＜リプレイ＞
●KNOWLEDGE
崩れた図書館の中に覗く、書物の山。
覗く天に見え始めた敵影……あのドラゴンが紋章術士と似た力を他者を蹂躙するために使うというのなら、同じくその力を使うものとしてなおさら止めねばならない。
この力はそんなものの為に在るのでは、決して無いのですからね。胸の内で零す、暁へ向かう黄昏・ライオル（a12876）。
もうすぐこの頭上へ、空へ、舞い上がる。
足場もなく、天地すら自由に行き来できる世界での戦いは、如何なものになるだろうか。無駄なロスタイムを作らないよう、轟然たる竜の鼓動・ラスティ（a20452）は殊更に気を落ち着け、時を待つ。
遠眼鏡に映る姿が、大きさを増す。
冷酷なる飄蓬の暗殺兵・エイジ（a16746）は共に潜む仲間に目配せ、その接近を知らせる。
奴らにこれ以上の力を与えれば被害はもっと増える。ここでしっかりと倒して行こうぞ。
……そんな心中を知ってか知らずか。
「せっかく強くなれたのに、またドラゴンが強くなったら困っちゃうよね」
ちょちょいっと撃退してやるどー！ ぐぐっと拳握る、ハロー・エヴリィ（a32715）に、白鴉・シルヴァ（a13552）も。
「皆で力を合わせて、調子こいてるドラゴン叩きのめそうぜ！」
二人の遣り取りは一聞には軽く、だが、これから成すべきことを現してもいた。
そして、その為に手に入れた。
ドラゴンウォリアーの力……確実に己のものとするために。
掃わせてもらうぜ。強い意志の光を宿した瞳で、瑰麗な十日夜の金鏡・ラジシャン（a31988）は迫る竜を映す。
一度は乗り越えた絶望。もう何が来ても膝を折ったりしない。
内に秘めた思いと共に、虹を誘う輝空蒼翼・フィード（a35267）も巨影を見据える。
新たな力に溺れるのではなく使いこなすため。
殺すためではなく護るため。
この戦いに自分の心全力でぶつける。
――その為の空間が今、形作られてゆく。
景色はそのままに。
世界が、変わる。
倒すべき敵――『緑のプテスト』と、それを討ち滅ぼす者達を、抱きながら。
●DRAGON WARRIOR
煮え滾る溶岩の如き、この膨大な力！
髄が震える、目が眩む！
手綱が取れるのか……この私に？
だが……
幾ばかの不安と歓喜。沸き上がる力との葛藤の中、饗宴の思索者・アレクサンドラ（a08403）は確かに感じたのだ。
……ああ、大丈夫だ……彼らの光が導いてくれる……
敬意の念。
世界を見る為に開いた瞳は、白金に変わっていた。
一回り伸びた髪もまた白金に輝き、空中へ飛び出し風を切る後方へ流れていく。
生まれ出た儀礼剣が、自然と握った掌に馴染む。
荘厳な白い聖衣翻すその脇には、黒炎覚醒に揺らめく黒を纏うラスティが凛と舞う。
「はぁ〜い、いらっしゃい♪ こんな所で会うなんて奇遇だね」
体格にさしたる変化は見られないが、エメラルドからオレンジのグラデーションに染まった髪を靡かせるその顔つきは大人びて、幾ばかりかの成長を遂げたことを示す。
それらを、ドラゴンの双眸は困惑と共に映す。
ついこの間までは、恐怖の対象でさえあったドラゴン。
……でも、今は……違う。
無敵の・ギルガメッシュ（a33171）の背に、天使のような翼が開く。
守る為に戦う。その為の力。
手に入れたからには……敗北は、許され無い。
「さぁ、私達のこの力……恐れぬならば、かかって来い！！」
「我は、何を見ているのだ」
屑共が行く手を阻んでいる。
有り得ないはずだ。
だが、それが現実であると知るのは、すぐあとのこと。
そのドラゴンにまで続く、見事な扇の陣形を最後方から見て取って、風車の・ヤクシ（a34390）は、使い込まれた弓を引き、その弦に稲妻の迸る矢を生み出す。
正直、ドラゴンウォリアー化は未知の領域で、かなり途惑う。
