<リプレイ>
●水の壁の向こう ピュアリィフォールの大瀑布。その水のカーテンの裏側に身を隠した10人の冒険者達は、じっとその時を待ち続けていた。 ドラゴンがやってくるその時を。 「例え世界がどう変わり、どの様な力を得たとしても、私が私である限り行うべき事は変わりません」 赤茶色の瞳に決意の色を滲ませ、無銘の騎士・フェミルダ(a19849)は、滝の向こうの青空を見据える。 ドラゴンに対する思いは、同盟の冒険者といえども一様ではない。 「こういう戦いは初めてだな。不謹慎だが楽しみだ」 襲いくるドラゴンに奇襲を掛ける、その時のドラゴンの驚愕に歪む顔を想像し、誇り高き白鱗・ゴードィ(a07849)は、白い鱗に覆われた顔に笑みを浮かべた。 対してその隣に立つ、いもーと属性犬耳メイド・クール(a09477)はどこか深く思い詰めた視線を、滝の向こう側に向けている。 (「ドラグナー辺りから散々身内を喪って、想いは一入だけど……今は必ず完遂、ね」) 今回のドラゴン襲撃は確かにこちらにとってこれ以上ないくらいに優位な戦いになるだろう。だがここに至るまで、幾多の犠牲があったことも決して忘れることは出来ない。 その思いを確かめるように、春風に舞う鈴の音・アンジェリカ(a48991)は、背負った巨大剣の柄を握る。柄に付けられた鈴がシャランと清涼な音色を響かせる。 涼しげな音色が、冒険者達の決意を新たにさせる。 「絶対に倒さないといけないね。あのドラゴン界へ調査に行った人達の努力を無駄にしないためにも、このゲートのエネルギーを取られるわけにはいかない」 鱗はお茶の味・オルフェ(a32786)の独白に近い呟きに、期せずして他の者達も頷く。 いつの間にか口を開く者がいなくなった滝の裏は、ただ大量の水が流れ落ちる音だけが轟々と響きわたる。 鳴り響く静けさ。そんな、矛盾する言葉が似合う状況も、そう長くは続かなかった。 「……! 来たッ」 遠眼鏡で滝越しに空を監視していた、水のテクノクラート・クラレート(a38585)が小さく鋭い声を上げる。 無色透明なドラゴン。まるで、精巧なるガラス細工のようなその姿が、見る見るまに大きくなっていく。その飛行速度は、ドラゴンの中でも、特に速い部類に入るのではないだろうか。 (「漸く、振り下ろせる……復讐に彩られた拳を」) 同じく遠眼鏡で透明なドラゴンの姿を視認した、赤眼の優男・アーバイン(a50638)は、心の内に黒い喜びのようなモノを感じていた。 ドラゴン。その存在に、どれ程多くの犠牲を強いられてきたか。アーバインの心に黒い炎が灯るのも無理はない。だが、ドラゴンはそんな負の感情のままに打破できるほど、容易い相手ではない。 (「冷静に動かねば……」) はやる気持ちを押さえつけ、アーバインは何度もそう自分に言い聞かせる。 もう、ドラゴンはその巨大さが実感できるほどの所まで来ている。 飛来するドラゴンの体は、いたる所でプリズム発光を興し、全身がありとあらゆる色の光を放っている。 「……美しいですね……」 その姿を目の当たりにし、無知ゆえに智求む・イクス(a65409)の口からは、素直にそう賞賛の言葉が漏れた。 確かにその姿は、認めざるを得ないくらいに美しい。だが、その美しさは、蝶や花の美しさではない。刀剣の美しさだ。目を奪われるような壮麗さは、ただ殺戮のために振るわれる。 透明なドラゴンは、一直線にこちらに向かってきている。 もう、奇襲をかけるに十分な距離だ。 「さあ、行きましょうか……守るべきを、守る為に……」 静月鳥歌に揺る・ウピルナ(a30412)の静かな声を合図に、10人の冒険者達は10人のドラゴンウォリアーに変じ、滝の裏から飛び出した。
●戦場は空 高速で飛来する、万色にて無色なるドラゴン。奇襲を掛ける10人の冒険者達は、それに倍する速度で空を掛け、一気に襲いかかる。 真っ先に飛び出したのは、荒巻く風をその身に纏った、銀の剣・ヨハン(a21564)だった。 疑似ドラゴン界が展開すると同時に、ヨハンの銀色の髪の一部が、大きく鋭い白銀の羽に変化している。 「空で戦う日が来るとは!」 大地から解き放たれた高揚感に、ヨハンは空を切り裂き飛びながら、大きな声をあげた。 ヨハンに僅かに遅れて、他の者達も続く。 ヨハンの真下を飛ぶのは、朱金の髪をなびかせ、白い翼を広げたウピルナだ。 そして、ウピルナの左右を飛ぶフェミルダ、左にはゴードィ。右のフェミルダは、普段は黒い髪を鋼色に染め、肌は赤銅色に染まっている。さらにその身に纏うスーツアーマーは透き通り、さながら金剛石のように変じ、背面の装甲がまるで翼のようにつきだしている。 