<リプレイ>
陽が沈みはじめると、ホワイトビーチはその様相をかえた。 昼間の騒がしさが嘘のよう、風をうけゆれる椰子の木々、その葉がこすれあう音すら聞こえる。
染まりゆく空の下、シェリスとアールは背をならべ歩く。 「ドラゴン戦の日の約束、ようやく果たせますね」 シェリスが優しくいうと、 「……きっと守ってくれると信じてた」 アールは腕をシェリスに絡ませた。 今日のアールは、黒いロングパレオの水着をまとっている。日ごろは見せぬ可憐な装い、自分のためにしてくれたのかと思うと、シェリスは胸が熱くなる。 「煌く波間も、潮風の香りも、漣(さざなみ)の音も、私には懐かしく愛おしい景色。貴方を海へ連れていこうと思ったのは、この景色を貴方がどう思うか知りたかったから」 つぶやくようにシェリスはいった。綺麗ね、とアールはこたえる。 この光景をともにできること、それがなによりの幸せ。
夕焼け空にエマクは思う。 (「夕陽って本当暖かい色してて、見てるとすごく溜息つきたくなっちゃうんだぞ」) それにしてもチキチキータ遅いんだぞ、そう考えた瞬間だった。 首筋に冷たい感触、飲み物を手にしたチキチキータだ。 「ごめんにゃ〜」 素直にあやまって、チキチキータはエマクの横に腰を下ろした。だけどこの茶目っ気が、初デートの緊張感をやわらげたのも事実だ。 身を寄せあい潮騒と景色を楽しむ。ふれあう肩に互いの体温を感じた。 「あのさ、エマク……よければオイラと」 深呼吸して、チキチキータは告げた。 「オイラと一緒に暮らさないかにゃ?」 涼しくなった海で泳ぎ、ヨハンとセラは椰子の木陰で憩(いこ)う。 青い水着をきてきたが、見られるのがすこし恥ずかしく、セラは顔を伏せてつげる。 「飛ばされないように手をつないでいても……いい?」 指をからめて手をにぎりあった。 「綺麗だねえ」 とヨハンがいったのは、海のことだろうかセラのことだろうか。 安心と疲れ、幸福感で、セラはヨハンの肩に頭をあずけうとうとしはじめる。 「セラ、起きて。お願い。色々な意味で。セラ……」 なかなかセラは目覚めない。 ヨハンは理性をフル動員しつづけることになりそうだ……。 昼は男三人だったが、いまはセイカとデート中のレナートだ。 (「裏切り者といわれたけど気にしない〜」) 木陰から眺める日没は絶景だ。 でも、セイカはかすかに不満だった。 (「……レナートさん、また周りの可愛い女の子を見ちゃってる……?」) だがそれは彼女の誤解、すれちがったいくつかの、「お泊り」を意識したカップルを見て、レナートはすこし羨ましくなっていただけなのだ。 「君と出会えて良かったと思ってるよ」 雑念を払いレナートは、素直な想いを口にした。おそるおそる肩を抱くとセイカはしたがい、しかも驚いたことにかれを見あげ、恥ずかしそうに、瞳を閉じた。 そっと口づけたセイカの唇は、想像よりずっと甘い。
フィーリスとフィリアの兄妹は夕暮れを鑑賞する。 トロピカルドリンクのグラスはひとつ、ストローは二本だ。 「綺麗な夕陽だね。ゆっくりと眺めているといままでの戦いが嘘のようだ」 「ですわね……」 フィリアは景色より兄に夢中だ。いつからだろうか、彼女は兄に、兄として以上の想いを抱くようになっていた。 (「告白のチャンスですわ」) 自分を鼓舞しフィリアはいった。 「お兄様……わ、私、お兄様のこと」 フィーリスは唇を噛んだ。大切な妹を悲しませるのが、こんなにつらいことだとは! 「フィリア……それ以上いっちゃ駄目だ……僕にはその資格はないんだ」 本当に、ごめん、とフィーリスはいった。彼女を見ないですむよう目を伏せた。