「ですが、其の力無くば敵わない相手を敵に回しているのですから、四の五の云っている場合ではないですねぇ」
しっかりと働きましょうか。ごちた言葉は、轟いた雷の中に解け消えた。
300mを跨ぎ迸る雷光。
首筋に突き立ち、強い痛みを残す一矢に、ドラゴンはやっと自らのすべきことを悟る。
だが、奇襲を仕掛けた冒険者らの動きは、それよりも僅かに早かったのだ。
『まだ油断しています。初撃は一斉に！』
ライトニングアローの射出と同時に、ヤクシがタスクリーダーの力で届けた言葉が、共に天を舞う九名のドラゴンウォリアーの耳に届く。
「ふっふっふ、待ちくたびれて腹が減っちまっただ！」
軽く伸びた髪。少し大人っぽい形容を手に入れたエヴリィの腕が、指先が、中空の一点を貫くように指し示す。
極限にまで高められた気が、指天殺の一撃として放たれる。
ドラゴンウォリアーの力は、空間を伝う。
針穴を突くように注ぎ込まれた気が、30m余り離れたドラゴンの硬い鱗へ達し、その表皮を波打たせた。
その空気の歪みが、更に酷いものと成ったのは次の瞬間。
どくりと波打つ鼓動。血の覚醒によって全身を駆け巡る力を、シルヴァは両腕に握る巨大剣へと集める。
漆黒の刃。その刀身と同じ黒に染まった髪の隙間から覗く瞳が、前方に座するドラゴンを捉えた。
その一撃は、間にある空気を、轟音と共にかち割ってドラゴンを襲う。
擬似ドラゴン界を叩き割ったかとさえ。
硬いはずの鱗に強引に刻まれる剣戟の痕。あらゆるものを砕かん勢いで襲い掛かった一閃に、ドラゴンは早くも悲鳴を上げる。
だが、その傷跡は、新たな攻撃の標的となるのみ。
火炎を司る刃を手に、エイジはただ静かに、空を衝いた。
狙い澄まされた一撃。
微塵の乱れもない剣の閃きは、シルヴァのパワーブレードとは対照的に、揺らぐ空気の中に一点の穴を穿ち、その威力を速やかにドラゴンへと届ける。
急所を狙い繰り出される、ブラッディエッジ。
貫くまでは行かずとも、衝撃は確かにドラゴンを捉え、その身体を空中で悶えさせる。
その光景を、餓えた獣の如き金の瞳は見逃さない。
輪郭はまるで獣のようであった。
頭部に生えるは、狼の耳。蒼く染まった尾……だが、よくよく見れば、それが確かに人型であることが判る。
痩身の半獣人――フィードは、空を裂くように天を疾駆し、獲物を引き裂くかのように、鋼糸握る腕を振るった。
餓狼が獲物に爪を立てるように。されど、ゴージャスオーラによるものか、その動きは何処か洗練されて。
風を纏った狼の発する残撃は、音速の衝撃波となって、獲物の内臓を直接に掻き乱した。
「屑が……屑が、屑がぁ！」
撃たれるままに叫ぶドラゴンの声が、四方八方へと散る。
その口腔に光が宿るよりも早く、輝きを増して光と見紛う錫杖が涼やかな音色を奏でる。
戦場の一部を満たす淡い光の中心に、ラジシャンは居た。その背より生えて身を守るように広がる翼は、透き通り水晶のように煌く。
武骨な防具は消え果てて、軽やかな衣装と共に纏うのは、金鎖や青の宝玉で飾られた宝飾の数々。
今一度、輝く錫杖が鳴ったとき。そこにはヘブンズフィールドの空間が、球形に現れていた。
その光の中の、手応えのない足場。
さりとて、ドラゴンウォリアーにとって、それはさしたる問題にはならないだろう。
時に天地を違えて、空を泳ぐギルガメッシュ。
イリュージョンステップの巧みな足捌きで何もない空を点々と踏むその姿が、いつしか三つに分かれていた。
それはまるで、その二つの技が繋がっているかのように自然に。
優雅さを潜ませ、踊るように繰り出されるミラージュアタック。
翻弄されるドラゴンの側面へと達した分身、三角形を描いて迫る白い影。ギルガメッシュの美しい太刀は空を貫き、幾ばかりか大人しい衝撃音を伴って、ドラゴンへと突き刺さる。
