＜リプレイ＞
●POISON
とぐろを巻く蛇。
湿地の中に建つ城の陰。フードで赤い髪を隠し、深紅の閃撃・スカーレット（a25963）は……不謹慎かもしんねぇけど血が騒ぐんだよなぁと、何処か楽しげに身を潜める。
別の場所では、瑠璃の太公望・アリア（a57701）が。
「似非吟遊めー、吟遊がどういうものか思い知らせてやるんだから！」
と、やる気十分。
先の襲撃で、街も、人も消えていった。あの時の胸を引き裂く悲しみ、今は力に変えてみせよう。
この刀と、手前たちの新たな力に賭けましょう。
慈しむ心を忘れた者に、敗れるわけには参りませぬ
己が力に酔い、道を外れたその魂……斬る。
眼差しにも強い光宿す、斬る人・ネイヴ（a50523）のその想いは、きっと彼だけのものではないだろう。
……しかし、ドラゴン達が得ようとしている『更なる力』とは何なのか。
よくは分からないが、とても嫌な予感がする……冥界の皇女・トモミ（a22374）はいずれ敵と相見える空を見上げる。
だが、それ以上に。
先の戦乱で、犠牲は充分すぎるほど出た。
これ以上好き勝手にはさせません！
そう、多くの人のおかげで手に入れた力。犠牲になった人の願い、無駄にはしない。
片翼失いし淡紫の百合・ミレイラル（a43722）もまた、強く心に刻む。
ドラゴンなんかに負けない。必ず勝ってみせる、と。
何しろ、ドラゴンとは人の心を失い、己が欲と力のままに生きる者の姿。
退く理由はない。
永き刻を越えて心まで異形となり得た先達に我々の力で、永遠の安らぎを与えましょう。決意を今一度はっきりと胸の内で唱える、白と舞う翠櫻・リタ（a35760）。
俄に、戦場の鍛冶屋・ザウフェン（a50117）の声がした。
「見えたぞ」
陰から指し示す先を見遣れば、確かに。羽ばたき飛ぶ敵影が、瞬く間に大きさを増している。
巨剣を握り、鋼色の鎧の下から目を凝らす、嵐の眷属・アルロ（a10672）。
さて、新しい力を使うのもこれで二回目。
前はちぃーっとばかし戸惑ったが、今回は上手くやらんといけねぇ。
「相手には悪いが、最初からクライマックス……ってヤツだな」
その周囲の空間が、一気に捻じ曲がる。
直径3kmの亜空間。
変わらぬ景色の中で、だが、確かに異なる世界。
「お前はここで朽ちるんだ」
世界の変貌と共に変わりゆく姿。
大きく掻き開いた黒い翼を背に、死滅の黒炎・ユーティリス（a27063）の身体は天へ舞う。
迫り来る『桃のポワイエン』を死界へと誘う、堕天使のように。
●DRAGON WARRIOR
飛び上がる体が軽い。
若返り、艶を取り戻していく心身。羽ばたいて風を切るのは、ドラゴンのそれに似た黒色の翼。
擬似ドラゴン界の空を跨ぎ飛び、スカーレットは僅かに伸びて鋭利さを増した犬歯の覗く口元に、不敵な笑みを浮かべた。
「よっ、待ちくたびれちまったぜ？ でっかい嬢ちゃん」
「な……なんなのですか、お前達は！？」
予期せぬ敵の襲来に慌て両翼を翻すドラゴン。その周囲に、荒ぶる風の領域が生まれる。
テンペストフィールド。上下左右、球形100m全周へスカーレットを中心に広がっていくその中へ、青み掛かった銀髪を棚引かせ、仲間と共に飛び上がるアリア。
「ボクたちの新しい力、今見せてやるからね！」
眼差しは真っ直ぐに。黄金を帯びた碧眼で見つめる戦場へ、銀の髪を黒く染め上げたネイヴが風を纏いて飛来する。
「目に物見せましょう。今から虫が龍を狩りますぞ」
羽ばたくのは、甲虫の翅。黒く艶やかな甲と、薄く透き通った紋のようなその二対で荒れる風を斬り、一気にドラゴンの眼前へと迫る。
「ネイヴ・ソウリュウ、参ります」
その腰に携えた刃が、稲妻を纏う。
一瞬の静止。息を整え、柄握る掌を僅か緩め……解き放つ！
「壱の太刀、『紫電』！」
雷光。
最大速で抜き放たれた刀が、空間をもバターのように切り裂いて、稲妻と共にドラゴンへと達する。
