≪緑種の女王エンケロニ≫一つ首の薔薇と



<オープニング>



「むむむむむ……」
 スゥベルが持ち帰った土を手に、紫猫の霊査士・アムネリア(a90272)は唸っていた。その土から見えたもの……。
 雄大なるワイルドファイアの地を我が物顔で闊歩するエンケロニと、その足元を取り囲むように広がりながら彼女に付き従う緑種が集まっていた。
 そしてその多くは体中に黄色い花を咲かせた蔦を巻きつけ……あまりに多いそれらが集まる場所は、一見すれば森にしか見えないほどだった。
 護衛士が見たと言う根の始動は正に、彼女の眷属の力を吸ってエンケロニは嘗ての力の一部を取り戻した証拠。
 一度動き始めれば後はもう手が付けられない、留めていた水が一気に流れ出すように、エンケロニの成長速度は上がり、彼女の眷属の力も強大になってゆく。
 そうなる前に手を打たなければならない、何とかしなければならない。
「まだ、ちょっと厳しいけど……」
 不安を完全に拭う事は出来ない……けれど……今は、彼等に任せようと頷いて、アムネリアは護衛士達の下へ歩き出した。

●一つ首の薔薇と
「こちらの班には、三つ首と一緒に居た一つ首の方を相手にしてもらう」
 一つ首の薔薇怪獣は、三つ首と比べれば大したことも無いように見えるが、それ単体で十分に強力な怪獣だ。そんなものを三つ首と同時に相手にするのは少々無謀といえる……防御一点張りならまだしも、倒そうとするなら特にだ。
「三つ首の薔薇と戦う連中が奴に集中できるように、上手く一つ首だけを引き離して倒してくれ」
 要するに梅雨払いと言う役割なのだが、この手の戦闘に置いて梅雨払いほど重要な役割は無い。
「一つ首の薔薇は、首を振って敵を刻む能力と……まだ何か雑草魂的なものを隠しているようだが……」
 アムネリアは説明の途中で首を傾げると、う〜んと唸る……何か隠している能力があるのなら良く良く考えて対処しなければならないだろう。
「あ、一つ首を三つ首よりも先に倒せたら三つ首の方に加勢してやってくれ」
 それじゃ頑張って、と言うとアムネリアはその場を後にした。

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参加者
白妙の鉄祈兵・フィアラル(a07621)
そよ風が草原をなでるように・カヅチ(a10536)
空気は読まない・レジィ(a18041)
彩士・リィ(a31270)
無垢なる白・ラシェット(a40939)
空白の大空・マイシャ(a46800)
ノソ・リン(a50852)
深遠の月影・ヴィーナ(a51229)


<リプレイ>

 木々の合間から見える雲ひとつ無い空に、羽ばたく鳥の影が一点の染みのようにその青さに影を落としていた。
 前回薔薇怪獣達と戦った辺りに着いた一行は、周囲を警戒しながら目的の薔薇の探索を開始する。
「……しっかり気を引き締めて頑張らないといけないわね」
 キョロキョロと周囲を見回すたびに髪に飾った大きなリボンを揺らしながら、無垢なる白・ラシェット(a40939)は言う。前回まともに戦う事すら許されなかった相手……今回は前回を踏まえてそれなりの作戦を立てているとはいえ、決して油断できる相手ではないだろう。
「ええ、油断せず行きましょう」
 ぴょこぴょこと揺れるラシェットのリボンから周囲への警戒に意識を戻すと、そよ風が草原をなでるように・カヅチ(a10536)は同意する。そして、視界に入った三つ首の薔薇怪獣を相手にする仲間たちを暫しの間見つめると、速やかにこなして彼等を手伝いに行きたいですしと付け加えた。
「確認の意味も込めて、しっかり戦っておかないとねー」
 相変わらず飄々とした気合を見せるカヅチに頷きつつ、ふははははやってやった・レジィ(a18041)は考える。一つ首の薔薇怪獣を倒す……それ以外にも、新たに手に入れた力を確認しなければと。
 力は正しく認識し、活用しなければいざと言う時に迷いが出る。迷いは力の行使を鈍らせ、やがてそれは致命的なまでの隙を作る事もある。今回ある程度の力を持つ怪獣と戦い、新たに得た力を試せると言う事は考え方によっては絶好の好機であるとも言えるのだ。
 だから早く見つけて……と周囲を見回すとウネウネと動く植物怪獣達の合間に、真っ赤なものが見えて――