せっかくのデートなのに、プラチナは緊張してしまう。 「き、今日はよしなにの?」 笑顔もどこかこわばる。だけどその緊張も、それだけユウヤを想っているしるし。 ユウヤは、そんな彼女をときほぐすような笑顔をみせた。 「俺が冒険者になってから、ずっとのつきあいだよな。星凛祭や依頼、お前と一緒にすごすのは楽しかったよ、どんなことでもな」 プラチナの両肩に手をかける。 「これからもお前と一緒ならずっと楽しいだろうさ。好きだよ、プラチナ」 プラチナの上着が落ちた。肩が、そして水着が、あらわになる。 「う、嬉しいぞ」プラチナは真っ赤だ。「そのことば、またフォーナでも聞かせてくりゃれ?」 ユウヤは彼女を抱きしめた。
(「暮れなずむ浜辺、か。素敵で美麗な光景じゃないの」) ローザマリアはビーチパラソルの下、チェアに優雅に寝そべって、椰子の実のジュースを飲み昼間の余韻にひたる。 「それはそうとアイ、元気ないわよぅ? 昼間になんかあったの?」 横にアイが座っている。なんとなくしょんぼりした様子だ。 「ある人にちょっと、迷惑をかけてしまって……」 「うーん、事情はわからないけど、だったらここで挽回すればいいんじゃない?」 椰子の実でもどう? とローザマリアはアイを元気づけるのである。
ガルスタは夕陽にようやく気づいた。一人になってはじめて、とまっていた時間がうごいたように思う。 「お待たせ〜♪」 パラソルの下にペテネーラが戻ってきた。シャワーを浴び着替えて、昼間とはまたちがう魅力にあふれている。 「本当にきれいな夕陽ね……沈みゆく太陽が、この世界に別れを惜しんでいるようだわ」 彼女の手には赤の発泡ワインがあった。 「ごめんなさいね。本当は恋人か奥さんとでもくるべきところに、ご一緒してもらって」 「そんなことないさ、楽しかった」 ガルスタは微笑をかえし、香り高いブランデーをグラスに注いた。 「美しい景色と美しい女性(ひと)に乾杯だ」
ネーヴェはギターの弦をつま弾く。その横で、膝をかかえ聴いているのはアストだった。 ふと、ネーヴェは演奏をとめた。 「いいのか?」 とアストに問う。 「なにが?」 ネーヴェは直接それにこたえず、 「心にまで服を着せておかずとも良い、ということばがある」 「誰の格言?」 「私の」 ネーヴェはまたギターを弾きはじめた。
「手……つないでいい、ですか?」 リディアはアルタイルを見あげた。アルタイルの返答は微笑みと、そっと握った左手だった。 ここ数ヶ月は死線の連続だった。それを越え、いまこうしてふたりで時間をすごせること、少し前なら奇蹟と思えるような状況だ。 シルエットが影に同化してゆく。夜がはじまるのだ。 「目を閉じて?」 アルタイルはいった。リディアは素直にまぶたをおろす。 かすかなキスの音(ね)を、波音がそっとつつみこむ。
海に遊びにくるのも初めてならデートも初めて、イナルナはサルサにおずおずと、 「変、じゃないですよねぇ?」 と問う。彼女の水着は、赤の地色に赤いフリルつきのビキニ、腰にパレオを巻いていた。 「変なわけねーじゃん、最高!」 彼女を背中から、サルサは両腕でぎゅっと抱く。サルサの長い冬は終わった。バンジーに祈った御利益か、念願の、『かぁいぃ』恋人があらわれたのだ! サルサは赤いカクテルを、グラスにそそいで彼女に渡す。 甘いが体が熱くなる酒だった。イナルナは瞳をうるませた。 「夜はお泊まりしたいなぁ……なんていったら、はしたない?」 「うぉお! はしたなくなんかないなあぃっ!」 ああこの幸せ――サルサは思う、夢ならどうか覚めないで。
「ここだよ」 プルミエールを見てゼロは手を振った。地図を渡してある。ここは海岸の隠れスポット、夕焼けが海とリンクし、朱く染まる波間を眺められる場所。 「日没を見ないか?」 「いいですね」 プルミーはゼロのとなりにちょんと座った。彼女はまだ水着のままだ。 肩を抱きたいと思ったものの、ゼロはそれをいいだせなかった。