纏わりつく紫電。その稲妻が消え失せぬうちに、奇妙な影が空を横切る。
それは、まるでギアのような――箒、だった。
金属的な質感。一回り大きく変化したそれに横乗りに騎乗するのは、緩やかな爽風・パルミス（a16452）。
「元気な今のうちに〜、スパイラルジェイドです〜」
もうもうと噴射炎を上げて進む箒の先端に、螺旋状の物が突出する。
瞬間、一際に大きな噴炎を置き去りに、パルミスは箒ごとドラゴンへと突進した。
果たして、回っているのはパルミスなのかドリルなのか。
硬い鱗にぶち当たり、箒の先端ががりがりと嫌な音を立てる。鱗一枚をその皮膚から引っぺがした所で、圧し戻されるように再び距離を取るパルミス。
その脇を入れ違うようにして、今度は正真正銘の螺旋が天を舞う。
艶やか漆黒の髪。黒く大きく開いた翼を今は小さく折畳み、ミレイラルは変わらぬ紫の瞳で眼前のドラゴンを捉えた。
「ドラゴンズゲートはそう簡単に渡せるものではないので、諦めてもらえますか？ 邪魔をするなら倒すだけですが」
元は五本、指先から延びるだけであった鋼糸が数十に分かれ、否、増えて、回るミレイラルの周囲を渦巻く。
淡い紫に染められた鋼の束は、やがてはっきりとした紫の螺旋となって、ドラゴンへと襲い掛かった。
癇癪にも似た怒号が空に散るのが聞こえる。
でも、だからどうしたのか。
そちらが先に、散々な好き勝手をしたのではないか。
「さぁ、お覚悟下さいのですよ」
堕天使が、ここにももう一人。
荒ぶる風に揺れる金髪。
本来ならばドリアッド特有の緑であるはずのその髪を支える、蝙蝠羽のヘアバンドと、その身を包むドレスが真っ赤に染まる。
同じく赤く染まった瞳に敵を映して、トモミは腰から生えた三対六枚の翼をはためかせた。
「手加減なんて出来ませんからね？」
魂を刈り取らんばかりの両刃の大鎌へ、沸き上がる黒炎を集めれば、それは爛々と輝く火炎の玉と化す。
内に還った召喚獣の力に虹色の色彩を与えられたエンブレムノヴァが、擬似ドラゴン界の中を剛速球で駆け抜けた。
激しく散る虹の火の粉。
俄に。
それをも掴み取るように虚空にいずるは、虚無の爪。
「さぁ、耐えてみせろ」
ユーティリスが、揺らめく黒を差し向けた黒き杖の先、紅く輝く宝玉へと導く。
内臓を直に掻き毟る、ヴォイドスクラッチ。
かの爪もまた、虹色に輝き……赤と黒、二人の堕天使の遣わした炎と爪に、巨躯にしては可愛らしい声が、擬似ドラゴン界の中に散る。
そして、消えゆく虹色の中を、白銀の塊が蒼い閃光と共に突き抜ける。
悶えるドラゴンの眼前。背中から軌跡のように曳く蒼。槍を彷彿とする巨剣には、既に有りっ丈の力が込めてある。
直径3km。
その端々にまで届き兼ねない爆音が、擬似ドラゴン界を揺るがした。
鼻頭に叩き込まれる、アルロのデストロイブレード。
最早斬撃とは言い難い恐るべき一撃に、仰け反るドラゴンの口から、ブレスの代わりの罵声雑言が吐き出される。
しかし、それもまた。言葉が最後まで紡がれる前に。
風を切る、分厚い肉包丁。
本来ならば、弓でなければ届かないはずの距離。だが、ドラゴンウォリアーとして得た力の前に、30mなど問題にならない。
ザウフェンが刃を振り抜いた瞬間、残撃は衝撃波となって迸る。
何の事は無い通常攻撃。だがそれは、周囲を包んで荒れ狂うテンペストフィールドの風を巻きつけて、ドラゴンへ達しその鱗を斬って割く。
「カスが……カスがこの私の身体に傷を……よくも！」
遂に灯る紫煙の吐息。
その口元へ巻き込まれるように吸い寄せられていた風が、不意に止んだ。
戦場を満たすのは、光。
それまでは漆黒の革であったドレスが、純白の花嫁衣裳に代わっていた。
短く切り揃えていた髪は墨色に染まり、長く伸びて腰まで棚引く。
祈るようにしてその中心に咲くのは、眩しき月光を身に纏った墨染めの桜……