その頭上が、俄に明るい光に覆われた。
「我招く幾多の槍よ、驟雨となり吹きつけよ！」
唱え上げたラスティの指先、混沌を内包する手蓋へと集った黒炎が弾け、無数の針と化してドラゴンの頭上に降る。
内部に消えて同化した召喚獣の力が作用し、生み出された黒い針はやがて虹色の光を帯びる。
かと思えば、今度は足元から。
ライオルが差し伸べるは、鋼色の杖。優美な曲線を描くその先端は、彼の足元を指し示し……やがてそこに生まれる、眩い紋章。
上下左右、空間に差異のない擬似ドラゴン界。眼下に描き出した紋章から迸る光の帯は、まるで水宙を泳ぐかのように逆さまの放物線を描き、布陣する仲間の眼下を越えて、ドラゴンを下から突き上げた。
足元から天へ、吹き上げるように沸き上がる無数の光。それもまた、ライオルの中へと消えて一つになった召喚獣の力を帯びて、虹色に明滅する。
天と地と。ニードルスピアとエンブレムシャワーが、挟み撃つようにドラゴンの巨躯へと降り注ぐ。
そして、その狭間。
差し伸べた儀礼剣の切っ先、描き出されるもう一つの紋章。
アレクサンドラの眼前に開いた光は、二つの虹色の隙間を埋めるかのように無数に吐き出す光線を、ドラゴンに向かって水平に撃ち放った。
ありとあらゆる方向から襲い掛かる針と光線。
俄に、打ち据えられるだけだったドラゴンの翼が翻る。
「屑共め……よくもこの我を……」
灯る炎。
憎々しい、と。
零す言葉にすらはらむ、赤い吐息。
いよいよ、ここからが。
「来るぜ！」
「射線に気をつけるでござる！」
前衛より飛ぶ警告の声と共に。
青白い光がついに、擬似ドラゴン界の中へと解き放たれた。
●GREEN
平面ならばいざ知らず。
如何にばら障害物をばら撒こうと、天地すらない世界に於いては、その間隔は十二分。
少し迂回さえすれば問題なく抜けられる隙間縫って、ドラゴンへと間合い詰めるエイジ。その背に、気合を声に変えた響きが木霊した。
さっき撒き散らされた雨のような炎。そのときに受けた痛みが、瞬く間に引いていくのを感じる。
吹き飛ばされていたシルヴァが、隊列へと復帰しつつ歌い上げるガッツソング。現メンバー中で随一の体攻撃力を誇るそれが仲間へと向けられた時、力は圧倒的な癒しとなって戦場を包み込む。
嘘のように消え去る痛み。
健勝の我が身を感じるエイジの視線は、最早無意識とさえいえるほどの迅速さで、ドラゴンの急所に当たる部位を捉える。
抉り、刺すように。
圧した空気ごと貫く、ブラッディエッジ。
悲鳴の代わりなのか、打たれたドラゴンの口から洩れるのは、憎悪に満ちた恨み言。
『突出し過ぎないように気を付けて。陣形が乱れています』
最後方から届くヤクシの声。
判ってはいる。
だからこそ、先ずは邪魔な者を片付ける！
「ハエ叩きは得意だよ、1匹たりとも逃さない……！」
ラスティの身に蟠る黒が、今一度収束する。目配せて、ライオルもまた虹色に輝く紋章を描き出す。
「無論。逃しませんとも」
この力の正しい使い方を、あの邪悪な存在に知らしめる為に。
「薙ぎ払え！」
アレクサンドラの号令一過、後方に控える術士三人は、一斉に範囲攻撃を空に散らせた。
時間稼ぎ程度にばら撒かれた鱗の竜共は、呆気ないまでにぼろぼろと崩れ、下へ下へと落ちていく。
その時、ラジシャンは直感で不穏なものを感じ取った。
しゃん、と光の錫杖が鳴る。
咄嗟に舞うように天を駆け、行き交う前衛陣の背面へと身を躍らせるその傍らに、ふわりと浮かぶ護りの天使。無論それは、仲間達の側にも。
途端にすっきりとする視界。
それが別の色彩に染め上げられた時、ラジシャンは自信の予感が的中したことを悟る。
「白い炎だわ！」
三つから一つへ。華麗なる分身の斬撃より立ち戻ったギルガメッシュの声が、後方へと飛ぶ。
