モンスター地域平定:ぱくぱくぱにっく



<オープニング>


●モンスター地域平定
「さぁ、みんな、お仕事よ!」
 ヒトの霊査士・リゼルは気合を入れて、酒場に集っていた冒険者を呼び集めた。

「依頼の内容は、ズバリ『北方地域のモンスター退治』これよ!」
 4月25日に行われた、モンスター地域解放戦では、北方のモンスター地域の過半を制する事に成功していた。
 だが、それは、作戦行動中の冒険者達の移動が阻害されないというレベルでしかない。
 偵察して帰ってくるだけで冒険者でも命がけという状態では無くなったが、一般の人が暮らすには危険すぎる場所なのだ。

 解放した地域のグリモアを制した事で、希望のグリモアのグリモアレベルは上昇した。しかし、それは、解放した地域の人々の生活を守る義務を背負った事でもあるのだ。
 現在住んでいる住民の安全を確保する事はもとより、住む場所を奪われ難民となっている人々に帰る事の出来る場所を作り出す事が大きな目的となる。

「解放した地域の主要な街道や地域のモンスターの撃退はおおむね完了しているから、森や洞窟、沼地などに潜んでいたモンスターを狩り出して退治するのが、今回の仕事になると思うわ」
 モンスターの潜む場所については、解放戦に参加した冒険者が集めた遺留品を元に、多くの霊査士が協力して霊視を行って調査を行っている。

「旧同盟領でもモンスターの被害は出るのだから、モンスターを全滅させるのは無理でしょうけれど……。日常茶飯事でモンスター事件が起こるようでは、安心して暮らす事なんてできない相談よね」
 そういうと、リゼルは、集まった冒険者達を見回して一礼すると、こう話を締めくくった。
「北方地域の人々の為に、皆の力を貸してちょうだい」と。

 モンスター地域という呼び名を過去の物とし、人々が平和に暮らせる場所を作る事。
 それが、冒険者達に期待されている事であった。

●ぱくぱくぱにっく
「今回お願いしたいのは巨大生物を操るモンスター退治です。この依頼……とても厳しい戦いになるでしょう」
 霊査士・ヴェインはいつになく真剣な表情で酒場に集った冒険者達に依頼の概要を告げた。一人一人の顔をゆっくりと見回し、吐息のように呟く。
「はむです……」
「は?」
「そのモンスターが操るのは、3匹の巨大ハムスターなんです」
 ヴェインの話を要約すると。
 ・巨大ハムスターは体長3〜4メートル程のものが3匹。彼らの頬袋の中には一人ずつ、小さな子供が囚われており、かなり衰弱していて危険な状態だ。
 ・それを操るモンスターは極めて人型に近い風貌で、身長130cm程。動物を操る能力に非常に長けているが、それ以外の能力は無い。3匹のハムスターのうち、どれかの頬袋に隠れていて、ハムスターを通じて養分を吸収している。
「詰まり、3匹のうちどれかに、モンスターが隠れていると?」
「はい」
「厄介だな……」
「さらに厄介なのが、巨大ハムスターを攻撃すると強い酸が口中から湧き出る事です。モンスターは酸に強い性質ですので平気なようですが、子供は生きていられないでしょう。それと頬袋から物を出すと、かなり俊敏な動きになるので戦いはさらに厳しくなるかと。最悪、逃げられる可能性もあります」
 ヴェインの言葉に誰もが沈痛な面持ちになった。情報のどれもが、絶望的な指針を示しているように思える。
「……お役に立つかどうかは判りませんがひとつ。巨大ハムスターは目の前に『より美味しそうな人間』が居れば、頬袋にしまわずにはいられないようです。そこに、活路があるかも知れません……どうか、御気をつけて。……御武運を」
 そう言って深々と頭を下げたヴェインの肩が、震えていた。

