<リプレイ>
●飛来 『太陽の石棺の名に相応しい』 そんな風に思えるほどに、赤い重騎士の鎧に酷く照りつける真夏の日差し。 その眩しさに手をかざし、アイギスの赤壁・バルモルト(a00290)は宮殿の柱の影に入ってドラゴンを待つ。 霊査士の視た紫鱗のドラゴンは、このドラゴンズゲートで如何にして力を得るのか。 霊視の力は無い不言の雄姿・バルバロス(a18154)にとって、それは定かではないが、霊視などせずとも明確に判る事がある。 ――それを許せば同盟に、いや世界にとって更なる脅威となり、民に害が及ぶ。 ならば、それを阻止すべく剣を振るい、敵を討つ。 ただ、それだけだ―― その想いを胸に秘め、鋭い視線を石棺の外へと投げかける。 「ドラゴンに占拠されてドラゴンズゲートが使えなくなったら困るよね。太陽の石棺を抑えられると、闘技場も使用出来なくなるかもね――」 カダスフィアフォートが未だ探索不能になっている事を思えば。 緑馬ドリ忍びの小僧・アキラ(a47202)は、そうならない様に頑張ろう、と身を潜め、夏の白雲も沸く蒼い空を見張る。 (「ドラゴン達は、同盟の本拠地たる希望のグリモアを襲った先日の戦いより省みて、今度は地方から追い詰めるみたいだけど……こちらが先んじて察知したからには、向こうが予想できない様に迎撃出来る訳で」) ならば、やってのけるしかないよね。 竜が姿を見せるまでの間、アキラは思考を巡らす。 「お久しぶりです、イレミアさん」 その声に、夜明けの風を道連れに・イレミア(a90313)の硬い表情がふっと和らぐ。 草原を渡る風のように・エルクルード(a32527)が、イレミアが隠れている柱にやってきた。 「未来は戦って勝ち取る……この力に目覚める直前の決意が、偽りでないことを教えてあげましょう!」 ――あの『最後の選択』での決意。 必死に足掻き、絶望に呑まそうになる心を繋ぎ止めた想いは忘れていない。 エルクルードの励ましに、イレミアも力強く肯く。 「以前に依頼でお会いした時以来ですね」 暁焔霞藍・ティラシェル(a33651)が、改めてよろしくお願いします、と声をかける。 「制圧戦以来ですね……」 あの時の相手はピルグリムグドンの群れ。イレミアは力及ばず重傷となった厳しい戦いだったが、あの頃に比べれば彼もティラシエルも格段に強くなった。 その力で、これから自分達は何を成すのだろう。 「イレミーちゃん、ミアたちはミアたちにできること、精一杯がんばるなぁ〜んよ♪」 春風そよめく舞蝶円舞曲・ミア(a41826)も明るく微笑みかける。 「なぁ〜ん……ミアは……ミアは、自分の大好きな人がいるこの世界を守りますのなあ〜ん……」 それは多分、イレミアも知っている人で。 「だれがどんな理由でいなくなってしまっても、ミアは、ミアは……絶対に、譲らないの……ぅなぁ〜ん」 ミアの表情が、強い意志に彩られているのをイレミアは見た。 そして心に想いが溢れているのだろう、時折途切れるミアの言葉は、ほのかに切ない色を帯びているような気がした。 吟遊詩人である約束の場所・レイザス(a66308)は、癒しの歌と非回復の能力を持つドラゴンに自分自身に近いものを感じていた。 ドラゴンは遠い過去に古代ヒト族が到達したという。 「……ならばヒトであった頃は私達と似たような冒険者だったのかもな」 レイザスのつぶやきを耳にして、禁忌に魅入られし反逆者・クルド(a11701)も納得する。 「どうもあのドラゴンに女性的なものを感じたのですが、ヒトであった時には性別があったなら、それも不思議ではないですね」 そしてクルドは思う。 ――女性であるのなら私も紳士的に対応しなくてはなりませんね。 失礼の無いように全力で戦い、完膚無く殺して差し上げなくては――
●輝く紫鱗 隠れる様子のない仲間は石棺内に招き入れて、バルモルトとバルバロスはひたすら待ち続ける。 (「不安は少しあるけど……あまり力を入れすぎていると初動が鈍りそうだから」) ティラシエルは武器を握り直し、腕にかかった余計な力を抜いた。 「いつも通りにやれば大丈夫」 夏の暑さか、緊張感からか、ぽとりと汗が落ちて。 ふと、アキラの視線が空の一点に注がれる。 (「麗しき紫鱗・ダーナネオン、襲来……だね」) 手を挙げた彼の様子に、ミアが心の声で叫ぶ。 『来ましたなぁ〜ん!!』 夏の日差しに紫の鱗をまぶしく煌めかせ。ドラゴン界では望むべくもない、日光浴を楽しむかのように。 冒険者達が待ち受けているとは想像もしていないが故に。 悠々と。しかしドラゴンの速さで近付いてくる。 (「手に入れた力がどういうものかちゃんと把握しておかないと、いざと言うとき使えませんからね。ドラゴンウォーリアーの力しっかりと確認させてもらうとしましょう」) ドラゴンズゲートに隠れたクルドとエルクルードが黒炎覚醒をその身に纏う。 『ウォリアーなら届くなぁ〜ん!』 ドラゴンが腹を見せ上空に差し掛かったその瞬間、牙狩人ミアの意志が疑似ドラゴン界を作り出し、召還獣たちの輪郭が崩れ光の粒となって次々と冒険者達の身に同化する。 そしてホーミングアローが鮮やかな軌跡を描いてドラゴンに突き刺さった。 「攻撃すれば気付かれない事はないか」 鎧聖降臨も仲間達全員には掛けきれなかったが、ゲートに着いてしまったドラゴンは待ってくれるはずもない。仕方ない、と飛翔したバルモルトは一気に間合いを詰め、斧を逆袈裟懸けに、兜割りを竜の腹に叩き込む。 「これだけ大きい標的で外したら笑われちゃいますよね!」 息を合わせて飛んだティラシエルはデストロイブレードを叩き込み、その爆発は鱗を粉微塵に吹き飛ばす。横目で仲間の位置を見ながら飛ぶバルバロスの心臓がどくり、激しく高鳴って血が目覚める。 「枷を外して、力を魂に届かせれば良いよね」 アキラが初撃に選んだのはブラッディエッジ。少しも負傷していない忍びの刃は威力を倍増して肉をえぐる。 大地を踏みしめる代わりに空を蹴る。浮遊感に身を任せエルクルードは虹色に燃えるブラックフレイムを放つ。 「擬似ドラゴン界も見た目は全く変わらないのですね」 初めての空間を飛ぶクルドは、ウォリアーになる前から身に纏っていた虹色の炎が、今もまだ消えず、威力もウォリアーのそれであることに気付いた。 ならば、と繰り出すは、紋章術士の奥義たるエンブレムノヴァ。 「まずは一発試させてもらいますよ、この程度で倒れたりしないでくださいね」 虹色に輝く紋章の光球を叩きつけると、ぴかり、派手な閃光がドラゴンの巨体に照り映える。 ふわり、重力の束縛から逃れ、羽のように軽く空を舞い、レイザスとイレミアも追い込みに加わった。 『ドラゴンロード様は、人間どもがここにいることをご存じでは無かった……?』 完全に先手を取られたことに目を細め――ヒトであれば眉をひそめ――竜は空を旋回する。 傷付いた自慢の鱗は1回の癒しの歌では治り切らないだろう。しかし、ダーナネオンは受けた攻撃から、冒険者達の戦力の大半を悟っていた。まだ知り得ない能力を探る為に、竜はぐるりと首を巡らせブレスを吐く。 紫の吐息は積極的に距離を詰めていた前衛と、術士達をも巻き込んで。 その甘い香りにすぅ……と体力が減っていく感覚がウォリアーを襲った。 その不快感をこらえながらバルバロスは電刃居合い斬りを叩き付ける。 アキラを中心に淡い光球の領域が広がった。それはヘブンズフィールド。 エルクルードは凱歌を高らかに歌う。その歌を耳にしたウォリアーは次々と非回復から解かれるが。 エルクルード自身は他の仲間より運が悪く、回復できないままだった。 それを見たレイザスは静謐の祈りを捧げる。 ――私には攻撃手段がない。 「だが、支える事は出来る」 レイザスの清らかな祈りはエルクルードを非回復から解放し、バルモルトとティラシエルが歌うガッツソングは失われた体力を取り戻してくれた。 そしてダーナネオンに、癒し手が誰であるかを知らしめた。 知性ある竜は、ウォリアー達を倒す戦術を組み立て、翼を巡らす。 「負けてはいけませんのなぁ〜ん。ここはミアたちが、必ず守り通してみせましょうですなぁん♪」 ドラゴンヴォィスで自らを癒しつつ、接近戦を避け、あわよくばレイザスとエルクルードを先に倒そうと縦横無尽に飛び回るドラゴン。 その動きを知らせるミアの声が仲間達の脳裏に届く。 指示を出す間、ミアは攻撃こそ出来なかったが、それと引き替えに仲間達はダーナネオンの狙いを阻止する位置取りもできた。 前衛に体当たりし突破することのない、接近戦を嫌うその性質が災いし、竜は包囲から完全には逃れられない。 僅かにほころんだ包囲網も、ノヴァで牽制しながらイレミアが埋める。 きびすを返す僅かな隙に、鋼糸を振りかざしたアキラが飛燕連撃を放つ。 紫の吐息がまた、空間に満ちた。 首を巡らし、死角の無い全方位のブレスを浴びて逃れられる術を持つ者はいなかった。