「時間は思い出を作り 消していく 強き思い出は 記憶の欠片 欠片は紡がれ、形となって糧となり その人を支える」 ささやくようなシエラの歌声、ギルバートはその響きにひたった。 間近にいることにはまだ慣れていない、胸が高鳴るギルバートだ。しかしかれの想いは胸からあふれ、ことばとなる。 「美しい歌です、芯が強いのもいい。私は貴女のすべてが愛しい。今後また、新たな一面が見えたとしても、それも貴女だと思えば、とても愛しく思います……」 シエラは感謝と愛情を、頬へのキスで表現した。
カインの胸をポンと叩き、カンナは悪戯っぽく笑った。 「ま、旅団では色々ゆうたけど堪忍したるわ」 手を取りあい砂浜を歩く。やがてふたりは胸の内を明かした。 「お互い冒険者だから、すれちがいが多いよな」 「……そやね、カインのことが好きなジブンと冒険者のジブンが一緒にいてさ、不思議やねん。どちらもジブンやのに」 事情は複雑だ、だけどカインは、このことだけは自信をもっていえる。 「なるべくそばにいてカンナの想いを受けとめるよ。俺、それくらいしかできないから」 そしてカンナを抱きしめた。まじりけのない誠意がカンナには嬉しい。 「……うん、今夜は、このあとも付き合うで……」
リルと夕陽を眺めているうち、アイもいくらか元気をとりもどしていた。 「綺麗……なぁ〜ん……」 というリルに、 「そうだな。誘ってくれてありがとう」 と笑みをかえす。 アイを連れ出したときには、話したいことがいっぱいあったリルなのに、気がつけばもう、夜のベールがおりつつあった。 「幸せな時間ってあっという間にすぎてっちゃう……時間さえも平等じゃないのかもしれないけれど」 といってリルはアイを見た。 「それって素敵なことだと思いませんか、なぁ〜ん?」 アイの返事は、ここに書くまでもないだろう。 宵闇の蒼い空、コハクとアラクナは、浜辺で乾杯した。 「これ以上ない景色じゃのう」 コハクがいうと、 「こんなのも、悪くない」 とアラクナはグラスを受けた。(「……ずっと、こんな時間が、続きますよう」 )と願掛けをして。 そしてアラクナは、一息で杯をあけていう。 「酔った」 「え? それジュース……」 「雰囲気に、ね」 アラクナはそういって、体重をかけコハクにもたれかかった。 そんな彼女がコハクはたまらなく愛おしい。耳に口をよせてささやく。 「かわいいお姫様、あとで一緒に海でも?」 せっかくの水着だ、星空の下で見せてもらうとしよう。
ネレッセは岩場で火をおこし、ドラゴン襲撃で死んだ人たちの冥福を祈る。 (「こうして当たり前の時間を当たり前にすごせるのは、尊い犠牲があったからです。ありがとうございます」) さて、行動を起こすときがきた。
今日のサシャクはひと味ちがう。赤い短パン水着、羽織るは白の上着、仮面もはずしている。 「ソフィアさん、浜辺を歩こうっす」 声をかけると、プルミーと談笑していたソフィアはふり向いた。 そのときちょうど、プルミーにネレッセが声をかけたのだ。
サシャクとソフィアは浜辺を歩いた。なぜかサシャクの目には光がない。 なにか悲しいことがあったの?、とソフィアは心配したが杞憂だった。サシャクは、木彫りのネックレスをソフィアに渡したのだ。 「上手く彫れなくてごめんっす」 照れて、たはは、と笑う。モチーフはイルカだ。よくできている。 (「ちょっとだけ、肩に体を預けてもいいですか?」) 喜びをこめて、ソフィアは視線で問う。 サシャクは笑みと態度でこれに応じた。
