青い鳥



<オープニング>


 貴方にとって、一番幸せだった時とは――?

「この世で一番綺麗な羽を持つといわれている鳥がいまして、名を至瑠璃鳥というそうデス。勿論その地域で『一番綺麗な』鳥なわけですヨ。美しさの差なんて確かめようがありませんからネ」
 能面の霊査士は冒険者達に紫掛かった深い青の羽を見せた。
 羽は不思議な力を持つかのように、キラキラと輝く――何か、鱗粉のような物か、不思議な紋様が浮かび上がるようで――
 そして何処か懐かしい何かが心の奥から溢れてくるような――
 それはふいに、冒険者達の前から消えた。
 ロウが隠したのだ。
「ふむ、やっぱりそうですネ」
 一人納得する。赫燕・ユーマが顔をしかめた。
「一人合点してないで説明なさい」
「ハイ……至瑠璃鳥は元々普通の鳥なのですが、突然不思議な力を持つ個体が数匹、出るようになったのデス。この羽は、その不思議な力を持つ鳥のものデ――この羽を見るとその人が一番幸せだった時の記憶がフラッシュバックされるそうデス」
「伝聞推定?」
 ユーマが語尾をきつめに問い掛ける。ロウは淡々と言った。
「私には幸せな記憶がありませんカラ」
「……」
「あの鳥は森の奥に住んでいるうえ、それ以外の力はなく取り敢えず数分惚ける以外害もないノデ、至瑠璃鳥については放っておいてもよいのですガ、この鳥を使って悪巧みをする盗賊がいるのデス。皆サンには、彼らを捕らえて貰いたいのデス」
 昔か、ロウはぽつりと呟くと口を閉ざした――

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参加者
凪知らぬ風・ドレット(a01579)
朧月夜に舞う桜華・ミストラル(a04441)
暗闇を駆け抜ける風・キース(a06464)
軽やかに跳ねる靴音・リューシャ(a06839)
時の旅人・クラトゥ(a07242)
万寿菊の絆・リツ(a07264)
沙海蜥蜴・パステル(a07491)
紅蓮の紳士・フレムダート(a07522)
NPC:赫燕・ユーマ(a90067)



<リプレイ>

 至瑠璃鳥の羽はその村では非常に貴重とされていた。
「盗賊達が至瑠璃鳥を狙う理由? 悪用……か?」
 誰かが口にした言葉に小首を傾げ朧月夜に舞う桜華・ミストラル(a04441)が言う。
「相手に幸せのフラッシュバックを起こさせるということは、それを利用しようとしてる自分らもその洗礼を受けるから、数分間呆けるスキに盗賊稼業働こうとしても無理だったりするんじゃない?」
「ま、どっちかというと鳥の希少価値じゃないかしら?」
 赫燕・ユーマがミストラルに答えを返した。
「ふうん、どこかの金持ちに売りつけるとか?」
「そっちの方が現実的ですけれど」
 肩をすくめて見せたユーマにミストラルは「なあんだ」と少し興醒めして見せた。
 どちらにせよ、と前置きし、
「美しいものを悪事に利用しようとは許せませんな……軽く御仕置きが必要じゃ」
 紅蓮の紳士・フレムダート(a07522)が厳かに締めた。

 凪知らぬ風・ドレット(a01579)は至瑠璃鳥の巣の在処や盗賊達について、村の人々に尋ねてみた。
 返事としては盗賊達のことはともかく、至瑠璃鳥に関しては村人達もあまり詳しくは知らないとのこと。
 元々姿形の美しい鳥として森へと帰っていく姿を見掛け、和む程度で捕獲や食用云々に関してはないらしい。
 即ち鳥の情報はかなり少なく、冒険者達は苦笑するしかない。
 強いて言うなら「森の奥に住んでいる」という霊査士から聴いた程度の情報しか、村人達は持っていなかったのだ。
「まあその辺は……しょうがないか」
 ドレットは嘆息し、立て札のような物を肩に担いで行く。
 軽く首を傾げ、軽やかに跳ねる靴音・リューシャ(a06839)がドレットに問う。
「看板……ですか?」
「ああ、『至瑠璃鳥は既に頂いた』ってな。罠へ誘導する手掛かりになればと思ってな」
 彼は木で出来たそれを軽く叩いた。
「盗賊が字を読めるほど賢ければよいですわね」
 皮肉げに笑んだユーマの指摘に、ドレットはうっと詰まるのであった。