 冒険者達と薔薇怪獣達がお互いに気付いたのはほぼ同時だった……見た目の目立つ薔薇怪獣を冒険者が見つけるのは当然として、薔薇怪獣達がどうやって敵を認識しているのかは不明だ。
 一つ首の薔薇怪獣はグルングルンと首を振り回しながら、白妙の鉄祈兵・フィアラル(a07621)の目の前に立つと人の体よりも大きな薔薇の花をを支える棘の生えた茎を擦り付けるように当てる。ギギギィィンと幾つ物棘がフィアラルの鎧とぶつかりあい、金属同士がぶつかり合うような甲高い音が連続で響き渡る。
 そして間を置かずに三つ首の薔薇怪獣が一つ首と同じように三つの首をそれぞれ振り回して茎の生える棘で前に立っていた冒険者達の体を刻むが……その程度で倒れるような者はこの中には居ない。
「ふむ、これ程心惹かれぬ不細工な薔薇はないのう。早々に降板頂くとしましょうの」
 フィアラルは一つ首の薔薇怪獣と三つ首の薔薇怪獣の攻撃を凌ぎ切ると、自分よりも遥かに背の高い薔薇怪獣を見て渋面になっている、彩士・リィ(a31270)の鎧に強大な力を注ぎ込みその形状を大きく変化させる。
 そしてカヅチとリィは気合に満ちた熱い歌声で中間達の傷を癒し、ラシェットが命を救いたいと言う願いの力を得た美しく魅惑的な聖女をフィアラルの前に作り出し……聖女がフィアラルに優しく口付けるとフィアラルの傷が完全に塞がった。
(「私達の新しい力……」)
 その力にラシェットは少し目を見開く。この力を用いれば今までよりも多くの仲間たちを癒せるだろう、より多くの戦場で力となれるだろう。だからもっと……頑張らなきゃとラシェットは銀の杖を持つ手に少し力を入れた。
「レディに贈れぬ薔薇など全力で刈り取ってしまいましょう!」
 青緑山水・マイシャ(a46800)は不吉な絵柄が描かれたカードを作り出して、銀花小花・リン(a50852)がリィの肩に手を置いて守りの誓いを口にする横から一つ首の薔薇怪獣に投げつける!
 ペインヴァイパーの青いガスに包まれクルクルと回りながら一つ首の薔薇怪獣へと飛んだカードは見事に巨大な花を支える茎へ命中し、カードが突き刺さった部分から染みが広がるように茎が黒く変色していった。
 一つ首の薔薇怪獣は、自らの体に傷を付けたマイシャに向かい真っ赤な薔薇をむけると大きく首を振ってその茨でマイシャの体を刻もうとする! だが、茨はマイシャの前に儀礼用盾を持って立ちはだかったカヅチに防がれ、殺しきれなかった勢いが地面に一筋の線を刻むだけだった。
 そして今一度撃たれた三つ首の振り回す首の攻撃を耐えしのぐと、フィアラルは強大な力をカヅチの鎧に注ぎ込み、その形状を大きく変化させ、当のカヅチはふぅと軽く息を吐き黒いしみの回復しない一つ首を確認し――大きく笛を鳴らした。

 カヅチの合図を待っていたかのように、リィは一つ首の薔薇怪獣の前に軽い身のこなしで躍り出ると、片手で黒塗の蛮刀を一つ首の薔薇怪獣に向かって突きつけ……。
「如何に抵抗しても薔薇だけにバラバラにしてくれるわっ!」
 大声で挑発した!
 一つ首の薔薇怪獣は怒り心頭! と言った様子で体をウネウネと動かし、一つ首と三つ首の薔薇怪獣の間に入ったレジィは肘から指のつけねまでを覆う黒い手袋で紡ぎあげた紋章の力を木の葉と成し、やがて七色の木の葉を含んだ突風と昇華された突風が一つ首の薔薇怪獣を吹き飛ばす!
 そしてラシェットが今度はカヅチの下へ聖女を呼び出し……首を傾げると同じように首を傾げるレジィと視線が合った。バラバラ……ばらばら? 薔薇だけに?
「……薔薇だから?」
「……薔薇なだけに?」
 ああ、なるほど。と同時に同じ結論に至ったらしいレジィとラシェットがリィに視線を送ると、
「な、なんじゃ。断じて洒落ではないのじゃぞっ」
 リィが必死に手を振って弁明していた。だが、同じような結論に至ったフィアラルが見た事も無いような満面の笑みで親指を立てていた。やりましたね! これで貴方も一人前です! 的な笑顔だ。
 ち、違うのじゃ! 信じて欲しいのじゃ! と、リィはそれでもなお違うと言い張る……だが、やってしまったものは仕方が無いのだ、強く生きると良い……そう、若さとは振り返らない事なのだから。
「綺麗な花には棘があると言うけれど……美しくもないのに棘だらけと言うのはどうなのかな」
 ガックリと落ち込んだリィはともかく、うねうねとうねる一つ首の薔薇怪獣の様子を見て、深遠の月影・ヴィーナ(a51229)は呟き、癒しの光を放つ。世界から貧困と悲しみを無くしたいという願いの力が上乗せされた癒しは仲間達の傷を塞いだ。
 そしてリンがレジィと同じように一つ首と三つ首の薔薇怪獣との間に入り、一つ首の薔薇怪獣に軽く触れると、
「はぁ!」
 爆発的な気を叩き込んで一つ首の薔薇怪獣の巨体を吹き飛ばし、さらに吹き飛ばされた薔薇怪獣の着地を狙ったようにマイシャが自らの気を練って作り出した刃を一つ、二つ、三つと次々と投げつけその根を切り刻んでいった。