そして、遮るもの無くなったドラゴンの視線が見つめるのは……
『後衛の皆さん！ 散開して！』
鋭い警告。気を逸らすべく射放ったヤクシのライトニングアローは、しかし、その吐息を口腔内に圧し留めることは敵わなかった。咄嗟に、割り込もうと身を翻すギルガメッシュ。
だが、同じく飛翔するエヴリィの眼下を、白く輝く炎の塊が通り過ぎて行った。
「避けろー！」
「広がれ！」
いち早く退避行動を取って、射程外へと脱していたラジシャンが、叫ぶ。
もしこれが通常の間合いであったなら、二、三人は巻き込まれていたかも知れない。
それ程に大きな灼熱の玉は、上下左右に散開しようとする術士の中の一人――ライオルの身体を、辛うじてその端に捉えていた。
視界が真っ白に染まる。
一瞬で消え果てる護りの天使。痛いのか、熱いのか。耐え凌ごうとする全身を、訳の判らない感覚が覆い尽くす。
名前を呼ぶ幾人もの声が、重なって聞こえた。
だが、それが次第に遠のいて……ライオルは自分の身体が、擬似ドラゴン界の外へと弾き出された事を知る。
ようやく。
僅かに取り戻した自尊心に笑うドラゴンの声が響いた。
だが、餓狼の耳はそれを右から左へ受け流す。
やるべきはただ、眼前の獲物を屠ること。
腕より繋がる刃。フィードの握り締めたそれはまるで、獲物を引き裂く爪の如し。
猛き狼が音速で切り裂いた残撃が、次の炎を蓄えんとするドラゴンの喉を打った。
咽返るように零れる火炎。
それすらをもかわすように、アクロバティックに天を駆けるエヴリィの掌が、間近に迫ったドラゴンの背に焦点を合せる。
「鱗が硬くても内側はなんてことねぇべ」
大気が振動する。
叩き付けられた破鎧掌。迸った気の力が、その言葉通りに硬い鱗を突き抜け、内蔵を押し潰す。
かは、と。
掻き開いたドラゴンの口から、ブレス以外のものが飛沫いた。
「冒険者のチームワークを甘く見るでねぇ」
「えっちゃんの言う通りッ！」
後方、再び本来あるべき位置へと立ち戻ったラスティの指先に、蛇を模す黒い炎が練り上げられていく。
虹色に輝く炎。
その周囲から、アレクサンドラの放つ光が、回り込むように同じ着弾点を目指す。
弾ける虹色と白。
蓄積し、ドラゴンを蝕んでいたダメージが、ここに来て一気に噴出する。
剥がれ落ちる鱗。
その焼け焦げて剥き出しになった皮膚に目掛け、シルヴァが飛ぶ。
幾度目か鼓動が腕を伝う。
今一度、擬似ドラゴン界が震撼した。
叩き割られる空間。
押し潰してなお衰えぬパワーブレードの衝撃波が、諸共にドラゴンの背へと潜り込む。
裂けるような響きは、ドラゴンの身体を割った音なのか、天を割いたが故なのか。
ただ、それは確かに。
勝利を示す、音でもあったのだ。
●LIBRARY
消え失せる擬似ドラゴン界。
それほど違いはなくとも、元の姿に立ち戻った我が身を、ヤクシは一先ず確認する。
餓狼の半獣人姿を解かれ、穏やかな表情を取り戻したフィードもまた、相棒たるラジシャンへと微笑み掛ける。
そして……果てて倒れた『緑のプテスト』へと、視線巡らせる。
「緑、嫌いなポジションじゃなかったよ」
哀しき竜への餞別の言葉は、静けさを取り戻した図書館の中へ、静かに響き消えていった。
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参加者：10人
作成日：2007/08/15
得票数：冒険活劇2
戦闘25
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冒険結果：成功！
重傷者：暁へ向かう黄昏・ライオル（a12876）
死亡者：なし
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