 しかし盗賊達も頭の回らない者ばかりではない。
「やっぱり来たか……」
 ちっと舌打ちするは村に紛れ込んだ斥候である。
 冒険者達が闊歩する同盟では野蛮なだけでは盗賊家業などやっていけない。
 先に村人に扮して村の事情を熟知し、彼らが仲間を村へと誘導する――
 時間こそ掛かるが確実な仕事に、盗賊達は死力を尽くしている。
「だがどうする? 此処で動けばばれる……かといって知らせぬ訳には……」
 彼は一人ごちた。
 ややそのまま彼は沈黙を守り――いそいそと荷物をまとめ始めた。

『森で一番、キラキラ綺麗、蝶々みたいな大きな鳥さん、森に隠れてる怖い人たちに襲われりゅ〜、パステル、鳥さん守りたい、巣穴まで案内してりゅ〜♪』
 沙海の萌竜・パステル(a07491)の歌声が響く。
 冒険者総出で罠を仕掛けた後、彼らは至瑠璃鳥捜索を始めた。
「巣の場所、わかればもっと楽だったんですけど」
 暗闇を駆け抜ける風・キース(a06464)がじっと地面を見つめて呟く。
 捜索対象が鳥である以上、地面に残るのは糞か羽くらいしかないのだが、他の手掛かりは全て調べつくした。やれることは少ない。
 村人達から聞いた話を元に、至瑠璃鳥の手掛かり捜しをしているらしい。
「得られた情報は実に少ないですね……。其処から何か見つけだすのも、冒険者に求められることでしょう……」
 珍しく眺めに話し、時の旅人・クラトゥ(a07242)は薄暗い森を見渡した。
 リューシャに首尾を問われ、万寿菊の絆・リツ(a07264)は静かに首を振る。
「罠は上手くはれたと思いますが」
「りゅ〜皆さんこっちでちゅ!」
 突然明るい声が森の奥から聞こえ、彼らは反応もそれぞれに振り返る。
 ジャンプして、自分の存在をアピールしているのはパステルだった。
「動物さん達に聞いたりゅ! 至瑠璃鳥はこっちにいるでちゅ」
 天真爛漫な彼女の横ではフレムダートが好々爺然と笑んでいる。
「森の奥に巨大な木があってな。動物達は揃って彼処じゃと。確認はしておらんが、間違いあるまい」
 フレムダートは一枚の青い羽根を取り出した。
 光を反射し、紫にも暁にもなる羽は、まさに至瑠璃鳥の物。
「……おや? これはロウさんの持っていた羽とは……」
 クラトゥが言う。
 そう、彼らが見つけた羽は霊査士が先に見せた物と色も形も同じであったのだが、その羽には過去を喚起させる力はないようであった。
「至瑠璃鳥を見つけて、ひとまず今やれることはやり尽くしたわけだな……」
 同意を求めるでもなく、自身が確認するためにキースは呟いた。
 そう、冒険者達は後は盗賊達が罠に掛かるのを待つだけであった――