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参加者
朽葉の八咫狐・ルディ(a00300)
明告の風・ヒース(a00692)
黒獅子・キース(a00755)
蒼天の幻想・トゥバン(a01283)
ニュー・ダグラス(a02103)
剣舞姫・カチェア(a02558)
熊猫の宿主・ハロルド(a03705)
笑顔の約束・ソレイユ(a06226)
平穏願者・ルーネ(a07837)
聖魔・アモン(a08033)


<リプレイ>

 モンスターはある村を襲い、そこで子供二人を捕らえた後そのまま居座っている。霊査士から情報を得た冒険者達は現場に急行した。深い森に囲まれた小さな村へ。

●ハム観察
 村に辿り着いた冒険者達はエルフの忍び・アモン(a08033)と朽葉の八咫狐・ルディ(a00300)の先行偵察で状況を知ると、攻撃の機を窺いながら倒壊させられた家屋の影に身を潜めていた。広場に3つ、大きな影が寄り添っているのが見え、他に人影は見当たらない。
「しかし、何食ったらあんなにでかくなるんだろうな」
 遠眼鏡で巨大ハムスターを観察していたニュー・ダグラス(a02103)が感心したように呟いた。
「む? そういう問題なのか?」
 剣舞姫・カチェア(a02558)が律儀に首を捻って問い掛ける。彼女に「薄情者」と拗ねた目で見られた臥龍の武人・トゥバン(a01283)はどうして睨まれなきゃいかんのだという理不尽な思いを抱きつつ肩を竦めてコメントを避けた。
 ダグラスと共に観察を続けていた明告の風・ヒース(a00692)が遠眼鏡を下ろして溜息を付く。
「栄養を吸収されているモンスター入りは、他のものに比べて外見的特長が出ているのではと思いましたが、そう変わりませんね」
 痩せていたり、毛艶が悪かったりという特徴は見られなかった。
「囮を使って子供を吐き出させるしかないかと、考える」
「覚悟を決めるっすよ〜」
 熊猫の宿主・ハロルド(a03705)の頭上にちょこんと乗った『考えるパンダさん・くまにゃー』が結論を下した。ぬいぐるみであるくまにゃーさんが喋る仕組みは未だに謎だが腹話術ではないかというのが現在の定説だ。
「ハムちゃんは好きですけれど天敵ですの……しかもあんなに大きな」
 頭髪の先に小さなひまわりの花を咲かせる対ハムちゃん用疑似餌・ソレイユ(a06226)は小刻みに震えていた。だが称号を見よ。彼女はやる気だ。
「足手纏いにならないように、ボクも頑張るよっ」
 ソレイユの隣で美味しそうに苺を食べていた青光射手・ルーネ(a07837)がはい、と手を挙げる。
「餌が足りないようなら僕も手伝います」
 自作の『防酸てるてるくん三号』をぎゅっと握り締めたルディが、表情を引き締めて囮班に声を掛けた。自分も含め『餌』と言い切ったり、囚われている子供の特徴を霊査出来なかったヴェインを「無能」とスッパリ切捨て灰にしたりと、冷然とした態度を崩さない少年だが心根は優しいのだろう。たぶん。
 こうして冒険者達は各々の役割を果たすべく、散開した。