リタの広げたヘブンズフィールドが、それまで戦場にあった領域を塗り替える。たった一巡ではあったが、テンペストフィールドはしっかりとドラゴンウォリアー達の攻撃を色をつけてくれた。それを、相手にまでさせてやる道理はない。
直後、撒き散らされる、不快な吐息。
意識を惑わし、血飛沫を舞い上げるブレスが、擬似ドラゴン界の一角を満たした。
●PINK
満ち満ちていく、清らかな祈り。
ぼんやりと輝き続ける球形の領域内、幾度目か吐き掛けられたブレスから同志を救う為、リタは静謐の祈りを届け続ける。
「お前達さえ居なければ……！」
忌々しげに零れる言葉。共に零したブレスの端を、アリアは波打ち際で遊ぶ子供のように、翔びかわす。
「癒し手がバットステータスで動けないなんてダメなんだから！」
強い眼差し。
手にしたハープを爪弾いて奏でられるのは、高らかな凱歌。
「癒しの音色よ、戦場に響き渡れ！」
清らかな祈りと共に辺りを満たす響きが、前後不覚に陥っていた仲間達の意識を引き戻し、次々に失った血潮を補っていく。
憎らしい。
実に憎らしい。
あの回復さえなければ、このカス共は勝手に血飛沫を撒いて、互いを痛めつけ合うというのに。
いや、二人をブレスに捕らえることは、実際には何度か出来た。
だがその度に、トモミが高らかな凱歌を歌い、ヘブンズフィールドはその効果を更に高める。
同じ後方にありながら程よく散開し距離を保つこの三人を一つの範囲に入れるのは――それをさせまいとする前衛陣らの動きも合わさって、容易とは言い難かったのだ。
「みなさん、大丈夫ですか？」
魅惑されたままの者がないか。射線塞ぎ飛ぶミレイラルが、周囲を見回す。
「はい〜」
「大丈夫だ」
パルミスやザウフェンのように直接応じる者もあれば、ネイヴのように紫電纏う一太刀をドラゴンへと見舞うことで、自身の健勝を示す者もある。
同じように、アルロは蒼い光棚引かせつつ、巨剣に込めるはずの闘気を、ガッツソングに乗せて前線で踏ん張る仲間へ届ける。
「しかし、どんだけレベル高いんだ」
「ずりぃよなぁ」
一度の出血で、あっさりと四桁分持って行かれる体力。少しでも状態異常が長引けば、戦況は一気に傾く。
……だからこそ、後衛にて支援に徹するリタとアリアは、このドラゴンにとって目の上のたんこぶなのだろう。
まぁ、だからこっちは集団行動してる訳だけど。
辟易した表情で応えながら、スカーレットは手にした二振りの剣を煌かせた。
両腕を伝う気迫は、やがて冷たく、儚く、淡く輝く刃へと注ぎ込まれ……
「ま、残念だけど俺にゃあ同盟のお嬢さん方の方がタイプなんだよなぁ」
振り抜いた刀身から迸る力が、目の前で弾ける。
巻き起こる爆発。爆風は衝撃そのものとなってドラゴンへ達し、放たれたデストロイブレードの威力をそのまま叩き付けた。
後衛が狙われているのは判っている。
決して、その息を届かせはすまい。身体を覆うように盾構え、空を跨ぐザウフェン。無造作に見えてその実無駄の無い動は、後衛を睨め付ける射線を塞ぐように位置を取る。
真っ向、打ち込まれる達人の一撃。
その後方で煌く、ミレイラルの鋼糸。
網目のように鮮やかに空を裂くその一本一本から、無数に生まれる残撃。やがて束になり、豪速でドラゴンへと襲い掛かる飛燕連撃。
「ドラゴンウォリアーになったとはいえ、相手はドラゴン。やはり強力ですね……」
「でも〜、大分効いてますよ〜」
弾幕宜しく飛燕連撃の後を追い、パルミスが噴射炎上げる箒と共に何度目かの突撃を敢行する。
高速回転する先端のドリル。
最早天地の概念の消滅した世界。天と地と、ゆったりと回る景色を順繰りに見ながら、箒の先端をドラゴンへと突き立てる。
爆ぜる翼の根元。
貫通し行過ぎるパルミスの後ろで、一際に甲高く響く悲鳴。
それすらも切り裂くように、虚無から生まれる虹色の爪。
「墜ちて、朽ちろ」