 日が暮れて夜も更けて。
 何回目だろうか。立ちこめる霧が晴れて視界が明るくなる度に、ドレットが新たにミストフィールドを張り直す。
 だがどんなに待っても――盗賊達が行動を起こす様子はなかった。
 事前に調べた情報を裏付けに、周辺に罠を張り巡らせ、冒険者達は息を殺す。
「……今日は行動を起こさないのかしら?」
 ユーマが答える者のない問い掛けを口にする。
 彼らは気付かない。
 盗賊達は森の中にアジトを持っており、それは何のためであったか。
 森の中のアジト、巧妙に隠す――その周到さは。
「りょおおお!?」
 パステルの奇妙な声が聞こえた。彼女は確か至瑠璃鳥を見守っていたはずだ。
「まさか」
 衝動に駆られ、リツが冷や汗を浮かべながら走り出す。他の冒険者達も然りだ。
 森を全力で駆け抜け、開けた視界の先で何かに抵抗するような羽音がした。
「畜生、目隠ししてちゃ掴めねえ!」
「網を使え、網を!」
 そこでは盗賊達が冒険者達の仕掛けた罠の、更に薄い部分を巧みに解除し至瑠璃鳥捕獲に勤しんでいた。
「やめなさい!」
 リューシャが叫びながら飛び出し、いざ幻惑の剣舞を――というところで此方へと逃げてくる至瑠璃鳥の美しい羽が視界に飛び込み、彼女は一瞬身動きが取れなくなった。
 つうと涙が頬を伝ったことで、彼女は我を取り戻した。
 厄介な、と毒突くのは盗賊だけではないらしい。
「大人しくお縄につきな……っ」
 一瞬で距離を詰め、ドレットは目隠しをし必死に至瑠璃鳥を腕に抱え込む盗賊の首元へ手刀を叩きつけた。
 よく見れば彼も至瑠璃鳥に近付いた瞬間に目を閉じていた。
 ミストラルが眠りの歌で、取り敢えず盗賊達の動きを止めようと声を張り上げた。
 渋くステッキで盗賊の鳩尾を突くのはフレムダート。
「無駄に争いたくないのは、同じでしょう?」
 策を弄すると言うことはそういうこと。キースが武器を手に、されど攻撃は行わず、盗賊達に問う。
 だが半分恐慌状態の盗賊達には無意味であった。
 必死に視線を逸らし、それでも盗賊の立ち位置へとリツがエンブレムシャワーを放つ。
「あ……」
 呟いたのは誰だろうか、咄嗟のことに混戦している状態では確認できない。
 時折誤解している者もいるのだが、盗賊は多少体を鍛え、武器を得意としていても冒険者ではない。冒険者でない以上ちょっと強い一般人、ということに代わりはない。
 そして今回の不幸は目隠しをし、至瑠璃鳥をも放すまいとした盗賊達が完全に虚を突かれたことだ。
 ただでさえアビリティの威力は壮絶であり――結果だけいうなら盗賊団は壊滅した。
 無論難を逃れた者もいる。
 だが彼らは腰を抜かし、一撃で人の命をも奪える冒険者達に、ただ恐怖した。
 至瑠璃鳥の美しい羽が舞い落ち、彼らは姿を消した――

 少し後味は悪かったが依頼は果たせた。
 盗賊を捕らえ村まで連れていくまでに時間が掛かったのは至瑠璃鳥の飛び立つ様をまるで条件反射のように皆が追ってしまったことだ。
 腰を抜かした盗賊達は冒険者に逆らうという感覚は既に失っていた。元々どちらかというと小心者の集まりらしい。
 リューシャが落ち込むリツを励ましている。
 そんな彼女も至瑠璃鳥からもたらされた思い出に、複雑な心境だった。
「過去には干渉されませんが……厄介ですね」
 呟いたクラトゥはふと森の方角を見つめた。
 黒い鳥の影が見える――大きさからして、至瑠璃鳥だろう。
 ちらりとキースが羽を見つめているパステルに問い掛ける。
「至瑠璃鳥にもう少し人の居ないところに言ってもらえないか、という話……したんだろう?」
「りゅ……でもやっぱり、故郷がいいっていってりゅ……餌は平地じゃないととれないっていってたでちゅ……でももうちょっと奥へ行くみたいりゅ……」
 彼女も彼女なりに複雑な想いなのだろう。
 神妙そうな表情で羽を弄んでいるドレットは、何を思うのであろうか――

「お仕置き、出来なかったな〜」
 依頼前は憤然としていたミストラルだが、流石に他の冒険者の前で言うのはどんな意味を含むにせよ憚られたのだろう。
「貴女は、何か見ましたの?」
 問い掛けたのは同じく居たたまれなくなったユーマだ。彼の場合理由は彼女と決定的に違うが。
「過去って奴? そりゃね、楽しかった思い出って言うのはいくつもあるわよ。でも現在を差し置いて過去に重きを置くほど、潔くない生き方はしてないわよvアタシは今をちゃんと一番幸せに生きてるもの♪」
「へえ」
 訊いておきながらユーマは気の抜けた返事をする。
 近くに腰掛けていたフレムダートにユーマが視線を送ると、彼は小さく頭を振った。
「……わしはいつでも今この瞬間がこそが一番幸せだと思っておる。無論、若かりし頃陛下に仕えて戦場で誇りをかけて戦ったときも、一線から退いて貴族の師弟の教育係として若人の成長を見守っていた時も……同盟に来て今も、どの一瞬一瞬も全て尊い記憶。思い出は常に美しいものじゃ」
「言うことが違うわねーお爺さまは♪」
 上機嫌でミストラルがフレムダートの肩をポンポンと叩いた。
 ふうんと彼にしては覇気のない反応を見せ、ユーマは遠い高い空を舞う鳥達を眺めるのであった――


マスター:神崎無月 紹介ページ
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作成日:2004/05/17
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