●非常なる等価交換
「キャー!!」
「うわ、結構素早いっす〜!」
「やっぱり怖いよ〜!」
 ドスンドスン、ドカ、バキ、ドカン!
 もの凄い地響きを立て、家屋の残骸を蹴散らして巨大ハムスター3匹が走る。新しい獲物を見付ければ頬袋から子供を出すのではないかと冒険者達は考えていたのだが、ハム達は思い通りにはならなかった。何故かと言うと、頬袋はふたつ。片方は空いているのだから。
 重量感たっぷりの巨体が思いもしない速度で駆け、それに追い掛け回される囮たちは精神的圧迫感と疲労とでクタクタだ。
「もう、走れませんの……」
 打開策の見付からないままの長期戦に、とうとうソレイユが膝を付いた。
「諦めないで! 何か方法があるはずだよ!」
 気付いたルーネが彼女に駆け寄り手を貸すと、大きな瞳を潤ませて懸命に励ます。そこに覆い被さる巨大な影。
「ルーネさん!」
 ソレイユが悲鳴を上げた。追い付いた巨大ハムが鋭い爪を持つ手で器用にルーネを持ち上げたのだ。
「うわうわうわ!」
 くるくるくる。手の中で玩具のように回されるルーネ。くんくんと毎秒6回以上の回数で鼻を動かしているのは、彼から漂う苺の香に惹かれているからだ。そして……
 おぐっ!
 ハムスターの口は物を詰め込む時にはいくらでも広がる。それは巨大なだけに、衝撃的な光景だった。ルーネを頬袋にしまいこんだハムは両方の頬袋をパンパンに膨れさせ、今度はソレイユをくりっとした丸い瞳で見た。
 あまりの出来事に彼女は呆然と、巨大な天敵を見上げている。その目前で巨大ハムは口の中に手を入れた。
 んぐっ!
「ああ! 出たっす〜!」
「ソレイユを入れるために出したのではないかと、考える」
 別のハムから逃げつつもそれを確認したハロルドが喜びの声を上げた。出されたのは、囚われていた子供の方だった。気を失っているのだろう、小さな体はぐったりとして動かない。そんな子供を巨大ハムはおもむろに捨てるという行動に出た。
「なんて事を!」
 あの高さから落とされては無傷で済まない。驚愕する冒険者の中から真先に飛び出したのはヒースだった。ストライダーならではの反応力を活かし、地面に激突する寸前で受け止める。
 その機を逃さず、アモンが影縫いの矢を投げ付けると、ドリアッドの少女に手を伸ばした体勢のままハムは動きを止めた。
「可愛い顔で憎たらしい事をしますね!」
「危ない所でしたね」
 ヒースの腕に抱かれた少年は傷だらけでぴくりとも動かない。その様子に心を痛めながらも、アモンは敵から目を逸らさなかった。
「成程、等価交換という訳ですね……どうしますか?」
 ソレイユに肩を貸してハムから逃げながらルディが静かに問い掛ける。
「……決ってますわ」
 別のハムスターが追って来るのを視界に捉えたソレイユはルディから離れると毅然と立ち止まる。
「あの子たちが助かるのでしたら、躊躇いませんの!」
 鎧進化を発動させたソレイユのローブが形を変え、ヒマワリの種らしき形を形成して彼女を包み込む。巨大ハムは手を伸ばしてソレイユ種を持ち上げると、くるくると回してから頬袋に詰め込んだ。

