり扇でゆるやかに風を起こされたり、どこの王侯貴族かというハーレムぶり。この村のお祝いは物量作戦が基本なのねと、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は歓待を受けながら分析した。
「そちらも楽しんでいるようで何よりどす」
「ええ、食事が美味しいですねこの村は」
 マリーの向かい側にいるセイレーンの武人・ビフィーネ(a90295)も、仲間たちと賑やかに飲んで食べていた。
 闇夜に舞い散れ心の唄・カヤ(a56239)が、恭しくお菓子とドリンクを運んでくる。
「ふふ、私がここまでやるなんてあまりないことですよ」
 彼女は今日は奉仕に徹しようと考えている。それは幸運ですねとビフィーネは微笑んで答えた。
「ビフィーネお姉ちゃん、あ〜んしてください♪」
 ツカサが持参のクッキーを差し出すと、ビフィーネは一口で平らげた。
「これも美味しいです。……あ、来たみたいですよ」
 ツカサの前に、彼の年齢分のローソクが立った大きなケーキが運び込まれた。途端、周囲からバースディソングが流れる。
 ……優しいお兄さんになれますように。
 心の中で願いながら、彼は火を吹き消した。パチパチと拍手が鳴った。
「何を願ったんだ? ……ってのは聞かない方がいいかね。それよりこの村、いい酒がたくさん置いてあるぞ。ビフィーネもガンガン飲め!」
 闇夜の噂を商う紫炎の操劇・シエン(a37609)が次々とグラスに美酒を注ぐ。
 お菓子も飲み物も、とても甘い。味そのもの以上に、雰囲気からしてほんわかと甘いのだ。これこそ誕生日特有の空気である。
「何にせよ、誕生日おめでとう。皆、これからも依頼で一緒になった時はよろしく頼む」
 多装武具装士・レクス(a41968)が言った。この日を通じて、冒険者たちはこれまで以上にずっと親密になれるだろう。仲間との絆こそ第一……レクスは胸をふつふつと熱くさせながら、会話に花を咲かせた。
 ふと、壮麗なハーモニーが耳に心地よく響いてきた。
 見れば、少年少女たちがドレスの金髪美女の指揮の下で合唱している。白銀の独奏者・タイミス(a61564)がリクエストしたものだ。
「この一ヶ月の喧噪が嘘のようですね……」
 安らかな声音に身を預けながら、タイミスは思う。
 先のドラゴン戦争で、冒険者は多大な疲弊を強いられた。生きて戻れなかった者も大勢いる。
 こうした何気ない日常が、実は大きな宝物なのだ。そう思わずにはいられない。