「ハッ!」 フェミルダは、飛ぶ速度を全く落とさないまま、空中で一回転し、後ろを飛ぶイクスに鎧聖降臨の守りを施す。 左翼を飛ぶ、ゴードィは飛び出す前に己が身に鎧進化を施し、その守りを固めていた。 ゴードィの全身を覆う白い鱗が半透明に輝き、狼のような耳が生えている。白いリザードマンが、転じて人狼と竜人の中間のような容姿だ。 ウピルナの下を飛ぶのは、アンジェリカだ。 数歳年が上がった分、僅かに身長も伸びたアンジェリカは、元からその身が隠れるほど大きかった巨大剣をさらに、振り回せる限界まで巨大化させている。 その様は、アンジェリカが巨大剣を持って飛んでいるというより、空飛ぶ巨大剣にアンジェリカが掴まっていると言った方がしっくりとくる。 五人の前衛は、ウピルナを中心にその上下左右に展開し、縦の十字陣形を保ったまま、透明なドラゴンへと襲いかかる。 『ッ、貴様ら!?』 ドラゴンの動揺の声が、閉ざされた空間に響きわたる。この機を逃さず、ドラゴンウォリアー達は、奇襲を敢行した。 「参りましょう」 そう声を上げ、ヨハンは守護天使を召喚し、皆に守りの加護を施す。 ヨハンの動きに引きずられるようにして、初撃を与えたのは、ゴードィだった。 「ピュアリィフォールの調査はまだ途中なんだ、くれてやるわけには行かないな!」 裂地蹴、通常でも大地を揺るがすというその蹴りは、ドラゴンウォリアーの力により、天空をも切り裂き、ドラゴンの透明な翼を蹴り飛ばす。 「ガアッ!?」 苦痛の悲鳴を上げるドラゴンに、真正面から突っ込んだウピルナが、三体に分身し、ドラゴンの頭部に細剣を突き立てる。 「くらいなさい……」 その隙に十字陣形を敷く前衛の後ろについたアーバインはクラレートに、ウピルナは自分自身に鎧聖降臨の守りを施す。 着々と戦闘準備を整える冒険者達を前に、ドラゴンも漸く状況を理解したのか、どうにか体勢を立て直した。 『小癪なッ!』 怒りの声をあげたドラゴンは、陽光を反射しその身を七つに分身される。 八つの首が、全周囲からウピルナへと襲いかかった。 「クッ……」 素早い身のこなしで、回避を試みるウピルナであったが、やはり機動性ではドラゴンの方が上だ。透明に輝く爪が、ウピルナの華奢な体を薙ぎ払う。 独楽のように回転し、吹き飛ばされたウピルナは全身を朱色に染められた。 「カッ……」 全くと言っていいほど力が入らない。空中で膝が砕けるという、一種不思議な感覚に襲われるウピルナに、後衛のオルフェ達はタイミングを合わせ、癒しの力を発動させる。 「♪♪♪」 鬣を生やした山吹色のリザードマンの癒しの歌に続き、 「癒しをッ」 乳白色の法衣を纏ったクラレートが背中の半透明な翅を振るわせ、癒しの波動で辺りを包み込む。 さらに、葉を束ねたような羽を生やしたイクスが、その白く長い手袋に包まれた手を振り、ヒーリングウェーブを発動させる。 連続する三人の癒しを前に、大ダメージに空中で膝を折っていたウピルナは、一気に全快した。 「ありがとう。もう、大丈夫……」 体勢を立て直したウピルナは素早く、もとの位置に戻る。三次元戦闘では、一人の脱落が、大きく陣形に穴を開けてしまう。 五人の前衛は、十字陣形を保ったまま、迫り来るドラゴンの前に立ちふさがり、攻撃を敢行した。 「ハッ!」 頭上に召喚した守護天使の力を乗せ、フェミルダが長剣を、陽光に煌めくドラゴンの翼めがけ振り下ろす。 遠目にはガラスのように、薄く脆く見えるドラゴンの翼も、実際には非常に硬度がある。 フェミルダの手に、痺れる様な反動が跳ね返る。 だが、間違いなくダメージは与えた。ドラゴンが奇襲のショックから立ち直る前に、一気に畳み掛ける。 「隙あり!」 右翼のフェミルダの方にドラゴンの首が傾けられた隙に、左翼のゴードィが首の下にもぐこみ、高速の回し蹴りを叩き込む。 「も一つッ!」 さらに追撃の拳が透明な皮膜を痛打する。この至近距離ではドラゴンの巨体が完全に徒となっている。 『チイッ!』 不利を誘ったドラゴンは、急上昇して戦場からの離脱をはかる。 「上、陣形をっ!」 いち早く気づいたクラレートの声に、前衛の五人は、球面体の表面を滑るような動きで、十字陣形を築いたまま、上方へと向きを変える。 十分に素早い判断と迅速な行動。なれない空中戦ということを考えれば、満点と言っても言い過ぎではないだろう。 だが、空中機動戦に長けたドラゴンの動きは、それすらも凌駕していた。 上を向き直ったドラゴンウォリアーの視界にはいるのは、大きく口を開けたドラゴン。喉の奥に不気味に煌めく光が見える。 「来るっ!」 