 一つ首の薔薇怪獣が怒りに任せてリィに根を振るうが、リィは大型盾でその攻撃を弾く。あっさりと自分の攻撃が防がれたことに一つ首の薔薇怪獣はさらに苛立つが……万が一当たったとしても、リンの誓いがある限りリィを倒す事は難しいだろう。
 三つ首の薔薇怪獣は花をグリグリと回転させながら灰色の髪の戦士に襲い掛かるが彼は軽い身のこなしでそれを避け、三つ首を対応している仲間達の攻撃が幾つも降り注ぐ、そしてその三つ首の薔薇怪獣の後ろからフィアラルがサーベルで地面を削りその砂礫と衝撃で三つ首の薔薇怪獣を吹き飛ばした。後衛を守るために三つ首の薔薇怪獣の距離を少しでも離したいと思うのは当然だろう。
 カヅチは舞大通連に新たな外装を追加するとポテンシャルの限界を超えた力を引き出し、リィは刃が放物線を描く黒塗の太刀で湧き上がる破壊衝動のままに一つ首の薔薇怪獣を叩き切る。
「このまま行けば……大丈夫、かな?」
 今一度軽く当てた掌から爆発的な気を放って一つ首の薔薇怪獣を吹き飛ばし、リンは戦況を確認する。マイシャが放った不幸のカードから回復できない薔薇怪獣は、リィの挑発からも逃れられずその力を十分に発揮する事すら叶わない……しかもヴィーナもラシェットも十二分に回復の力を残している現状は自分達の圧倒的有利と言っても過言ではないだろう。
 だが油断は出来ない、花蓮撃と名付けた両手に持つ斧を強く握り締めるとリンはもう一度気を引き締めなおした。

 紋章の力で作り上げた七色の木の葉が炎を伴って一つ首の薔薇怪獣を包み込む。そして、マイシャが悶絶するように体を揺らす一つ首の薔薇怪獣に自らの気を練って作り上げた刃を投げつけその体を刻んでゆくと、薔薇怪獣はぐらりぐらりと大きく揺れて――その薔薇の花を真下に向けて、動かなくなった。
「……倒したのかな?」
 動かなくなった一つ首の薔薇怪獣を何処か虚ろな目で見つめ、ヴィーナは同じように警戒するマイシャに視線を移すと、マイシャも同じように首をかしげた。
「薔薇は気高く咲いて美しく散るらしいのです」
 どうするか? と考えているヴィーナ達を他所にカヅチは、動かなくなった一つ首の薔薇怪獣に近づいて――カヅチが近づいた瞬間一つ首の薔薇怪獣はガバッと起き上がる! リンは危ない! とカヅチに向かって手を伸ばすが……、
「美しく手伝ってあげようじゃないですか」
 手を伸ばした先で、カヅチの蛮刀が薔薇怪獣の花の付け根を貫いていた。貫かれた薔薇は垂直に姿勢を正すと数回痙攣し……その花を一枚一枚落として行く。
「……風情が無いね」
 ほっと胸を撫で下ろすリンの横で、ヴィーナは思わず呟いた。その花はあまりにも大きくて風に流される事も無く、ボトリボトリと落ちたから……風情がないと言われるのも無理は無い。
「ふむ、向こうも大丈夫なようじゃのぅ」
 リィが三つ首の薔薇怪獣の相手をしていた仲間に視線を向ければ、丁度三つ首怪獣の動きが止まったところだった……どうやら向こうも上手くいったらしい。
 そしてもう一度一つ首の薔薇怪獣を確認すると、全て落ちた花びらの中央に緑色の玉が実の様になっていた。
「やっぱり在ったねー」
 それを手に取るカヅチを横から覗き込んで、レジィは頷く。向こうで新しい玉が手に入るだろうから、それより弱いものは必要ないかも知れないが……手札は多いに越した事は無いだろう。

 空を見上げれば、ゆらゆらと植物怪獣達の葉が揺らめいている。
 その数は、前に来た時よりも増えているような気がして……勝利の余韻もそこそこに一行は足早に帰路に着いたのだった。

【END】


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