 いくぶんかクールダウンした広場で、立食パーティーが催された。食材は本当に山のようにある。よほどこのあたりは豊からしい。
「今日は私たちのためにこんなに盛大な誕生会を開いていただきまして、本当にありがとうございます」
 ソフィーが深々と礼をする。村側としても、吟遊詩人の彼女が奏でる楽器や歌は心地よく、接していてとても楽しそうだ。
「ほら、口開けて。お姉さんたちが食べさせてあげる♪」
「ありがと。あ〜ん♪」
 ツカサは年上のお姉さんたちに囲まれ、あれこれと世話をしてもらっていた。ご飯を食べさせてもらったり、頭を撫でてもらったり。冒険者とはいえ、まだまだ甘えたい年頃。彼はこれまでの我慢を解放するように、思う存分甘えるのだった。
「粗相になるかもしれませんが、お礼の意味を込めて、舞を舞ってもいいですか?」
 タイミスがゆらりと舞踊を始める。それはこの村にはないタイプの、演劇に近い舞い方だった。静かなのに不思議と躍動感に満ちていて、一時も目を離せないほどの魅力に満ちていた。
「負けてられないわね」
「あら、私こそ」
 衣装倉庫から持ち出した煌びやかな踊り子衣装を身にまとい、ラジスラヴァが激しいダンスを披露する。カヤは赤薔薇の束を宙に投げると、それを円舞で細かく刻み、鮮やかに周囲に散らして見せた。幸せの運び手を発動したので、誰もが喜色満面だ。
 その向かいでは、ゼフィが年の近い子供たちとビンゴゲームに興じている。歌や踊りもいいが、大勢で遊ぶのが誕生日の醍醐味だ。リーチ、ビンゴと景気のいい声が立て続けに飛ぶ様は、見ていて気持ちがいい。
 そしてもうひとつ、誕生日の定番。
「こっちに注目〜」
 コインを手の平に乗せてハンカチで覆い隠すトミィ。現時点でちゃんとあることを、いったんシリュウに確認させる。皆の視線が張りつくように集まる。
 そしてハンカチを取った。
 すると、コインが消えているではないか。ひそかにシリュウに渡したのだが、一切気取られない見事な手品。今日一番の歓声が上がった。
 ――アクシデントが起きたのはその時だった。
「熱い。脱ぎたい」
 嬉しいことを言う女性の声。それは真っ赤な顔のビフィーネだった。
 勧められる酒を断りきれずに全部飲み、完全に酩酊してしまったらしい。
 よし来たとばかりに村の女性陣がビフィーネをさらい、人壁の中でスポポーンと衣装を脱がしていく。
 そして再び現れたビフィーネは、ほとんど裸に近いマイクロビキニになっていた。
「むう、これは新種の軽装備。レクスさん、先ほど誕生日プレゼントに剣の稽古とおっしゃいましたね。ぜひ今ッ」
「え? ちょっと」
「問答無用〜」
 体中をぷるぷるさせながら突貫する謎の武人。これぞ酔剣などと言っている。一応、酔っているという自覚はあるようだ。そして意外にレクスの剣を巧みにかわす。
「来てよかった」
 7月生まれで誕生日はちょっと前に過ぎてしまっていたリュウハは、これで取り戻せたぜグッジョブと心の中で親指を立てた。
 そして元凶のシエンは、ゆらゆら剣を振り回すビフィーネと並んで、ダンスパートナーのごとく息の合った動きを見せる。もうなにがなんだか。


 どかーんと爆音が響いた。
 締めとして、リュウハが戯れに誰もいない場所に向けてコンフューズナパームを撃ったのだ。村人たちがいい感じにクライマックスまで乱れていく。
 そうして、宴に幕が引かれた。
 村人全員が冒険者の前に集まって万歳三唱する。まったく陽気な人たちである。
「ふふふ、お持ち帰りしたいどすなぁ」
 相変わらずハーレム状態のマリーが冗談を言う。少年少女たちは、あははとノリよく笑っていた。
「世間話が充分できたし、とても有意義な時間だったわ。もっと恋愛について聞きたかったんだけどね?」
 カヤがレクスに話しかける。彼女たち非誕生日組も、この上なく楽しめたようだ。
「いや、まあ。それより、いろいろと発見があったのがよかった」
 誕生日村の住民は、壮年でも皆若々しいことがわかった。年がら年中楽しいことばかり……それが理由なのは間違いないだろう。
 ここでゼフィが、ずっと作業していた絵画を完成させた。全員の注目が集まる。
 パーティーの様子が優しく、色鮮やかに展開されている。嬉しそうな人と風景。それは何にも勝る宝物だった。

 冒険者たちは入口まで引き返した。見送りはもちろん村人総出で。
「来年再びこの場に戻ってこれるよう、懸命に努力します。みなさん今日は本当にありがとうございました」
 ソフィーが皆を代表して感謝を述べた。拍手で応える村人たち。
「これからの一年、とても楽しく過ごせそうな気がします」
 タイミスの言葉に、今日のすべてが凝縮された。
 誕生日はその日のためだけにあるのではない。華々しい明日のためでもあるのだ。


マスター:silflu 紹介ページ
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作成日:2007/08/09
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