●Long shot〜大きな賭け〜
 ルディがハロルドと協力してハムの気を惹くと、再び子供が吐き出された。放り出された少女を受け止めたのは、行動を予測していたダグラスだ。ナイスキャッチと指を立てるヒースに合図を返して彼は気絶している子供を眺める。
「……普通の子供に見えるな」
 しっとりと濡れた体は傷だらけで、とてもモンスターには見えない。
「となると、残りのあれか……」
 同じように子供を見ていたトゥバンが眉間にシワを寄せて残りの一匹を睨み付ける。
「救出したつもりがモンスターだったじゃ洒落にならねぇが、早合点も禁物だぜ?」
「だが……」
 こうしている間にも仲間が次々と犠牲になって行く。その光景に、じっとしていられなかった。奥歯を噛み締める青年を見て、溜息と共に一歩を踏み出したのは黒獅子・キース(a00755)だった。
「俺が殺る……」
「おい!!」
 漆黒の巨大剣を構えて駆け出した彼を誰も止める事は出来なかった。キースは知っていた。己の剣は唯、敵を屠るのみ。仲間の作戦には従うが、非情な決断を下さなければならない時に先ず動けるのは自分だと。
「もうダメっす〜!」
 巨大ハムに捕まってもがくハロルド。大きな口が彼を飲み込もうとしたその時、跳躍したキースの剣が持ち手を根元から切断した。
「ヂューー!!」
 巨大ハムの絶叫と共に鮮血が飛び、解放されたハロルドが地面に転がる。受身を取れたのは冒険者だからこそだ。そこに、強酸が降り注いだ。
「伏せて!!」
 ルディが盾を構えてハロルドを庇う。直撃は免れたが、纏ったマントが音を立てて焼けた。強烈な刺激臭に咳き込む二人。
「あれを見ろ!」
 戦闘の開始と共にリングスラッシャーを召還したカチェアが剣先でハムの口もとを指した。端から何かが出ている。子供のようにも見えるが、銀色の肌に真紅の瞳。
「モンスター入り! ビンゴだぜぇ!」
 ダグラスが喝采を叫ぶ。一歩を踏み出したキースは賭けに勝った。それは仲間が身を挺して確立を引き上げた故の勝利でもあった。
 人質をすべて解放され、方針を変えたのか。もう姿を隠さずモンスターが奇声を上げると、アモンの矢によって動きを止められていたハム2匹が束縛を振り切って冒険者達に襲い掛かる。口中からは強酸の涎が湧き上がっていた。
「そんな! 中にはソレイユさんとルーネさんが!」
 弓を構え、だが攻撃の出来ないヒースの背にダグラスが激を飛ばした。
「モンスターに集中しろ! 一気に叩いてあいつ等を助けるぜ!」
「……! ハイ!!」
 信頼する仲間の声に迷いは消えた。
「カチェア、頼むぜ」
 青い焔を全身から立ち昇らせたようなトゥバンがモンスターに向かう。
「心得た」
 頷いた彼女は彼の援護を行うため、盾を構えて駆けた。敵のやり口が気に入らない。二人の思いは一緒だった。
 冒険者達はそれぞれの役割を完璧に果たした。数人が頬袋の膨らんだ2匹を惹き付け、モンスターの援護をさせない。
 もう遠慮はいらないのだ。強酸の雨をマントで凌ぎ、長剣『ESPERANZA』に雷光を纏わせたトゥバンは酸を避けた勢いを殺さず敵に一撃を叩き込んだ。
「テメェみたいな奴が一番嫌いなんだよ!!」
 渾身の電刃衝が分厚い毛皮と脂肪を切り裂く。絶叫と血飛沫。その攻撃でモンスターが巨大ハムスターの口中から飛び出した。
「終わりだな……」
 姑息な敵の動きなどキースは見通していた。着地地点に待ち構えていた彼の斬撃はモンスターを分断し、一撃で屠った。
 
●帰還
 救出された子供達は攻撃よりも回復を優先したルディのヒーリングウェーブによって、一命を取り留めていた。意識を取り戻して泣き出した子供達を抱き締めて、アモンは微笑を漏らす。
「……本当に、良かった。泣かないで、もう大丈夫ですよ」
 優しい声に励まされて安心したのか子供達はやがて寝息を立て始めた。

 一方、助け出されたルーネとソレイユの容態は酷いものだった。服は溶け、肌が焼け爛れて目を逸らしたくなるような惨状だ。
 丈夫な鱗に守られたのと、鎧進化がなければ二人とも命が危なかっただろう。
 意識の無い仲間を背負って冒険者達は帰路に着く。
 困難な道を選んだ彼らの想いは報われた。 
 だがそれは、苦い勝利でもあった。 


マスター:有馬悠 紹介ページ
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わからない
参加者:10人
作成日:2004/05/09
得票数:冒険活劇8  戦闘24  ダーク2  ほのぼの2 
冒険結果:成功!
重傷者:笑顔の約束・ソレイユ(a06226)  平穏願者・ルーネ(a07837) 
死亡者:なし
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