それは誰の声だったか、次の瞬間、ドラゴンの口から無数の透明な粒子が放射状に放たれた。 「グッ!」 とっさに盾をかざすフェミルダだったが、それもほとんど意味を為さず、全身にダイヤモンド粒子が何度と無く叩き付けられる。 数秒にも及ぶ長いダイヤモンドブレスは前衛後衛の区別無く、十人のドラゴンウォリアーを撃ちのめした。 分身攻撃と比べればダメージは格段に低いが、それでも後衛のクラレートやイクスにとっては大ダメージだ。 フェミルダの張った天使の守りも、紙のよう吹き飛ばされている。 「ぐう……癒しの光を……」 突然のダメージに朦朧としながらも、クラレートはヒーリングウェーブで自分を含む傷ついた者達を包み込む。 「ッ♪♪♪」 「大丈夫です、このくらい」 引きずられるようにして、オルフェの高らかな凱歌とイクスのヒーリングウェーブが同時にかかり、皆の負傷を完全に癒す。 体勢を立て直したドラゴンウォリアー達は、すぐに反撃を開始した。 「ハアアア!」 脈動する血の暴走を力に変え、下方からアンジェリカがドラゴンの下腹に限界まで極大化させた巨大剣を振り上げる。 極大の剣が巻き起こす衝撃波はさながら、刃の突風だ。 『グウ!』 ドラゴンがひるんだ隙に、同じく血の覚醒で攻撃力を増したヨハンが、上方から一直線にドラゴンの頭部へと舞い降りる。 そして、抜刀一閃、 「砕けなさい!」 真夏の落雷もかくやという眩い雷光を纏った抜刀撃が、ドラゴンの透明な頭部を切り裂いた。 『ガウアア!』 一際大きな悲鳴を上げ、透明なドラゴンは、空中でその巨体を捩る。 「そこっ!」 この機を逃さず、杖を振るったのは後衛の控えていたクールだった。青い犬耳をピンと立て、微かに青みがかった双眼で、ドラゴンをしっかりと見据えると、杖に導かれた炎の木の葉が、ドラゴンの巨体に襲いかかる。 『グオオ!』 まるで局地的な山火事と見紛うほど、燃える木の葉がドラゴンを透明な鱗を焼き、苦痛の声を搾り取る。 『いかん、このままではっ』 状況は圧倒的に不利、そのことを否応なく思い知ったドラゴンは、再び七体に分身すると、正面から突破をはかる。正面突破を許せば、追撃には一度反転しなければならない。成功させすれば一時離脱には一番効果的だ。 そう、成功すれば。 「させないっ!」 その動きを見て取った前衛の五人はドラゴンの巨体に道を空けるどころか、むしろその小さな体を限界まで大きく張り、ドラゴンの動きを阻害しようとした。 予想外の動きにドラゴンが一瞬動きを鈍らせた隙に、後衛からアーバインとクールが息を合わせて、攻撃を放つ。単一の目標を定めたりはしない。 「纏めてッ」 「くらいなさい!」 ニードルスピアと、エンブレムシャワー。黒針というより、黒い槍に近い巨大な針と、光のシャワーを越えた光のスコールが、虚像実像区別無く、七体のドラゴン全体を巻き込み、撃ち貫く。 『グワアア!?』 攻撃が途中で止まったドラゴンは、同時に分身も解け、虚像は全て消え去った。 残ったのは、ウピルナの前で悲鳴を上げるドラゴン。 お返しとばかりに、三体に分身したウピルナが三方向からドラゴンの頭部に、細剣を突き立てる。 『グ、グオオ……』 それが致命傷となったのだろう。透明なドラゴンは、断末魔の声を上げながら、ゆっくりと地上へと墜ちていった。
●勝利 ドラゴンの死と共に、疑似ドラゴン空間は解除される。 地上に落下したドラゴンの回りでは、ドラゴンウォリアーから通常状態に戻った十人の冒険者達が、互いの無事を確認しあい、ホッと安堵の息をついていた。 こうして、通常状態戻って近くで見ると、ドラゴンの巨大さがよく分かる。陽光を反射し、キラキラと光るドラゴンの死体を前に、ヨハンはしんみりと呟く。 「かつては人であった時、何を望んで力を求めたのでしょう? そして今は?」 ドラゴンと自分たちドラゴンウォリアーの差、それは思っている以上に小さなモノなのかも知れない。ヨハンは自戒を込め、死せるドラゴンに追悼の念を述べる。 「かつては人だったもの。せめて来世では、人らしく……」 ゴードィも小さく祈りを捧げる。 静かに祈る冒険者達を前に、透明なドラゴンの鱗は一時も留まることなく、万色の輝きを放っていた。

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参加者:10人
作成日:2007/08/31
得票数:戦闘17
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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