(「異性を意識するたび鼻血を出すようでは、本家の血が絶えかねませんから……」) ネレッセはプルミエールを呼んだ。 「はい?」 ソフィアと話していたプルミーが振り向く。肩のでた水着、小さいけどたしかな膨らみ……ネレッセは思わず鼻血を噴きそうになる。だが懸命にこらえて、 「なにか飲みませんか、一緒に」 「はい♪」 と返事したプルミーが可憐すぎて、ネレッセはまた鼻血が出そうになった。
この日すべてが支障なくすすんでいるのは、前日からフェイトが準備していたおかげだ。 彼女は裏方に徹し、参加者にそれを悟らせない。いまも、沖にこぎだした小舟にネーヴェと乗り、なにかを用意中だ。 「Bardiche……Get, Set」 漆黒の大剣を最大に変形させる。そしてフェイトは夜空に紋章の力をときはなった。空を照らす光だ。 「往こう、オートクレール……戦いではないがな」 ネーヴェもつづいた。ホーリーライトをつかって、さまざまな色の光を生み出す。 夜を美しく彩ろう。
グランスとノイエは寄り添い、はじめは夜空、そしていまは光がかもす幻想的な光景に息をのむ。 綺麗だな、という意味のことをグランスは口にした。 「うん……本当に……こうして眺めているだけで満たされる」 ノイエはグランスの肩に頭をあずけた。 「なんて事ないはずなのに、こんなに幸せ……怖いぐらい……」 そして、不意打ち気味にノイエはキスした。 「なぁ〜ん!? ノ、ノイエ!?」 「グランスは、ずっと傍にいてくれるわよね……? 愛してる……」 そしてふたりは二度目の、今度はもっと深く長いキスをかわした。
星降るなか、ウルアはクローバーの手をにぎる。 クローバーの心が歓びに震える。愛されている、とたしかに感じた。 「この綺麗な星空も、クローバーと一緒だから特別なのなぁ〜ん」 ウルアがそういってくれたとき、クローバーは自分からも愛を示したくなった。 「……しばらく……こう、させて……なぁ〜ん」 ぽふ、とウルアに体をあずける。ウルアは優しく抱きとめ、額にキスした。 そのとき海上に光が舞い踊った。これをしばらく眺めてのち、 「……そろ、そろ……宿、戻ろうか……なぁ〜ん?」 うるんだ瞳でクローバーはウルアを見あげた。 ふたりの夜はまだ、はじまったばかりだ。
ふたたび星の闇がおとずれる。 抱きあげたプルミーを起こさぬよう、ジースリーはそっと宿への道を歩んだ。 プルミーはすっかり夢心地だ。このところがんばっていたから、疲れがどっとでたのかもしれない。あくまで紳士的に、ジースリーは宿のローザマリアに彼女をあずけた。 「……ジースリーさぁん……」 プルミーが呼んだのでふり返る。それが寝言だとわかると、ジースリーの目に笑みのようなものが浮かんだ。
ふたりきり、静まりかえった浜辺を歩く。長い沈黙のすえ、 「その……」 とアスト、 「あの……」 とアイ、同時に話はじめてしまって、しばしまた逡巡する。 「昼は、迷惑をかけた……」 アイはうつむき加減だった。アストはそんな彼女を、可愛いと思う。 「そんなことないさ、結果論だけど楽しかった」 ネーヴェのことばが、アストの脳裏をよぎっていた。 「それだけじゃない。俺、星凛祭でも、ドラゴンとの戦いでも、このまえ服を買いに行ったときでも、アイと一緒にいると……ドキドキしてた」 「えっ?」 アイは赤面した。上気してしまって冷静になれない。だから彼女は、これを口にするのがやっとだった。 「それは私も……だ」
(終)

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参加者:38人
作成日:2007/08/28
得票数:恋愛31
ほのぼの2
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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