●空に響く歌声 「別に貴方に恨みがあるわけではない、ただ自分の力を確認したいだけさ」 頭上に掲げた光――紋章に彩られたエンブレムノヴァを、クルドが、そしてイレミアが放つ。 光の球は一つが竜の肌で爆ぜ、紫の鱗を粉々にする。一つは俊敏な身のこなしでかわされた。 体力を吸われ、今にも倒れそうな、血の気の失せた顔。それでもなおティラシェルは気力を振り絞る。 「負けられない」 破壊の闘気は極限をも超え―― 「――絶対に、止める!」 狂戦士の身中に宿るは漆黒のグランスティード。その力と共に振り下ろした一撃は。 大轟爆と共に、紫鱗の破片が爆風に吹き飛びキラキラと地上へ落ちていく。 苦悶に身をよじるドラゴンが、苦し紛れに歌うドラゴンヴォイスが虚空に響く。 悲鳴にも似た嬌声が――美しい鱗を、竜の誇りを傷つける者への呪詛にも似た叫声が耳に障る。 その時、アキラが展開した淡く輝く光の領域から飛び出したバルバロスは、斬鋼刀を鞘に収め空駆ける。 ――竜の歌など聞きたくもない。もう二度と歌わせない。 封術の柵から解き放たれた今こそ、抜き討つ! ドォン! 抜刀の刹那、耳をつんざく稲光と同時に、直下に落ちた雷鳴音。寡黙な武人の面に竜の鮮血が、真夏の雨のように降りそそぐ。 雷鳴と血雨が止めば、セイレーンの宝石の如く蒼い空の中で。 レイザスは、すぅ……と両手を広げ、高らかに歌いあげる。 立ち上がる力を……力を失った身体だけでは無い。心の――魂の奥底から、清冽な蒼き泉の如く、湧き上がってくる『力』を感じて。 ――敵を撃つ矛となるように。 祈りにも似た想いを込めたレイザスの凱歌に、美しいハーモニーを響かせて、エルクルードの歌声も仲間達の耳に届く。 「この力はあなたたちドラゴンに対抗するための力……そうやすやすとやられはしません!」 力の発動と共に、腰まで伸びていたエルクルードの髪が、夏風にふわりとなびく。 その様は彼女の身に同化して消えたミレナリィドールのそれに似ていたかもしれない。 盾を構え、鎧聖降臨を得て鉄壁たる重騎士の赤い鎧が一気にドラゴンへと肉薄する。 かの女性に愛と忠誠を誓い、その幸せのためにふるう斧デプラヴィティ。その刃から繰り出される大岩斬は、竜鱗の堅さなどものともせず。 バルモルトが斬りつけたその一閃は、分厚い皮膚をぱっくりと割る。 「終わりにしましょうなぁん」 ミアの放つ雷の矢は、再び虚空に稲光を走らせ空を裂き、雷鳴を呼ぶ! バリバリバリっ……! 激しい電撃に撃たれ、紫の鱗から眩い火花が飛び散る――それが、とどめ。 『……口惜しい』 人間どもがいると知ってさえいれば。いくらでも人間どもを欺き貶める手だてはうてたものを。 飛ぶ力――生命を失ったかつての麗しき竜は、鮮血と焼けこげた鱗を火の粉のように散らせながら、重力に引かれ墜ちていった。
●戦いの終わり、そして始まり 轟音と砂埃を立て、地面に叩き付けられるドラゴンの骸を、太陽の石棺の前で元の姿に戻ったクルドは冷静に見つめていた。 「データ採集完了、確かに中々の力ですね」 同時にクルドは感じていた。ここまで冒険者に有利な条件で戦えたからこそ、データを採る余裕もあったのだ、と。 「奇襲し、先手を取れた。相手の能力も性質も判って、対策ができたからな」 だが今回、その有利な条件が無かったら? 消耗戦のあげく、回復アビリティ切れと共に仲間達が傷つき、疑似ドラゴン界から脱落していく。撤退するかどうか、そんなギリギリの状況でかろうじて勝てたかどうか。 バルモルトの脳裏にそんな光景が浮かび、彼は厳しい眼差しを強敵ドラゴンに向けた。 半開きのまま、怨めしげに見える死竜の目。 それがじっ……とミアを見つめている気がする。 「ミアにもあなたにも、大好きで大切なものがあるのなぁん……。奪い合うのは悲しいことなの……なぁ〜ん……」 ミアはうなだれ、言葉にならない溜息をついた。 「ぅなぁ〜ん」 バルバロスとアキラに同化していたグランスティードが再び現れ、彼らの横に寄り添う。彼らは労うかのように、その首をぽんと叩き、颯爽と騎乗した。 レイザスは吟遊詩人として、同じような力を使う敵には負けたくなかった。彼にもしもの事があれば――死んだら泣く奴の為にも、生きて帰る、それを果たした。 髪が元の長さに戻ったエルクルードは、ほっとしたようにイレミアに笑いかけた。 ――どうしても守りたい人達と場所がある……それを害し、障りとなる物が存在するなら全力で排除するだけ。 今日も、そしてこれからも、ずっと――。 それはティラシエルが――多くの冒険者達が望んだ、ささやかで大いなる意志。 その為に。一つの戦いは終わり、いくつもの戦いが始まる、その度に何度でも。
枷を外し、魂に届かせよう。

|
|
参加者:8人
作成日:2007/08/23
得票数:冒険活劇1
戦闘12
|
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
|
|