黒の堕天使が遣わした裁きの爪は、色彩とは裏腹な非情さで、翼折れた背を掻き毟り、剥き出しの肉をも抉り取る。
否、刈り取るのはその命。
間髪入れずに。赤の堕天使の解き放つ力の奔流が、虹色の火炎となって飛翔する。
斜め上方、直滑降で落ちてきた太陽のような塊が、深くなる傷を穿たんとドラゴンの背を打った。
水飛沫のように弾ける火の粉。
仰け反るようにして地へと叩き落されそうになる身体を必死に立て直すドラゴンの口腔に、再び光が灯る。
ゆったりと。それは歌声のように吐き出され、辺りを包む。
揺れる意識。
本来ならありえるはずのない方向に、敵意を向ける。
「待ってて、いま回復を！」
アリアの歌が聞こえた。
――毒気が抜けるように、すっと消えていく違和感。
そして、暖かい光。
護られているから。
最大の支援で以って応える。
「さあ、存分に！」
咲き誇る墨染めの桜。全ての力を癒しに変えて解き放つ、リタのヒーリングウェーブ。
痛み違和感と共に消え去る封術。ネイヴは抜き身だった刀を鞘へと戻し、構えた。
「残りの切り札は信念……勝負！」
残り一回。辛うじて残ったそれに全てを駆け、抜いて放つ居合い斬り。
舞い上がる血飛沫。
そして、もはや美しさの欠片も無い声で叫ぶドラゴンの眼前へ、蒼を背負う銀色が立ち塞がる。
「前に来たヤツらが死んだ時点で警戒すべきだったな。傲慢も良いところだ」
再び、世界が揺れる。
全てを込めてアルロの叩き付けた刃から、解放される闘気。
爆音が、擬似ドラゴン界を満たす。
はちきれて吹き飛ぶ翼。舞い飛ぶ鱗。
そして。
晴れた爆炎の向うに見えたのは、落ちていく巨大な身体。
●VENOMOUS SNAKE
湿地に横たわる亡骸。
「個として完成された存在がドラゴンだというのなら、そんなものに興味はありません。私たちは、力をあわせることが出来る」
解放され、元の姿へと立ち戻ったミレイラルが、それを見下ろす。
「一人一人は弱くても、みんなで力を合わせればお前たちにだって勝てる！」
最早答えないドラゴンへと向けられた言葉は、確かな強い意志に満ちていた。
パルミスも元形に戻った箒を抱え。
「次からは〜、ドラゴンさん達も警戒して〜、奇襲はできなくなりますね〜」
恐らくは、大陸全土で三桁を越える数のドラゴンが撃墜されている。それらが帰らぬとなれば……状況を推し量るのは容易い。
「厳しい戦いになりそうです〜」
暫しの余韻の後、役目を果たした十名は、無事凱旋する。
なお、余談だが。
この後、出発日が誕生日だったスカーレットに、ネイヴの提案で祝杯を兼ねた酒が振舞われたらしいが、その席で、そういえば若返ってたねとかなんとかかんとか言われたとかそうでないとか……真相は、定かではない。
「あ？ 誰の実年齢が三十路だって？ まだ28だっつーの」
29歳おめでとう。
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参加者：10人
作成日：2007/08/17
得票数：冒険活劇7
戦闘18
ほのぼの1
コメディ1
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冒険結果：成功！
重傷者：なし
死亡者：なし
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あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
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シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
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